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時の輪環、砂塵の城

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 過去を“変える”。
 それは決して容易い事では無い。
 一つの事象を変えても、その根本的な部分を変えない限りは同じ結末に収束する事もある、
 逆に、ほんの些細な変化が、予期しない未来へと繋がってしまう事もある。
 過去を“変えて”望む未来へと思うがままに導くのは、神の見えざる手でも不可能に近い事であろう。
 だが、それでも『僕』には構わない。
 何度だって何度だって。
 それが幾百幾千万にも及ぶ試行になるのだとしても。
 “やり直し”続けてみせよう。
 望む“未来”に、至るその時まで。
『僕』は諦めないし、諦める事は許されていない。
 ……『僕』にはもう、それしか出来る事は無いのだから。

『僕』の目指す“未来”。
 それは、『ギムレー』に奪われた“全て”を喪わずにすむ世界。
 愛しいルキナを、この手でもう一度抱き締める事が出来る“未来”だ。
 そこに至る為に必要な事、“変え”なくてはならない事。
 それは何においても、『ギムレー』が甦る事を防ぐ事だろう。

『ギムレー』が甦らなければ、甦らせようと望む者が居なければ。
 きっと、『僕』は“何も”喪わずにすんだ。
 ルキナが『ギムレー』に囚われる事も無かった。
『僕』は、『ギムレー』に“全て”を奪われたのだ。
 大切な宝物を、愛しいと感じていた“全て”を。
『ギムレー』さえ、居なければ。
『僕』はきっと……ずっと……一緒に……。
 …………。

『ギムレー』が甦る事を阻止する為には、先ず第一に何故『ギムレー』が甦ってしまったのかを見出ださなくてはならない。
『僕』の記憶は未だ曖昧な部分は多いが、それでも“時を戻った”事により甦ってきた記憶も沢山ある。
『僕』が『ルフレ』である事以外にも、軍師である事も思い出せてきた。
 そして、『ギムレー』が甦るのを阻止しようとしていた事も……。

 結果として、かつての僕はそれに失敗し、剰りにも多くの大切なモノを喪い、ルキナまで……『僕』にたった一つ遺されていた愛しい宝物すら奪われたのだ。
 でも、もう二度と同じ“過ち”は繰り返さない、繰り返してはならない。
 かつての僕とは違って、『僕』には知識がある。
『ギムレー』の復活に必要なモノ、『ギムレー』を甦らせる為に暗躍している者達。
 かつての僕では知り得なかったであろうそれらの知識を以て因果の糸を解き明かしていけば、必ず『ギムレー』の復活を阻止する事が……それを“無かった事”に出来る筈だ。

 “未来”は変えられる、“結末”は変えられる。
 そうすれば、何もかも“取り戻せる”のだ。
 “やり直す”事は、出来るのだ。
『僕』はそう信じる、信じ続ける。
 だからこそ、この心が求めるがままに足掻くのだ。

『ギムレー』の復活の阻止の為に成さねばならない事、それはやはりギムレーを甦らせようと暗躍する者達の排除だろう。
 奴等さえ排除しておけば、態々『ギムレー』なんてものを甦らせようなどと試みる者など居る筈もない。
 一人残らず始末すれば、きっと“未来”は変わる筈だ。
 だが、未だ曖昧な『僕』の記憶は、誰が『ギムレー』を甦らせようとしていた者なのか、『僕』が排除するべき敵なのか、その答えを示せない。
 何と無く思い出せるのは、薄暗い祭壇の様な場所だけだ。
 それが何処なのかすら、『僕』にはまだ分からない。
 その朧気な記憶を辿る様にして、僕は“戻った”世界を彷徨い始めた。


 記憶が朧気な『僕』は、『ギムレー』を甦らせようとしている者達の手懸かりを掴む為、ペレジアへと向かった。
 ペレジアには、『ギムレー』を神と信仰するギムレー教がある。
 朧気な記憶の中にもその名前はあったので、恐らくは『ギムレー』が甦った事とギムレー教には何らかの関係がある筈だ。
 しかしだからと言って、ギムレーを信仰している者全てが、実体としての『ギムレー』の復活……神ならば降臨とでも言うべきか、それを望んでいるとも思えない。
 神はあくまでも偶像であり、祈る先、縋る先だ。
 神は必要な時にそこに在れば良いのであって、多くの信徒にとってはギムレーが竜として実在していようとただの偶像だろうとどちらでも良いモノでしかない。
 結局『神』なんて座は、人にとって都合の良い道具に与える称号の一つでしかないだろう。

 しかし、ギムレー教の中枢……ギムレー教団と呼ばれる者達はそれとはまた違うのだろう。
『ギムレー』への生け贄と称して人を拐っては殺したり、『ギムレー』にその身を捧げる事を誉れとするなど、それは信仰の枠を越えて妄執と化している。
 彼等ならば。
 例え破滅と絶望を与えるとされる邪竜であるのだとしても、『ギムレー』を甦らせる事に躊躇いなど無いだろう。
 きっと、そう、恐らくは。
『ギムレー』を甦らせたのは彼等だ。
 具体的に誰が『ギムレー』を甦らせたのかまではまだ思い出せないけれど。
 しかし、首謀者を潰した所でまた同じ愚を犯そうとする者達が出てくる可能性があるなら。
 ギムレー教団の者を、一人残らず始末すれば……、“未来”を変えられるのではないだろうか……?




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