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彼岸と此岸の境界線

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【2011/06/26】


 久慈川さんの救出に成功してから、一夜経った。
 ……久慈川さんは、まだ寝込んでいる様だ。
 まあ、あの世界に居た事による疲労もあったというのに、更に情報支援担当とは言えペルソナを使って戦いもしたのだ。
 天城さんや巽くんよりも、確実に消耗していただろう。
 ゆっくりと身体を休めて、元気になって欲しいものだ。

 自分はと言うと、特にこれと言った問題は無く、気力体力共に充実している。
 今日はマリーに頼まれ、八十神高校まで連れていく事になった。
 休日ではあるが、入れない訳でも無いだろう。

「キミってさ、毎日“学校”行ってるんでしょ?
 それって、飽きないの?」

「いや、楽しいよ」

 “飽き”が全く無い訳でも無いが……。
 それでも、同じ“毎日”など無いのだし、大きいもの・小さいものの区別は付け難いが日々変化はしている。
 その変化を見付けるのもまた、楽しくはある。
 高校に通う日数など900日も無いのだから、楽しまなければ損だ。

「楽しい……? あ、テレビあるって事?
 “野次馬ゲーノー速報”見れる?」

 マリーは何かを誤解している様だが、楽しそうだし放っておこう。
 と、言うよりも、やたら“野次馬ゲーノー速報”を推すな……。
 そんなに気になっているのだろうか、その番組が……。
『“楽しい”=“テレビ”』という図式も如何なものだろうか。

 その時、T字路の向こうから花村が歩いてきた。
 そして、こちらを見て驚いた様な顔をする。

「あれっ、鳴上! それにマリーちゃんも!
 どーしたんだ?
 そっちの方向って学校だぜ?」

 休みの日なのに、態々通学路を歩いているのが不思議に思えたのだろう。

「ああ、マリーに学校を案内しようと思って。
 花村も一緒に来るか?」

「学校見学って事か……。
 ウチの学校、見てて楽しい所あった様には思えねーけど、マリーちゃん他校生だからそれでも良いんか。
 そーゆー事なら俺も一緒に行くぜ。
 八十神高校へようこそ、ってな」

 花村も加えて、一路八十神高校を目指した。




◇◇◇◇◇




 今日は休日だから、クラブ活動等で用事がある人を除いて、校内に殆ど人は居ない様だ。
 取り敢えず、という事で二年生の教室が並ぶ教室棟二階へとマリーを連れていく。

「ここが俺らのクラスの教室。
 レトロな感じでこじんまりしてるっしょ?」

「……広い」

 半ば自虐的に花村はそう言って教室を見せるが、ポツっとマリーは呟いて、興味津々の顔で窓硝子越しに教室の中を覗く。
 教室の広さは平均的かやや狭い位だろうけれども、それでもあのベルベットルームよりは広いだろう。
 何せ、あそこは車内なんだし。

「えっ、そうか?
 まぁムダに敷地は広いから、校庭も入れれば広い、かな。
 てか、マリーちゃん所ってどうよ?
 やっぱ都会だから狭い?」

 そう言えば、花村は(というよりもマリーと出会ったほぼ全員が)マリーを引っ越し前の学校からの友達、だと誤解していたのだった。
 ベルベットルームの事は説明し難いし、あまり不都合は感じなかった為、誤解をそのままにしてあるが……流石にそろそろ修正しておかないと、齟齬が洒落にならないレベルにまで広がりかねない……。

「私の所?
 …………。狭いよ。部屋、一つしか無いし。
 狭いし、暗いし、鼻喋んないし。
 ずっと黙ってるから、つまんない」

 学校の事について訊ねられたというのにも関わらず、案の定、マリーはベルベットルームについての話をしてしまう。
 まあ、マリーはそこしか知らないのだし、仕方無いのだけれども。

