時の輪環、砂塵の城
◆◆◆◆◆
しかし、何れ程探しても、“未来”の『ギムレー』の姿もルキナの姿も見えなかった。
いつの間にか始まっていた戦争は詳しくは知らないがペレジアの敗北に終わっていたらしく、それ故にか『ギムレー』に縋ろうとするペレジアの民は更に増えた様な気がする。
『僕』としては彼等は別にどうでも良いのだが、万が一にも『ギムレー』を甦らせようなどと動きを見せれば、躊躇なく排除する事が出来るだろう。
数多のギムレー教団員の骸を積み上げながら、『僕』は『ギムレー』を探し続けた。
幾ら『ギムレー』にとっては信徒だろうと何だろうと有象無象の虫けらに過ぎないのだとしても、自分の中の手駒を潰されていくのをただ黙っている筈も無いと思ったのだけれども。
しかし、『ギムレー』は一向に『僕』の前に姿を見せる事は無かった。
早くルキナを『ギムレー』の魔の手から助けなくてはならないのに……。
ギムレー教団から放たれているのであろう羽虫の様な追っ手を一々潰さなくてはならないのも面倒である。
『僕』には、そんなものに関わっている暇なんて無いのに……。
ルキナ、『僕』の大切な宝物。
一体君は何処に居るのだろう。
直ぐに助けに行くよ、だから『僕』を呼んで。
愛しいその声で、“昔”の様に『僕』の名前を。
何処に居ても、時間を飛び越えてだって直ぐに飛んでいくよ。
君を苦しめる全ては、『僕』が滅ぼしてあげる。
君の望みは、何だって叶えてあげる。
謳う様に、何処に居るのかも分からない愛しい人へと何度だって愛を囁く。
だけれども、『ギムレー』に囚われているあの子にその声が届く筈なんてなくて、返事が返ってくる事もない。
だから。
もうあの子の温もりなんて幻としてすらも残っていない指先に、確かに交わした約束を抱き締めて。
守ると誓ったその言葉を、その想いを、決して喪わない様に。
『僕』は決して諦めずにルキナを探し続けていた。
千を越える夜を越えて、ペレジアを越えて様々な国を大陸をも、『僕』は『ギムレー』とルキナの姿を求めて探し回った。
このところ、行く先々で『僕』を襲おうとする人が増えた気がする。
ギムレー教団の者達も必死なのだろう。
このまま『僕』が彼等を排除し続けていれば、『ギムレー』の復活と言う彼等の宿願を果たせなくなるのだから。
この国にやって来てから幾度目とも分からない襲撃者達を骸に変えて、『僕』は無意識に溜め息を吐いた。
……一体幾千幾万の屍を積み上げれば、『僕』は“未来”を変えられるのだろう。
ルキナを、“取り戻せる”のだろう。
守ってあげなくてはならないのに。
あの子は、『僕』に遺されたたった一つの宝物なのに。
いっそ世界を平らかにしてしまえば、あの子を見付けられるのだろうか。
そうすれば、“もう一度”あの子を抱き締めてあげられるのだろうか。
一体何れ程の祈りを重ねれば、『僕』はもう一度あの温かな場所に帰れるのだろうか。
……『僕』はただ、『ギムレー』に奪われた“全て”を取り戻したいだけなのに……。
それすらも赦さないと言うのなら、こんな世界──
「…………」
一瞬『僕』の頭を過ったその考えを、『僕』はそれ以上は考えない様にと振り払う。
この世界は、愛しいルキナが生きる世界だ。
守らなくてはならない。
そう、『僕』はルキナが“幸せ”に生きられる世界を守るのだ。
『僕』は『 』じゃない。
『僕』は、世界を滅ぼしたりなんて……。
きっと、襲撃者達を排除したばかりだから、こんなにも荒々しい考えになってしまうのだろう。
ギムレー教団の者達を殺した直後は、どうにも破壊的な思考に寄ってしまいがちになる。
かつての僕もそうだったのだろうか……?
