時の輪環、砂塵の城
◇◇◇◇◇
甦ったギムレーによって滅び行こうとしている“絶望の未来”を変える為、私は過去へと跳んだ。
聖王エメリナの暗殺の阻止に始まり、“絶望の未来”に繋がったと思われる要所要所の出来事に最低限の介入をしつつ、私は“今”を変えていった。
……結局、聖王エメリナは戦後間も無くして病に倒れ、不帰の人となってしまったのだが……。
……それでも、私が介入して変わった彼女の未来に、意味はあったのだと……そう信じたい。
そして、エメリナの生死が変わったからなのか、私が知っているよりも早くにペレジアとの戦争は終結し、次にヴァルム帝国との戦争が始まるまでにかなりの猶予が生まれた。
これで何処まで未来が変わるのかは分からないが、泥沼の戦争の果てに両国が疲弊しきった所でギムレーが甦る“未来”からは少しでも遠くなったのではないだろうか……。
そうやって、“今”を変える事には概ね成功し、私が知っている“過去”よりも大分状況は改善されていた。
だが、そうやってまた新たに“今”に介入するタイミングを伺っているその最中。
私は、酷く気掛かりな噂話を聞いてしまった。
【怪物】が、出ると言うのだ。
その【怪物】は、主にギムレー教団の者を標的として、様々な土地で殺戮を繰り返しているらしい。
“主に”と言った様に、ギムレー教団以外にもかなりの犠牲者が出ている。
犠牲者はとてもではないが人の手によって死んだとは思えない程の凄惨な姿で見付かるのだと言う。
その姿を見掛けた者は誰一人として生き残っていないから、噂が憶測を呼び、恐ろしい異形の【怪物】が人々を殺して回っているのだと……ペレジアのみならず各地の人々の口に上る様になっていった。
私は……そんな【怪物】の話など、かつて聞いた事は無かった。
ここまで噂になっていれば、それが幼い頃だとしても一度は耳に入っていた筈なのに……。
私が“過去”に来てしまったから、“何か”が変わってしまったのだろうか。
そして、もしその【怪物】が……私の予期しない方向へと未来を動かしてしまったら、私は“絶望の未来”を変えると言うこの使命を果たす事が出来るのであろうか……。
悩みに悩んだ結果、私は“過去”の父と合流した。
“過去”の人と深く接触して未来を変えてしまうリスクよりも、“何か”が起きた時に直ぐ様対処出来るメリットを選んだのだ。
そして、父とその仲間達と行動を共にする事になって暫くして。
ヴァルム帝国との戦争の為に渡ったヴァルム大陸で、そこで神竜の巫女として祀られている悠久の時を生きている神竜族チキと出逢い、驚愕の事実を知らされた。
『ギムレー』が、既にこの世界に居る、と。
と、それは言っても千年前に封じられたギムレーではない。
その『ギムレー』は、こことは別の時間からやって来た……恐らくは私が居たあの“未来”からやって来たギムレーであるのだと言う。
何故、あの『ギムレー』が“過去”にやって来たのか……それは分からない。
私を追ってきたのかもしれないし、更なる破壊を求めているのかもしれない。
ただ……何故か“過去”へとやって来たその『ギムレー』は、世界を滅ぼそうと暴威を奮っている訳ではない様だ。
各地で殺戮を繰り返して【怪物】と呼ばれているとは言え……あの“未来”で彼の邪竜が成した破壊に比べれば児戯にも等しい。
ただ、だからと言ってその脅威が薄れたと言う訳ではない。
各地で殺戮を繰り返しているのは、魂を喰らって力を蓄える為であるのかもしれないからだ。
ギムレー教団の者達が標的になっているのは些か腑に落ちないが、元々ギムレーに身を捧げる事を至上の誉れとする様な狂信者達だ。
ギムレー教団の者達が自ら『ギムレー』へとその身も魂も捧げている可能性も高い。
