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ギムルキ短編

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「心」など、所詮は泡沫の幻に過ぎない。
 少なくとも、ギムレーにとっては。

 か弱く脆い虫けらどもの「心」など、ギムレーの指先一つ意志一つで如何様にも壊し作り変えてしまえる。
 「心」などと言うモノに、それが産み出す「愛」やら「信念」やら「正義」やらに、賤しく縋らねば己の足で立つ事すら出来ぬ醜い生き物。
 自らが縋るそれが何時崩れるとも分からぬ脆く儚いモノである事を認めたくないと、虫けらどもは「心」を、そして「愛」や「正義」やらを絶対と掲げて互いに相食む様に殺し合う。
 彼等が縋るモノなど、ギムレーの吐息一つで消し飛ぶモノなのに。
 ギムレーが積み上げてきた屍の山が霞んで見える程の夥しい骸を連綿と築き上げて来たのだ。
「神」等と言う同じ幻想を信じながらその信じる先や解釈の違いを巡って、互いの身を滅ぼし。
「愛」等と言うただの執着を絶対として幾つもの争いが起き、その度に死を撒き散し。
「正義」等とこの世で最も不確かで愚かな思い込みに支配されて、虫けら自身が定めていた筈の道徳やら倫理やらを嘲笑う様な全ての悪行を成してきた。

 「心」を理解せず「信念」も持たず「正義」など知りもしないギムレーよりも余程、虫けらどもの方が邪悪で醜悪な生き物なのではないだろうか?
 ギムレーは時々そう考える。

 ギムレーには「心」の価値など分からぬ。
 理解したいと感じた事すらない。
 世界を平たく滅ぼす事以上にギムレーにとって意味ある事は存在しない。
 喜びも怒りも嘆きも絶望も、全てが等しく消え去った滅びの果て。
 それ以外は必要ないのだから。
 虫けらどもの絶望や嘆きは確かに一時この胸の乾きを満たすけれど。
 しかし、結局その後に訪れる耐え難い程の破壊衝動を鎮める程のモノではない。
 この世にある全てを滅ぼして、何もかもを破壊して。
 最早破壊出来るモノが無くなって初めて、ギムレーは安息を得られるのだ。

 しかし、ギムレーの力を以てしても虫けらどもを一息に根絶やしにし、全てを破壊するのは難しい。
 それを成し遂げる事は無論可能であるが、ギムレー程の力を持っていてもそれなりの時を必要とする。
 だから、それまでの僅かな時間、虫けら達の絶望でこの乾きを癒すのだ。



「「心」を縛られ、「魂」を縛られ。
 肉体は僕の操り人形でしかない。
 君が成せる事は最早何も無く。
 世界は確定事項としてただただ滅びる。
 君には、それをこの特等席で見せてあげよう。
 ほら、嬉しいだろう?」


 手にした鎖を引けば、『彼女』は従順な人形の様にギムレーの膝へ忠誠を示す様に頬を寄せる。
 ギムレーの力によって、知覚以外の全ての権限を封じられた「魂」がその「心」が苦痛の色に染まる。
 絶望と嘆きと怒りに染め上げられた悲鳴を、そしてその絶望の味を。
 極上の贄が供するそれらを心行くまで味わって、ギムレーは蕩ける様な笑みを浮かべながら『彼女』の耳元へと口を寄せる。


「君は最後まで死なない、死ねないよ。
 この世の全てが滅び生きるモノが死に絶えた死んだ世界で、僕が最後に殺す一人になるのだから。
 それまでは君はこの世界が滅び行くのを、君が守りたかった全てが無へと消えるのを、見ているしかない。
 狂ってしまえば楽になれるかもね……。
 でも、僕は君が狂う事も許さない。
 君は最後まで、君の「心」のままで、全てを見届けなくてはならないよ。
 ああ……楽しみだね、ルキナ。
 世界が滅びる時、君はどんな「絶望」を見せてくれるのだろう。
 その日が今から待ち遠しいよ」


 そのまま『彼女』の唇に口付けをする。

 ギムレーに「愛」は理解出来ない。
 だから、それは「愛」ではない。
「愛」である筈がない。

 だが、世界が滅びる瞬間を共に見届けるのならば。
 最後の最後まで共に存在する「命」として何かを選ぶのなら。
 それは『彼女』が良いと、再びこの世に蘇り目覚めた瞬間に決めていた。
 ギムレーが永遠の静寂の中で漸く本当の眠りに就くその直前まで、共に。


 それは、「愛」ではない。
 けれども──





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