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流れ行く日々

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【2011/05/06】


 連休明けの平日。
 休み気分が抜けずに、ボヤーッとした表情で授業を受けるものが大半だ。
 連休中は幸い天候に恵まれていたのだが、そろそろそれも崩れ始めるだろうとの事である。
 連休中にあの世界に放り込まれたらしき人の情報は今の所無い。
 天城さんの件だけで【犯人】が犯行を止めているのならそれはそれで良い事だけれど、何と無く釈然といかないモノも感じる。
 結局、本当に【犯人】が諦めたのかどうかは、せめてもう一度《マヨナカテレビ》を確認してみない事には始まらない。
 ここは潔く雨が降り続く夜を待とう。

 それはそうと、と、話題が来週に待ち構える中間テストへと移る。
 どうやら里中さんと花村は学業成績的に若干の不安要素があるらしい。
 逆に天城さんは学年上位をキープしている様だ。
 からかい半分で成績の事を振られた花村は、天城さんに勉強を見て貰おうかと頼もうとしたが、言い方に少々難が有り、その頬を天城さんに引っ叩かれてしまった。
 かなり良い音を立てていたので、そこそこ痛かっただろう。
 結局誤解は解けたが、話を始めに振った里中さんと、叩かれた部分が赤くなってしまった花村が言い合いを始めてしまう。
 昼休みが終わって教師が教室内に入ってくるまで、その言い合いは続いた。





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 放課後、里中さんに誘われて一緒に河原にやって来た。
 一通り運動をして休憩していると菜々子ちゃんがやって来た。
 どうやら学校帰りに偶々通り掛かった様だ。
 河原で何をしているのか気になったのだろう。
「修行」をしていたのだ、と言うと菜々子ちゃんは目を輝かせた。
 どうやら「修行」という響きが、菜々子ちゃんの心を掴んだ様だ。
 それを見て気を良くした里中さんが、技の型を菜々子ちゃんに実演しようとしたその時。
 草むらにいたバッタが里中さんの背中に貼り付いてしまった。
 途端に悲鳴を上げてパニック状態になる里中さんを宥めながらバッタを取って、それを草むらに返してやる。
 バッタ(大きなショウリョウバッタ)は、指から解放されるや否や瞬く間にピョンピョンと跳ねて何処かへと去っていった。

「里中さん、バッタは苦手なのか?」

「バッタって言うか、足が細くて節っぽいのは全部ダメ!
 細長くてウネウネしてるのも無理!!」

「バッタ、かわいいのに……」

 どうやら虫全般が苦手な里中さんに、案外虫は平気な菜々子ちゃんが呟く。

「な、菜々子ちゃん……雪子みたいだね。
 あ、雪子もね、虫とかそういうのに強いんだ……。
 アハハ、……何かあたしのキャラじゃなくて、笑っちゃうよね」

 そう言って里中さんは自虐的に力無く笑うが、それには流石に首を傾げた。

 虫嫌いの人なんて、男女関係無く居るだろう。
 特に、|台所の黒い悪魔《ゴキブリ》を嫌う人間は相当に。
 別に、虫嫌いを恥じる必要性は無い。

「いや、別に……。
 虫が苦手だからって、キャラじゃないなんて、そんなの思わない。
 苦手なものの一つや二つ、あったって良いんじゃないか?
 寧ろ、可愛いと思う」

「えっ、いや……そうかな……」

「クラスにも、虫がダメって子一杯いるよ。
 千枝お姉ちゃんだけじゃないから、大丈夫だよ!」

 菜々子ちゃんのフォローに里中さんは苦笑いした。
 小学生にフォローされ、逆に少し困ってしまった様だ。
 その後、菜々子ちゃんに幾つか技の型を実演し、日が暮れる前にはそれぞれ家路についた。




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 今日も叔父さんは早目に帰宅してきた。
 夕食の後に新聞を広げながら寛ぐ叔父さんに、ふと声を掛けられた。

「あー、悠希が来てから、ゆっくりと話した事ってなかったな」

 まあ、確かにそうだ。
 ここに来た日の深夜から翌日にかけて事件が起こり、それからというもの、叔父さんはそれらの対応に追われ続けたのだったし。

「……」

 しかし。話を振ってきたのは叔父さんだが、どうやらあまりいい話題が見当たらないらしい。
 必死な顔で何か無いか、と探している。

「あー……そういや、どうだ、学校の方は?」

 そう問われ、少し考える。
 人間関係で大きな問題を抱えている訳ではないし、それ以外の事で不満を抱えているという事もない。
 それなり以上に親しい相手もそこそこいる。
 総括すれば、程好い学校生活を送っていると述べても問題は無い筈だ。

「楽しいですよ」

 それを聞くと、叔父さんはほっとした様に幾度か頷いた。

「そうか、……それは良かった。
 学生時代なんてのは、気付けばあっという間に終わっちまうもんだ。
 楽しめる時に、存分に楽しんでおけよ。
 ……後は、そうだな……。
 あー、友だちなんかは……。
 …………まあ、居るみたいだな、色々と」

 叔父さんはそう言って微かに難しい顔をする。

「お前の交遊関係にあれこれと口出しするつもりは無いが……。
 一応こっちはお前を預かっている身だ。
 ……俺の言いたい事は分かるか?」

「言いたい事があるのなら、言葉でハッキリとお願いします。
 それに一応、無闇に馬鹿なマネはするつもり無いです」

 そう返すと、叔父さんは不敵に笑った。

「はっ、……言うじゃねえか」

 だがな、と叔父さんは溜め息を吐く。

「何故か、事件の陰にお前がいる……。
 考えたくはないが、……事件が始まったのも、悠希がこの町に来たのと同じタイミングだ。
 小西早紀の件の時も、天城雪子の件の時も、お前は妙に関係者の周りをウロウロしてやがる。
 ……刑事の仕事ってのはな、まず始めに偶然って選択肢を消す事から始まる。
 これ以上、お前がこっちの領分に首を突っ込んでくるつもりなら、その時は……」

 その続きは、目を眠たそうに擦りながらやって来た菜々子ちゃんの声に遮られた。
 どうやら尋問口調になってしまっていた叔父さんが、まるで喧嘩している様に見えてしまったらしい。
 その誤解を解いて、眠たそうな菜々子ちゃんを寝かし付けた叔父さんは深く溜め息を吐いた。

「『お姉ちゃん』、か。
 あいつ、随分とお前が気になっているみたいだ。
 ……実際、悠希には感謝している。
 俺と菜々子だけでは、色々とどうしても不足が出てしまっていたからな……。
 食事しかり、家事に限らず他の色んな事にも。
 お前がいてくれて、助かってる。
 ……兎も角、危ないマネはするんじゃないぞ。
 お前が無事なら、それでいい。
 それ以上は望まれてもいないからな」

 叔父さんは純粋に心配してくれているのだろう。
 多少言葉選びが固いのは、あまりこの年代の人間と、刑事という立場以外で話す機会が無いからだろうと思われる。
 取り敢えず、その気持ちは伝わってきたのだから、それは有り難く受け取っておいた。





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