第六話『神竜の巫女』
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遥かなる上空へとその枝葉を広げている巨大な……一本の大木であるとは思えない程に巨大な大樹を見上げ、ルフレは言葉を喪って、ただそれを仰ぎ見る様に見上げるばかりであった。
天地を支えているかの様……と表現されていたそれが決して誇張などではなく、事実に限りなく近い事を表現していたのだと理解するばかりである。
木の幹の周りを歩くだけで一日掛かってしまうかもしれない。
よくよく見ると、幹の周囲を螺旋を描く様に気に直接板を打ち付ける様にして、遥かその頂上までそれが伸びている様に見えるけれども……。
高所に強い恐怖を感じる者は元より、豪胆な者ですらその高さと足場の狭さには冷や汗をかくしかないだろう。
こうして空からその頂上を目指そうとしているルフレ達ですら驚く程の高さまで登っていかねばならないのだから……。
目の前一杯に聳え立つ『ミラの大樹』。
その頂上に、『神竜の巫女』は居る。
……ヴァルム大陸に辿り着いてから、正規の方法で『神竜の巫女』に会おうと手は尽くしてみたのだけれども、どれも敢え無く門前払いを喰らってしまい断念せざるを得なかった。
元より、神聖にして崇高なる存在だと人々から崇められている『神竜の巫女』へと、一介の旅人がお目通り叶う可能性は殆ど無かったのだけれども……。
だがそこで諦める訳にはいかないと、強行手段ではあるけれどもルフレ達は直接頂上を目指す事にしたのであった。
今にも雲の端に届きそうな程の高みに、大樹の天辺はあった。
地上を警備する者に見付からぬ様に、そして上空で警備する者達も極力見付からぬ様にと、大樹から離れた場所から飛び立って雲の合間に隠れる様にして飛び続けて暫しして、漸くルフレ達は眼下に大樹の頂上を目にする。
無数の枝葉がまるで編み込まれる様にして足場を形成して。
大樹の中央に当たる場所に、立派な神殿が建っていてその周辺には細々とした施設がある様だ。
恐らくは眼下の神殿が、『神竜の巫女』の住まう場所である。
今から大それた事をしでかそうとしている自覚はある為、どうしても緊張してしまうけれど。
それでも、ここまで来て後に引く気はない。
ルフレはルキナに合図を出して、一気に大樹の頂上へ向けて降下した。
大樹の上で警備を行っていた者達が異常に気付き矢を番えているのが見えるが、飛んでくる矢には構わずにそのまま突っ込む様な勢いで木の上に着地し、ルキナの背から飛び降りる様にルフレも樹上に降り立つ。
木の上であると言うのにまるで地面の上であるかの様にしっかりと身体を支えられる不思議な感覚に驚いたが、それに気を取られる前に、ルフレは護身用と狩りの為に持っていた武器を転がす様に樹上に放り投げ、決して交戦の意志は無い事を示す様に無手の状態で両手を上げた。
ルキナも、敵対する気は決して無いと示す様に威嚇などと捉えられかねない唸り声は出さず、静かに姿勢を正す。
教習してきた筈の闖入者が、唐突にその様な行動に出た事に驚いたのか、警備を行っていた者達は油断無く矢を番え弦を引き絞ったままではあったが困惑した様な顔をする。
即座に殺される事は無いと判断したルフレは声を上げた。
「この様な形での突然の来訪、無礼千万の蛮行である事は百も承知の事ではありますが、どうしても『神竜の巫女』様のお力をお借りしたく、この様な無礼を働いてしまいました。
我々に『神竜の巫女』様を、そしてその敬語の方々を害しようなどと言う意図は露程もございません。
ただ、『神竜の巫女』様にお目通り願いたく──」
「ならぬ」
だがそれは、纏った凛とした女武者の一声によって遮られた。
「何処の者とも知れぬ痴れ者に巫女様を会わせる訳にいかぬ。
巫女様の御前を血で汚す事は憚られる為命は見逃してやる。
即刻ここから去ね」
彼女は剣の切っ先をルフレの首に突き付け、そう宣告する。
「いいえ、その必要は無いわ」
その瞬間、静かだが何処か神秘的な声が、その場に響いた。