『ギムレー』が既にこの世界に居ると言うのなら、最早一刻の猶予も無かった。
ヴァルム帝国との戦争を終結させるなり、私達は各地に散らばっていた宝玉を託され、“炎の紋章”を完成させた。
そして、“覚醒の儀”を執り行い、ファルシオンを完成させたのだ。
その頃には既に、『ギムレー』を討たんと挑んだ様々な者達が数多く殺されるなど、『ギムレー』による被害は到底無視出来ない程にまで膨れ上がっていて。
何時またあの“絶望の未来”の様な滅びをもたらすのか、それは最早時間の問題と言っても良い程にまで事態は切迫していた。
最早一刻の猶予も無いと、私達は『ギムレー』を討つ為の討伐隊を組織し、『ギムレー』を捜索し始めた。
あの邪竜の巨体は隠してあるのか、『ギムレー』の行方は中々掴む事が出来ず、時折『ギムレー』による被害だとされる惨殺死体が発見されるも、中々その足取りを掴む事は出来ず、先回りする事も出来ないままであった。
そんな中、私達はある奇妙な旅人の話を聞いた。
“誰か”を探している様子で、ふらりふらりと村や街を訪れては、いつの間にか去っている。
しかし、その旅人が村や街を訪れると、その前後でその近くに【怪物】による被害者が発見されるのだ。
父の軍師であり、私の恋人であるルフレさんと似た……と言うよりも同じローブを纏っているらしいその旅人は、何時しか行商人などの噂話を通じて【死神】と呼ばれる様になったらしい。
その【死神】と呼ばれる旅人と、【怪物】……もとい『ギムレー』は、同じ存在なのではないだろうか?
そう考えた私達は、その旅人の足取りを追う事にした。
そして、終に見付けたのだ。
ルフレさんと、紅い眼を除けばそっくり同じ顔をした、『ギムレー』の姿を。
だが……やっと対峙した『ギムレー』は、何故か酷く驚いた様な顔をして、私を見詰めているのであった。
◇◇◇◇◇
甦ったギムレーによって滅び行こうとしている“絶望の未来”を変える為、私は過去へと跳んだ。
聖王エメリナの暗殺の阻止に始まり、“絶望の未来”に繋がったと思われる要所要所の出来事に最低限の介入をしつつ、私は“今”を変えていった。
……結局、聖王エメリナは戦後間も無くして病に倒れ、不帰の人となってしまったのだが……。
……それでも、私が介入して変わった彼女の未来に、意味はあったのだと……そう信じたい。
そして、エメリナの生死が変わったからなのか、私が知っているよりも早くにペレジアとの戦争は終結し、次にヴァルム帝国との戦争が始まるまでにかなりの猶予が生まれた。
これで何処まで未来が変わるのかは分からないが、泥沼の戦争の果てに両国が疲弊しきった所でギムレーが甦る“未来”からは少しでも遠くなったのではないだろうか……。
そうやって、“今”を変える事には概ね成功し、私が知っている“過去”よりも大分状況は改善されていた。
だが、そうやってまた新たに“今”に介入するタイミングを伺っているその最中。
私は、酷く気掛かりな噂話を聞いてしまった。
【怪物】が、出ると言うのだ。
その【怪物】は、主にギムレー教団の者を標的として、様々な土地で殺戮を繰り返しているらしい。
“主に”と言った様に、ギムレー教団以外にもかなりの犠牲者が出ている。
犠牲者はとてもではないが人の手によって死んだとは思えない程の凄惨な姿で見付かるのだと言う。
その姿を見掛けた者は誰一人として生き残っていないから、噂が憶測を呼び、恐ろしい異形の【怪物】が人々を殺して回っているのだと……ペレジアのみならず各地の人々の口に上る様になっていった。
私は……そんな【怪物】の話など、かつて聞いた事は無かった。
ここまで噂になっていれば、それが幼い頃だとしても一度は耳に入っていた筈なのに……。
私が“過去”に来てしまったから、“何か”が変わってしまったのだろうか。
