彼岸と此岸の境界線
◆◆◆◆◆
【2011/07/18】
今日はテスト直前ではあるのだが、息抜きにと学童のバイトへとやって来た。
まあ日頃からある程度は勉強してあるので、試験直前に焦って詰め込む必要性があまり無いからではあるが。
恐らく巽くんやりせたちは、今頃最後の追い込みとして必死で暗記科目を詰めているのだろう。
そんな彼らを思うと何だか少し気が引けるが、まぁ精神的にリラックスした状態で試験は受けたいのである、うん。
誰に向けてのものでは無いが何と無く言い訳をしつつ、子供たちの相手をする。
今はネオフェザーマンごっこの真っ最中だ。
こういう時の大人の役割の例に漏れず、自分が拝命したのは悪の怪人役である。
まあ、精々良いやられ役を演じてみせようではないか。
「ぐっ、ぐあぁぁぁっ!!
こ、これで終わったと思うなよ、ネオフェザーマンたちよ!
この世に悪がある限り、我々は幾度でも甦るのだからな……!」
子供たちが扮するネオフェザーマンたちと死闘(サンドバッグにされるとも言える)を繰り広げ、如何にもありそうな悪役の散り際の台詞を放ちながら、力尽きて倒れた演技をする。
すると、子供たちは倒したばかりの怪人の周りをキャッキャと嬉しそうに走り回り、お互いの健闘を讃えあっていた。
役者としては大根もいい所の素人演技だったのだろうが、喜んで貰えて何よりである。
そろそろ子供たちのお迎えが来る時間が近付いているのも丁度良かった。
ワラワラと散っていく子供たちを微笑ましく眺めつつ、身体を起こして服に着いた砂埃を払って落としていると、俊くんが近付いてくる。
先程のフェザーマンごっこでは、俊くんはフェザーファルコンを務めていた筈だ。
何故か俊くんは顔をキラキラと輝かせながら、興奮冷めやらぬといった風に捲し立ててくる。
「先生、さっきのすごく良かったよ!
初代『不死鳥戦隊フェザーマン』の怪人ライガンそっくりだった!」
自分はその怪人を知らないし適当にやっただけなのだが、どうやら俊くんのお気に召した様である。
「そうか、それは良かった。
俊くんは、フェザーマンについて詳しいんだね」
普通、今放送されている分ならば兎も角、随分と昔の特撮の一怪人の名前など、直ぐには出てこないだろう。
そんなキャラの名前がスルッと出てきた辺りからも、俊くんが初代ファンである事が伺える。
「うん、お父さんがね、『不死鳥戦隊フェザーマン』が好きで、一緒によく見てたから。
何回も見たから、出てきた怪人もほとんど覚えちゃったんだ」
成程、お父さんの影響であったらしい。
俊くんのお父さん位の世代は『不死鳥戦隊フェザーマン』はストライクゾーンであった年齢層とはズレているだろうが、所謂特撮オタクであったのかもしれない。
『不死鳥戦隊フェザーマン』について饒舌に語り出す俊くんに相槌を打ちつつ、それを微笑ましく見守る。
好きなものについて語る俊くんの顔は、フェザーマンごっこをしている最中のものよりも輝いていた。
だが。
保護者たちが段々子供たちを迎えにくると、次第にその表情が翳っていく。
「俊くん、ごめんなさいね。
お迎え、遅くなっちゃって……」
少し急ぎ足でやって来た宇白さんがそう声を掛けた時には、俯いて黙ってしまっていた。
「先生と何かお話ししていたの?」
宇白さんが訊ねても、俊くんは「別に……」とだけ答えるだけだ。
宇白さんはそんな俊くんに少し困った様な顔をしたが。
「……そう、じゃあ今日は帰りましょうか」
と、一度こちらにペコリと頭を下げてから、俊くんの手を引いて帰っていったのだった。
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【2011/07/18】
今日はテスト直前ではあるのだが、息抜きにと学童のバイトへとやって来た。
まあ日頃からある程度は勉強してあるので、試験直前に焦って詰め込む必要性があまり無いからではあるが。
恐らく巽くんやりせたちは、今頃最後の追い込みとして必死で暗記科目を詰めているのだろう。
そんな彼らを思うと何だか少し気が引けるが、まぁ精神的にリラックスした状態で試験は受けたいのである、うん。
誰に向けてのものでは無いが何と無く言い訳をしつつ、子供たちの相手をする。
今はネオフェザーマンごっこの真っ最中だ。
こういう時の大人の役割の例に漏れず、自分が拝命したのは悪の怪人役である。
まあ、精々良いやられ役を演じてみせようではないか。
「ぐっ、ぐあぁぁぁっ!!
こ、これで終わったと思うなよ、ネオフェザーマンたちよ!
この世に悪がある限り、我々は幾度でも甦るのだからな……!」
子供たちが扮するネオフェザーマンたちと死闘(サンドバッグにされるとも言える)を繰り広げ、如何にもありそうな悪役の散り際の台詞を放ちながら、力尽きて倒れた演技をする。
すると、子供たちは倒したばかりの怪人の周りをキャッキャと嬉しそうに走り回り、お互いの健闘を讃えあっていた。
役者としては大根もいい所の素人演技だったのだろうが、喜んで貰えて何よりである。
そろそろ子供たちのお迎えが来る時間が近付いているのも丁度良かった。
ワラワラと散っていく子供たちを微笑ましく眺めつつ、身体を起こして服に着いた砂埃を払って落としていると、俊くんが近付いてくる。
先程のフェザーマンごっこでは、俊くんはフェザーファルコンを務めていた筈だ。
何故か俊くんは顔をキラキラと輝かせながら、興奮冷めやらぬといった風に捲し立ててくる。
「先生、さっきのすごく良かったよ!
初代『不死鳥戦隊フェザーマン』の怪人ライガンそっくりだった!」
自分はその怪人を知らないし適当にやっただけなのだが、どうやら俊くんのお気に召した様である。
「そうか、それは良かった。
俊くんは、フェザーマンについて詳しいんだね」
普通、今放送されている分ならば兎も角、随分と昔の特撮の一怪人の名前など、直ぐには出てこないだろう。
そんなキャラの名前がスルッと出てきた辺りからも、俊くんが初代ファンである事が伺える。
「うん、お父さんがね、『不死鳥戦隊フェザーマン』が好きで、一緒によく見てたから。
何回も見たから、出てきた怪人もほとんど覚えちゃったんだ」
成程、お父さんの影響であったらしい。
俊くんのお父さん位の世代は『不死鳥戦隊フェザーマン』はストライクゾーンであった年齢層とはズレているだろうが、所謂特撮オタクであったのかもしれない。
『不死鳥戦隊フェザーマン』について饒舌に語り出す俊くんに相槌を打ちつつ、それを微笑ましく見守る。
好きなものについて語る俊くんの顔は、フェザーマンごっこをしている最中のものよりも輝いていた。
だが。
保護者たちが段々子供たちを迎えにくると、次第にその表情が翳っていく。
「俊くん、ごめんなさいね。
お迎え、遅くなっちゃって……」
少し急ぎ足でやって来た宇白さんがそう声を掛けた時には、俯いて黙ってしまっていた。
「先生と何かお話ししていたの?」
宇白さんが訊ねても、俊くんは「別に……」とだけ答えるだけだ。
宇白さんはそんな俊くんに少し困った様な顔をしたが。
「……そう、じゃあ今日は帰りましょうか」
と、一度こちらにペコリと頭を下げてから、俊くんの手を引いて帰っていったのだった。
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