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自称特別捜査隊

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「お待ちしておりました」

 ……? テレビを潜った筈なのに、何故かベルベットルームにやって来ていた。


「ご心配召されるな。
 意識と意識の僅かな狭間の時間にお呼び立てしただけでございます」

 首を傾げていると、イゴールさんはそう説明してくれる。
 ……よく分からないが、恐らくは大丈夫なのだろう。
 ……? あれ……?
 イゴールさんとマーガレットさん以外にもう一人、ベルベットルームに誰かがいる。
 ……このベルベットルームの、別の客人、なのだろうか?

「貴女に訪れる災難……それは既に、人の命をも奪い取りながら迫りつつある……。
 ですが、恐れる事はございません。
 貴女は既に、抗う為の『力』をお持ちだ。
 いよいよ、その『ペルソナ』の力……使いこなす時が訪れたようですな……。
 貴女のペルソナ能力は《ワイルド》……。
 それは、正しく心を育めば、どんな試練とも戦い得る『切り札』となる力……。
 私共も、その為のお力添えをして参ります」

『ペルソナ』、《ワイルド》、『切り札』……か。
 まぁ、ワイルドカードは確かに切り札だけれど。

「私の役割……それは、《新たなペルソナ》を生み出す事。
 貴女の『ペルソナ』を掛け合わせ、一つの新たな姿へと転生させる……。
 言わば《ペルソナの合体》でございます。
 貴女はお一人で複数の『ペルソナ』を持ち、それらを使い分ける事が出来るのです。
 貴女は時に紡いだ絆の中にご自身の《新な可能性》を見出すでしょう。
 時にそれらは、酷く捉え辛い事もある……しかし、恐れず掴み取るのです。
 さすれば、それは貴女の新たなる力となる事でしょう」

 《ワイルド》とは『ペルソナ』を複数使い分ける力……という理解で合っているのだろうか?

「お客様が生み出した『ペルソナ』……お客様の持つ《可能性》は私が記録してまいります。
 お客様が一度手にした『ペルソナ』は何度でも記録から引き出す事が出来ますので、お気軽にお申し付け下さい」

 そう言ってマーガレットさんは一礼した。
 記録とか《可能性》とか言われても正直まだ何の実感もわかないし理解し難いが、恐らく今はそれらについて詳しく訊ねる時ではないのだろう。

「それと、もう一つ……今宵は、貴女の旅をお手伝いさせて頂く、新しい住人をご紹介致します。
 マリー?」

 そう言ってマーガレットさんはテーブルを挟んだ向かいに座っていた少女に声を掛けた。

「分かってる。聞こえてる。よろしく」

 ムスッとした声で答える彼女は、どうやらここの住人の方だったらしい。
 ……あれ?
 ……この子、前に何処かで……ベルベットルーム以外の場所で会った気がするのだが。

「君は……どうしてこの部屋に?」

「……知らない。どうでもいいよ、そんなの」

 訊ねてみてもそう素っ気なく返す少女に、マーガレットさんが溜め息を吐いた。

「失礼致しました。
 こちらは、マリーでございます。
 彼女の魂は未だ幼く──」
「うるさい! 余計な事言わないでよ」

 マーガレットさんの言葉を遮ったマリーの態度に、マーガレットさんは深く溜め息を溢す。

「……ご覧の通りでございます。
 ご無礼があるかも知れませんが、見習いとご理解頂いて、どうかお許し下さい」

 別に……無礼も何も、他人からされる分に関しては元々あまり気にしていない。
 正直、どうでも良い。

「フフ……覚えておいでですかな?
 以前私は申しました。
『貴女の運命は節目にあり、謎が解かれねば未来は閉ざされるやも知れない』……とね」

 イゴールさんはそう言ってこちらを見やった。
 ……確か一番初めに出会った時、占ってくれたイゴールさんがそんな事を言っていた気がする。

「言葉の通りでございます。
 戦いに敗れる以外にも、終わりは有り得る。
 努々、お忘れになりませぬよう」

『謎が解かれねば』……か。
 未来が閉ざされる……つまりは死ぬという事なのだろうか?
 まあどうであるにせよ、この先に待ち受けているという『謎』とやらは一筋縄ではいかない様だ。

