『ペルソナ4短編集』
◆◆◆◆◆
『謎』を解く、『真実』を追い求める。
どうして自分がそう望むのか。『始まり』を思い出せなくなっても、何かに追い立てられる様に、僕はそれを求めた。
昔から、他人と上手く付き合う方法が分からなかった。
小さい頃から、僕は周りとは何だか違っている様で。
それが嫌だった訳じゃ無いけど、周りの子と話が合わない事の方が多くて。虐められていたとかではないけど、何時も独りで本を読んでいた。それは別に嫌では無かった。
もうあまり記憶にも残っていない程幼い頃に両親を事故で一度に喪って。おじいちゃんと暮らし始めて。
おじいちゃんに持ち込まれた依頼をこっそり解決したりして……。多分初めは、おじいちゃんを手伝いたかったとか、或いは……それこそ子供が背伸びして大人の真似をして遊ぶ様な感じでそうしていたんだと思う。今となっては、その時の自分の気持ちを振り返るのは難しいのだけれど。
多分最初は「凄いね」って大人が微笑ましく子供を見守る気持ちで応援されていただけなんだろうけれど。何時しかそれは何だか違う方向に変わり始めていて。
特別捜査協力員として警察に協力する様になった頃から、その変化はより顕著になっていた気がする。
警察社会はどうしたって大人の……それも「男の世界」と言ってしまっても良い環境だ。勿論女性が完全に排除されている訳では無いのだけど、それでも刑事課などは実に「男」の世界と言うかそう言う気風で回っているのは事実である。
僕がやっている事は、警察がその地道な捜査や裏取りで集めて来た情報を精査して、見落としや何かの矛盾を指摘したりする事や、捜査方針の上での必要項目を進言したりする事なのだけれど……。まあ、自分の足で稼いだ訳でも無い情報であれやこれやと口煩く指摘している様にしか見えない事だってあるだろうとは、分からない訳では無い。
実際にこちらの指摘が正しいかどうかは別として、「面白くない」という感情を懐かれる事は珍しくは無くて。
更には、どうしたって僕は子供だ。どうかしたら周りの刑事たちの子供と同年代程度の人間なのだ。能力の有る無しとは別に、そんな相手から色々と指図される事を厭う人は多い。
だから、なのだろうか。
必要だと判断されて求められても、結局最低限の仕事を果たして捜査状況が進展したらその時点で自分の役割は終わる。
上辺だけの捜査協力への感謝の言葉の後には、無言の「もう用は無い」と言わんばかりの視線だ。
……探偵として其処に居ても、結局それは自分の『居場所』では無くて。何時しか、それを「仕方無い」と諦めてもいた。
自分に必要なのは、目の前の『謎』とその『真実』であって。
それ以外の事は、「どうでも良い」のだと。……逆にそれを追い求める事にしか自分の意義が無いのだと。そんな風な事を何時しか心の何処かでは思っていたのかもしれない。
そうやって何時もの様に『謎』とその『真実』を追う為に訪れた稲羽の街で、不可思議な事件の『謎』だけではなくて「自分自身」が抱えていた『真実』にも向き合う事になったのだ。
稲羽の街で出逢った大切な仲間たちの事を想う度に、彼等の輪の中に自分も居る事が何だか不思議な様で、それと同時に面映ゆくなる程の温かな喜びを感じる。
今まで自分には必要無いと何処かで斬り捨てる様に諦めていたそれが、とても温かい……どんな時でも消えない灯りの様な思い出になる事を教えてくれた。
皆、こっちが驚いてしまう位にお節介な程にお人好しで。