「ひとつぅっ!?
 てか、狭いし暗いって、何じゃそりゃ!?
 ハナって誰だよ、先生か!?
 ずっと黙ってる先生とか、職務放棄もイイトコだろ、ソレ!!」

 花村が至極マトモな感性からツッコミを入れるが、マリーは意に介さず、興味の赴くままにフラフラと校内を歩き出す。

「何つーか、相変わらずだなー、あの子……」

 花村はそう溜め息を溢しながらも、マリーを追い掛けた。
 マリーはフラフラと歩きながらあちらこちらを見て回る。
 職員室の前まで来た時、不意に職員室のドアが開いて、中から何故か巽くんが出てきた。

「ん、先輩ら何してるんスか、こんな所で?」

「学年案内、かな。マリーに頼まれて。
 と、言うよりも巽くんこそ、何で学校に?」

 しかし、巽くんが答える前に、マリーが巽くんを指差して声を上げる。
 ……他人を無闇に指差してはいけないのだ、と今度教えてあげなくては……。

「あっ、オッサンだ」

「だから、オッサンじゃねーっつってんだろ!!」

 コンマ秒単位の反応速度で、巽くんは即座にマリーに反論する。
 うん確かに、巽くんはオッサンではない。
 少し実年齢よりも上に見えるのは確かだけれども。

「ちょっ、完二。
 お前、オッサン扱いされてんの!?」

 マジかー、と花村は爆笑する。
 それにヘソを曲げてしまったかの様に、巽くんはそっぽを向いて舌打ちをした。
 それを取り成して、もう一度、何故休みの日なのに学校に来ていたのか巽くんに訊ねると、どうやら出席日数と成績の事で呼び出されていたらしい。
 最近は多少真面目に来ているとは言え、4月・5月はほぼサボっていた為、中々危ないのだとか。
 そしてそれに輪をかけて危ないのが前回の中間試験だった様だ。
 7月に行われる試験の結果如何では、夏休み中に補習が課される事も視野に入れなくてはならないらしい。

「補習にかかるって、それよっぽどだな。
 つーか、お前何点位だったんだよ、前の中間」

 呆れた様に言う花村は、大体学年順位で中間層の若干下辺りとほぼ中間をゆらゆらと揺蕩っている感じの成績だ。
 里中さんも大体その辺りで、天城さんは学年上位一桁にいる。
 対する巽くんはと言うと……。
 少し気不味そうに自己申告してくれたその点数は、確実に下から数えて直ぐの順位だろう。
 ブービーとかかもしれない。
 うん、相当に危ない点数だ。
 特に理数系が苦手らしく、辛うじてある点数は択一式問題で勘で選んだ答えが偶々合っていただけなのだとか。

