未知への誘い
◆◆◆◆◆
突然目の前に現れた巨大な異形に、俺は目を奪われた。
鈍く銀に光る仮面の奥から覗く黄金の瞳は猛々しく、まるで応援団とかの団長が着込みそうな黒色の外套、手には刃の部分よりも持ち手の方が長い風変わりな剣。
見上げる程に巨大なその異形は、出現するなり襲い掛かろうとしていた化け物達を纏めて薙ぎ払った。
「これ……は……」
一体、何だ?
問い掛けようにも、鳴上は俺に背を向けたままだ。
その表情は分からない。
「イザナギッ!!」
吼える様な鳴上の声に反応したのか、異形は先の一撃で倒し損ねた化け物を斬り捨て、或いは蹴り飛ばし、瞬く間に殲滅してしまった。
最後の一体を斬り刻むや否や異形は姿を消し、後にはあまりの出来事に茫然とする俺と、相変わらず表情が分からない鳴上が残される。
「鳴上……」
そう声を掛けると、ふぅと微かに溜め息を吐いてから鳴上は振り返った。
振り返ったそこにあったのは、ここ二・三日で見慣れてきた、あまり感情を映さない何時もの鳴上の顔で。
先程まで化け物達と対峙していたとは到底思えない程、静かに俺を見詰め返している。
「……アイツらは今のところまた出てくる気配は無いし、取り敢えずは安全になったと思う。
また何時襲われるかは分からないけれど、一旦は最初に居たスタジオみたいな場所に戻った方が良い。
里中さんをこのままにはしておけないから」
訊きたい事はそれではないが、鳴上の言う事はご尤もな意見だ。
反論する必要も無いので、俺は鳴上と並んで歩き始めた。
「なぁ、さっきのあれって……」
「……説明は出来ない」
歩きながら尋ねると、鳴上は首を横に振って答える。
「お前……『ペルソナ』って言ってたじゃん?
それって、あれの事?」
「……多分、そう。
さっき出てきたのは、『イザナギ』」
「何をどうやった訳?
てかあれって、俺にも出来たりする?」
俺の言葉に鳴上は考えこむ様に少し押し黙った後、「分からない」と首を横に振りながら答えた。
「自分でも、何故出来たのかとか分からないから、何とも言えない。
ただ、……あの時はそうするべきだって……、頭で考えてたんじゃなくって……。
上手く説明出来ないけど、身体が自然と動いたと言うか、半分無意識でやっていた様なものだったし……」
それ以上は語らず、鳴上は口を閉ざした。
そのままこれと言った会話もなくスタジオまで辿り着き、気絶したままだった里中の肩を揺する。
名前を呼びながら何度か揺すってると、微かな呻き声を上げて里中は薄目を開けた。
「うっ…………ここは……。
最初の場所……?
……あれ……さっきの化け物は?」
「鳴上が、倒してくれたんだ」
そう返してやると、里中は驚いた様に目を開ける。
「鳴上さんが?」
「まぁ、そんな所。
気分はどう? 怪我は無い?」
鳴上が頷き、そして里中に具合を訊ねる。
「なんかシンドイけど……怪我とかは無いよ」
本調子ではなさそうな里中に、鳴上と二人で何があったのかを説明していると、突然霧の向こうから気の抜ける声が響いた。
「およよ、キミ達無事だったクマか?
シャドウ達はどうしたクマ?」
やって来たのは、あのヘンテコな……クマだか何だかと名乗っていた着ぐるみだ。
「《シャドウ》……あの、変な化け物達の事?」
「そうクマ! 君たちよく無事だったクマねー!」
「まさかとは思うが、お前があの化け物達をけしかけたんじゃねーだろうな?」
あまりにも軽い調子で言ってきやがるし、それにこいつが逃げ出してからあの化け物達が襲ってきたのだ。
この着ぐるみはそんな悪辣な事をしそうには見えないが、あの化け物達に襲われて危うく死にかけた身としては信用ならない。
「キーッ、バカな事言わないで欲しいクマー!!
最近こっちに人が放り込まれてるからシャドウが暴れる様になってこっちも迷惑してるクマー!!」
そう叫んでクマがその場で足踏みをするなり、その場に積み重なったテレビが三台何処からともなく出現した。
戦後間もない頃を題材にしたドラマ位でしかお目にかかれそうにもない、レトロ感溢れるテレビだ。
「さー行って行って!