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遥かなる上空へとその枝葉を広げている巨大な……一本の大木であるとは思えない程に巨大な大樹を見上げ、ルフレは言葉を喪って、ただそれを仰ぎ見る様に見上げるばかりであった。
天地を支えているかの様……と表現されていたそれが決して誇張などではなく、事実に限りなく近い事を表現していたのだと理解するばかりである。
木の幹の周りを歩くだけで一日掛かってしまうかもしれない。
よくよく見ると、幹の周囲を螺旋を描く様に気に直接板を打ち付ける様にして、遥かその頂上までそれが伸びている様に見えるけれども……。
高所に強い恐怖を感じる者は元より、豪胆な者ですらその高さと足場の狭さには冷や汗をかくしかないだろう。
こうして空からその頂上を目指そうとしているルフレ達ですら驚く程の高さまで登っていかねばならないのだから……。
目の前一杯に聳え立つ『ミラの大樹』。
その頂上に、『神竜の巫女』は居る。
……ヴァルム大陸に辿り着いてから、正規の方法で『神竜の巫女』に会おうと手は尽くしてみたのだけれども、どれも敢え無く門前払いを喰らってしまい断念せざるを得なかった。
元より、神聖にして崇高なる存在だと人々から崇められている『神竜の巫女』へと、一介の旅人がお目通り叶う可能性は殆ど無かったのだけれども……。
だがそこで諦める訳にはいかないと、強行手段ではあるけれどもルフレ達は直接頂上を目指す事にしたのであった。
今にも雲の端に届きそうな程の高みに、大樹の天辺はあった。
地上を警備する者に見付からぬ様に、そして上空で警備する者達も極力見付からぬ様にと、大樹から離れた場所から飛び立って雲の合間に隠れる様にして飛び続けて暫しして、漸くルフレ達は眼下に大樹の頂上を目にする。
無数の枝葉がまるで編み込まれる様にして足場を形成して。
大樹の中央に当たる場所に、立派な神殿が建っていてその周辺には細々とした施設がある様だ。
恐らくは眼下の神殿が、『神竜の巫女』の住まう場所である。
今から大それた事をしでかそうとしている自覚はある為、どうしても緊張してしまうけれど。
それでも、ここまで来て後に引く気はない。
ルフレはルキナに合図を出して、一気に大樹の頂上へ向けて降下した。
大樹の上で警備を行っていた者達が異常に気付き矢を番えているのが見えるが、飛んでくる矢には構わずにそのまま突っ込む様な勢いで木の上に着地し、ルキナの背から飛び降りる様にルフレも樹上に降り立つ。
木の上であると言うのにまるで地面の上であるかの様にしっかりと身体を支えられる不思議な感覚に驚いたが、それに気を取られる前に、ルフレは護身用と狩りの為に持っていた武器を転がす様に樹上に放り投げ、決して交戦の意志は無い事を示す様に無手の状態で両手を上げた。
ルキナも、敵対する気は決して無いと示す様に威嚇などと捉えられかねない唸り声は出さず、静かに姿勢を正す。
教習してきた筈の闖入者が、唐突にその様な行動に出た事に驚いたのか、警備を行っていた者達は油断無く矢を番え弦を引き絞ったままではあったが困惑した様な顔をする。
即座に殺される事は無いと判断したルフレは声を上げた。
「この様な形での突然の来訪、無礼千万の蛮行である事は百も承知の事ではありますが、どうしても『神竜の巫女』様のお力をお借りしたく、この様な無礼を働いてしまいました。
我々に『神竜の巫女』様を、そしてその敬語の方々を害しようなどと言う意図は露程もございません。
ただ、『神竜の巫女』様にお目通り願いたく──」
「ならぬ」
だがそれは、纏った凛とした女武者の一声によって遮られた。
「何処の者とも知れぬ痴れ者に巫女様を会わせる訳にいかぬ。
巫女様の御前を血で汚す事は憚られる為命は見逃してやる。
即刻ここから去ね」
彼女は剣の切っ先をルフレの首に突き付け、そう宣告する。
「いいえ、その必要は無いわ」
その瞬間、静かだが何処か神秘的な声が、その場に響いた。
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