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黎明に誓う

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 ルフレがギムレーと共にこの世から消滅して、既に凡そ三年の時が過ぎていた。
 三年の月日とは決して短いものではなく、まだ歩く事もままならなかった赤子が一人で立派に立ち跳ね回る様になる程の時の流れではあるのだ。
 人は皆が多かれ少なかれ時の流れの中で変わっていく。
 ……それは「あの日」からずっと心の時の針を押し留め続けているルキナであっても、例外ではないのだろう。

 あの日ギムレーとの決戦の為に集っていた仲間達、は各々自らの居場所へと戻り各地へ散っていた。
 ルキナはと言うと、最初の一年は主にイーリスに……クロムの傍に留まり彼を待ち続けていたのだが。
 二年が過ぎた頃から、ルフレと共に過ごしたその旅路を辿るかの様に、各地を旅していた。
 初めて出会ったイーリスの森から始まり、フェリア、ペレジア、ヴァルムと、その足跡を辿っていく。
 ……戦いばかりの日々であったけれども、そんな日々ですら思い返せばルフレと過ごした時間は愛しくて。
 何れも、宝物の様な『思い出』であった。

 ルフレと共に過ごしてきたその『記憶』の足跡を辿り始めた事に、深い理由は特には無かった。
 当初は、ルフレの事を忘れたりしない様に思い出す為、とか……そんな目的であったと思う。
 しかし、旅を続けていく内に。
 この旅路を行けば、その先の何時か何処かで、ルフレに再び巡り逢える様な……そんな気になり始めていた。
 各地を巡りながら、あの戦いを共にした仲間達を訪ね、そして彼等と共にルフレの話をする。
 そうする事で、少しでも早く。この世界から消えてしまったルフレを、仲間達と繋いできた『絆』が手繰りよせてくれるのではないかと……そう思うのだ。

 ルキナは、例え何年でも何十年でも、この命ある限りルフレを待ち続けようと決めていた。
 あの日の覚悟は、その決意は、今も全く変わらない。
 この世に不変のものなど存在し得ないけれど、きっとこの想いは限りなく『永遠』に近いものであるのだ。
 そして、願い信じて待つだけの日々であっても、それは決して『不幸せ』と言う訳でもなくて。
 寧ろルフレを想う事が出来る事は、ルキナにとっては『幸い』な事でもあった。

 それでも時々、訳も無く胸が締め付けられるように、声を上げて泣き出してしまいたくなる程に哀しくなる。
 涙を零すのはルフレに再び巡り逢えたその時だと決めたから、何れ程哀しくても決して涙を流す事は無いけど。
 それでも、どうしようもなく逢いたくて、寂しくて。
 無性に哀しくなる瞬間は、まるで引いては打ち寄せてくる波の様に、静かに幾度と無く訪れるのだ。



「……ルフレさん……、逢いたいです、また……」



 ポツリと呟かれたその言葉を耳にする者は居ない。

 また、逢いたい。
 もう一度、あの優しい微笑みに巡り逢いたい。
 そして今度こそ……『共に生きたい』と言う……彼のその優しく切実な願いを、叶えたいのだ。

 それは途方もない「奇跡」の果てにしか叶わない事で。
 ……それでも何時か必ず叶うと、ルキナは信じている。

 何故ならば、ルフレは確かに『生きたい』と願っていた、『また逢いたい』と……最後にそう想っていたのだ。
 例え自ら命を捧げる道を選んだのだとしても、その想いが最後まであったのなら。ルキナ達へ向かう想いの糸があるのなら、『未練』と言う名の『希望』があるのなら。
 きっとそれを手繰る様に、ルフレは再びこの世界へと帰って来れるるのではないかと……そうルキナは想う。

 ルキナがルフレに出来る事は、信じる事と、想う事。
 ……そして、決して忘れない事しかない。
 こうも想い続けてしまうのは、きっとどうしようもなくルフレの事を『愛している』からこそで、故にただそれだけの事に、ここまでも執着し願ってしまうのだろう。
 そこに『愛』が、『絆』が、『想い』があっても。
 どうにもならぬ事など幾らでもあるのだろうけれど。
 それでも、この願いだけは……その果てに訪れるであろう「奇跡」だけは、必ず叶うと信じていたい。
 何時かの未来、遠くない明日に。
 大切な人に「おはよう」と言える日が、この手の中にその温もりを確かめられるその時が、必ず来るのだと。
 それは叶うとしても、ルキナがうんと歳を取り、もう余命幾許も無いような老婆になる頃にやっと叶うのかもしれないような「奇跡」であるのかもしれないけれど。

 それでも、願わくは。
 二人で一緒に歳を重ねていける様に……。
 優しい彼が誰かに置いて逝かれる悲しみに……そして独り残される苦しみを少しでも味わう事の無い様に。
 二人の時間がこれ以上引き裂かれる事の無い様に。
 ……少しでも早く帰って来て欲しいと、そう願う。

 だからその日を少しでも早くに手繰り寄せる為にも、今日もルキナはルフレを想うのだ。




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