流れ行く日々
◆◆◆◆◆
【2011/04/24】
日中は一条たちと沖奈市まで出掛け、帰り際に立ち寄った店でかなり良い質のウスイエンドウを見付けて思わず衝動買いしてしまった。今晩は豆ご飯にしよう。
卓袱台の所で豆を剥いていると、菜々子ちゃんが手伝いたそうに見てきた。
剥きたいのかと訊ねてみると、笑顔で頷いたので1/4程の量を渡して剥いて貰う。
単純な作業の繰り返しではあるが、菜々子ちゃんにとっては存外楽しい作業であるらしく、真剣な顔をしながらも楽しんでいる様であった。
そして、丁度豆ご飯が炊き上がった頃合いに叔父さんが帰ってきた。
三人で食卓を囲っていると、「署の連中に訊いたんだが、悠希、お前演劇部に入ってるんだってな?」と叔父さんが訊ねてくる。
一体どういう事なのだろうか。
演劇部に入った覚えなどないのだが……。
「小道具の調達をしていたらしいが、幾ら模造品とは言え、街中で刃物を出すのは感心しないな。
普段なら笑い話で済ませるだろうが、あんな事件が起こっちまって署の奴等も気が立っているんだ。
場合によっちゃ補導しなきゃなんなくなるからな、今後は慎む様に。
分かったな?」
あぁ、あの時の話か。
……模造刀を振り回したのは、正確には花村なんだが……。
まぁそれを言った所で大した意味はない。
「はい、気を付けます」
そう返事をする傍らで、これは使えるんじゃないだろうかと思い始めていた。
今後彼方の世界を探索するにあたって、より良い武器が必要になるであろう事は明白だ。
が、それを調達する方法は置いておいて、それらを彼方の世界まで持ち込むのにも幾つもの壁がある。
人の目は最たる物だ。
人目に付かせない、というのが一番ではあるが、そうそう上手くいかない時だってあるだろう。
もし見咎められた時に、「演劇の小道具だ」という口実で押し切れるかもしれないのは有難い。
演劇部に所属する、というの一つの手だ。
確か演劇部は新入部員を募集していた筈。
役者……は無理でも小道具係程度ならなんとかなるんじゃないだろうか。
「そう言えば叔父さん。
ゴールデンウィークはどうするんですか?」
ゴールデンウィーク……というか、折角の長期休暇なのだ。
普段寂しい思いをさせてしまっている菜々子ちゃんへの、絶好の家族サービスする機会でもある。
無理に、とは勿論言えないが、それでも出来るなら菜々子ちゃんとの時間を取ってあげてほしいものだ。
「……四日と五日。
その二日なら、休みが取れそうだ」
「ほんと!?」
菜々子ちゃんは目を輝かせて立ち上がるが、不意に不安げに再度「ほんと?」と訊ねる。
そこには幾許かの疑心が混ざっていた。
「なんだ? 疑ってるのか?」
「だって、いつもダメだから……」
それを言われた叔父さんは、痛い所を突かれたかの様に苦い顔をした。
どうやら大いに心当たりがあるらしい。
「毎回って程でも無いだろ」
「だったら、みんなでどっか行きたい! ジュネスとか!」
普段色々と我慢してるであろう菜々子ちゃんの希望は、本当に細やかなものだった。
「まぁその、なんだ。
折角なんだし近場のジュネスじゃなくて、どっか遠めの所に出掛けるか?」
罪悪感の様なものが沸いたのかもしれない叔父さんがそう言うと。
「ほんと? りょこう?」
と菜々子ちゃんは微かに期待する目で叔父さんを見詰める。
普段我が儘らしい事はほぼ言わない菜々子ちゃんの、こんな目を無下に出来る様な強者ではなかった様で。
「あー……まぁ、たまには、旅行もいいかもな。
何処もメチャクチャ混むだろうけどな……」
叔父さんが頷いてみせると、菜々子ちゃんは休みが取れると聞いた時以上に顔を輝かせた。
「やったー、りょこう!」
あまり期待してなかった反動なのか、菜々子ちゃんのテンションは右肩上がりだ。
「悠希はどうだ、予定空いてるか?」
叔父さんに問われ、菜々子ちゃんからは期待に満ちた目で見詰められる。
そもそも逆らう気など毛頭無かったので、早々に白旗を上げた。
「私は大丈夫です」
「あのね、菜々子、おべんとう持って行きたい!」
「そっか。なら、頑張って美味しいお弁当作るね」
「やったー! おべんとう!!」
目をキラキラさせて見上げる菜々子ちゃんを、叔父さんは優しい目で見ている。
「りょこう、りょこう! たのしみだね!!」
目を輝かせる菜々子ちゃんに、微笑んで頷き返した。
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【2011/04/24】
