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何時かの未来から、明日の君へ

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 それは、そろそろルキナの誕生日が近付いてきた夜の事。
 ルキナは何時もの様に『幽霊さん』と話をしていた。
 そして、そろそろ眠る時間だからと、ルキナが部屋に帰ろうとしたその時。
 横に居た『幽霊さん』の姿が、ルキナの視界から消えた。


「ゆうれいさん? どこですか?」


 ルキナは一瞬、『幽霊さん』が少し悪戯して何処かに隠れてしまったのだろうかと思った。
 だけれども、どれ程呼んでも探しても『幽霊さん』の姿は見付けられなくて。
 ルキナが思わず涙ぐんでしまうと、急に再び『幽霊さん』が姿を現した。だがその様子は何だかおかしい。


「ゆうれいさん! どこにいっていたのですか! 
 さがしていたのですよ!」

『いや、僕は……ずっと君の傍に居たよ。
 何度も声を掛けていたし、君のすぐ横に居た……。
 君が、僕の姿が見えなくなっていたんだ……』


 他の人達と、同じ様に。と。
『幽霊さん』はそう言って、寂しそうに微笑んだ。


『……もしかしたら、君がこうして僕の姿が見える様になっていたのは、本当に一時の偶然で……。
 ……君にとって、本来在るべき状態に、戻ろうとしているのかもしれないね』


 仕方ないね、とでも言いた気な彼に、ルキナは思わず食って掛かった。


「それじゃあ、またゆうれいさんが一人ぼっちになってしまうじゃないですか! 
 それなのにどうしてそんな風にわらっているんですか!」


 ルキナが『幽霊さん』を見付けられなくなると言う事は、また『幽霊さん』が独りぼっちになってしまうと言う事だ。
 話しかけても、目の前に居ても。
 ルキナは彼に気付けないし、だからこそ彼を「存在しないモノ」として扱うのだろう。
 そこに居ると言う前提で話してみても、彼の言葉が聴こえない以上はそれはただのルキナの独り言にしかならない。
 それは、……それはとても哀しい事だと思うのだ。
 とても辛くて苦しい事だと思うのだ。
 こうして友達になった筈のルキナから、そんな風に扱われる事は、他の人達に気付いて貰えない事以上に、彼にとっては苦しい事では無いかと、ルキナには思うのだ。
 それに、もしかしたら目の前に『幽霊さん』が居て、声も届かず姿も見付けて貰えない事に寂しそうな表情をしているのではないかと思うと、ルキナの胸は騒めき続けるだろう。
 その姿が見えないからこそ、その声が届かないからこそ。
 ルキナの想像の中での彼は、寂しそうな顔を浮かべ続ける。
 それは、とても辛い事だ。
 彼にとっても、そして何よりルキナにとっても。
 だからこそそれを、仕方無い事だと、そう諦める様に笑う事なんてルキナには出来ないのだ。

 だけれども、ルキナのそんな言葉に『幽霊さん』は少しだけ嬉しそうな顔で微笑んで、優しく諭す様に言う。


『……有難う、そう言ってくれて、嬉しいよ。
 ……でもね、……僕は、これで良いと思っているんだ。
 ……他の誰とも共有出来ないモノを見る事は、君にとってそう良い事では無い。
 僕はもうどうあっても「生きているモノ」にはなれない。
 ただそこに存在するだけの、ただの幻影の様なモノだ。
 ……そんなモノに関わり過ぎる事も、そしてそれに心を預け過ぎる事も、……君の「未来」に良い事では無いさ』


 他の人達と同じ様に、『幽霊』など見えない世界で生きられるなら、それが一番なのだと、『幽霊さん』は言う。
 ルキナには、彼の言っている意味もその意図も、全く分からなかった。彼がルキナの事を想って言っているのは分かったけれど、どうしてそんな事を言うのかは理解出来ない。
 それは幼さ故とも言えるし、……或いはそこまで自分の心を殺してでも誰かの事を考える経験はまだ無いからであった。

 彼を見付けられなくなるなんて納得出来る訳ないと、そうルキナは思っていたのだけれども、現実は非常なモノで。
 それからも、『幽霊さん』の姿を見失う事は増え、その頻度が増していく中でとうとう『幽霊さん』の姿が見えている時間の方がずっと少なくなっていって。
 傍に居る筈なのに、その姿は見えないし、声も聞こえない。
 それなのに、彼はそれを仕方ないと微笑むのだ。
 それが、ルキナにはとても悲しかった。


 そして、ルキナの誕生日がやって来たのであった。




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