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第一話『呪われた王女』

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 イーリス聖王国。
 アカネイア大陸を三分する国の一つで、広大な肥沃な土地を持つ、自然の恵み豊かな国だ。

 凡そ千年前に世界を滅ぼそうと暴れまわった邪竜ギムレーを退治した英雄……後に言う所の初代聖王によって建国され、初代聖王の時代から大体千年が経った今でも、版図などは時代によって異なれど、数多の国が興ってはやがて滅び行く栄枯盛衰の繰り返しの中で一つの国として生き残り続け、今も尚初代聖王の血を継ぐ聖王家によって統治されてきた。
 かつて初代聖王に邪竜を討ち世界を救う力を与えた偉大なる《神竜ナーガ》より与えられた神剣ファルシオンと、炎の紋章、そしてナーガとの契約の証として子々孫々にまで受け継がれ続ける聖痕が、この国の象徴である。
 また、《神竜ナーガ》を神と奉り信仰の要としたナーガ教の総本山としての側面を持ち、ヴァルム大陸のミラの大樹の上に住まう『神竜の巫女』と共に、イーリスの聖王家はナーガ教の信徒にとって現人神の様な扱いを受けていた。

 多くの神々や宗教が、信仰されてはやがて他の神との争いに敗れ力を喪い消えて行く中で、神竜教が千年以上もずっと強く信仰され続けたのは、偏に目に見える形での信仰の対象が存在したからなのかもしれない。

 聖王家及び聖王を君主として、地方領主や官吏や軍人などの貴族達が中心となってきた国家であり、それ故に血と慣習を尊ぶ面が強いのがイーリスの特徴であった。
 貴族制の下で長く存続した国家の宿命として、イーリスもまた貴族達の腐敗などの問題がそこらかしこで起こりつつも、それでもいきなり国が傾く様な事もなく、ゆっくりゆっくりと静かに傾いては少し持ち直すと言う浮き沈みを繰り返しながら今も尚続いていて。
 先々代聖王の時代は、一気に軍閥が拡大してしまったばかりか、隣国ペレジアとの大きな戦争を引き起こした結果、あわや国家存亡の危機……と言う所までイーリスは傾いてしまったが、先代聖王エメリナの尽力によって何とか復興を遂げ、先代聖王が流行り病で急逝した後を引き継いだ現聖王クロムによって国として安定した豊かさを取り戻していたのだった。

 初代聖王より伝わる、この世に一振りしか存在しない神竜の力を秘めし神剣──ファルシオンの担い手として選ばれ、そしてその深い懐と人々からの人望も厚いクロムは、初代聖王の再来との呼び声も高く。
 クロムの治世の間はイーリスも安泰であろうと、民達は皆そう思っている。
 だからこそ、そんな聖王クロムに嫡子たる娘が産まれた時には国中がお祭り騒ぎになったものであった。
 父譲りの深蒼の髪と瞳を持ち左眼に聖王家の証である事を示す聖痕が刻まれたその娘は、古の光の女神の名から『ルキナ』と名付けられ、優しい両親と周囲の人々からの愛情を一心に受けて、すくすくと成長していった。


 そして、ルキナが産まれてから十六年の時が過ぎる。
 ……それは奇しくも、かつて初代聖王が邪竜ギムレーを討ってから、丁度千年の節目を迎えようとしていたのであった……。




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