日中は一条たちと沖奈市まで出掛け、帰り際に立ち寄った店でかなり良い質のウスイエンドウを見付けて思わず衝動買いしてしまった。今晩は豆ご飯にしよう。
卓袱台の所で豆を剥いていると、菜々子ちゃんが手伝いたそうに見てきた。
剥きたいのかと訊ねてみると、笑顔で頷いたので1/4程の量を渡して剥いて貰う。
単純な作業の繰り返しではあるが、菜々子ちゃんにとっては存外楽しい作業であるらしく、真剣な顔をしながらも楽しんでいる様であった。
そして、丁度豆ご飯が炊き上がった頃合いに叔父さんが帰ってきた。
三人で食卓を囲っていると、「署の連中に訊いたんだが、悠希、お前演劇部に入ってるんだってな?」と叔父さんが訊ねてくる。
一体どういう事なのだろうか。
演劇部に入った覚えなどないのだが……。
「小道具の調達をしていたらしいが、幾ら模造品とは言え、街中で刃物を出すのは感心しないな。
普段なら笑い話で済ませるだろうが、あんな事件が起こっちまって署の奴等も気が立っているんだ。
場合によっちゃ補導しなきゃなんなくなるからな、今後は慎む様に。
分かったな?」
あぁ、あの時の話か。
……模造刀を振り回したのは、正確には花村なんだが……。
まぁそれを言った所で大した意味はない。
「はい、気を付けます」
そう返事をする傍らで、これは使えるんじゃないだろうかと思い始めていた。
今後彼方の世界を探索するにあたって、より良い武器が必要になるであろう事は明白だ。
が、それを調達する方法は置いておいて、それらを彼方の世界まで持ち込むのにも幾つもの壁がある。
人の目は最たる物だ。
人目に付かせない、というのが一番ではあるが、そうそう上手くいかない時だってあるだろう。
もし見咎められた時に、「演劇の小道具だ」という口実で押し切れるかもしれないのは有難い。
演劇部に所属する、というの一つの手だ。
確か演劇部は新入部員を募集していた筈。
役者……は無理でも小道具係程度ならなんとかなるんじゃないだろうか。
「そう言えば叔父さん。
ゴールデンウィークはどうするんですか?」
ゴールデンウィーク……というか、折角の長期休暇なのだ。
普段寂しい思いをさせてしまっている菜々子ちゃんへの、絶好の家族サービスする機会でもある。
無理に、とは勿論言えないが、それでも出来るなら菜々子ちゃんとの時間を取ってあげてほしいものだ。
「……四日と五日。
その二日なら、休みが取れそうだ」
「ほんと!?」
菜々子ちゃんは目を輝かせて立ち上がるが、不意に不安げに再度「ほんと?」と訊ねる。
そこには幾許かの疑心が混ざっていた。
「なんだ? 疑ってるのか?」
「だって、いつもダメだから……」
それを言われた叔父さんは、痛い所を突かれたかの様に苦い顔をした。
どうやら大いに心当たりがあるらしい。
「毎回って程でも無いだろ」
「だったら、みんなでどっか行きたい! ジュネスとか!」
普段色々と我慢してるであろう菜々子ちゃんの希望は、本当に細やかなものだった。
「まぁその、なんだ。
折角なんだし近場のジュネスじゃなくて、どっか遠めの所に出掛けるか?」
罪悪感の様なものが沸いたのかもしれない叔父さんがそう言うと。
「ほんと? りょこう?」
と菜々子ちゃんは微かに期待する目で叔父さんを見詰める。
普段我が儘らしい事はほぼ言わない菜々子ちゃんの、こんな目を無下に出来る様な強者ではなかった様で。
「あー……まぁ、たまには、旅行もいいかもな。
何処もメチャクチャ混むだろうけどな……」
叔父さんが頷いてみせると、菜々子ちゃんは休みが取れると聞いた時以上に顔を輝かせた。
「やったー、りょこう!」
あまり期待してなかった反動なのか、菜々子ちゃんのテンションは右肩上がりだ。
「悠希はどうだ、予定空いてるか?」
叔父さんに問われ、菜々子ちゃんからは期待に満ちた目で見詰められる。
そもそも逆らう気など毛頭無かったので、早々に白旗を上げた。
「私は大丈夫です」
「あのね、菜々子、おべんとう持って行きたい!」
「そっか。なら、頑張って美味しいお弁当作るね」
「やったー! おべんとう!!」
目をキラキラさせて見上げる菜々子ちゃんを、叔父さんは優しい目で見ている。
「りょこう、りょこう! たのしみだね!!」
目を輝かせる菜々子ちゃんに、微笑んで頷き返した。
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