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第三章 【偽りの天上楽土】

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 この世には可哀想な人達が大勢居る。
 神様だの仏だのを信じて、極楽や地獄なんてありもしないものを信じて縋る人達。
 そんなもの、ただの創作話、妄想なのに。本気で信じて、そこに行きたがる人が居るのだ。
 それはきっと、「死」が恐ろしいから、死んで「無」になる事が恐ろしいから。
 だから、馬鹿な人達は有りもしない極楽やら地獄を信じて、それに縋るしか「死」の恐怖を紛らわす事が出来なかったのだろう。ああ、なんて憐れなんだろう。
 哀れと言えば、一応は生みの親である彼等も絶望的な程に頭が悪かった。
 単に少しばかり変わった見目の子供が生まれて来たからって、「神の声」なんて存在しないものを聞こえるだなんて言って『万世極楽教』なる詰まらない宗教を作った。あんまりにも哀れだったから話を合わせてやっていたけど、「神の声」だなんて一度も聞いた事は無い。存在しないものの声が聞こえるとすればそれは幻聴だろう。
『万世極楽教』に縋って来る信者たちも本当に愚かな人達ばかりであった。子供相手に退屈な身の上話を延々と語って泣き縋って「極楽に連れて行ってくれ」だなんてそんな頭がおかしい事を宣う。本当に気の毒だ。愚かであると言う事は此処までも哀れな事なのだと、そう言った彼等の姿を通して知った。
 だから、『救って』あげないと、と。そう思った。だって俺は賢くて優しいのだから。
 退屈で仕方が無い教祖と言う立場だけど、それを投げ出さない程度には責任感があったのかもしれない。或いはやりたい事なんて特には無かったから、ダラダラと惰性でそれを続けていたのか。
 俺には、頭が悪い人たちの「心」なんて分からない。喜びだとか哀しみだとか、一体何を言っているのだろうと思うのだ。馬鹿な人達にしか分からない世界なのだろうか。何かに執着する様な事も無く、渇望だなんてものは遥か彼方のお伽噺。信者たちを見ている内に何と無く、こう言った時は「喜ぶ」べきだとか、或いは「悲しむ」べきだとか、そういった状況と「感情」の対応は上手くなったけれど、どれだけ経っても「感情」と言うものが分からなかった。この胸は何時も同じ調子で鼓動を刻むし、何があった所で怒りだとか言った感情を懐く事も無い。
 唯一、あの方に出逢って鬼にして貰った時に、こんなにも凄い存在がこの世には居るのかと驚いて忠誠を誓ったけれど。それでもやっぱり胸の奥の鼓動は何も変わらなかった。

 上弦の弐に上り詰めて、鬼として人を『救って』。
 時々遭遇する鬼殺隊の隊士たちや柱を始末しながら、相変わらず『万世極楽教』の教祖は続けていた。
『万世極楽教』の教祖として信者を『救う』のが務めであるし、『万世極楽教』と言う組織は様々な事に便利だったと言うのもある。
 そんな中、『万世極楽教』に鬼殺隊の隊士たちが潜入してきた。
 ボロを出さない様に色々と気を付けてやって来たつもりだったのだけれど、一体何処で嗅ぎ付けて来たのやら。
 男二人と女一人。頑張って信者を偽装していたみたいだけど、どれ程一般人を演じていても鬼殺隊の隊士たちはその身のこなしや足運びの時点で普通の人のそれとは違うから分かってしまう。愚かで哀れだ。
 男の方は食べる気は無かったので始末した後は何時もの場所に適当に放置して、女の方はちゃんと『救って』あげた。最後まで勝てもしないのは分かっていただろうに刀を手離そうとせず諦めないその姿勢は、無駄な努力に費やしてきたその人生の無意味さを示しているかの様でいっそ涙を零してしまえそうだ。まあ実際の所、胸の奥にその様な衝動がある訳では無く、「哀れな者」を見た時に人はどう言う反応をするのかを知っているのでそれをなぞっているだけなのだが。
 たった一撃で早々に死んだ男達と違って、女の隊士はそこそこ粘った。ほんの戯れ程度にしか相手をしていなかったとは言え、血鬼術の氷を吸って肺が壊死しても死ぬ瞬間まで刀を手離そうとはしなかったのだ。
 苦しむ時間だけが無駄に増えていくのに、一体どうしてそこまで足掻くのかは分からない。
 その女の隊士は、時折自分の手に目をやっていたからそこに何かあるのだろうかと、千切ったそれを眺めてみても何の変哲もないただの人間の手でしかなく。やっぱり人の感情やら執念と言うものは理解出来ない幻想だなぁ……と、淡々と何時もの様に『救って』終わった。

