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現の狭間、悪夢の終わり

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 私は“その人”を憎んでいた。

 お父様に誰よりも信頼されていたのに、それを裏切ってお父様を殺した裏切者。
 世界を絶望に落としたのであろう“その人”を。
 私は、恨んでいた。

 必ず帰ってくると、あの日私に約束した“その人”は。
 同じく戦いに赴いたお父様と共に、二度とは私の元へ帰ってくる事は無くて。

 “その人”が裏切者であったのだとは、お父様の仲間達は誰も言わなかった。
 だけれども。
 “その人”の名を出す度に、皆が哀しそうに目を伏せ、「どうか君だけはあの人を憎まないであげてくれ」とそう言う。

 だからこそ、ああ、“あの人”が、と。
 “あの人”がお父様を殺したのだと。
 そう私は確信して。

 絶望しか無い未来を変える為に過去へと跳んだ時に。
 その機会が来たら“その人”を殺すつもり……であった。


 だけれども。
 過去のお父様に自らの正体を明かし、そしてそれを受け入れて貰って軍に合流して、“その人”を見定めている内に、私の中に迷いが生じた。
 知れば知る程に、接すれば接する程に。
 …………何時かはお父様を裏切るのであろう、“その人”は……ルフレさんは。
 そんな事は絶対に有り得ないとも断言出来る程にお父様と強い絆で結ばれているのが、誰に言われずとも理解してしまった。
 もし裏切りを強要されそうになったら、お父様を害する位ならば迷わずに自害するであろう事も。
 ……それはきっと、この“過去”だけではなく、あの“未来”だって、そうだったのだろう。
 だからこそ、「どうして?」と思わざるをえない。

 どうしてここまで強い絆で結ばれているのに。
 何故、あの“未来”はあの様な終焉を迎えなければならなかったのか、と。

 私には、分からなかった。
 分からないからこそ、私はルフレさんを観察した。
 観察して、交流する内に。
 そうして私はいつの間にか、ルフレさんを想い慕い恋い焦がれる様になり。
 そして、何時か“終わりの時”が来ると分かっていながらも、ルフレさんと結ばれた。


 ……それでも、疑問の答えは見付からないままだった。


 あの未来の“ルフレ”さんは何を思っていたのだろう。
 何を願っていたのだろう……。
 ……そして、何故、裏切ったのだろう。


 “ルフレ”さんとお父様の間にも絆があったのではないのだろうか、と。
 憎しみを向けるべき相手では無いのではないのか、と。
 そう思い悩むけれども、私の答えは出ないままだった。






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