「次にお目にかかります時は、貴女は自らここを訪れる事になるでしょう。
 フフ……楽しみでございますな。
 ……では、その時までごきげんよう」


 イゴールさんの言葉を最後に、視界は暗転した。


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 気が付くとそこは、テレビの向こうの世界のスタジオだった。
 ベルベットルームにいた時間自体は体感時間にして数分程だったのだが、実際に流れていた時間は極めて僅かな時間だった様だ。

 クマは……何故か床をゴロゴロと転がっている。
 人が来た事には気が付いている様だが、何をしているのだろう。

「見て分からんクマ?
 色々、考え事してるクマ。
 クマの事とか、この世界の事とか、ハンニンの事とか。
 それでクマはこんなにクマってるのに……。
 あ、ダジャレ言っちゃった。うぷぷ」

 寒いダジャレは置いといて、どうやらクマは自分について悩んでいる様だ。
 深刻そうには見えないが、クマが悩み続けるようならば一度相談にのってあげるべきなのかもしれない。

「くっだらない事言ってる場合!?
 こっちに雪子が居るんでしょ!? 
 今すぐ案内して!!」

 天城さんの危機に気が立っている里中さんは、気が気ではない様子だ。
 足をダンッと踏み鳴らし、クマを威嚇する。
 里中さんの剣幕に気圧されたのか、怯えた様にクマはいそいそと案内し始めた。



◇◇◇◇◇



 クマに案内されて辿り着いたのは、昨夜映っていたお城だった。
 やはり天城さんはこの中にいるのだろう。

「あの真夜中の番組……ホントに誰かが撮っているんじゃないんだな?」

「バングミ……? 知らないクマ。
 何らかの原因で、この世界の中が見えちゃってるのかも知れないクマ。
 それに、前にも言ったでしょーが! 
 ココはクマとシャドウしか居ないんだってば!
 誰かがトッてるとか、そんなの無いし、初めっからココはそういう世界クマ」

 花村に訊ねられても、クマはそもそも『番組』というモノ自体が分かっていない様子であった。
 しかしキッパリと、誰かが撮影してるという訳では無く、ここがそう言う世界だと言い切る。

 ……この世界にあるこの城が《マヨナカテレビ》には映っていた。
 ならばこの世界と《マヨナカテレビ》には何らかの関係があるのは間違いないとは思う。
 しかし、その2つを繋ぐのは何なのだろう。
 クマの言う事が正しいのならば、《マヨナカテレビ》とはこの世界の一部が何らかの要因により映ってしまっているものだという事になるが……。
 では、何故一昨日の晩に、この世界には居なかった天城さんが映ったんだ……?

 訪れた人の『心』が反映されるのならば、この世界の謎を……ひいては《マヨナカテレビ》の謎を解く鍵は『心』にあるのではないだろうか。

 だがまあ、今はその事を深く考えている暇は無い。
 天城さんの救出を最優先にしなくては。

 だがしかし。
 あれだけこちらにくる前に念押ししたというのに、天城さんを探しに里中さんは一人で飛び出してしまった。
 韋駄天の如く駆け出す里中さんは、呼び止めてもそのスピードを落とそうとすらもしない。
 その後を追う為に、こちらも城の中へと足を踏み入れたのだった。






◇◇◇◇◇






 城の中は妙に広い上に廊下がグネグネと曲がりくねっていて、現在地が掴み辛い。
 しかもあちらこちらから《シャドウ》が襲い掛かって来るので気が抜けない。

 それにしても里中さんは何処へ行ってしまったんだろう。
 悲鳴とかは聞こえてこないし、今の所は恐らくは襲われてはいないのだろうけれど。
 里中さんには《シャドウ》から身を守る術が無いのだから早い所合流しないといけないのに……。

 もう何体目かも分からない《シャドウ》を斬り倒した時、不意に何処からか声が聞こえてきた気がして顔を上げた。


「……これは、天城さんの声?」

「へっ? 天城の声?」

 ━━……赤が似合うねって……

 耳を澄ませば、天城さんの声だと判別出来る。

「こっちからだ。急ごう。
 ……里中さんも恐らくそこに居る」

 花村と頷きあって、声がする方向へと走り出した。




◇◇◇◇◇
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