 そしてそれから程無くして、また新たに鬼殺隊の隊士が潜入してきた。全く飽きもせずによくやる。
 鬼殺隊の隊士なんて誰が何人来たとしても全員殺せるだろうが、流石にこう何度も引っ切り無しに来るのであれば『万世極楽教』を一度解体して名前を変えて何処かに拠点を移す事も考えた方が良いのかもしれない。
 まあそれに関しては今回潜り込んで来た隊士を始末してから決めればいい事だ。
 そして、数日と経たぬ内にその機会は巡って来た。
 数年前に喰い損ねた柱の妹だと言う毒使いの女の柱は、速さこそ秀でてはいたがそれだけで。膂力が決定的に足りない為全く脅威では無かった。扱う毒に関しても数分もしない内に分解出来てしまうものばかりで、今後同じような毒を使う剣士が出た際の対策を積めたと言う意味では有意義なものであった。
 一通り足掻かせてみて手の内を曝け出させた後は早く『救って』あげようとした所、突然の乱入によってそれは阻まれた。だが、乱入してきた女も童磨の首に刃を届けるどころか戯れの様な数度の打ち合いにも耐えられなさそうな剣士で。二人まとめて『救って』やれば良いかなどと思った。
 そうやって脅威にならない連中ばかり相手にしていたからなのか。
 彼が現れた時。自分はその強さを正しく認識出来てはいなかった。

 呼吸も使わずに、呼吸を使う剣士以上に動けているのは確かに目を見張るものはあるが、その剣術の腕前は未熟で。よくまあそれで剣を壊さずに戦っていられると思う程に、その太刀筋は剣術として成立しているのかも怪しい程に荒々しいものがあった。そもそも手にしているのは日輪刀でも何でもない剣で。それで一体どうするつもりなのかと問いたくなる様な状態であったのだ。
 だが、男は傷付いていた二人を如何なる手段によるものなのか、その場で完全に治してしまった。
 血鬼術か何かかと思ったが、男からは鬼の気配はしない。
 だが、人間なのかと言うと、それもまた少し違う様な気がする。そもそも人間にそんな力は無い。

 この世には神も仏も存在しないし、妖怪変化の類と言うのも童磨は一切信じていない。
 鬼は居るが、それは想像上の産物ではなくて、ある種超常的ではあるが生き物の延長に居る存在だ。
 だからこそ、目の前の未知なる存在に、童磨は初めて興味を懐いた。
 その不可思議な力を曝け出させれば、あの方に対して何か利益になるかもしれない。そうでなくとも、そんな不可思議な事を起こせる理由を童磨自身が知りたかった。
 百年以上前にあの方に初めて出逢った時の様な。そんな何とも言えない、自分を変える様な何かが起きる様な気がしていたのだ。

 そして、男の力は童磨が考えていた以上のものであった。
 呼吸を使っていないのに、呼吸を使い速さに秀でていた柱の女以上の速さで迫り、鋼よりも遥かに硬い筈の童磨の首を荒々しい太刀筋で容易く刎ね飛ばす。
 それどころか、血鬼術によって全力で防がねば童磨の身体ですら一瞬の内に蒸発させる程の劫火を操り、童磨以上の速さで広範囲を凍結させる程の冷気も操る。
 極め付けは、血鬼術の冷気も、そして鋼すら容易く断つ筈の扇による斬撃も、その一切が通用しないのだ。
 確実に血鬼術の冷気を吸っているのに、確実に扇がその身体を掠めたのに。男には一切意味が無かった。
 これまでどんな柱と戦った時ですら発揮した事の無い童磨の「本気」の攻撃ですら、毛程も通用しない。
 ならばと、足手纏いになっている二人を狙ってみるが、その瞬間にそれまで以上の冴えを見せた業火による一撃によってそれらは未然に防がれる。
 これで自分を「人間」だと本気で宣っているのだから、無茶苦茶だ。
 男を適切に表現する言葉があるのであれば、それはまさしく『化け物』であろう。

