ギムルキ短編
◇◇◇◇◇◇
「すまない、すまない……ルキナ……」
昏い昏い……まるで絶望の泥濘の中の様な、尽きぬ悲哀と退廃に満ちた檻の様な場所で。
『彼』は悲鳴の様に……謝罪の言葉を呟き続ける。
だが、その手を止める事は無い。
『彼』のその言葉に、その悔恨に、その後悔に、その絶望に、きっと偽りはないのだろうけれども。
きっともう後戻りも出来ぬ程に狂ってしまった『彼』は、止まれないのだろう。
「何処にも行かないでくれ……僕を独りにしないでくれ」
何処にも行くな、と『彼』は言うけれど。
そもそも、ここから逃げ出す為の足をルキナから奪ったのは『彼』自身だ。
もう二度と元には戻らない程に足の腱を傷付け、それですらまだ足りぬとばかりに足枷で戒め。
……「すまない」と、そう謝罪しながら、『彼』がそうしたのに。
それですら、きっと『彼』には足りぬのだろう。
「僕を憎んでくれ、赦さないでくれ。
君にはその権利があるし、そうするべきだろうから。
だけれど、何処にも……行かないでくれ……」
『彼』はもう、きっとルキナが愛していた“彼”からは【変質】してしまっているのだろう。
それでも。
歪んでしまっていても、壊れてしまっていても。
『彼』は“彼”だった存在だ。
だからこそ、何れ程憎悪しても赦せなくても。
それでも、ルキナの心の何処かには、憎しみ以外の感情が残り火の様に揺らめき続けてしまう。
「愛している、愛しているんだ……。
君を、君だけを……。
僕には、もう……君だけしか、君しかいない。
君しか、要らない。もう、何も望まない。
だからこそ、君だけは……」
『彼』の手が、そっとルキナの頬に触れる。
そしてその手は、つっ──とルキナの左目の目尻へと添えられた。
『彼』の紅い瞳が、苦悩に歪む。
狂ってしまって尚、それでも僅かに残された“彼”の心が悲鳴を上げているのだろう。
「分かっている。
こんな、こんなに変わり果ててしまった僕では、君の傍には居られない、と。
君を想うのならば、君をここから放すべきなのだと。
でも、僕は──」
邪竜ギムレーとして覚醒させられてしまった彼は、壊れ狂い、最早二度と元の“彼”には戻れない。
それでも、例え歪み果ててしまっているのだとしても。
ルキナの心を壊す事だけは無かったのは、きっとそこに確かに『愛』がある故なのだろう。
懇願にする様に自身を抱き締める……かつては誰よりも愛していた『彼』を。
ルキナもまた、静かに抱き締め返すのであった。
それはまるで。
終わりがない孤独の絶望に慟哭する邪竜に、寄り添うかの様であった。
◇◇◇◇◇◇
「すまない、すまない……ルキナ……」
昏い昏い……まるで絶望の泥濘の中の様な、尽きぬ悲哀と退廃に満ちた檻の様な場所で。
『彼』は悲鳴の様に……謝罪の言葉を呟き続ける。
だが、その手を止める事は無い。
『彼』のその言葉に、その悔恨に、その後悔に、その絶望に、きっと偽りはないのだろうけれども。
きっともう後戻りも出来ぬ程に狂ってしまった『彼』は、止まれないのだろう。
「何処にも行かないでくれ……僕を独りにしないでくれ」
何処にも行くな、と『彼』は言うけれど。
そもそも、ここから逃げ出す為の足をルキナから奪ったのは『彼』自身だ。
もう二度と元には戻らない程に足の腱を傷付け、それですらまだ足りぬとばかりに足枷で戒め。
……「すまない」と、そう謝罪しながら、『彼』がそうしたのに。
それですら、きっと『彼』には足りぬのだろう。
「僕を憎んでくれ、赦さないでくれ。
君にはその権利があるし、そうするべきだろうから。
だけれど、何処にも……行かないでくれ……」
『彼』はもう、きっとルキナが愛していた“彼”からは【変質】してしまっているのだろう。
それでも。
歪んでしまっていても、壊れてしまっていても。
『彼』は“彼”だった存在だ。
だからこそ、何れ程憎悪しても赦せなくても。
それでも、ルキナの心の何処かには、憎しみ以外の感情が残り火の様に揺らめき続けてしまう。
「愛している、愛しているんだ……。
君を、君だけを……。
僕には、もう……君だけしか、君しかいない。
君しか、要らない。もう、何も望まない。
だからこそ、君だけは……」
『彼』の手が、そっとルキナの頬に触れる。
そしてその手は、つっ──とルキナの左目の目尻へと添えられた。
『彼』の紅い瞳が、苦悩に歪む。
狂ってしまって尚、それでも僅かに残された“彼”の心が悲鳴を上げているのだろう。
「分かっている。
こんな、こんなに変わり果ててしまった僕では、君の傍には居られない、と。
君を想うのならば、君をここから放すべきなのだと。
でも、僕は──」
邪竜ギムレーとして覚醒させられてしまった彼は、壊れ狂い、最早二度と元の“彼”には戻れない。
それでも、例え歪み果ててしまっているのだとしても。
ルキナの心を壊す事だけは無かったのは、きっとそこに確かに『愛』がある故なのだろう。
懇願にする様に自身を抱き締める……かつては誰よりも愛していた『彼』を。
ルキナもまた、静かに抱き締め返すのであった。
それはまるで。
終わりがない孤独の絶望に慟哭する邪竜に、寄り添うかの様であった。
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