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時の輪環、砂塵の城

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 もう何十人目なのかは分からないギムレー教団員だった男の燃え滓を踏み越えて、『僕』はギムレー教団が秘密裏に隠していた生け贄を捧げる為の祭壇の一つを、二度と使えない様に徹底的に破壊する。
 既に何度もやってきたが故に、最早作業の様なモノだ。
 そこには何の感情も伴いはしない。

 どうやら、ギムレー教団はペレジア国内の至る所に『ギムレー』に生け贄を捧げたりする為の祭壇を設けているらしい。
 潰した祭壇は既に10は下らない筈なのだけれど、それはほんの一部にしか過ぎないのだろう。
 祭壇に居る連中は、ギムレー教団の信徒であるから遠慮は要らない。
 元より『ギムレー』の為だと嘯いて、何の罪もない者達を生け贄とする様な連中なのだ。
 居なくなった方が、一般のペレジアの民にとっても有り難いだろう。
 燃え尽きる最後まで『ギムレー』に縋るその姿はいっそ滑稽にすら思えるけれど、それはそれで筋金入りの信仰心とも言えるのかもしれない。

 嗅ぎ慣れた血の臭いと肉が燃える臭いが充満する屠殺場を後にし、次の目的地を探す。
 また何処かの祭壇を破壊するのも良いけれど、折角だからギムレー教団が孤児を使って呪術の実験をしていると言う施設でも潰しておくか……。


 ペレジアの街に出ると、何処もかしこも妙に物々しい。
 どうやら、大きな戦争が起きようとしているそうなのだ。
『ギムレー』が甦ろうとしている今、人と人同士で相争っている暇なんて無いだろうに……。
 まあ、多くの人々は、『ギムレー』を甦らせようなんてしている動きがある事には気付いていないだろうから仕方ないだろうけれども。

 ……かつての時も同じく戦争が起きていたのだろうか?
 どうにも曖昧な記憶の中、確かに僕は何かと戦っていた気がするが……一体それが何を相手にしていたのかは分からない。
 ペレジアが戦争を仕掛けようとしている国は……何だっただろうか。
 聞いた事があると思うのだけれど、どうにもそれは記憶の中ではボヤけてしまっているのだ。

 まあ、分からないモノは気にしていても仕方がない。
 今大切な事は、『ギムレー』の復活を“無かった事”にする事なのだから。
 そして、大切なルキナを助け出す事なのだから。
 それ以外に大事な事なんて、ありはしない。


 ……しかし、どうにも気にかかる事があるのだ。
 ギムレー教団の連中は、誰も彼もが死ぬ間際に「お許し下さい、ギムレー様」やら「ギムレー様、お怒りをお鎮め下さい」やら「お慈悲を……」などと縋ろうとしてくるのだ。
 命乞いにしては、どうにも奇妙な気がする。

 ……まさかとは思うが、『ギムレー』が、この世界に既に居るのだろうか?
 復活はまだ先の事である筈だけれども。
 ああ、でも、もしかして。
『僕』が時を“巻き戻して”ここに居る様に、あの“未来”に居た『ギムレー』もまた、時を飛び越えてここにやって来ているのだとすれば……。
 それは有り得ない事ではない筈だ。
 何故なら、時を越える事が出来るのは、『僕』自身がその身を以て証明しているのだから。

『ギムレー』がその身を潜めている理由はまだ分からない。
 何かの時期を待っているのかもしれないし、何か別の理由があるのかもしれない。
 何にせよ、もしあの“未来”に居た『ギムレー』がこの世界に居るのなら、殺さなくてはならない。
 そして、奪われたルキナを“取り戻す”のだ。
 あの“未来”に居た『ギムレー』ならば、捕らえたルキナをこの世界に連れてきていない筈は無いのだから。

『ギムレー』の復活を阻止して“未来”を変える事。
 “未来”の『ギムレー』に囚われたルキナを助け出す事。
 そして、“未来”から来た『ギムレー』を殺す事。

 成さねばならない事がまた増えたが、構わない。
 その全てを果たせば、『僕』は今度こそルキナと共に生きられるのだから……。




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