黎明に誓う
◆◆◆◆◆
結局の所、それは自分の我が儘にしかならないのだろうと言う事は十分に理解していた。
皆を苦しめる事を、悲しませる事を……。誰よりも大切な存在であるルキナに、絶望を与えてしまった事を。
どんな言い訳を並べ立てるのだとしても、それを正当化する事など出来る筈もない。
ギムレーを完全に滅ぼして千年先へと禍根を残さない為にとは言え、その千年先の為に、「今」何よりも大切な存在達の心を傷付ける様な道を選んでしまったのだ。
例え誰にその選択を肯定されるのだとしても、ルフレ自身だけは、絶対にその選択を赦してはならない。
ルキナ達と共に生きて、そして同じ時の流れの中で共に死ぬ未来も確かに在った筈なのだ。
それなのに、その全てを投げ棄てるかの様に、ギムレーを討つ事を選んでしまった。
それを選んだ理由もまた、我が儘なものでしかない。
遠い未来の破滅の所為でルキナの笑顔を曇らせたくないと言うその選択は、余りにも矛盾に満ちていて。
もっと直接的な悲しみを、ルキナに与えてしまった。
何時かルキナ達ならば、『死』の離別の苦しみや哀しみを乗り越えられるからと、そう思ってはいたけれど。
その思い自体が酷く傲慢なものであるのだろう。
悲しみを乗り越えられるのか否か、或いはその方法すら、人は其々違うのだから。
乗り越えてくれると言う『期待』……いや傲慢な『過信』は、結果として大切な皆に、取り返しの付かない苦しみと傷を与えてしまっただけであるのかもしれない。
それでも……ルフレは選んだのだ。
その先の結末も、自らに訪れる終わりも、全て見据えて納得して受け入れた上で。
ルキナによって心の呪縛からは解き放たれていたけど。
それでもやはり、ギムレーの存在に、その行いには、ルフレ自らが果たさねばならない責務というものがあり。
同時に、この世でただ一人。
それこそ過去未来全てに至って唯一かもしれない程の奇跡の様な可能性の果てに。ルフレの手にはこの世の「在り方」を一つ決定付けられる力が与えられていたのだ。
千年先の未来が必ず滅びると決まった訳ではない。
しかし、逆に言えば滅びないと断言する事も出来ない。
そうでなくとも、千年毎に訪れる『滅び』の何処かでは、ギムレーによって何も出来ないままに完全に世界が滅ぼし尽くされてしまう事も有り得るのだろう。
未来は未確定だからこそ、その可能性を否定出来ない。
無論、千年の繰り返しの何処かで、ギムレーとは全く関係無い要因によって、あっさりとこの世界が滅びてしまう事もあるのかもしれない。
ギムレーの復活とは全く無関係に、戦争を繰り返しては互いに相手を殺し合う事を止めなかった人々ならば、ギムレー以外の要因で滅びの運命を辿る事も、そう有り得ない話でも無い様に思える。
それでもやはり、「自分自身」ともいえるギムレーの手でこの世界が滅びるのは、ルフレにとっては到底承服し難い程に耐えられない事であったのだ。
しかし、それを自分自身で選んだ筈なのに。
ルフレにはどうしても最後まで捨てきれなかった想い、……『未練』と呼ぶべきモノがあった。
愛する人と……ルキナと、共に生きたいと言う願い。
ルキナに伝えたい言葉が……伝えなくてはならない『想い』が、まだ沢山あったのだとう言う『後悔』。
そして……もう一度巡り逢いたいと言う……そんな途方もない願いが、最後までこの胸の中に残っている。
もう、自分は消滅するのを待つだけの身であるけれど。
それでもこの想いが叶うなら、この願いが届くなら。
もう一度…………──
消えゆく意識の片隅で。
蒼く輝く蝶が、何かを導く様に舞ったのを目にして。
最早「意識だけ」の存在であった筈のルフレは。
それでも言葉に出来ぬ『何か』に突き動かされる様に。
その蒼く輝く蝶へと、静かに手を伸ばした──