クマは忙しいクマだクマー!!」
有無を言わさずにクマに押され、俺達は再びテレビの中へと押し込まれた。
……
…………
………………
……………………
▲▽▲▽▲▽
何かを潜り抜けるかの様な妙な感覚の後、視界が一気に明るくなった。
そして耳に届いたのは、聞き馴染んだジュネスのテーマ曲。
「ここは……戻ってきた?」
鳴上はキョロキョロと辺りを見回している。
「私達、帰ってこれた?」
「生きてて良かったー!!」
どう見てもジュネスの家電売り場だ。
良かった、帰ってこれた!!
喜ぶ俺と里中とは対称的に、鳴上は何かを考え込む様に黙りこんでいる。
「おい、どーしたよ鳴上」
「あ、いや……。
……花村、このポスター。
これ……あの世界の変な部屋にあった物と同じに見えないか……?」
そう言って鳴上は壁に貼られていたポスターを指した。
最近大ブレイクしている演歌歌手、柊みすずのポスターだ。
「言われてみりゃそうかも……」
「あそこにあったポスターは、顔の所がズタズタに斬られてたけど……。
でも、多分これと同じものだったと思う」
「柊みすずって……確か死んだ山野アナの不倫相手の奥さんだった人なんじゃ……」
鳴上の言葉に、意外とゴシップにも詳しい里中が反応した。
「あの着ぐるみは……“人が放り込まれて”、と。そう言っていた。
……まさかあの部屋は……被害者の人と何か関係が?」
そう一人言の様に呟いて鳴上は黙る。
「ちょ、止めよーぜ。
そういうのメンタル的に俺には無理!」
「うっ……てか何か体がダルいし……。
今日はもう帰ろ?」
里中はブルッと体を震わせた。
「そう言われれば……俺も何か妙に疲れが……。
そうだな、今日はこれで解散にしよーぜ」
あの化け物どもから全力で逃げていた所為か、妙に身体がダルい。
ベッドに倒れれば、そのまま直ぐに爆睡してしまいそうである。
「あんな場所であんな目に遭ったんだし、疲れてるのは当然だと思う。
私は買い物してから帰るけど、花村も里中さんも、早目に帰ってちゃんとご飯食べて、ゆっくり寝た方が良い」
鳴上も頷いたので、二人とはその場で別れて、直ぐ様帰宅した。
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突然目の前に現れた巨大な異形に、俺は目を奪われた。
鈍く銀に光る仮面の奥から覗く黄金の瞳は猛々しく、まるで応援団とかの団長が着込みそうな黒色の外套、手には刃の部分よりも持ち手の方が長い風変わりな剣。
見上げる程に巨大なその異形は、出現するなり襲い掛かろうとしていた化け物達を纏めて薙ぎ払った。
「これ……は……」
一体、何だ?
問い掛けようにも、鳴上は俺に背を向けたままだ。
その表情は分からない。
「イザナギッ!!」
吼える様な鳴上の声に反応したのか、異形は先の一撃で倒し損ねた化け物を斬り捨て、或いは蹴り飛ばし、瞬く間に殲滅してしまった。
最後の一体を斬り刻むや否や異形は姿を消し、後にはあまりの出来事に茫然とする俺と、相変わらず表情が分からない鳴上が残される。
「鳴上……」
そう声を掛けると、ふぅと微かに溜め息を吐いてから鳴上は振り返った。
振り返ったそこにあったのは、ここ二・三日で見慣れてきた、あまり感情を映さない何時もの鳴上の顔で。
先程まで化け物達と対峙していたとは到底思えない程、静かに俺を見詰め返している。
「……アイツらは今のところまた出てくる気配は無いし、取り敢えずは安全になったと思う。
また何時襲われるかは分からないけれど、一旦は最初に居たスタジオみたいな場所に戻った方が良い。
里中さんをこのままにはしておけないから」
訊きたい事はそれではないが、鳴上の言う事はご尤もな意見だ。
反論する必要も無いので、俺は鳴上と並んで歩き始めた。
「なぁ、さっきのあれって……」
「……説明は出来ない」
歩きながら尋ねると、鳴上は首を横に振って答える。
「お前……『ペルソナ』って言ってたじゃん?
それって、あれの事?」
「……多分、そう。
さっき出てきたのは、『イザナギ』」
「何をどうやった訳?
