千夜一夜のアルファルド
◇◇◇◇◇
「これは……あまり参考にはならなさそうですね……」
一つ溜め息を吐いたルキナは読んでいた本を閉じ、それを本棚へと戻した。
何度目かの夜が過ぎた辺りから、剰りにも拙いルキナの語りに思う所でもあったのか、邪竜はルキナに図書館を与えていた。
それだけではなく、ルキナがあの部屋から出歩く自由もある程度は与えていて。
しかし、部屋から出歩ける様になったからと言って、ルキナが逃げ出せる様な隙は何処にも無かった。
だからこそ、ルキナは未だに虜囚の身のままだ。
邪竜の方からルキナに接触してくるのは、夜毎の“賭け”の時だけで。
それ以外の時間は邪竜はルキナの自由にさせていた。
毎日好きな時間に入浴をする自由が与えられているし、食事は食べる食べないに関わらず三食欠かさず運ばれてくる。
食事の内容も、世界が滅びに向かい始めてからルキナが口にしていたモノとは比較にもならない程にしっかりとしたモノであった。
邪竜の戯れでしかない事は分かっているが、腹が減っては戦は出来ぬとよく言うし、ちゃんと衣食住を保証してくれている事に関しては有り難くはある。
そして邪竜が戯れに与えている日中の自由な時間の殆どを、ルキナは与えられた図書館で過ごしていた。
かつてのイーリス王城にあった図書館にも引けを取らない程の蔵書を誇るその図書館には、世界各地の神話や民間伝承などの物語の本も納められていて。
そう言った知識に乏しかったルキナにとってはそれらの本はとても参考になるのだけれども、もしあの邪竜がここの蔵書に目を通していたのなら、ここにある本の内容に似たモノを語った所で意味は無いのだろうとも思う。
どうすれば良いのか、何を話せばあの邪竜の気を引けるのか、と。
そればかりを考えているのに、何一つとして良い考えが思い付かない。
……いや、そもそもの話、ルキナは邪竜について殆ど良く知らないのだ。
邪竜ギムレー。
千年前に初代聖王に討たれ、そして再び現代に甦り世界を滅ぼさんとする存在。
神竜ナーガとは相容れない存在。
……ルキナは、それ位しかあの邪竜について知らなかった。
敵として奴を討とうとしていた時はそれ以上の情報など必要無かったし、そもそもあの邪竜自身について知れる機会などほぼ無かったのだ。
だが今は、ルキナはあの邪竜を『改心』させなくてはならない。
ならば、あの邪竜の内面も知る必要があるのではないだろうか……?
邪竜について調べようと図書館中の書物を探し回ったが、驚く程にあの邪竜についての記述は存在しなかった。
千年以上前から確かに存在していた筈なのに。
ギムレー教に関する本を読み解いても、殆どと言って良い程にあの邪竜に関して何も書かれていないのだ。
どう言った“神”であるのかとは記載されていても、その人格の部分については何も触れられてはいない。
“千年前に現れて世界を破滅の淵に追いやり、初代聖王に討たれた。”と言うイーリスにも伝えられている以上の記述が、何処にも無かった。
いっそ不自然な程である。
しかし、あの邪竜を知る為の手掛かりすらも無いと言うのは、かなり厄介な事であった。
しかも、そうこうする内に窓の外の陽は傾き始めていて、“賭け”の時間まであまり猶予はない。
何時もの様に、何かの物語を語って聞かせるべきなのだろうか。
だが、そんな事を続けていても徒に時間が過ぎていくだけである。
ともすれば、戯れに飽きた邪竜が今夜でルキナを殺すかもしれないのだ。
何時までも期限があると考えているのは危険だ。
どうすれば……と焦るルキナの頭に、一つの無謀な賭けの様な……しかし、もしかしたら現状を少しでも打開出来るかもしれない案が閃いた。
その案を果たして実行して良いのだろうか……、と悩んでいる内に。
今宵の“賭け”の時間が訪れてしまったのであった。
◇◇◇◇◇
「これは……あまり参考にはならなさそうですね……」
