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千夜一夜のアルファルド

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 少しずつルキナを知るにつれ、ギムレーの心には明確な変化が生じていた。
 それは、ある意味では『改心』とも言えるのかもしれない。
 しかしそれは、ルキナが望んでいた様なものとは全く違っていたのだが……。

 ギムレーはルキナに明確な“執着”を抱いた。
 ルキナを知りたいと言う想いは何処までも尽きる事はなく。
 ルキナが居る限り、ギムレーの心に最早『退屈』が訪れる事などなくて。
 何時までも何時までもルキナをその傍に止め置こうと思うようになった。
 ただそれはあくまでも“ルキナ”に対しての事であり、それ以外の人間に対しては寧ろより害意を剥き出す様になっていった。
 この世からルキナ以外の全ての人間が消え去れば、ルキナは否応なしにギムレーと共に居るしか無くなるだろう、と。

 “独占欲”にも似たその感情は、底無しの泥濘の様にルキナを絡め取ろうとしていた。
 ……当のルキナは、幸福な事なのかはさておき、それをまだ知らないのだが。

 執着のままに、ギムレーはルキナの全てを欲した。
 ルキナが語る彼女の過去の中で、ルキナが感じていた喜びすらをも、自らが与えるものとして欲する様になったのだ。
 ルキナが感じた怒りや嘆き、憎悪と言った感情は、そのほぼ全てがギムレーの所業が端を発するモノであり、詰まるところそれらはギムレーがルキナに与えた感情である。
 しかし、喜びなどはそうではない。
 それが、ギムレーとしてはどうしようもなく見逃せない事であった。
 だからこそ、ルキナへの贈り物を始めたのだ。
 ルキナを喜ばせたいと言えば聞こえは良いが、その根底にあるのは剰りにも強い執着である。

 もしギムレーのその心を覗ける者がここに居るのならば、そうやってギムレーを突き動かすその感情を“愛”だと言ったのかもしれない。
 しかし、“愛”された事の無いギムレーは“愛”を未だ知らなかった。
 だから、ルキナへと抱くその感情がそうであるとは思いもしない。


 最早世界はギムレーが何もせずとも滅ぶ。
 人は死に絶え、命あるモノは等しく滅び、世界に残るのはギムレーとルキナだけだ。
 だが、それで良い。それが良い。

 世界がとうに滅びた事を知らぬルキナと二人、何時までも何時までも“賭け”を続けよう。
 ギムレーの力を使えば、ルキナ一人程度なら永劫に近い時を生かし続ける事も可能なのだ。
 ギムレーが望みさえすれば、何時までも“楽しい”時間は終わりはしない。

 何時かは、ルキナも世界がとうに滅び去っている事に気付くのだろうか?
 気付きながらも無意識に目を反らすのだろうか?
 それとも、ギムレーへと憎しみの目を向けるのだろうか?
 或いは、全てに絶望するだろうか?

 それはその時にならなくては分からないが。
 どうなった所で、結局ルキナには既にギムレーしか居ないのだ。
 孤独には耐えられぬ人間である以上は、ルキナは何れ程の時間を要しようとも必ずや最後にはギムレーを選ぶだろう。



 ルキナの全てを手に入れる日が一日でも早く来る事を願いながら、ギムレーは今夜もまた“賭け”を楽しむのであった。







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