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自称特別捜査隊

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【2011/04/15】


 朝から嫌な予感はしていたのだ。

 早朝から慌ただしく出掛けて行った叔父さんや。
 朝から住宅地に鳴り響く、パトカーのサイレン。
 連絡が取れなくなったと言う、行方不明になった小西先輩の事。
 それらの予感は、朝の緊急朝礼で現実となってやってきた。


 ……小西先輩は、先日の山野アナと同じ様な状況で遺体として、今朝発見された、らしい。

 誰が、とか。
 何で、とか。
 思わない訳では無いけれど。
 それ以上に胸を占めていたのは。
 ……見知った人物が急に居なくなってしまったのだという、……もう二度と会えないのだという、哀しみに似た感情だった。

 小西先輩とは、本当にたった一度しか会った事がないし、それにその時もほんの少しだけ話しただけ。
 それでも、顔を知っている人が……突然に居なくなるというのは、苦しくなるものがある。

 ふと前を向くと、黙って俯いたまま歩いている花村の後ろ姿が目に入った。
 体育館を出てから、花村は一言も喋らない。
 ずっと俯いているから、どんな顔をしているのかも、自分には分からない。
 少なくともショックを受けているのは、確かだろう。
 だが、その胸中にあるのが、犯人への怒りなのか、想い慕っていた人を喪った事への哀しみなのか、将又何も考えられずに茫然としているのか、……或いはその全てであるのか。
 ……それは花村では無いが故に、自分には分かり様の無い事だ。
 ツーカーで気持ちを汲み取れる程、花村との付き合いがある訳では無いのだから。
 ……でも多分。
 涙を溢している訳じゃないのだろうとは、分かった。


「なあ、お前ら……昨日の《マヨナカテレビ》は見たか……?」


 急に顔を上げたかと思うと、花村は唐突にそう尋ねてくる。
 人が一人……しかもそれなり以上に親しい相手が殺されたというのに、出てくる話題が《マヨナカテレビ》だなんて、そうあまり褒められた態度ではない。
 聞く人が聞けば、露骨に眉を顰めるかもしれない。
 現に、横に居た里中さんは咎める様に花村を見ている。

 でも。花村のその表情は、本当に真剣なモノだった。
 だからきっと。
 その《マヨナカテレビ》の話は、花村にとってとても大切なものである事は確かなのだろう。

 だから、その発言を注意するでもなく、見ていないのだと素直に事実を答えた。
 すると、花村は「そうか……」と呟いた後、ポツポツと……感情をどうにか抑えている様な声音で続ける。

「昨日さ、何か気になって、見たんだ……《マヨナカテレビ》。
 映っていたのは……間違いない、小西先輩だった。
 先輩……何か凄い苦しそうに踠いてて……そんで画面から消えちまった」

 辛そうに花村は目を瞑った。
 そして、一気に吐き出す様に続きを話す。

「……覚えてるか?
 山野アナが遺体で見付かった日、《マヨナカテレビ》に山野アナが映ってたって言ってた奴いたよな」

 そうだったのだろうか?
 自分は聞いた覚えは無かったが、どうやら里中さんには心当たりがあったらしい。

「そう言えば……、そんな事言ってたヤツいたかも」

「先輩……山野アナと似たような状態で発見されたって。
 なあ、これって偶然に思えるか?」

 既に花村の中では、ある“答え”が出ていたのだろう。
 それでも、その“答え”への同意を求めて、こちらにそう問い掛けている。

「……花村は、『《マヨナカテレビ》と二人の死に何らかの関係がある』と、そう言いたいのか?」

 原因も理由も分からないまま親しい人を喪ったのだ。
 何でもいいから、その理由を、その原因を、知りたいと思うのは当然と言えば当然の事ではある。

 そして今。
 花村の目の前には《マヨナカテレビ》という不可解な現象があり、そこには被害者の二人が映っていたという。
 ……ならばそこに何らかの関連性を見出だしたくなる気持ちは、理解出来なくはない。
 だがしかし。
 それは些か性急な考えなのではないだろうか。

《マヨナカテレビ》と二人の死に関連性がないと言い切れないが、逆に言うとその関連性を正しく証明する事は現状ではこの場の誰にも出来ないのだ。
 現時点で判明している事は、二人の遺体の発見状況に類似性が見られる事、そして二人は《マヨナカテレビ》に映った事があるという事だけだ(しかもあくまでも伝聞情報で)。
 それだけでは、そこに何らかの因果関係があると証明する事は出来ない。

「分かんねーけど、……でも。
 クマの奴、『人があの世界に放り込まれて』って言ってたよな。
 俺にはそれが……無関係には思えねえ!
 小西先輩や山野アナは、誰かに無理矢理に……あの世界に連れていかれたんじゃないのか?」

「……花村、何が言いたい?」

 薄々花村の要求を察しながらも、敢えてそう訊ねた。
 そして、花村は勢い良く頭を下げてこちらに頼み込んでくる。

「頼む、鳴上!!
 俺を、あの世界に連れていってくれ!
 どうしても確かめたいんだ!
 昨日お前と別れてから、実はもう一度テレビに入れるか試してみたんだけど、俺じゃ無理だった。
 お前とじゃなきゃ、あそこに行けない!」

