何時かきっと、星空の下で
◇◇◇◇◇
世界が、燃えている。
こんな絶望の世界でも、必死に生きていた人々の営みが、命が、跡形も無く熔ける様に消えていく。
屍達の怨嗟すら全てを焼き尽しながら、天をも呑み込まんばかりにとばかりに劫火が全てを喰らい尽くす。
命在る者も、無き者も、何もかもが等しく焔に消えた。
何の前触れもなく突然に王都に押し寄せてきた屍兵の大群を前に、ルキナ達は必死に抗った。
だが、圧倒的な数の暴力を前にして、兵達は傷付き倒れて行き、そして屍兵となって甦っては敵となって味方であった者達を喰らい、「死」が無尽に伝播してゆく地獄には誰も抗う事が出来なかった。ルキナは剣を手にそんな絶望と暴力と「死」しかない地獄の中を必死に駆け回って、少しでも屍兵を減らそうと、一人でも多くの無辜の人々を救おうとして戦い続けていたのだけれど。
そんな足掻きすら、全ては無為なものだとばかりに。
『それ』は、突然現れたのだ。
まず、世界に「終末」を告げるかの様な轟音が轟いた。
それと同時に身体が床から完全に浮き上がる程の振動と、無防備な身体を吹き飛ばす強烈な衝撃に襲われて。
感覚の何もかもが滅茶苦茶になって、立ち上がる事すら儘ならぬ中で、建造物が崩壊してゆく音だけが響く。
ただの一息で跡形もない程に崩落した城の壁の大穴から覗いたのは。頭部だけでもイーリス王城と王都を丸呑みにしても尚余りある程に巨大な……その頭部の全貌を把握する事すら困難な、巨大な異形の怪物……。
伝説に伝え聞く『邪竜ギムレー』それそのものだった。
「『邪竜、ギムレー』……」
世界を滅ぼさんとするその邪竜の姿をルキナが直接その目で見るのは、これが初めてであった。だからこそ。
剰りにも強大なその存在には、人の身で抗う事など不可能な存在である事を、誰に説明されるでも無く理解してしまう。
己に知性がある事を呪う程、克明に理解して、しまった。
これは、『絶望』そのものだ、と。抗えない、勝てない、と。
自分は、ここで邪竜に殺される。何も成せないまま、無数の人々から託された『希望』に何一つ応えられないままに。
それを理解して。そして、そうであるにも関わらずに。
ルキナは、ファルシオンを邪竜に向けて構えた。
そんな抵抗には何の意味も無いのは理解していた。
神竜の力が宿らぬファルシオンでは、『邪竜ギムレー』を討つ事どころか、恐らく傷一つ付ける事が出来ないのだから。
彼我の差は圧倒的で、ルキナなど羽虫以下の存在なのだろう。
だが、それでも。
最期の瞬間まで『最後の希望』で在り続ける為に。
命尽きるその瞬間まで抗わなくてはならなかった。
「来るなら、来い!
私は、『希望』は、お前なんかに屈したりはしないっ!!」
そう啖呵を切った直後に、丸呑みにせんとばかりに、ギムレーの巨大な顎が視界一杯に迫ってきた。
逃げる事など出来ない、逃げる場所などない。
「死」が、ルキナを喰い尽くそうと迫る。だからこそ。
臆しそうになる心を必死に律しながら、膝の震えを理性だけで抑えつけ。迫り来る「死」を真っ直ぐに見据えていた。
だが、人など容易く丸呑みに出来る筈のその顎は。
その身体を呑み込むその寸前に、それを「何か」が必死に押し留めようとした様に、ほんの一瞬だけ静止する。
そしてその刹那にも等しい一瞬で、また別の「何か」が自分の身体を強く引き寄せるのを感じて。
ルキナの意識は、闇の中に途絶えた。
◇◇◇◇◇
世界が、燃えている。
こんな絶望の世界でも、必死に生きていた人々の営みが、命が、跡形も無く熔ける様に消えていく。
屍達の怨嗟すら全てを焼き尽しながら、天をも呑み込まんばかりにとばかりに劫火が全てを喰らい尽くす。
命在る者も、無き者も、何もかもが等しく焔に消えた。
何の前触れもなく突然に王都に押し寄せてきた屍兵の大群を前に、ルキナ達は必死に抗った。
だが、圧倒的な数の暴力を前にして、兵達は傷付き倒れて行き、そして屍兵となって甦っては敵となって味方であった者達を喰らい、「死」が無尽に伝播してゆく地獄には誰も抗う事が出来なかった。ルキナは剣を手にそんな絶望と暴力と「死」しかない地獄の中を必死に駆け回って、少しでも屍兵を減らそうと、一人でも多くの無辜の人々を救おうとして戦い続けていたのだけれど。
そんな足掻きすら、全ては無為なものだとばかりに。
『それ』は、突然現れたのだ。
まず、世界に「終末」を告げるかの様な轟音が轟いた。
それと同時に身体が床から完全に浮き上がる程の振動と、無防備な身体を吹き飛ばす強烈な衝撃に襲われて。
感覚の何もかもが滅茶苦茶になって、立ち上がる事すら儘ならぬ中で、建造物が崩壊してゆく音だけが響く。
ただの一息で跡形もない程に崩落した城の壁の大穴から覗いたのは。頭部だけでもイーリス王城と王都を丸呑みにしても尚余りある程に巨大な……その頭部の全貌を把握する事すら困難な、巨大な異形の怪物……。
伝説に伝え聞く『邪竜ギムレー』それそのものだった。
「『邪竜、ギムレー』……」
世界を滅ぼさんとするその邪竜の姿をルキナが直接その目で見るのは、これが初めてであった。だからこそ。
剰りにも強大なその存在には、人の身で抗う事など不可能な存在である事を、誰に説明されるでも無く理解してしまう。
己に知性がある事を呪う程、克明に理解して、しまった。
これは、『絶望』そのものだ、と。抗えない、勝てない、と。
自分は、ここで邪竜に殺される。何も成せないまま、無数の人々から託された『希望』に何一つ応えられないままに。
それを理解して。そして、そうであるにも関わらずに。
ルキナは、ファルシオンを邪竜に向けて構えた。
そんな抵抗には何の意味も無いのは理解していた。
神竜の力が宿らぬファルシオンでは、『邪竜ギムレー』を討つ事どころか、恐らく傷一つ付ける事が出来ないのだから。
彼我の差は圧倒的で、ルキナなど羽虫以下の存在なのだろう。
だが、それでも。
最期の瞬間まで『最後の希望』で在り続ける為に。
命尽きるその瞬間まで抗わなくてはならなかった。
「来るなら、来い!
私は、『希望』は、お前なんかに屈したりはしないっ!!」
そう啖呵を切った直後に、丸呑みにせんとばかりに、ギムレーの巨大な顎が視界一杯に迫ってきた。
逃げる事など出来ない、逃げる場所などない。
「死」が、ルキナを喰い尽くそうと迫る。だからこそ。
臆しそうになる心を必死に律しながら、膝の震えを理性だけで抑えつけ。迫り来る「死」を真っ直ぐに見据えていた。
だが、人など容易く丸呑みに出来る筈のその顎は。
その身体を呑み込むその寸前に、それを「何か」が必死に押し留めようとした様に、ほんの一瞬だけ静止する。
そしてその刹那にも等しい一瞬で、また別の「何か」が自分の身体を強く引き寄せるのを感じて。
ルキナの意識は、闇の中に途絶えた。
◇◇◇◇◇