 だが、男の持つ気配が更に変化した時。
「そう」ではないのだと、童磨は気付いた。

 童磨の身体を巨大な氷柱で幾重にも貫き、身動き出来ない様に固定した直後。
 恐らくは、必殺の一撃とも言える「何か」の為に僅かに動きを止めた男の気配が一気に変わる。
 鬼よりもより『化け物』らしいそれから、そんな言葉では到底言い表す事など出来ぬ人智を超えた何かがその身に宿っているかの様な。世界そのものを塗り替える程の、圧倒的な、「何か」。
 男の姿に重なる様に、その背後に幾つもの大きな翼を備えた異形の如き大いなる存在の姿を僅かに幻視する。
 もしそれに名を付けるのであれば、まさしく「神」であるのだろう。

 この世に神は居ない、仏も居ない。そんなものはただの妄想、人の作り出したお伽噺だと、そう思っていた。
 だが、そうではなかった。「神」は居た。
 今目の前の男の身に宿るのは、紛れも無く「神」としか呼べない「何か」だ。
 しかも、男の中にはそれ以外の「何か」も無数に蠢いている事にも童磨は気付く。
 それに気付いた時。そして『神様』を見付けた時。
 生まれて初めて、童磨は心臓が脈打つ様に高鳴り、自分の思考に入り込む冷静な判断以外の「何か」……童磨が今まで愚かな人間の妄想の類にしか感じていなかった「衝動」とでも言うべきものが胸の内に溢れ出すのを感じた。
 途端に、世界が鮮やかに色付いた様にすら思えた。
 あの方に確かに感じている筈の「敬意」が薄っぺらいものに感じてしまえる程に、激しく打ち寄せるそれに童磨の心は激しく震える。
 もっと知りたい、もっと見たい、と。未だ嘗て感じた事の無いその衝動を抑えきれない。
 もう死ぬんだろうと冷静に考え、それも仕方が無いかと受け入れていたのに。
 もっと、この男の中に在る「神」を見なければ、『神様』の全てを見てみたい、と。
 生まれて初めて抱いた未練、強烈なまでの「執着」が童磨の心の中で急速に育つ。
 もしここで死んでしまえば、『神様』をもう見る事が出来ない、もっと知る事が出来ない。
 それは怖かった、生まれて初めて、「怖い」とすら思った。
 この「感動」を喪ってしまう事を、恐ろしいと思ったのだ。
 今なら、信者たちの馬鹿馬鹿しい訴えにも、「分かるよ」と心から言ってやれるかもしれない。
 これが人間らしい感情とやらであるのかどうかは知らないが、そんな事はどうでも良い。
 とにかく今は此処で死ぬ訳にはいかないのだ。

 身体は完全に固定されていて動かす事は難しい。
 だから全身を脱出させる事は諦めて、せめて首だけでも捥ぎ取って何処かへ逃がす。
 頭さえ多少残っていれば時間は掛かっても肉体は再生させられるのだから。
 蔓蓮華で首を無理矢理捥ぎ取って、それを少しでも遠くへと投げ捨てようとする。
 だが、その瞬間。
 まるで星の光が直接地上に墜ちて来たかの様な激しい閃光と爆音が全てを吹き飛ばした。
 氷柱に貫かれていた身体は塵すら残さず細胞の一片に至るまで完全に瞬間的に消滅し、そしてギリギリの所で投げ捨てた頭も、目の少し下より上を残して完全に消し飛ばされる。
 暴虐的なまでの破壊の光は徐々に膨張し、僅かに残った童磨の頭部も呑み込みかけたが、その寸前に。

 ━━ ベンッ! 