一つ溜め息を吐いたルキナは読んでいた本を閉じ、それを本棚へと戻した。
何度目かの夜が過ぎた辺りから、剰りにも拙いルキナの語りに思う所でもあったのか、邪竜はルキナに図書館を与えていた。
それだけではなく、ルキナがあの部屋から出歩く自由もある程度は与えていて。
しかし、部屋から出歩ける様になったからと言って、ルキナが逃げ出せる様な隙は何処にも無かった。
だからこそ、ルキナは未だに虜囚の身のままだ。
邪竜の方からルキナに接触してくるのは、夜毎の“賭け”の時だけで。
それ以外の時間は邪竜はルキナの自由にさせていた。
毎日好きな時間に入浴をする自由が与えられているし、食事は食べる食べないに関わらず三食欠かさず運ばれてくる。
食事の内容も、世界が滅びに向かい始めてからルキナが口にしていたモノとは比較にもならない程にしっかりとしたモノであった。
邪竜の戯れでしかない事は分かっているが、腹が減っては戦は出来ぬとよく言うし、ちゃんと衣食住を保証してくれている事に関しては有り難くはある。
そして邪竜が戯れに与えている日中の自由な時間の殆どを、ルキナは与えられた図書館で過ごしていた。
かつてのイーリス王城にあった図書館にも引けを取らない程の蔵書を誇るその図書館には、世界各地の神話や民間伝承などの物語の本も納められていて。
そう言った知識に乏しかったルキナにとってはそれらの本はとても参考になるのだけれども、もしあの邪竜がここの蔵書に目を通していたのなら、ここにある本の内容に似たモノを語った所で意味は無いのだろうとも思う。
どうすれば良いのか、何を話せばあの邪竜の気を引けるのか、と。
そればかりを考えているのに、何一つとして良い考えが思い付かない。
……いや、そもそもの話、ルキナは邪竜について殆ど良く知らないのだ。
邪竜ギムレー。
千年前に初代聖王に討たれ、そして再び現代に甦り世界を滅ぼさんとする存在。
神竜ナーガとは相容れない存在。
……ルキナは、それ位しかあの邪竜について知らなかった。
敵として奴を討とうとしていた時はそれ以上の情報など必要無かったし、そもそもあの邪竜自身について知れる機会などほぼ無かったのだ。
だが今は、ルキナはあの邪竜を『改心』させなくてはならない。
ならば、あの邪竜の内面も知る必要があるのではないだろうか……?
邪竜について調べようと図書館中の書物を探し回ったが、驚く程にあの邪竜についての記述は存在しなかった。
千年以上前から確かに存在していた筈なのに。
ギムレー教に関する本を読み解いても、殆どと言って良い程にあの邪竜に関して何も書かれていないのだ。
どう言った“神”であるのかとは記載されていても、その人格の部分については何も触れられてはいない。
“千年前に現れて世界を破滅の淵に追いやり、初代聖王に討たれた。”と言うイーリスにも伝えられている以上の記述が、何処にも無かった。
いっそ不自然な程である。
しかし、あの邪竜を知る為の手掛かりすらも無いと言うのは、かなり厄介な事であった。
しかも、そうこうする内に窓の外の陽は傾き始めていて、“賭け”の時間まであまり猶予はない。
何時もの様に、何かの物語を語って聞かせるべきなのだろうか。
だが、そんな事を続けていても徒に時間が過ぎていくだけである。
ともすれば、戯れに飽きた邪竜が今夜でルキナを殺すかもしれないのだ。
何時までも期限があると考えているのは危険だ。
どうすれば……と焦るルキナの頭に、一つの無謀な賭けの様な……しかし、もしかしたら現状を少しでも打開出来るかもしれない案が閃いた。
その案を果たして実行して良いのだろうか……、と悩んでいる内に。
今宵の“賭け”の時間が訪れてしまったのであった。
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