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未知への誘い

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 目を開けると、何故か全く見た覚えの無い場所に居た。

 はて……ここは何処だろう。
 視界に映る全てが蒼い。
 何と言うのか……高級車の車内の様な空間だ。
 サイドにはバーの様な備えまでもが付いている。
 フィクションの中でしかお目にかかる事が無さそうな……少なくとも実生活に於いて関わり合いになる事など無いだろう車だ。
 床が微かに振動している。
 ……移動しているのだろうか。
 ……何処へ向かっているのだろう? 

 ぼんやりとそう考えていると、ふと向かいに誰かが座っている事に気が付いた。

 鼻が妙に高いご老人と、思わず意識が引き込まれてしまいそうな……この蒼い空間に溶け込みそうな群青色の服を着た金髪の女性の二人だ。
 どちらも初対面だ。
 こんな特徴的な人達に会った事が有ったら、忘れるなんて有り得ないだろうから、間違いない。


 ……彼らは誰なんだろう。
 どうしてここにいるのだろう。
 と言うか、……何故自分はここに居るのだろう? 

 そう考えていると、唐突に老人が目を開けた。


「ようこそ、ベルベットルームへ」


《ベルベットルーム》? 
 それがこの場所の名前なのか? 
『ようこそ』と言うからには、この老人はここの主なのだろうか? 
 と言うか、『ようこそ』も何も、自分にはここに来た覚えが全く無いのだが……。

「ほう……これはまた、変わった定めをお持ちの方がいらした様だ……」

『定め』……? 
 あまり普段の会話では使わない様なその言葉に、微かに首を傾げる。

 ふむ……スピリチュアルな方面の方なのだろうか、このご老人は。
 ……正直、そういった方面の事はあまり信じてはいないので、何かし方の勧誘とかだったら全力でお断りしたいのだが。

「貴女のお名前をお伺いしてもよろしいですかな?」

 そんな事を考えていると、ご老人は柔らかな物腰でこちらに名前を尋ねてきた。
 まぁ名前だけなら良いか、と思い、普通に名乗る。

 名前を答えたからか、満足そうに微笑んだご老人は《イゴール》と名乗った。
 そして、この《ベルベットルーム》とやらが“夢と現実、精神と物質の狭間”にあるのだと述べる。
 それが抽象的な意味なのか、文字通りの意味なのかは分からないが……。
 ……電波ゆんゆんなのはちょっと困るな。

「本来は何らかの形で“契約”を果たされた方のみが訪れる部屋……。
 貴女には、近くそうした未来が待ち受けているのやもしれませんな」

 そう言ってイゴールさんは微笑みながら、「さて、占いは信用されますかな?」と訊ねてきた。

 占い……といっても、自分が精々目にした事があるのはテレビ番組の1コーナーでやってる星座占い程度だし、そもそも全く本気にしていない。
 自分の星座の順位が良かったら一寸嬉しい様な気がする程度だ。
 占いとは、自分の実生活に全く、これっぽっちも、関与していないものである。
 ただし、それはあくまでも極めて広範囲かつ不特定多数に向けられた内容など、気にした所でしょうがないからなので、もし本格的に誰かが態々占ってくれるのなら、多少は神妙にその結果を聴くだろう。
 だからと言ってそれを鵜呑みにするなど有り得ないが。

 まぁ結論的に、多少は意識の隅にでも留めるかもしれない、と言ったところか……。
 小さく頷くと、イゴールさんはフフッと微笑む。

「では、貴女の未来について、少し覗いてみると致しましょう」

 そう言ってイゴールさんが取り出したのはカード……所謂タロットカードと呼ばれるものだ。
 実際に使ったりした事は無いものだが、まぁ創作物とかの題材にもよく使われてるし、アバウトになら知っている。

 馴れた手付きでカードを操ったイゴールさんが一番最初に捲ったのは、雷に撃たれ崩壊する塔が描かれた《塔》のカードだった。
 タロットにはあまり詳しくはないのだが、確か《塔》はどう転んでも良い意味は無かった筈だ。
 というか、絵柄からしてロクな内容じゃないだろう。

「ほう……近い未来を示すのは“塔”の正位置。
 どうやら大きな災難を被られる様だ」

 そして次に示されたのは《月》のカードだ。

「“迷い”そして“謎”を示すカード……。
 ……実に興味深い。
 貴女はこれから向かう地にて災いを被り、大きな“謎”を解く事を課せられる様だ」

 そしてイゴールさんは告げる。
 もしその“謎”が解けなくては、未来は閉ざされるかもしれない、と。
 そしてその“謎”を解くための手助けをするのが、イゴールさん達の役目なのだと。

 金髪の女性が自らを《マーガレット》と名乗った後、急に視界が滲み意識は急に薄れていった。





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