流れ行く日々
◆◆◆◆
【2011/05/13】
放課後。夕飯の買い出しをしようと、ジュネスを訪れると……足立さんが入り口に佇んでいた。
……昨晩叔父さんに言われた矢先の遭遇だ。
足立さんも丁度こちらに気が付いたらしい。
「あれ? あー……えっと、君は……。
あっ、堂島さんのトコの。
どうしたの?僕に何か用?」
「どうも。
いえ……何をしているのだろう、と思いまして」
「えー、見て分かんない?
仕事だよ仕事。
ホラ、此処って町中から人が集まるじゃない?
だから聞き取りとかもし易いんだよねー。
それに、夏場は冷房効いてるし、冬場は暖房効いてるしで、過ごしやすいでしょ?
僕も中々良い穴場を見付けたと思っ……、っとと。
ま、そう言う事だから!」
今思いっきり口を滑らせた様な気が……。
……まあ、良い。
サボっているのは宜しくないが、叔父さんに言われた通りにガツンと言ってもどうしようもないだろう。
……ふと、出来心で足立さんと話してみようと思った。
別に事件について何か尋ねたい訳でも無い。
訊いた所で守秘義務があるから喋れないだろうし。
ただ単純に、『足立透』という人間の事が知りたくなった。
叔父さんの部下で、恐らくは相方で、この春から稲羽にやって来た人。
これっぽっちしか、自分はこの人について知らない。
叔父さんが仕事中どんな人と関わり合っているのか、気にはなる。
これもまた何かの縁だろう。
「そうですか。まあ、確かに。
一年を通してこの場所は居やすいでしょう。
しかし……お仕事に熱心なのは構いませんが、程々にしておかないと、叔父さんがおっかない顔をして乗り込んで来ちゃいますよ」
「あはは……胆に銘じて置くよ。
んー、てか、君は今から買い物かい?
あ、堂島さん所の食事は全部君が作ってるんだっけ?
偉いねー」
「いえ、そうでもないですよ。
料理するの、慣れれば楽しいですし」
「ホントかい?
あー……でもまあ、こんな田舎だとやる事無いしなー。
そう言う楽しみでも無いとやってられないかも。
ホント何にも無いからねー、ここ。
やっぱ都会とは違うよねー」
どうやら足立さんは稲羽暮しには不満がある様だ。
「まあ確かに、そうですね。
暇を潰したりとか、学生とかが遊んだりする場所とか、殆ど無いですし」
まあ、こんな高齢者ばかりの場所にそんなモノ作っても集客が見込めないからなのかもしれないけれど。
その辺り、気になる人は矢張気になってはしまうのだろう。
「あっ、分かる? 君も都会から来たんだったっけ?
やっぱそう思うよね。
僕なんて、ここに来た時の最初の仕事、迷子の猫探しだよ。
スーツ泥だらけになったのに、クリーニング代、経費で落ちないし。
ホント散々だったなー」
もしかして、その猫探しとは、以前一条が言っていたこの辺りでニュースになっていたというヤツだろうか。
あの猫はもしかしたら警察を動員してまで捜索されたのか……。
「次は夫婦喧嘩の仲裁だったかな?
そんなのに一々警察が出張ってなんてられないよね、ホント」
「……お疲れさまです」
猫探しも、夫婦喧嘩仲裁も流石にお気の毒だ。
やってられない、という気持ちは分からなくもない。
少なくとももう少し都会に出れば、絶対に刑事が担当する様な仕事では無いだろう。
「でも最近はあの事件もあったし、そんなノンビリとなんてしてられない位物騒になってきちゃったんだけどね。
まだ解決出来てないし、上の方も手を拱いちゃっててさ、方針がコロコロ変わるもんだから現場も結構混乱してて……。
って、あっ、ごめんごめん!
不安にさせちゃったかな?
君らは安心してて大丈夫だよ、ウン。
僕ら警察が何とかしてみせるからさ」
そういう情報を軽々しく洩らすのは良くないとは思うが……。
……一応気遣ってくれているのだろうか。
「頼りにしてます。
あと、あんまり捜査上の情報は洩らさない方がいいですよ。
叔父さんからその内キツい拳骨飛んできちゃいますし」
「あははーそうだね、今度から気を付けるよ。
さて、と……じゃあそろそろ署の方に戻らないと……。
……!」
店内の方を見た足立さんは、途端に顔色を変えて慌てた様に物陰に隠れる。
どうしたのだろう?
足立さんが隠れるや否や、一人の老婦人がジュネス店内から出てくる。
老婦人はふと周りを見渡してから首を傾げ、そしてそのままジュネスから立ち去った。
「ふー、危ない危ない……」
どうやら足立さんはあの老婦人とは顔を合わせたくはない様だ。
どういう関係なのだろう?
「じゃあ僕はもう行くから。
君も気を付けて帰りなよ?
