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第四話『一番の宝物』

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 ルキナがルフレと結ばれてから、半年近くが過ぎていた。
 元々同じ家に住んでいた事もあって、生活自体にそう大きな変化があった訳では無いけれども。
 それでもやはり様々な事が、『恋人』として過ごしていた時とは異なっていて。
 まあ、特に。所謂肌と肌を重ね合わせる類いの愛情表現をルフレがする様になった事は、大きな変化と言えるだろう。
 律義と言うか、誠実と言うか。
 恋人であっても婚前の女性に手を付ける事は彼としては自制するべき行いであったらしく、色々と我慢していた様だ。
 戦争の最中の時も、そして消滅から還って来てからも。
『恋人』の関係であった時のルフレは、ルキナとその類いの行為をした事は無いし、しようとした素振りも無かった。
 精々が、少し深く情熱的なキス位で。
 だから、もしかしてルフレはそう言う事に関してはそこまで興味関心が無いのか、或いは物凄く淡白なのかとそう密かにルキナは思っていたのだけれども、それは全くの見当違いであったらしく。
 結婚してからは、ルフレとそう言う行為をする様になった。
 初夜の時に、文字通り自らの貞操を彼に捧げた事は、今でも思い返すと色々と気恥ずかしくて顔が火照ってしまうけれど、それでも物凄く『幸せ』な記憶であった。
 まあ、互いにその手の行為は知識こそあっても不慣れであったのであの時は本当に色々大変だったのだが……それも、良い思い出だったとしておこう。
 緊張し過ぎたルキナが混乱の余りルフレの腕を握力で潰しかけたとか……今となっては笑い話になる、筈である。
 まあそんなこんなで、他人の情事の事情など詳しくは知らないので比較は出来ないが、数日置き程度の頻度でルフレとルキナは肌を重ねていた。
 ルフレはルキナに気を遣っているのか、無理をさせない様にと、とにかく優しくしてくれる。
 ルフレは何時も優しいが、平時のそれを遥かに越える優しさでルキナを抱いてくれていた。
 それでルフレが欲求不満ならルキナも申し訳無くも思うが、当のルフレはそれは幸せそうにルキナを抱いているので、恐らく「無体」と言われそうな強引だったり乱暴な行為は彼の好みでは全く無いのだろう。
 ルキナとしても、「ひどい事」をされるよりは、ルフレから甘い愛の言葉を囁いて貰いながら優しく抱かれる方が良い。

 そんな風に私的な部分の生活が『夫婦』になってからより充実しているのと同様に、公的な部分の生活も充実していた。
 帰って来てから暫くの間は雑務を中心にクロムの補佐を仕事にしていたルフレであったが。現在かなり老齢に達している宰相に、その後継者にどうかとクロムやフレデリクなどが推した結果、彼のお眼鏡に適ったらしく。今は宰相補佐と言う名の宰相見習いとして日々忙しそうにしている。
 ……軍師としてイーリスを支えてきたルフレであるが、戦事にばかりその力を使う事に少し悩んでいた様なので、そうやって自分の能力を内政を支える事に役立てられるのなら、ルフレにとっては間違いなく嬉しい事であるのだろう。
 日々覚える事が山積みで大変そうではあるけれど、生き生きとしているルフレをみているとルキナも嬉しいものだ。
 元々ルフレは物覚えが良いし、要領も基本的には良い。
 料理や芸術的な絵を描く事はかなり苦手である様だけれど、まあ人間一つや二つ不得手なモノはある。
 ルキナも、訓練中に加減を誤って物を壊す事は今も多い。
 宰相補佐として忙しそうに各所を飛び回るルフレに、護衛として付いていくルキナもまた日々が充実していて。
 公私共に満ち足りた日々を、ルキナとルフレは送っていた。

 しかし最近、少し疲れが溜まっているのか、ルキナは少し自分の体調がおかしい気がするのだ。
 匂いの強い食べ物が少し苦手になったり、思えばここ最近味付けの好みも少し変わった気がする。
 また、日中でも時折眠気を感じる事があって。
 風邪でも引いただろうかと思うけれど、特には何もない。
 だけれども、ルフレはそんなルキナの変化を心配して、医者に診て貰おうと休日にルキナを連れ出した。
 そして……。



「おお、おめでとうございます。
 奥様は、ご懐妊されていますよ」


 ニコニコと微笑んでいる医者のその言葉に。
 ルフレもルキナも、思わず驚きの声を上げるのであった。






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