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もう夜明けは訪れない

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 誰かが自分の頬に触れているその感触で、ルキナはゆるりと目を覚ました。
 まだぼんやりとしているその視界の中。
 自分を見下ろす様に覗き込んでいるその無感情な紅い瞳に、ルキナは静かに絶望する。

 邪竜に囚われたルキナは一日の大半を眠る様に過ごしていた。
 邪竜の玩具として、最低限度の衣食住の保障はされているし、寧ろルキナに与えられているそれは粗末な者などでは無く確かな質のモノで……まさに愛玩動物の様な扱いだった。
 ある程度のモノは、自由以外は望めば与えられる状況で。
 しかし、邪竜に望むモノなど有りはしない……ルキナが本当に望むモノを邪竜が与える事は決して無いので、ルキナは何かを望んだ事など一度も無かった。
 ほぼ毎夜の如く犯されるだけの日々の中では、心の慰めになるモノなど何も無くて。
 邪竜に犯されている時以外には何の刺激も無い生活だった。
 そんな中では、ただ眠る事だけが唯一ルキナに赦された事で。
 だからこそ、ルキナは眠り続ける。
 そして、その眠りが途切れてしまうのは、往々にして邪竜が訪れた時であり、その意味はただ一つであった。
 ああ、またなのか、と。ルキナは静かに絶望する。
 ルキナは何時もと同じ様に抵抗するが。……その抵抗は無理矢理に押さえつけられて、無慈悲に蹂躙される。
 生理的な反応で嬌声染みた声が出てしまう事はあるが、そこにあるのは快楽などでは断じてなく、憎悪と絶望だけだ。
 どんな行為に及ぼうとも、ルキナには全て苦痛でしかなく。
 そこにあるものは絶望と怒りでしか無い。

 欠片も愛せない……この世の何よりも憎悪している化け物に。
 愛した人の皮を被っているだけの、愛している彼の紛い物に。
 身を汚されていく。彼に捧げたかったモノを全て奪われる。
 それでも絶対に、この心だけは屈してなるものかと、ルキナはそう抵抗し続けるのだけれども。
 しかし、時折。
 邪竜の仕草に、ふとした表情に、ルキナに触れたその指先に、ルキナの口を口付けで塞ぐ時のその柔らかさに。
 彼の姿を、彼の面影を、彼の幻影を、見付けてしまう。
 誰よりも愛している彼の姿を、ルキナは未だに諦める事が出来ず、邪竜のそこに求めてしまう。
 それはなんと、絶望的な望みだろうか……。


「ルフレさん……」


 愛するその名を呼ぶルキナの呟きは、何処にも届かない。




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