きっと、僕が本当に欲しかった言葉や想いを、何の対価も求めずにこの両手から溢れんばかりに贈ってくれる人達だ。
そして、そんな皆の中心に居るのが、鳴上先輩だった。
何時も冷静に状況を判断して、必要な事を必要な時に必ず果たして、誰よりも真っ先に危険に飛び込む事も厭わず誰かの為に一生懸命になれる。言葉数が多い訳では無いけれど、誰の言葉であっても静かに耳を傾けて、寄り添う様にして見守ってくれる。そして相手に一番必要な言葉を届けてくれる。
上背があって、体格も確りしていて、頼りがいがあって、大体の事は何でも出来る。まるで、ずっと憧れていた小説の中のハードボイルドな名探偵がそのまま其処に居るみたいな。……自分の理想をそのまま其処に持って来たみたいな人だ。
まあ完璧超人に見えて、鳴上先輩の『相棒』を自称する花村先輩などは「かなりの天然」だとか「ポヤポヤしてる」だとか「突拍子も無い事をする」だとか言っているけれど。
それは鳴上先輩があまり自分自身を飾るタイプではないからなのかな、とは思う。正直「天然」云々は分からない。
鳴上先輩はとても優しい人で、誰かの為に何かをする事を全く厭わない人なのだろう。それは、別に僕が特別だからではなくて、誰に対してもそうなのだと思う。
花村先輩にも、里中先輩にも、天城先輩にも、巽君にも、久慈川さんにも、クマ君にも。堂島さんたちにも。
そうする事が当たり前であるかの様に、鳴上先輩は一生懸命に心から相手を想って、自分以外の誰かの為に何かをする。
だから鳴上先輩の周りには人が集まるのだろうし、そしてそうやって周りに居る人たちは鳴上先輩の事を大事に想っているのだろう。鳴上先輩と共に過ごした時間は他の皆とは比べ物にならない程に短い僕にも、その事はよく分かる。
『絆』と言う心と心の繋がりを、鳴上先輩はきっと誰よりも大事にしているし、だからこそ大切にされている。
そして、だからなのか。
そんな鳴上先輩が、まるで子供の遊びの様な僕の下に届いた謎かけを一緒に追い掛けてくれているのは……。
鳴上先輩自身にとっては誰に対してもそうやっている事なのだとしても、僕にとっては本当に特別に大切な時間だった。
僕と同じか、或いはもしかしたらそれ以上に『真実』を真摯に探そうとする鳴上先輩と過ごす時間はとても楽しい。
まるで童心に返ったかの様な謎解きの時間も、それとはまた別に事件の事を話している時も。
おじいちゃんや薬師寺さん以外の誰かとこんな風に長々と話す事は無かったし、話していても楽しいと思った事は無い。
だから鳴上先輩と過ごす時間は、新たな発見の連続だった。
僕にとってそれが掛け替えの無い大切な時間だからなのか。
僕がそうである様に、鳴上先輩にとっても僕と過ごす時間が楽しい時間であると良いなと、そう思っていた。
どんな暗闇の中でも、霧に包まれ先が見えない中でも、それら全てを斬り裂いて先に進んでしまえそうな……灯火の様な意志の輝きを宿したその目に、僕と過ごす時間が少しでも何か「特別」なものとして映ってくれたら……なんて。
でも、僕が望んでいたのはそれだけで。それ以上は望むべくも無い事だと思っていた。それ以上を望むには、自分の事だけで精一杯だったのかもしれない。
それなのに……。
「直斗の事が、好きだから」
真っ直ぐな目で、……でもよく見たら照れているのか恥ずかしかったのか、少しだけ頬の辺りが赤くなったその顔で。
そう僕に伝えてきた鳴上先輩に、どう返して良いのか分からなくて、意味が無い溜息の様な吐息ばかりが零れる。
『好き』。……『好き』って、この場合どういう意味で?