てかあれって、俺にも出来たりする?」
俺の言葉に鳴上は考えこむ様に少し押し黙った後、「分からない」と首を横に振りながら答えた。
「自分でも、何故出来たのかとか分からないから、何とも言えない。
ただ、……あの時はそうするべきだって……、頭で考えてたんじゃなくって……。
上手く説明出来ないけど、身体が自然と動いたと言うか、半分無意識でやっていた様なものだったし……」
それ以上は語らず、鳴上は口を閉ざした。
そのままこれと言った会話もなくスタジオまで辿り着き、気絶したままだった里中の肩を揺する。
名前を呼びながら何度か揺すってると、微かな呻き声を上げて里中は薄目を開けた。
「うっ…………ここは……。
最初の場所……?
……あれ……さっきの化け物は?」
「鳴上が、倒してくれたんだ」
そう返してやると、里中は驚いた様に目を開ける。
「鳴上さんが?」
「まぁ、そんな所。
気分はどう? 怪我は無い?」
鳴上が頷き、そして里中に具合を訊ねる。
「なんかシンドイけど……怪我とかは無いよ」
本調子ではなさそうな里中に、鳴上と二人で何があったのかを説明していると、突然霧の向こうから気の抜ける声が響いた。
「およよ、キミ達無事だったクマか?
シャドウ達はどうしたクマ?」
やって来たのは、あのヘンテコな……クマだか何だかと名乗っていた着ぐるみだ。
「《シャドウ》……あの、変な化け物達の事?」
「そうクマ! 君たちよく無事だったクマねー!」
「まさかとは思うが、お前があの化け物達をけしかけたんじゃねーだろうな?」
あまりにも軽い調子で言ってきやがるし、それにこいつが逃げ出してからあの化け物達が襲ってきたのだ。
この着ぐるみはそんな悪辣な事をしそうには見えないが、あの化け物達に襲われて危うく死にかけた身としては信用ならない。
「キーッ、バカな事言わないで欲しいクマー!!
最近こっちに人が放り込まれてるからシャドウが暴れる様になってこっちも迷惑してるクマー!!」
そう叫んでクマがその場で足踏みをするなり、その場に積み重なったテレビが三台何処からともなく出現した。
戦後間もない頃を題材にしたドラマ位でしかお目にかかれそうにもない、レトロ感溢れるテレビだ。
「さー行って行って!
クマは忙しいクマだクマー!!」
有無を言わさずにクマに押され、俺達は再びテレビの中へと押し込まれた。
……
…………
………………
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▲▽▲▽▲▽
何かを潜り抜けるかの様な妙な感覚の後、視界が一気に明るくなった。
そして耳に届いたのは、聞き馴染んだジュネスのテーマ曲。
「ここは……戻ってきた?」
鳴上はキョロキョロと辺りを見回している。
「私達、帰ってこれた?」
「生きてて良かったー!!」
どう見てもジュネスの家電売り場だ。
良かった、帰ってこれた!!
喜ぶ俺と里中とは対称的に、鳴上は何かを考え込む様に黙りこんでいる。
「おい、どーしたよ鳴上」
「あ、いや……。
……花村、このポスター。
これ……あの世界の変な部屋にあった物と同じに見えないか……?」
そう言って鳴上は壁に貼られていたポスターを指した。
最近大ブレイクしている演歌歌手、柊みすずのポスターだ。
「言われてみりゃそうかも……」
「あそこにあったポスターは、顔の所がズタズタに斬られてたけど……。
でも、多分これと同じものだったと思う」
「柊みすずって……確か死んだ山野アナの不倫相手の奥さんだった人なんじゃ……」
鳴上の言葉に、意外とゴシップにも詳しい里中が反応した。
「あの着ぐるみは……“人が放り込まれて”、と。そう言っていた。
……まさかあの部屋は……被害者の人と何か関係が?」
そう一人言の様に呟いて鳴上は黙る。
「ちょ、止めよーぜ。
そういうのメンタル的に俺には無理!」
「うっ……てか何か体がダルいし……。
今日はもう帰ろ?」
里中はブルッと体を震わせた。
「そう言われれば……俺も何か妙に疲れが……。
そうだな、今日はこれで解散にしよーぜ」
あの化け物どもから全力で逃げていた所為か、妙に身体がダルい。
ベッドに倒れれば、そのまま直ぐに爆睡してしまいそうである。
「あんな場所であんな目に遭ったんだし、疲れてるのは当然だと思う。
私は買い物してから帰るけど、花村も里中さんも、早目に帰ってちゃんとご飯食べて、ゆっくり寝た方が良い」
鳴上も頷いたので、二人とはその場で別れて、直ぐ様帰宅した。
◆◆◆◆◆