『ペルソナ4短編集』
◆◆◆◆◆
この奇妙な「ヤソガミコウコウ」に閉じ込められてから、どれ程の時間が過ぎたのか。それは、時の流れを計る術の無い此処では分かり様が無い事で。それでも、同じくこの世界に迷い込んで来た月光館学園の人たちと協力して、迷宮の攻略は少しずつ進んでいる。
……この世界は何の為に存在するのか、何故自分たちがここに迷い込む事になったのか。……そして……──
少しずつ明らかになれど、考える事は多く謎はまだ山積みである。
そんな中で、どうしても気に掛かる事があった。
「また、考え事か?」
仲間たちがワイワイとはしゃいでるそれを、少し遠くから見守る様に眺めている直斗のその表情は、何処か思い悩むかの様であった。
その視線の先に居るのは……自分たちが迷い込むよりも前からこの世界に居た、善と玲……より正確には玲だった。
時折、直斗が玲を見詰めるその視線には遣る瀬無さにも似た……何処か「無力感」や「哀しみ」に似たものが浮かんでいた。……それに気付いているのは、恐らくは自分だけなのだろうけれど。
……その理由は、確信はまだ持てないものの自分にも分かる。
そして、それが文字通りに「自分たちではどうする事も出来ない事」である事も。
「……大した事では、無いのですが……」
そう口では言うが、それが直斗にとっては「そう」では無い事など分かっている。苦しい言い訳だと自分でも思ったのか、そう返した後で直斗は曖昧な表情を浮かべた。
……直斗は、他の人よりもずっと物事を深く考える性格であるし、そして『真実』を真摯に追い求めてしまう。隠されたそれを、暴いてしまう。
だからこそ、気付いてしまったのだろう。
「……直斗。もうどうする事も出来ない事に、心を引き摺られ過ぎてはいけないと……俺はそう思う。
俺たちは『神様』じゃない。……終わってしまった事には、どうする事も出来ないんだ。過去を変える事も、現実を捻じ曲げる事も……」
その『真実』に、恐らく遠からず自分たちは向き合わねばならないのだろう。そして、その時に玲が何を感じるのか……それは分からない。そして、そんな玲に自分たちに何が出来るのかも。
……きっと、出来る事など何も無い予感はある。
恐らく、もうどうする事も出来ない事に対して、自分たちに出来る事は無いのだ。……自分の推測が正しいのであれば、尚更に。
……だからこそ、どうにもならない現実を前に、直斗が苦しむそれをどうにか和らげたい。直斗の優しさがその心を傷付ける事から守りたい。
同情し寄り添う事すら恐らくは出来ないだろう『真実』に、誰よりも先に辿り着いてしまったのだろう直斗のその心を守りたいと思ってしまう。
……それは、きっと身勝手で傲慢な考えなのかもしれないが。
「……先輩は……。いえ、そうですね……。
でも、僕はそれでも。何かが出来るのでは無いかと……出来る事はまだ残されているのではないかと、そう思ってしまうんです……」
優しくそして不器用な程に真っ直ぐな直斗は、そう言って静かに目を伏せるのであった。
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この奇妙な「ヤソガミコウコウ」に閉じ込められてから、どれ程の時間が過ぎたのか。それは、時の流れを計る術の無い此処では分かり様が無い事で。それでも、同じくこの世界に迷い込んで来た月光館学園の人たちと協力して、迷宮の攻略は少しずつ進んでいる。
……この世界は何の為に存在するのか、何故自分たちがここに迷い込む事になったのか。……そして……──
少しずつ明らかになれど、考える事は多く謎はまだ山積みである。
そんな中で、どうしても気に掛かる事があった。
「また、考え事か?」
仲間たちがワイワイとはしゃいでるそれを、少し遠くから見守る様に眺めている直斗のその表情は、何処か思い悩むかの様であった。
その視線の先に居るのは……自分たちが迷い込むよりも前からこの世界に居た、善と玲……より正確には玲だった。
時折、直斗が玲を見詰めるその視線には遣る瀬無さにも似た……何処か「無力感」や「哀しみ」に似たものが浮かんでいた。……それに気付いているのは、恐らくは自分だけなのだろうけれど。
……その理由は、確信はまだ持てないものの自分にも分かる。
そして、それが文字通りに「自分たちではどうする事も出来ない事」である事も。
「……大した事では、無いのですが……」
そう口では言うが、それが直斗にとっては「そう」では無い事など分かっている。苦しい言い訳だと自分でも思ったのか、そう返した後で直斗は曖昧な表情を浮かべた。
……直斗は、他の人よりもずっと物事を深く考える性格であるし、そして『真実』を真摯に追い求めてしまう。隠されたそれを、暴いてしまう。
だからこそ、気付いてしまったのだろう。
「……直斗。もうどうする事も出来ない事に、心を引き摺られ過ぎてはいけないと……俺はそう思う。
俺たちは『神様』じゃない。……終わってしまった事には、どうする事も出来ないんだ。過去を変える事も、現実を捻じ曲げる事も……」
その『真実』に、恐らく遠からず自分たちは向き合わねばならないのだろう。そして、その時に玲が何を感じるのか……それは分からない。そして、そんな玲に自分たちに何が出来るのかも。
……きっと、出来る事など何も無い予感はある。
恐らく、もうどうする事も出来ない事に対して、自分たちに出来る事は無いのだ。……自分の推測が正しいのであれば、尚更に。
……だからこそ、どうにもならない現実を前に、直斗が苦しむそれをどうにか和らげたい。直斗の優しさがその心を傷付ける事から守りたい。
同情し寄り添う事すら恐らくは出来ないだろう『真実』に、誰よりも先に辿り着いてしまったのだろう直斗のその心を守りたいと思ってしまう。
……それは、きっと身勝手で傲慢な考えなのかもしれないが。
「……先輩は……。いえ、そうですね……。
でも、僕はそれでも。何かが出来るのでは無いかと……出来る事はまだ残されているのではないかと、そう思ってしまうんです……」
優しくそして不器用な程に真っ直ぐな直斗は、そう言って静かに目を伏せるのであった。
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