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結局の所、それは自分の我が儘にしかならないのだろうと言う事は十分に理解していた。
皆を苦しめる事を、悲しませる事を……。誰よりも大切な存在であるルキナに、絶望を与えてしまった事を。
どんな言い訳を並べ立てるのだとしても、それを正当化する事など出来る筈もない。
ギムレーを完全に滅ぼして千年先へと禍根を残さない為にとは言え、その千年先の為に、「今」何よりも大切な存在達の心を傷付ける様な道を選んでしまったのだ。
例え誰にその選択を肯定されるのだとしても、ルフレ自身だけは、絶対にその選択を赦してはならない。
ルキナ達と共に生きて、そして同じ時の流れの中で共に死ぬ未来も確かに在った筈なのだ。
それなのに、その全てを投げ棄てるかの様に、ギムレーを討つ事を選んでしまった。
それを選んだ理由もまた、我が儘なものでしかない。
遠い未来の破滅の所為でルキナの笑顔を曇らせたくないと言うその選択は、余りにも矛盾に満ちていて。
もっと直接的な悲しみを、ルキナに与えてしまった。
何時かルキナ達ならば、『死』の離別の苦しみや哀しみを乗り越えられるからと、そう思ってはいたけれど。
その思い自体が酷く傲慢なものであるのだろう。
悲しみを乗り越えられるのか否か、或いはその方法すら、人は其々違うのだから。
乗り越えてくれると言う『期待』……いや傲慢な『過信』は、結果として大切な皆に、取り返しの付かない苦しみと傷を与えてしまっただけであるのかもしれない。
それでも……ルフレは選んだのだ。
その先の結末も、自らに訪れる終わりも、全て見据えて納得して受け入れた上で。
ルキナによって心の呪縛からは解き放たれていたけど。
それでもやはり、ギムレーの存在に、その行いには、ルフレ自らが果たさねばならない責務というものがあり。
同時に、この世でただ一人。
それこそ過去未来全てに至って唯一かもしれない程の奇跡の様な可能性の果てに。ルフレの手にはこの世の「在り方」を一つ決定付けられる力が与えられていたのだ。
千年先の未来が必ず滅びると決まった訳ではない。
しかし、逆に言えば滅びないと断言する事も出来ない。
そうでなくとも、千年毎に訪れる『滅び』の何処かでは、ギムレーによって何も出来ないままに完全に世界が滅ぼし尽くされてしまう事も有り得るのだろう。
未来は未確定だからこそ、その可能性を否定出来ない。
無論、千年の繰り返しの何処かで、ギムレーとは全く関係無い要因によって、あっさりとこの世界が滅びてしまう事もあるのかもしれない。
ギムレーの復活とは全く無関係に、戦争を繰り返しては互いに相手を殺し合う事を止めなかった人々ならば、ギムレー以外の要因で滅びの運命を辿る事も、そう有り得ない話でも無い様に思える。
それでもやはり、「自分自身」ともいえるギムレーの手でこの世界が滅びるのは、ルフレにとっては到底承服し難い程に耐えられない事であったのだ。
しかし、それを自分自身で選んだ筈なのに。
ルフレにはどうしても最後まで捨てきれなかった想い、……『未練』と呼ぶべきモノがあった。
愛する人と……ルキナと、共に生きたいと言う願い。
ルキナに伝えたい言葉が……伝えなくてはならない『想い』が、まだ沢山あったのだとう言う『後悔』。
そして……もう一度巡り逢いたいと言う……そんな途方もない願いが、最後までこの胸の中に残っている。
もう、自分は消滅するのを待つだけの身であるけれど。
それでもこの想いが叶うなら、この願いが届くなら。
もう一度…………──
消えゆく意識の片隅で。
蒼く輝く蝶が、何かを導く様に舞ったのを目にして。
最早「意識だけ」の存在であった筈のルフレは。
それでも言葉に出来ぬ『何か』に突き動かされる様に。
その蒼く輝く蝶へと、静かに手を伸ばした──
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