正直、考えた事も無い言葉だった。
焦った様な、混乱した様な、浮ついた様な。
正直、自分自身でも今の自分の気持ちが一体どういうものなのか、全く分からない。何か適切に表現出来る言葉があれば良いのだろうけれど、正直全く思い浮かばない。
いや落ち着け、ただ単に『好き』って言われただけだ。
鳴上先輩の場合、友人とか仲間としての友愛に対しても何の臆面も無く『好き』って言ってしまいかねない。
花村先輩だって言っていたじゃないか。
「悠って、天然なのか偶にこっちがドキッてする位の言葉をストレートに伝えて来る事があんだよな~……」って。
そうつまり、仲間として大事な存在だと言う意味での『好き』である可能性もある訳でして。つまり、その……。
ああもう、自分でも何を考えているのか全く分からない。
探偵として何時も冷静である事を心掛けているのに、思考は支離滅裂と言って良い程にぐちゃぐちゃに搔き乱れている。
鳴上先輩は言葉一つで人の心を此処まで揺らしてしまうのかと、思わず慄いてしまう程だ。
正直、何かよく分からないけれど途轍もない「何か」の扉を抉じ開けてしまったかの様な……そんな気すらする。
「俺は直斗の事が好きだ。
直斗の気持ちがどうであっても、それだけは伝えたかった」
返事をする事も無く、呻く様な小さな吐息ばかり零す僕の反応に、少し不安になったのか。
何時も見惚れてしまう程に惹かれてしまうその真っ直ぐな目に、僅かばかりの揺らぎを滲ませて。それでも、鳴上先輩はもう一度その言葉をゆっくりと伝えた。
僕の……気持ち。
今こうしてそれを問われても、何も整理が付いていない。
嫌な感じは、しない。嬉しい?のかもよく分からない。
胸の奥がドキドキして、思考が乱れて、感情も浮ついて。
答えなんて分からない。『真実』も、見付けられない。
だからまるで逃げるかの様に、その場を後にしてしまった。
鳴上先輩の視線がずっと僕を追い掛けているそれを感じながら、その視線に何か胸の奥が焦がれる程の熱を帯びながら。
出さなければならない答えを、僕は引き延ばしてしまった。
胸の奥に燃える火の様に宿ったそれの「名前」を、僕はまだ知らない。……分からない振りを、していた。
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『謎』を解く、『真実』を追い求める。
どうして自分がそう望むのか。『始まり』を思い出せなくなっても、何かに追い立てられる様に、僕はそれを求めた。
昔から、他人と上手く付き合う方法が分からなかった。
小さい頃から、僕は周りとは何だか違っている様で。
それが嫌だった訳じゃ無いけど、周りの子と話が合わない事の方が多くて。虐められていたとかではないけど、何時も独りで本を読んでいた。それは別に嫌では無かった。
もうあまり記憶にも残っていない程幼い頃に両親を事故で一度に喪って。おじいちゃんと暮らし始めて。
おじいちゃんに持ち込まれた依頼をこっそり解決したりして……。多分初めは、おじいちゃんを手伝いたかったとか、或いは……それこそ子供が背伸びして大人の真似をして遊ぶ様な感じでそうしていたんだと思う。今となっては、その時の自分の気持ちを振り返るのは難しいのだけれど。
多分最初は「凄いね」って大人が微笑ましく子供を見守る気持ちで応援されていただけなんだろうけれど。何時しかそれは何だか違う方向に変わり始めていて。
特別捜査協力員として警察に協力する様になった頃から、その変化はより顕著になっていた気がする。
警察社会はどうしたって大人の……それも「男の世界」と言ってしまっても良い環境だ。勿論女性が完全に排除されている訳では無いのだけど、それでも刑事課などは実に「男」の世界と言うかそう言う気風で回っているのは事実である。