 聞き慣れた鳴女の琵琶の音共に現れた障子の向こうへと童磨の欠片は落ちて行く。

 完全に障子が閉じて空間の接続が切断される寸前に、猛烈な勢いで無限城を呑み込んでいく滅びの光の向こうに、全てを燃やし尽くす程の強烈な殺意をその瞳に灯した男の姿が見えた。
 童磨の向こうに、もしかしたらあの方の気配を感じたのかもしれない。
 何にせよ、彼とはまた戦う事になるのだろう。その時が、楽しみで仕方が無かった。
「次」に逢う時には、もっともっとその内に宿る「神」を……『神様』の力を見せて欲しい。
 その為には、今よりも更に強くならねばならない。

 生まれて初めて得る事が出来た「執着」を、まるで幼子が初めて宝物を見付けたかの様に大切に抱き締めて。
 童磨は無限城の中を落ちて行くのであった。






◆◆◆◆◆






 鬼舞辻無惨と言う存在について分かっている事は多くは無い。
「鬼」と言う存在の全ての根源にあり、病を撒き散らすかの如く鬼を増やし、支配する者。
 鬼殺隊が千年以上もの間追い続けている諸悪の根源。
 しかし、十二鬼月の様な選ばれた配下の鬼以外でその姿を目にして今も尚生きている者は限り無く少なく。
 その姿形や能力に関して知り得ている者は殆どと言って良い程存在しない。
 そんな鬼舞辻無惨の事を、ある者は臆病者だと言い、またある者は永遠の不滅を夢見ていると言う。
 それはどれも当たっている。
 鬼舞辻無惨の根源は、「死」を極端に恐れ、「死」を遠ざける為に形振り構わない臆病者だ。
 それだけならば普通に生きる人間達の中にも、強烈に「死」を恐れる者も少なくない為、理解の余地があると言えるのかも知れないけれども。
 その存在を根本の部分で人間にとって不俱戴天の仇としているのは、恐ろしいまでの共感能力の欠如である。
 元々は人であった筈の鬼舞辻無惨であるが、その当時から著しく共感能力に欠如し、何事も自分を中心にしか考えられず、更にこの世に溢れる人間どもは全て自分の思う通りに踏み躙っても良いとすら何の痛痒も無く思っている。
 神も仏も極楽も地獄も、その全てを唾棄し、永遠を生きる為ならば幾千幾万の屍を喰い荒らし、そしてそれ以上の嘆きと惨劇を振り撒こうとも何も感じないのである。
 傍若無人、傲岸不遜、この世のありとあらゆる言葉を以て罵倒しても尚足りぬ程の感性を持っているが、人間にとっては残酷な事に、この鬼舞辻無惨と言う存在は圧倒的に強かったのだ。
 鬼を殺す為にその人生を犠牲にしてまで復讐の刃を研ぎ続ける鬼殺隊の隊士にとってすら、会敵した瞬間に死が確定する様な。まさに生ける災厄にも等しい『化け物』。それが鬼舞辻無惨である。
 弱肉強食の理を振り翳して驕り高ぶる事すら、ある意味では仕方の無い事と言えてしまう程に。
 鬼舞辻無惨と言う暴威は、余りにも圧倒的であった。

 更には、鬼舞辻無惨は臆病だ。
 僅かにでも己を傷付けその命に届き得る脅威があるのであれば、恥も外聞も無く如何なる手段を以てしても逃走し、生存を選択する。生き恥と言う概念は、鬼舞辻無惨には存在しない。これから先も、永劫に。
 とは言え、圧倒的に強者である鬼舞辻無惨を脅かすものなど、千年掛けても未だ克服には至らない陽光程度である。数百年前には、常軌を逸した『化け物』が現れた事も有ったが、結局その『化け物』ですら「寿命」と言う生き物を縛る下らない鎖によってもうこの世を去っている。
 後は陽光さえ克服出来れば、もう何も鬼舞辻無惨を脅かす事は無いのだ。