「何つーか……。
 イジるのも躊躇する様な点数だな、そりゃ」

「補習の条件は、三科目以上で赤点を取るか、総合点が赤点になった場合、だったっけ……?
 今から頑張って勉強すれば……脱赤点なら……何とか……?」

 なる、のだろうか……。分からない……。
 巽くんの点数を聞く限り、断定は無理だ。

「流石に補習なんてなったら、お袋パンチが飛んでくるっス……。
 ……何とかならねっスかね、先輩……」

「俺が教えてどうにかなる様な点数じゃないしなー……ソレ。
 つか、俺の方こそ誰かに勉強教えて貰いてーよ」

 巽くんが溜め息混じりにそう呟くと、花村はそう返した。

「あっ、花村先輩にはそういうのは期待してねっス」

「思ってても言うなよ!」

 キレのあるツッコミが飛ぶのを見て、話についていけてなかったマリーがキョトンとした顔で首を傾げる。

「ほしゅー?って、大変なの?
 あかてん、とかよく分かんないけど」

「ああ、うん……。
 色々とね、大変なんだよ。
 学校生活も楽しい事ばかりじゃないしね」

「ふーん……。
 それなのに、学校行ってるんだ……」

 よく分からない、とでも言いた気な顔でマリーは呟く。
 ここにきてマリーとの齟齬をハッキリと認識した花村が、どういう事だとばかりに訊ねてきた。

「鳴上? マリーちゃんって、お前の前の学校での友達なんだよな?」

「いや……、学外での友人だ。
 マリーには色々と特殊な事情があってだな……。
 説明は少し難しいんだが……。
 まあ、極端に世間の常識に疎い子だと思っててくれ」

 そもそも、多分(というより十中八九)人間ではない。
 更には、ベルベットルームにやって来る迄の記憶も無いという事も判明している。
 特殊過ぎる存在だ。

「特殊な事情……ね」

 花村はまだ色々と納得はしかねている様だが、一先ず追及する事は止めてくれた。
 尚、巽くんはどうでも良いというよりは、よく分かっていない様で「?」を浮かべているかの様な顔をしている。
 一々ツッコむ必要性など無いから、ここは放っておこう。
 話題の渦中にあるマリーはと言うと、我関せずとでも言いた気な様子であった。
 火災警報器に興味を示したらしく、どうしても押したくなる衝動にかられる(小学生位だと実際に押してしまう人もいる)あのボタンに視線が釘付けだ。
 放置すると押しかねなかったので、マリーの腕を取って、実習棟の方へと引き摺っていった。




◇◇◇◇◇




 校舎内をマリーに案内して周り、最後に連れてきたのは屋上だ。
 フェンスの向こうに見えるグランドでは、運動部が休日練習を行っているのが見える。

「ここが俺らの溜まり場だな。
 どーよ、青春するには悪くないロケーションだろ?」

「……セーシュン?
 セーシュンって、何するの?
 具体的に」

 花村の言葉にマリーは首を傾げ、花村に問う。
 すると、花村はあからさまな程に狼狽した。

「ぐ、具体的にっ?
 えーっとだな、……。
 友情を育んでみたり、悩みを打ち明けてみたり……とか?
 言葉にすっとかなり気不味いな、コレ……」

 普通は『青春』と言われれば、具体的には言われなくても、大多数の人にはある程度の共通する認識が成されている。
 しかし、マリーはそういう共通する認識についての知識は極めて乏しい。
 花村の説明でも納得がいかなかったのか、マリーは再び首を傾げた。

「……分かんない。
 あの緑とか、赤の人も?
 してるの? セーシュン」

「勿論。
 あと、緑の人とか赤の人、じゃなくって、里中さんと天城さんだから」

 一応、訂正を入れておく。
 マリーの認識が改まるのかは分からないが……。

「……何でセーシュンするの?
 ヒマだから?」

 まだ疑問があるのか、マリーは再度花村に訊ねる。

「えっ、まだ言わないとダメな感じ!?」

「……そんな難しく考える必要ねーだろ。
 自分自身に向き合うのに、理由なんざ一々要らねー」

 花村が困った様に視線を彷徨わせていると、巽くんが頭を掻きながらそう言った。

「ああ、うん。
 完二の言う通りだな。
 自分自身に向き合う為にも、そんで本当の自分を見失わない為にも、上っ面の付き合いとかじゃなくってさ、必要な事っつーか……。
 ……やっぱ、ハズいな、これ。
 もう勘弁してくれ……」

 花村はそう言って手で顔を覆ってしまう。
 耳が少し赤い……。
 余程恥ずかしかったのだろう。

「……本当の、自分。
 ……自分自身に、向き合う……」

 花村の言葉に思う所があったのか、マリーは考え事に耽る様な目でそう呟いた。

「気になるのか?
 本当の自分自身、というものが」

「……ううん、ならない。
 だって、ホントの事なんて、……無いもん」

 マリーはそう答えるが、しかしまだ何か考えている様に微かに目を伏せている。
 ……マリーには記憶が無い。
 その事で何か考えているのだろうか……。
 マリーに声を掛けようとしたその時、花村の声がそれを遮る。

「その話終わり!
 見るモン見たんだし、もうそろそろ帰ろうぜ、なっ!!」

 また話を振られては敵わないとばかりに花村がそう強引に締め、学校案内はそこで終わった。





◆◆◆◆◆





 マリーをベルベットルームまで送っていった帰りに、商店街の店仕舞いした惣菜屋の前に立っている足立さんに遭遇した。
 どうやら、今晩も閉店までに間に合わなかった様だ。
 夕飯に誘ってみると、足立さんは少し嬉しそうに乗ってくる。
 そのまま足立さんと二人、家へと帰った。