曖昧な記憶の中に、その答えはない。
気を鎮める為に、『僕』は久方ぶりに立ち止まって天を仰いだ。
地平線の向こうへと傾き始めた陽の光は、大地を血で染めた様な赤に彩っていく。
黄昏時が近付く頃合いの涼やかさを含んだ風が、血の臭いを吹き散らしていった。
大丈夫。
『僕』は間違えない。
“やり直す”、“やり直せる”筈だ。
だから──
その時。
再び『僕』の周りを取り囲む者達が現れた。
何時になく大人数で、しっかりとした武装に身を包んでいる。
しかしこの程度、『僕』とっては如何程でも無い。
何時もの様に、殺せば終わりだ。
だが。
「そこまでだよ」
聞き覚えがある様な、何処か緊張した硬い声がその場に響き。
襲撃者達の輪へ割って入る様に、見覚えがある……『僕』が身に纏うそれと同じローブを纏った男が現れた。
そして、その後ろには──
「っ! ルキナ……!!」
誰よりも愛しい『僕』の宝物が。
『ギムレー』に囚われている筈の、愛しいあの子が。
そこに、居た。
◇◇◇◇◇
しかし、何れ程探しても、“未来”の『ギムレー』の姿もルキナの姿も見えなかった。
いつの間にか始まっていた戦争は詳しくは知らないがペレジアの敗北に終わっていたらしく、それ故にか『ギムレー』に縋ろうとするペレジアの民は更に増えた様な気がする。
『僕』としては彼等は別にどうでも良いのだが、万が一にも『ギムレー』を甦らせようなどと動きを見せれば、躊躇なく排除する事が出来るだろう。
数多のギムレー教団員の骸を積み上げながら、『僕』は『ギムレー』を探し続けた。
幾ら『ギムレー』にとっては信徒だろうと何だろうと有象無象の虫けらに過ぎないのだとしても、自分の中の手駒を潰されていくのをただ黙っている筈も無いと思ったのだけれども。
しかし、『ギムレー』は一向に『僕』の前に姿を見せる事は無かった。
早くルキナを『ギムレー』の魔の手から助けなくてはならないのに……。
ギムレー教団から放たれているのであろう羽虫の様な追っ手を一々潰さなくてはならないのも面倒である。
『僕』には、そんなものに関わっている暇なんて無いのに……。
ルキナ、『僕』の大切な宝物。
一体君は何処に居るのだろう。
直ぐに助けに行くよ、だから『僕』を呼んで。
愛しいその声で、“昔”の様に『僕』の名前を。
何処に居ても、時間を飛び越えてだって直ぐに飛んでいくよ。
君を苦しめる全ては、『僕』が滅ぼしてあげる。
君の望みは、何だって叶えてあげる。
謳う様に、何処に居るのかも分からない愛しい人へと何度だって愛を囁く。
だけれども、『ギムレー』に囚われているあの子にその声が届く筈なんてなくて、返事が返ってくる事もない。
だから。
もうあの子の温もりなんて幻としてすらも残っていない指先に、確かに交わした約束を抱き締めて。
守ると誓ったその言葉を、その想いを、決して喪わない様に。
『僕』は決して諦めずにルキナを探し続けていた。
千を越える夜を越えて、ペレジアを越えて様々な国を大陸をも、『僕』は『ギムレー』とルキナの姿を求めて探し回った。
このところ、行く先々で『僕』を襲おうとする人が増えた気がする。
ギムレー教団の者達も必死なのだろう。
このまま『僕』が彼等を排除し続けていれば、『ギムレー』の復活と言う彼等の宿願を果たせなくなるのだから。
この国にやって来てから幾度目とも分からない襲撃者達を骸に変えて、『僕』は無意識に溜め息を吐いた。
……一体幾千幾万の屍を積み上げれば、『僕』は“未来”を変えられるのだろう。
ルキナを、“取り戻せる”のだろう。
守ってあげなくてはならないのに。
あの子は、『僕』に遺されたたった一つの宝物なのに。
いっそ世界を平らかにしてしまえば、あの子を見付けられるのだろうか。
そうすれば、“もう一度”あの子を抱き締めてあげられるのだろうか。
一体何れ程の祈りを重ねれば、『僕』はもう一度あの温かな場所に帰れるのだろうか。
……『僕』はただ、『ギムレー』に奪われた“全て”を取り戻したいだけなのに……。
それすらも赦さないと言うのなら、こんな世界──
「…………」
一瞬『僕』の頭を過ったその考えを、『僕』はそれ以上は考えない様にと振り払う。
この世界は、愛しいルキナが生きる世界だ。
守らなくてはならない。
そう、『僕』はルキナが“幸せ”に生きられる世界を守るのだ。
『僕』は『 』じゃない。
『僕』は、世界を滅ぼしたりなんて……。
きっと、襲撃者達を排除したばかりだから、こんなにも荒々しい考えになってしまうのだろう。
ギムレー教団の者達を殺した直後は、どうにも破壊的な思考に寄ってしまいがちになる。
かつての僕もそうだったのだろうか……?
曖昧な記憶の中に、その答えはない。
気を鎮める為に、『僕』は久方ぶりに立ち止まって天を仰いだ。
地平線の向こうへと傾き始めた陽の光は、大地を血で染めた様な赤に彩っていく。
黄昏時が近付く頃合いの涼やかさを含んだ風が、血の臭いを吹き散らしていった。
大丈夫。
『僕』は間違えない。
“やり直す”、“やり直せる”筈だ。
だから──
その時。
再び『僕』の周りを取り囲む者達が現れた。
何時になく大人数で、しっかりとした武装に身を包んでいる。
しかしこの程度、『僕』とっては如何程でも無い。
何時もの様に、殺せば終わりだ。
だが。
「そこまでだよ」
聞き覚えがある様な、何処か緊張した硬い声がその場に響き。
襲撃者達の輪へ割って入る様に、見覚えがある……『僕』が身に纏うそれと同じローブを纏った男が現れた。
そして、その後ろには──
「っ! ルキナ……!!」
誰よりも愛しい『僕』の宝物が。
『ギムレー』に囚われている筈の、愛しいあの子が。
そこに、居た。
◇◇◇◇◇