そして、もしその【怪物】が……私の予期しない方向へと未来を動かしてしまったら、私は“絶望の未来”を変えると言うこの使命を果たす事が出来るのであろうか……。
悩みに悩んだ結果、私は“過去”の父と合流した。
“過去”の人と深く接触して未来を変えてしまうリスクよりも、“何か”が起きた時に直ぐ様対処出来るメリットを選んだのだ。
そして、父とその仲間達と行動を共にする事になって暫くして。
ヴァルム帝国との戦争の為に渡ったヴァルム大陸で、そこで神竜の巫女として祀られている悠久の時を生きている神竜族チキと出逢い、驚愕の事実を知らされた。
『ギムレー』が、既にこの世界に居る、と。
と、それは言っても千年前に封じられたギムレーではない。
その『ギムレー』は、こことは別の時間からやって来た……恐らくは私が居たあの“未来”からやって来たギムレーであるのだと言う。
何故、あの『ギムレー』が“過去”にやって来たのか……それは分からない。
私を追ってきたのかもしれないし、更なる破壊を求めているのかもしれない。
ただ……何故か“過去”へとやって来たその『ギムレー』は、世界を滅ぼそうと暴威を奮っている訳ではない様だ。
各地で殺戮を繰り返して【怪物】と呼ばれているとは言え……あの“未来”で彼の邪竜が成した破壊に比べれば児戯にも等しい。
ただ、だからと言ってその脅威が薄れたと言う訳ではない。
各地で殺戮を繰り返しているのは、魂を喰らって力を蓄える為であるのかもしれないからだ。
ギムレー教団の者達が標的になっているのは些か腑に落ちないが、元々ギムレーに身を捧げる事を至上の誉れとする様な狂信者達だ。
ギムレー教団の者達が自ら『ギムレー』へとその身も魂も捧げている可能性も高い。
『ギムレー』が既にこの世界に居ると言うのなら、最早一刻の猶予も無かった。
ヴァルム帝国との戦争を終結させるなり、私達は各地に散らばっていた宝玉を託され、“炎の紋章”を完成させた。
そして、“覚醒の儀”を執り行い、ファルシオンを完成させたのだ。
その頃には既に、『ギムレー』を討たんと挑んだ様々な者達が数多く殺されるなど、『ギムレー』による被害は到底無視出来ない程にまで膨れ上がっていて。
何時またあの“絶望の未来”の様な滅びをもたらすのか、それは最早時間の問題と言っても良い程にまで事態は切迫していた。
最早一刻の猶予も無いと、私達は『ギムレー』を討つ為の討伐隊を組織し、『ギムレー』を捜索し始めた。
あの邪竜の巨体は隠してあるのか、『ギムレー』の行方は中々掴む事が出来ず、時折『ギムレー』による被害だとされる惨殺死体が発見されるも、中々その足取りを掴む事は出来ず、先回りする事も出来ないままであった。
そんな中、私達はある奇妙な旅人の話を聞いた。
“誰か”を探している様子で、ふらりふらりと村や街を訪れては、いつの間にか去っている。
しかし、その旅人が村や街を訪れると、その前後でその近くに【怪物】による被害者が発見されるのだ。
父の軍師であり、私の恋人であるルフレさんと似た……と言うよりも同じローブを纏っているらしいその旅人は、何時しか行商人などの噂話を通じて【死神】と呼ばれる様になったらしい。
その【死神】と呼ばれる旅人と、【怪物】……もとい『ギムレー』は、同じ存在なのではないだろうか?
そう考えた私達は、その旅人の足取りを追う事にした。
そして、終に見付けたのだ。
ルフレさんと、紅い眼を除けばそっくり同じ顔をした、『ギムレー』の姿を。
だが……やっと対峙した『ギムレー』は、何故か酷く驚いた様な顔をして、私を見詰めているのであった。
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