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それが絶望の胎動であるのだとしても

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 薄暗がりに覆われた玉座に座したギムレーは、不快さを隠す事も無くに眉根を寄せて舌打ちをする。
 何時もの様に遠視の術でルキナ達の様子を見ていたのだが、どうにもあまり良くない方向へと事態が動いてしまったのだ。

 ルキナがギムレーの傍から逃げ出して既に一年が経っている。
 荒れ果てた外界の現実を目の当たりにすればそう時を置かずして心折れるだろうと踏んでいたのだが……思いの外ルキナは気丈にも耐えていた。
 手のかかる盛りの幼い娘を抱えながら、人々の悍ましい程の悪意に晒されながら、それでも立派にマークを育てながら生き抜いていたのだ。
 一年と言う期間は、竜にとっては瞬きの様なモノではあるが、未だ自身が『ヒト』である意識が抜けないルキナにとっては、決して短い時間ではない。
 故に、これにはギムレーも素直に感服した。
 子を想う母親の強さと言うものは、時にギムレーの予想も遥かに上回るものだと実感したのである。

 が、心が折れてはいないとは言えども、『現実』を目の当たりにしたが故にか、頑なに『邪竜』を悪とし『ヒト』を肯定していたその心境にはかなり変化が生まれた様だ。
 マークに対しても、このまま『ヒト』として育て続けるべきなのかとルキナが迷っているのも、ギムレーには手に取る様に理解出来た。
 後一押し、何かの切っ掛けがあれば、ルキナの心はギムレーの方へと傾くだろうと、ギムレーは感じていた。
『その時』を心待ちにしながら、ギムレーは二人を見守っていたのだが……。


「ナーガの手の者に見付かった、か……」


 ルキナとウードの出逢いによって起こり得る様々な可能性を瞬時に弾き出しては、その殆どが『望ましくない』結果に行き着く事にギムレーは再度舌打ちする。


「……潮時、だな」


 出来るならば、心折れる瞬間を見届けたくはあったのだが。
 戯れを続ける事に拘って二人を喪っては、何の意味も無い。
 何を優先させるべきか、ギムレーが迷う事はない。

 ── 「もう二度と」……大切な人を喪いたくはない

 そう感じたのは、ギムレーなのかそれとも『二周目』のルフレの心だったのか……。
 それは、ギムレー自身にすらも分からない事だった。




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