 テレビの世界。
 それもまた、花村の前に存在する不可解な現象そのものだ。
 未知であるが故に、そこにはあらゆる可能性を見出だせる。
 ……見出せてしまう。

 だが、しかし。
 そもそもの話、あの世界と、花村が主張する《マヨナカテレビ》との関連性が全く不明だ。
 《マヨナカテレビ》=テレビの世界、だなんてそんな法則は今の所成立してない。
 そんなに《マヨナカテレビ》の事が気になるなら、噂の出所を探るなり、どれだけの人が見てるのか調べたり、幾らでもあの世界に行かずともやれる事はある。
 それに……。

「……行って、どうする?
 あそこは危険だって、花村も分かってるだろう?
 昨日は運良く帰ってこれたけど、今日行って無事に済む保証は、無い。
 向こうに行った処で、小西先輩が生き返ったりする訳じゃない。
 ……それに、花村が求めている《理由》がそこにあるとは限らない」

 果たして花村が求めている《理由》とは、命を賭けてまで探す必要はあるのだろうか。
 こればかりは花村当人の心の問題であり、他人が口を挟む余地は無いのだろうけれど。

「分かってる。……分かってる、けど。
 ……全部俺の勘違いで、テレビの世界とか《マヨナカテレビ》とかは無関係だってなら、それでもいいんだ。
 ただ、……先輩が何で死ななきゃなんなかったか、知りたいんだ。
 気の所為かもしれなくても、可能性が僅かにでもそこにあるなら、気付かなかったフリは出来ねえ。
 頼む。お願いだ、鳴上」

 花村は再度頭を下げて頼み込んでくる。

 ……花村に付き合って、あちらの世界に行く様な義理は無い。
 個人的には、もうあれに関わるのは遠慮したい。
 危ないと分かってて明確な理由が特には無いのにそれでも行くのは、勇気でも何でもなく、ただの無謀なだけの考え無しだ。

 だが……。
 ここで自分が首を横に振ったところで、花村は形振り構わずあの世界に行こうとするのだろう。
 そう確信させてしまう位には、花村は真剣だった。

 それであの世界に行けるのかは分からないが。
 万が一行けたとしても《シャドウ》に殺されたりするかもしれないし、或いは犯人の目に留まって殺されでもしたら、それこそ目も当てられない。
 そうなるとは決まってないが、その可能性はある。
 ……顔も名前も知っている人間が、もしかしたら防げていたかもしれない事で死ぬのは、絶対に嫌だ。
 自分の所為じゃないとしても、そんなの寝覚めが悪くなるし、ご飯が不味くなる。
 だから。

「帰ってこれる保証は、無い。
 あの《シャドウ》という化け物達もきっと大量にいる。
 命を賭ける必要があるかもしれない。
 ……花村に、その覚悟はあるのか?
 それでも、行きたいと、知りたいと望んでいるのか?」

 花村は、しっかりと頷いた。
 ……本当の所は、花村に命を賭ける覚悟が出来てるだなんて、思ってはいないが。
 それでも尋ねたのは、一応の意志確認に過ぎない。

「……分かった。
 じゃあ、今日の放課後、ジュネスの家電売り場に来て」

 同じ所から入れば、あの着ぐるみに会える確率は僅かにでも上がるだろう。
 本当は、ジュネスだなんて誰が見てるのかも分からない場所からは行きたくは無いが……。
 少しでも帰還の可能性を上げる為の策だ。
 それこそ形振り構ってはいられない。
 一緒に向こうに行けば、少なくとも花村が《シャドウ》に惨殺される、という可能性は幾分かは減る。
 まあそれも『イザナギ』の力が及ぶ範囲であれば、の話にはなるが……。






◇◇◇◇◇






 放課後、バカを放って置けないとついて来た里中さんと共に直ぐ様ジュネスに直行すると、家電売り場には既に花村が待機していた。
 手には……武器のつもりなのだろうゴルフクラブが握られている。
 というか、そのゴルフクラブ……花村のお父さんの物だとすれば、壊した時の弁償が怖いので置いていって欲しいのだが……。

「里中! お前も来たのか!!」

「何言ってんの! バカを止めに来ただけ!!
 昨日あんな目に遭って、それでも行くって、本っっ当にバカ!!
 死んだらどうすんの!!」

 里中さんは花村を思って必死に止めるが、花村はそれには首を横に振った。

「……分かってる。
 でも、このまま放っておくなんて、出来ないんだよ。
 それに……何の考えも無い訳じゃねーよ。
 またあのクマ野郎に会えたら、出口を出してもらえる」

 そう言って花村はゴルフクラブをこちらに渡そうとしてきたので、それを丁重に断って、取敢えずその場にいた里中さんに渡す。

「怪しいヤツに見えるかもしれないけど、留守番頼む」

 ……花村は里中さんは連れて行くつもりは無い様だ。
 まぁ当然だ。
 ここで里中さんも連れて行くなんて宣ったら、全力で張っ倒していた所である。

「……じゃあ、行こうか」

 花村へと手を差し出して、今度は自分の意思でテレビの中へと足を踏み出した。




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