ギムルキ短編
◆◆◆◆
数多の伝承・神話に語られる神器などと讃えられた武具の数々。
それらは遥か昔に時の川の流れの中へと姿を消し、もう今となっては人々が語り継いできた物語の中にのみその姿を残すばかりであったが……。
「中々壮観だとは思わないかい?
如何なる神話や伝承の中であっても、ここまで『神器』とやらが一所に集まった事は無かっただろうね」
広い部屋の壁一面に飾られた武具の数々を……。
その何れもが神話に語られる人智を超えた力を持つ武器達を見回しながら、彼は『彼女』に語り掛ける。
だが、『彼女』からの返事は無い。
それに些か興を殺がれながらも、それも当然か、と彼は肩を竦めた。
丁重に飾られた神器達の中で一際異質であり、だがその何れよりも大切に大切に扱われている『彼女』。
豪奢な椅子に座らされ、決して逃げられぬ様に鎖で拘束された『彼女』には。
人とは思えぬ様な美しさが、そこに宿っていた。
だが。
そこに『彼女』の意識は無い。
彼の力によって深く深く眠りに就かされたその意識は、決して浮かび上がる事は無く。
故にこそ、この人形の様な扱いも甘んじて受けているのだ。
彼への敵意と恐怖と……そして何者にも負けぬ程の強い意志に輝いていたその瞳は、今は虚ろに彼を映すばかりで。
凜としていながらも隠しきれぬ恐怖に震えていたその声を、もう聴く事が出来ない。
……『彼女』をここに連れてくる為にはそうするしか無かったのだが。
どうしてか、『詰まらないな』と。
彼らしからぬ思いが沸き起こる。
そもそも。
人が竜や神などを討つ為に使ったとされた武具の数々に興味を抱き、それを収集する様になったのがこの部屋を作った始まりであるが。
あくまでも主目的は『神器』であり、その担い手ではないのだ。
現に、担い手までもをこの部屋に連れてきたのは、『彼女』が最初で最後であった。
彼らしからぬ行動に、彼自身ですら自分が何をしたいのかは分からなかった。
この部屋に飾った『彼女』の姿を彼は存外に気に入ったので、それは些事であるのだが。
「数多の異界をも渡りながら集めるのは中々大変だったんだけど……。
悪くはないね。
少なくとも、世界を滅ぼす片手間の暇潰し程度にはなったんだから」
ヒトが滅び去り後に残されるのは、彼等が争い続けてきたその歴史を見届けてきた『神器』だけ、と言うのも中々皮肉が利いている様で……。
彼は昏い笑みを浮かべる。
「ねえ、君はどう思う?
ニンゲンどもから『希望』とやらの何もかもを託された、最後の聖王は、何を想うんだい?」
返事など決して無いのだと分かりながらも、彼は『彼女』に語り掛けるのを止めない。
憎々しいナーガの眷族の末裔をこうやって自らの手に収めた事に、昏い喜びを感じて。
だけど、『彼女』の目が自分を映さない事に、『彼女』の声を聴けない事に、一抹の寂しさを感じて。
「……何時か、君以外のニンゲンを滅ぼし尽くしたその時は、君に心を返そう。
その時、君がどう絶望するのか……とても楽しみだな」
その時を思い浮かべて、彼は嗤う。
絶望に満ちた目に自分の姿が映る瞬間を、全て喪った事を知った『彼女』の悲哀と絶望に満ちた声を聴くその時を。
想像して……、とてもとても待ち遠しく感じた。
「その時を、楽しみにしているよ。
僕のルキナ……」
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数多の伝承・神話に語られる神器などと讃えられた武具の数々。
それらは遥か昔に時の川の流れの中へと姿を消し、もう今となっては人々が語り継いできた物語の中にのみその姿を残すばかりであったが……。
「中々壮観だとは思わないかい?
如何なる神話や伝承の中であっても、ここまで『神器』とやらが一所に集まった事は無かっただろうね」
広い部屋の壁一面に飾られた武具の数々を……。
その何れもが神話に語られる人智を超えた力を持つ武器達を見回しながら、彼は『彼女』に語り掛ける。
だが、『彼女』からの返事は無い。
それに些か興を殺がれながらも、それも当然か、と彼は肩を竦めた。
丁重に飾られた神器達の中で一際異質であり、だがその何れよりも大切に大切に扱われている『彼女』。
豪奢な椅子に座らされ、決して逃げられぬ様に鎖で拘束された『彼女』には。
人とは思えぬ様な美しさが、そこに宿っていた。
だが。
そこに『彼女』の意識は無い。
彼の力によって深く深く眠りに就かされたその意識は、決して浮かび上がる事は無く。
故にこそ、この人形の様な扱いも甘んじて受けているのだ。
彼への敵意と恐怖と……そして何者にも負けぬ程の強い意志に輝いていたその瞳は、今は虚ろに彼を映すばかりで。
凜としていながらも隠しきれぬ恐怖に震えていたその声を、もう聴く事が出来ない。
……『彼女』をここに連れてくる為にはそうするしか無かったのだが。
どうしてか、『詰まらないな』と。
彼らしからぬ思いが沸き起こる。
そもそも。
人が竜や神などを討つ為に使ったとされた武具の数々に興味を抱き、それを収集する様になったのがこの部屋を作った始まりであるが。
あくまでも主目的は『神器』であり、その担い手ではないのだ。
現に、担い手までもをこの部屋に連れてきたのは、『彼女』が最初で最後であった。
彼らしからぬ行動に、彼自身ですら自分が何をしたいのかは分からなかった。
この部屋に飾った『彼女』の姿を彼は存外に気に入ったので、それは些事であるのだが。
「数多の異界をも渡りながら集めるのは中々大変だったんだけど……。
悪くはないね。
少なくとも、世界を滅ぼす片手間の暇潰し程度にはなったんだから」
ヒトが滅び去り後に残されるのは、彼等が争い続けてきたその歴史を見届けてきた『神器』だけ、と言うのも中々皮肉が利いている様で……。
彼は昏い笑みを浮かべる。
「ねえ、君はどう思う?
ニンゲンどもから『希望』とやらの何もかもを託された、最後の聖王は、何を想うんだい?」
返事など決して無いのだと分かりながらも、彼は『彼女』に語り掛けるのを止めない。
憎々しいナーガの眷族の末裔をこうやって自らの手に収めた事に、昏い喜びを感じて。
だけど、『彼女』の目が自分を映さない事に、『彼女』の声を聴けない事に、一抹の寂しさを感じて。
「……何時か、君以外のニンゲンを滅ぼし尽くしたその時は、君に心を返そう。
その時、君がどう絶望するのか……とても楽しみだな」
その時を思い浮かべて、彼は嗤う。
絶望に満ちた目に自分の姿が映る瞬間を、全て喪った事を知った『彼女』の悲哀と絶望に満ちた声を聴くその時を。
想像して……、とてもとても待ち遠しく感じた。
「その時を、楽しみにしているよ。
僕のルキナ……」
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