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千夜一夜のアルファルド

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 神話や伝承、数々の英雄譚、お伽噺……。
 ルキナが知っている物語とは、結局幼い頃に読み聞かされてきたそれらの範疇を出る事は無い。
 小説などを読むよりも剣を手に取り稽古を付ける事ばかりを優先していたのだから当然か……。
 ウードやシンシアの様に、新しく物語を考える才など無いのだ。
 だから、何処かで聞いた様な物語ばかりを語ってしまう。
 それは不味い、と思いながらもそれしか方法がなくて。
 だがやはり、そんな物語では邪竜の気を惹く事すら出来ないのであった。

 ルキナが語り終えた後に、詰まらないとは言わないものの、それでも興味なんて抱いてなさそうで。
 詰まらないと言ってルキナを殺さないのは、諦めずに足掻くその姿を見て楽しむ為なのだろう……とルキナは分かっていた。
 が、それはあくまでもルキナが諦めず足掻き続けているからこそだ。
 “賭け”の最中に少しでも諦めを抱いてしまえば、直ぐ様邪竜はルキナを殺すだろう。

 だからこそ、生きて可能性を少しでも繋げる為に。
 ルキナは、諦める訳にはいかなかった。
 だが、こうやってズルズルと話を続けていてもやはり意味はない。
 意味はないと思ってて語る物語など、詰まらないし、それ以上にそれはルキナの心を疲弊させて行く。

 だが、どうすれば良いのか……。
 ルキナには、分からなかった。

 一回の物語で邪竜を『改心』させる事など不可能だ、とルキナは悟って。
 何よりも先ず優先しないといけないのは、ルキナが語る物語に邪竜の気を惹く事であった。
 気を惹けさえすれば、『改心』させられる可能性は少なくとも上がる、筈である。
 しかし、語る才能の無いルキナは、それを手探りで探すしかない。
 邪竜の気を惹ける話題や物語を見付け出せるか、或いはルキナの心に諦めが忍び寄った所を飽きられて殺されるか……。
 そのどちらが早いか、の問題になっていた。

 今夜もまた、ルキナは一つの物語を語り終える。
 遠い昔に聞いた昔話をアレンジしたそれは、やはり邪竜の興味は惹けなくて。


「まあ、最初に比べれば、語り方はマシにはなっているんじゃない?
 でも、やっぱり今夜の物語も、僕は何にも感じなかったな。
 早く僕を『改心』させないと、世界が滅んじゃうよ?
 ほらほら、それが嫌ならもっと頑張らないとね。
 じゃあ、明日の夜に、また」


 何時もの様にそう言い残して、邪竜は部屋を立ち去るのであった。





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