僕がやっている事は、警察がその地道な捜査や裏取りで集めて来た情報を精査して、見落としや何かの矛盾を指摘したりする事や、捜査方針の上での必要項目を進言したりする事なのだけれど……。まあ、自分の足で稼いだ訳でも無い情報であれやこれやと口煩く指摘している様にしか見えない事だってあるだろうとは、分からない訳では無い。
実際にこちらの指摘が正しいかどうかは別として、「面白くない」という感情を懐かれる事は珍しくは無くて。
更には、どうしたって僕は子供だ。どうかしたら周りの刑事たちの子供と同年代程度の人間なのだ。能力の有る無しとは別に、そんな相手から色々と指図される事を厭う人は多い。
だから、なのだろうか。
必要だと判断されて求められても、結局最低限の仕事を果たして捜査状況が進展したらその時点で自分の役割は終わる。
上辺だけの捜査協力への感謝の言葉の後には、無言の「もう用は無い」と言わんばかりの視線だ。
……探偵として其処に居ても、結局それは自分の『居場所』では無くて。何時しか、それを「仕方無い」と諦めてもいた。
自分に必要なのは、目の前の『謎』とその『真実』であって。
それ以外の事は、「どうでも良い」のだと。……逆にそれを追い求める事にしか自分の意義が無いのだと。そんな風な事を何時しか心の何処かでは思っていたのかもしれない。
そうやって何時もの様に『謎』とその『真実』を追う為に訪れた稲羽の街で、不可思議な事件の『謎』だけではなくて「自分自身」が抱えていた『真実』にも向き合う事になったのだ。
稲羽の街で出逢った大切な仲間たちの事を想う度に、彼等の輪の中に自分も居る事が何だか不思議な様で、それと同時に面映ゆくなる程の温かな喜びを感じる。
今まで自分には必要無いと何処かで斬り捨てる様に諦めていたそれが、とても温かい……どんな時でも消えない灯りの様な思い出になる事を教えてくれた。
皆、こっちが驚いてしまう位にお節介な程にお人好しで。
きっと、僕が本当に欲しかった言葉や想いを、何の対価も求めずにこの両手から溢れんばかりに贈ってくれる人達だ。
そして、そんな皆の中心に居るのが、鳴上先輩だった。
何時も冷静に状況を判断して、必要な事を必要な時に必ず果たして、誰よりも真っ先に危険に飛び込む事も厭わず誰かの為に一生懸命になれる。言葉数が多い訳では無いけれど、誰の言葉であっても静かに耳を傾けて、寄り添う様にして見守ってくれる。そして相手に一番必要な言葉を届けてくれる。
上背があって、体格も確りしていて、頼りがいがあって、大体の事は何でも出来る。まるで、ずっと憧れていた小説の中のハードボイルドな名探偵がそのまま其処に居るみたいな。……自分の理想をそのまま其処に持って来たみたいな人だ。
まあ完璧超人に見えて、鳴上先輩の『相棒』を自称する花村先輩などは「かなりの天然」だとか「ポヤポヤしてる」だとか「突拍子も無い事をする」だとか言っているけれど。
それは鳴上先輩があまり自分自身を飾るタイプではないからなのかな、とは思う。正直「天然」云々は分からない。
鳴上先輩はとても優しい人で、誰かの為に何かをする事を全く厭わない人なのだろう。それは、別に僕が特別だからではなくて、誰に対してもそうなのだと思う。
花村先輩にも、里中先輩にも、天城先輩にも、巽君にも、久慈川さんにも、クマ君にも。堂島さんたちにも。
そうする事が当たり前であるかの様に、鳴上先輩は一生懸命に心から相手を想って、自分以外の誰かの為に何かをする。
だから鳴上先輩の周りには人が集まるのだろうし、そしてそうやって周りに居る人たちは鳴上先輩の事を大事に想っているのだろう。鳴上先輩と共に過ごした時間は他の皆とは比べ物にならない程に短い僕にも、その事はよく分かる。
『絆』と言う心と心の繋がりを、鳴上先輩はきっと誰よりも大事にしているし、だからこそ大切にされている。
そして、だからなのか。
そんな鳴上先輩が、まるで子供の遊びの様な僕の下に届いた謎かけを一緒に追い掛けてくれているのは……。