あ、そうそう。
僕が此処に居たって事、堂島にはくれぐれも内緒にね」
「……仕方がないですね。
これからは此所でサボるのは程々にしといて下さい」
気を付けとくよ、と言い残して足立さんは去っていった。
彼が本当に仕事に戻ったのかは分からないが、まあそれは自分が関与する話でもない。
買い物をして、その日は家に帰った。
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【2011/05/13】
放課後。夕飯の買い出しをしようと、ジュネスを訪れると……足立さんが入り口に佇んでいた。
……昨晩叔父さんに言われた矢先の遭遇だ。
足立さんも丁度こちらに気が付いたらしい。
「あれ? あー……えっと、君は……。
あっ、堂島さんのトコの。
どうしたの?僕に何か用?」
「どうも。
いえ……何をしているのだろう、と思いまして」
「えー、見て分かんない?
仕事だよ仕事。
ホラ、此処って町中から人が集まるじゃない?
だから聞き取りとかもし易いんだよねー。
それに、夏場は冷房効いてるし、冬場は暖房効いてるしで、過ごしやすいでしょ?
僕も中々良い穴場を見付けたと思っ……、っとと。
ま、そう言う事だから!」
今思いっきり口を滑らせた様な気が……。
……まあ、良い。
サボっているのは宜しくないが、叔父さんに言われた通りにガツンと言ってもどうしようもないだろう。
……ふと、出来心で足立さんと話してみようと思った。
別に事件について何か尋ねたい訳でも無い。
訊いた所で守秘義務があるから喋れないだろうし。
ただ単純に、『足立透』という人間の事が知りたくなった。
叔父さんの部下で、恐らくは相方で、この春から稲羽にやって来た人。
これっぽっちしか、自分はこの人について知らない。
叔父さんが仕事中どんな人と関わり合っているのか、気にはなる。
これもまた何かの縁だろう。
「そうですか。まあ、確かに。
一年を通してこの場所は居やすいでしょう。
しかし……お仕事に熱心なのは構いませんが、程々にしておかないと、叔父さんがおっかない顔をして乗り込んで来ちゃいますよ」
「あはは……胆に銘じて置くよ。
んー、てか、君は今から買い物かい?
あ、堂島さん所の食事は全部君が作ってるんだっけ?
偉いねー」
「いえ、そうでもないですよ。
料理するの、慣れれば楽しいですし」
「ホントかい?
あー……でもまあ、こんな田舎だとやる事無いしなー。
そう言う楽しみでも無いとやってられないかも。
ホント何にも無いからねー、ここ。
やっぱ都会とは違うよねー」
どうやら足立さんは稲羽暮しには不満がある様だ。
「まあ確かに、そうですね。
暇を潰したりとか、学生とかが遊んだりする場所とか、殆ど無いですし」
まあ、こんな高齢者ばかりの場所にそんなモノ作っても集客が見込めないからなのかもしれないけれど。
その辺り、気になる人は矢張気になってはしまうのだろう。
「あっ、分かる? 君も都会から来たんだったっけ?
やっぱそう思うよね。
僕なんて、ここに来た時の最初の仕事、迷子の猫探しだよ。
スーツ泥だらけになったのに、クリーニング代、経費で落ちないし。
ホント散々だったなー」
もしかして、その猫探しとは、以前一条が言っていたこの辺りでニュースになっていたというヤツだろうか。
あの猫はもしかしたら警察を動員してまで捜索されたのか……。
「次は夫婦喧嘩の仲裁だったかな?
そんなのに一々警察が出張ってなんてられないよね、ホント」
「……お疲れさまです」
猫探しも、夫婦喧嘩仲裁も流石にお気の毒だ。
やってられない、という気持ちは分からなくもない。
少なくとももう少し都会に出れば、絶対に刑事が担当する様な仕事では無いだろう。
「でも最近はあの事件もあったし、そんなノンビリとなんてしてられない位物騒になってきちゃったんだけどね。
まだ解決出来てないし、上の方も手を拱いちゃっててさ、方針がコロコロ変わるもんだから現場も結構混乱してて……。
って、あっ、ごめんごめん!
不安にさせちゃったかな?
君らは安心してて大丈夫だよ、ウン。
僕ら警察が何とかしてみせるからさ」
そういう情報を軽々しく洩らすのは良くないとは思うが……。
……一応気遣ってくれているのだろうか。
「頼りにしてます。
あと、あんまり捜査上の情報は洩らさない方がいいですよ。
叔父さんからその内キツい拳骨飛んできちゃいますし」
「あははーそうだね、今度から気を付けるよ。
さて、と……じゃあそろそろ署の方に戻らないと……。
……!」
店内の方を見た足立さんは、途端に顔色を変えて慌てた様に物陰に隠れる。
どうしたのだろう?
足立さんが隠れるや否や、一人の老婦人がジュネス店内から出てくる。
老婦人はふと周りを見渡してから首を傾げ、そしてそのままジュネスから立ち去った。
「ふー、危ない危ない……」
どうやら足立さんはあの老婦人とは顔を合わせたくはない様だ。
どういう関係なのだろう?
「じゃあ僕はもう行くから。
君も気を付けて帰りなよ?
あ、そうそう。
僕が此処に居たって事、堂島にはくれぐれも内緒にね」
「……仕方がないですね。
これからは此所でサボるのは程々にしといて下さい」
気を付けとくよ、と言い残して足立さんは去っていった。
彼が本当に仕事に戻ったのかは分からないが、まあそれは自分が関与する話でもない。
買い物をして、その日は家に帰った。
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