◇◇◇◇◇




 今日の晩御飯は、ビーフストロガノフだ。
 サワークリームを生クリームで代用したり、トマトも放り込んだ日本風アレンジのモノだが。
 足立さんの好みにも合った様で、旨い旨いと言いながら、皿に多目に盛り付けたビーフストロガノフをペロリと平らげてしまった。

 腹が満たされて気を良くしたのか、足立さんは突然「勉強、見てあげようか?」と言い出す。
 どうしようかな、と一瞬考えていると、足立さんはニヤっと笑って続けた。

「なーんてね、冗談冗談。
 君の勉強見るの長そうだからヤだし。
 菜々子ちゃんの位のならいいんだけどねー」

 足立さんの言葉に、菜々子は目を輝かせる。

「菜々子の、いーの?
 あのね、宿題、ある!
 かんそうぶん、だって!」

「かんそうぶん……?
 あー、読書感想文かぁ。
 コツ知ってれば楽なもんだよ。
 後書きだけ読んで、まとめるの。
 中身は読まなくてもオッケー」

 ……ギリギリまで読書感想文を貯めて提出間際になってから焦る学生のやりそうな事だ。
 そもそも、菜々子の歳位の子供が読む本の場合、後書きを読むよりは普通に内容を読んだ方が感想文は書き易いだろう。
 と言うか、菜々子に何を教えるつもりなんだ、足立さんは。

「読まないの?
 本を読んで、思ったこと書くって、先生言ってたよ?」

「大丈夫大丈夫。
 そういうのは要領よくいかなきゃ」

「要領よく、というのは確かに一理ありますが。
 いきなり手抜きの方法を教えるのはどうかと思いますよ?」

 要領よくやろうとするのは、別に間違いではない。
 極力手を抜こうとするのも……。
 まあそう誉められた事では無いのは確かだが。
 手間を省こうと努力する事によって、世に生み出されてきたものは多くある。
 しかしまあ、まだ小学生になったばかりの菜々子に、いきなり手抜き感想文の書き方をレクチャーするのは良くない。
 そう言うと、足立さんは愉快そうに笑った。

「あはは、まあねー。
 悠希ちゃんは真面目だなー。
 ま、それよりほら、菜々子ちゃん。
 本持ってごらん」

「あっ、かんそうぶんじゃなかった!
 えっとね、本を読んで、それでそのしるしをもらうんだって」

 成る程、読書感想文ではなく、音読してこいという宿題だった様だ。

「あ、そう。良かったね、簡単なので。
 読めば良いだけなんだし……って、印?
 あー……堂島さん、今日は遅いんだよなぁ」

 どうしたものかと、足立さんが頭を掻くと、菜々子が何かを期待する様な目で足立さんを見た。

「あだちさん、しるしくれる?」

「えー、僕?
 ……良いよ、上手かったら花丸あげる」

 菜々子の言葉に少し驚いた様な顔をした足立さんは、優しく何時もとは違う笑みを浮かべる。

「花丸、ほしい!」

「はは、じゃあ、スタート」

 花丸の言葉にはしゃいだ声を上げた菜々子は、足立さんに促されて音読を始めた。

「ふかいふかい森のおく、ほそいほそい川のそばに、ピンク色のワニがすんでいました……」

 菜々子が音読しているのは、『ピンク色のワニ』という絵本だ。
 目を惹く可愛らしいピンク色のワニが目立つ表紙から連想される明るそうな雰囲気とは裏腹に、ストーリーラインは中々悲しいものだった。