鳴上先輩自身にとっては誰に対してもそうやっている事なのだとしても、僕にとっては本当に特別に大切な時間だった。
僕と同じか、或いはもしかしたらそれ以上に『真実』を真摯に探そうとする鳴上先輩と過ごす時間はとても楽しい。
まるで童心に返ったかの様な謎解きの時間も、それとはまた別に事件の事を話している時も。
おじいちゃんや薬師寺さん以外の誰かとこんな風に長々と話す事は無かったし、話していても楽しいと思った事は無い。
だから鳴上先輩と過ごす時間は、新たな発見の連続だった。
僕にとってそれが掛け替えの無い大切な時間だからなのか。
僕がそうである様に、鳴上先輩にとっても僕と過ごす時間が楽しい時間であると良いなと、そう思っていた。
どんな暗闇の中でも、霧に包まれ先が見えない中でも、それら全てを斬り裂いて先に進んでしまえそうな……灯火の様な意志の輝きを宿したその目に、僕と過ごす時間が少しでも何か「特別」なものとして映ってくれたら……なんて。
でも、僕が望んでいたのはそれだけで。それ以上は望むべくも無い事だと思っていた。それ以上を望むには、自分の事だけで精一杯だったのかもしれない。
それなのに……。
「直斗の事が、好きだから」
真っ直ぐな目で、……でもよく見たら照れているのか恥ずかしかったのか、少しだけ頬の辺りが赤くなったその顔で。
そう僕に伝えてきた鳴上先輩に、どう返して良いのか分からなくて、意味が無い溜息の様な吐息ばかりが零れる。
『好き』。……『好き』って、この場合どういう意味で?
正直、考えた事も無い言葉だった。
焦った様な、混乱した様な、浮ついた様な。
正直、自分自身でも今の自分の気持ちが一体どういうものなのか、全く分からない。何か適切に表現出来る言葉があれば良いのだろうけれど、正直全く思い浮かばない。
いや落ち着け、ただ単に『好き』って言われただけだ。
鳴上先輩の場合、友人とか仲間としての友愛に対しても何の臆面も無く『好き』って言ってしまいかねない。
花村先輩だって言っていたじゃないか。
「悠って、天然なのか偶にこっちがドキッてする位の言葉をストレートに伝えて来る事があんだよな~……」って。
そうつまり、仲間として大事な存在だと言う意味での『好き』である可能性もある訳でして。つまり、その……。
ああもう、自分でも何を考えているのか全く分からない。
探偵として何時も冷静である事を心掛けているのに、思考は支離滅裂と言って良い程にぐちゃぐちゃに搔き乱れている。
鳴上先輩は言葉一つで人の心を此処まで揺らしてしまうのかと、思わず慄いてしまう程だ。
正直、何かよく分からないけれど途轍もない「何か」の扉を抉じ開けてしまったかの様な……そんな気すらする。
「俺は直斗の事が好きだ。
直斗の気持ちがどうであっても、それだけは伝えたかった」
返事をする事も無く、呻く様な小さな吐息ばかり零す僕の反応に、少し不安になったのか。
何時も見惚れてしまう程に惹かれてしまうその真っ直ぐな目に、僅かばかりの揺らぎを滲ませて。それでも、鳴上先輩はもう一度その言葉をゆっくりと伝えた。
僕の……気持ち。
今こうしてそれを問われても、何も整理が付いていない。
嫌な感じは、しない。嬉しい?のかもよく分からない。
胸の奥がドキドキして、思考が乱れて、感情も浮ついて。
答えなんて分からない。『真実』も、見付けられない。
だからまるで逃げるかの様に、その場を後にしてしまった。
鳴上先輩の視線がずっと僕を追い掛けているそれを感じながら、その視線に何か胸の奥が焦がれる程の熱を帯びながら。
出さなければならない答えを、僕は引き延ばしてしまった。
胸の奥に燃える火の様に宿ったそれの「名前」を、僕はまだ知らない。……分からない振りを、していた。
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