 しかし、陽光を克服し得る様な鬼は幾ら作っても生まれない。様々な体質の者を鬼にしてきたが、一向にその成果は出て来ない。ならば、と。鬼舞辻無惨を鬼にした「薬」の原材料であった『青い彼岸花』を探させてもそれもまた見付からない。
 鬼舞辻無惨は千年以上も苛立ち続けて来た。せめて鬼狩りの様な異常者どもからの盾になる様に強い鬼を探そうとしても中々満足のいく強さの鬼は生まれない。
 下弦の鬼など、例えそこまで上がって来たとしても鬼殺隊の隊士如きにあっさりと殺され続ける。
 余りにも役に立たないので、不要とばかりに纏めて処分してしまった程だ。
 だが、上弦の鬼たちの強さには概ね不満は無かった。もっと強くなって役に立つ駒に成るべきだとは思うが、柱程度に殺される様な事は無いので、最低限度の及第点は満たしているとも言える。

 だからこそ、信じられなかった。
 上弦の弐の位にまで辿り着いた童磨を、至極当然の様に無傷で屠ろうとしている『化け物』がこの世に存在すると言う事が。
 かつて相対したあの『化け物』……縁壱と言う名の剣士を遥かに超える悍ましい存在が、この世に現れた事を認めたくは無かった。
 だが、どれ程否定しても現実は変わらない。『化け物』は確かに存在する。
 童磨の視界を通して見た『化け物』の姿に、鬼舞辻無惨は数百年振りに「死」の恐怖に襲われた。

 童磨が塵一つ残さず一瞬で消滅させられる寸前で、鳴女に命じて欠片の様になった童磨を回収したが、その際に無限城にまで届いた攻撃の余波で、無限城全体の凡そ二割が消滅した。
 幸い無限城を維持する鳴女に直接の影響は無く、童磨を回収した直後に空間の接続を断った為に被害は最小限に抑えられたが、それでも尋常ではない事態であった。

 鬼舞辻無惨は、「死」を恐れている。そして、自分と同格以上の『化け物』がこの世に現れる事も恐れている。
 配下の鬼たちは鬼舞辻無惨の完全な支配下にある為脅威にはならない。極稀に「はぐれ鬼」は出るが、人食いを断った鬼など大した脅威にはならない。
 だからこそ鬼舞辻無惨が恐れるのは、鬼以外の発生方法でこの世に現れる『化け物』だ。
 かつて対峙したあの剣士の様に、そして童磨の目を通して見たあの『化け物』の様に。
 そんな『化け物』共とまともにやり合うつもりなど無い。
『化け物』どもが定命の存在であるのなら、奴らの寿命が尽きるまで待てばいいだけの話だ。
 だが、果たして。あの『化け物』に寿命などあるのだろうか。かつて対峙した剣士よりも更にこの世の在るべき理を逸脱しているその力を思うと、最悪不老不死に近い可能性すらある。
『化け物』共から逃れる為に数十年を雌伏の時として過ごすのならまだ我慢が出来るが、それが百年数百年と続く事には到底耐えられない。
 早急に何か対策を打つ必要があった。

 そして、『化け物』を恐れると同時に。
 その力を此方側に取り込む事が出来れば、と考えもする。

 かつての『化け物』の如き剣士の片割れであった剣士は、その見込み通り上弦の壱として無類の力を発揮する最も信用出来る駒なのだ。
 あの『化け物』を鬼にして支配出来れば、太陽を克服した鬼になるかもしれないし、そうでなくともあの圧倒的な力さえあれば鬼殺隊など瞬く間に滅ぼしてしまえるだろう。
 無論、一番は自分の身の安全の確保ではあるが、可能であれば捕獲出来るのであればそれが良い。
 無能で弱い駒など不要だが、強い駒は配下に一人でも多く欲しいのだ。
 しかし、童磨すら蹴散らした『化け物』相手に今の上弦の鬼たちでは少々心許無い。
 鬼に必要以上の力を与えるのは望ましく無いが、状況が状況だけに、上弦の鬼たちに更に血を与えて強くする事も考える必要があるだろう。

 あの『化け物』の事を上弦の鬼たちに通達させる為、鬼舞辻無惨は上弦の鬼たちを無限城へと呼び出すのであった。






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