 ピンク色のワニはその奇妙な色の所為で、仲間たちの輪に入る事も出来ずずっと独りぼっち。
 色が目立ち過ぎて、エサを取るのも難しい。
 そんな中、やっと出来た友達の小鳥を、ピンク色のワニは間違えて食べて殺してしまう。
 それを嘆き悲しんだワニは、その涙で湖が出来る程泣き続けて、そして死んでしまった。
 ワニの涙で出来た湖は、多くの動物たちの糧になる。
 ……動物たちは誰も、ピンク色のワニが居た事を思い出さない、そもそもワニが死んだ事にすら気が付かない。
 動物たちの生活を支えているその湖が、ピンク色のワニが流した涙で出来ているとは、彼ら自身は知らない。
 ……それでも、ワニが生きた意味、それは多くの動物たちへ影響を与えている。

 ……と、まあそういう話だった。
 あまり子供向けの話ではない。
 奥付けを見ると、どうやらこの絵本は2010年に出版されたものらしい。
 ……どうやら、作者の処女作にして遺作になってしまった様だ。
 この神木という作者(恐らくはペンネームではなく本名だろう)が何を想いこの物語を書いたのかは知らないが、『ピンク色のワニ』に深い思いを抱いていたのは確かだろう。

 菜々子が読み終えると、足立さんが印を貰う用の紙に花丸を描く。
 キレイなその花丸に、菜々子は歓声を上げて喜びを表した。

「はは、良かったね。
 で、悠希ちゃんは?
 何か花丸欲しいのとか無いの?」

 ニヤっと笑う足立さんの言葉に、首を傾げながらも考えた。
 花丸……。
 そういうものを付けれそうなものが自分にあっただろうか?

「花丸ですか……?
 ……何かありましたかね?」

「いや、それを僕に訊かれても。
 あー、君の料理なら花丸あげられるね、うん」

 逆に足立さんに訊ねると、足立さんが想定外の質問に少し困った様な顔をした後、あっと思い付いた様に頷いた。

「えっと、有難うございます」

「君さ、大人びて見えるけど、でも、結局まだ高校生でしょ?
 何かあったら、素直に大人に頼りなよ?
 別に、僕に頼れとは言わないからさ」

 ……足立さんなりの気遣いを感じる。
 素直にそれに頷くと、足立さんはハァっと溜め息を吐いてソファにゴロンと横になった。

「あー、疲れたなぁ……。
 ちょっと寝てって良い?」

「構いませんが……、どうかしたんですか?」

 訊ねてみると、足立さんは困った様に頭を掻きながら話してくれる。

「んー……、例のお婆さんが、署にお見合い写真持ってきちゃってね。
 良い子だから会えだとか何だとか……、お陰で残業しなきゃだし。
 はぁ、結婚とか有り得ないっての」

 その言葉に菜々子が首を傾げた。

「けっこん、いやなの?」

 菜々子位の年頃の女の子だと、《結婚》とは遠い未来の出来事だ。
 結婚式のきらびやかなウエディングドレスの様なものに憧れを抱いたりする年頃である。
 《結婚》が嫌、というのはあまり分からない感覚であろう。
 そんな菜々子に苦笑しながら足立さんは頷いた。

「結婚は人生の墓場だよ。
 菜々子ちゃんも、あと20年もすれば分かるんじゃない?
 って言うか、菜々子ちゃんの旦那さんになる人って、堂島さんが“お義父さん”になるのか……。
 ……わー、無理だなー。
 菜々子ちゃんは無理だなー」

 そもそも年齢的に厳しいものがあるだろう。
 が、それにしても……。

「菜々子を指して無理だとか、聞き捨てなりませんね。
 どういう意図でその様な発言をしたのか、詳らかに説明して下さい」

 足立さんの発言の意図を問い質すと、足立さんは肩を竦めながら答えた。

「えー、や、だって、ねぇ?
 無理じゃない?
 ごめんね、菜々子ちゃん」

 足立さんにそんな言葉を言われた菜々子は、ムウッと頬を膨らませながら反論する。

「……菜々子だって、やだもん。
 くつ下に穴あいてるひと、やだもん!」

「空いてませんー」

「こないだあいてたよ! 菜々子見たもん!」

 菜々子と下らない言い合いをした後、叔父さんが帰ってくるまで足立さんは眠った。





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