このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

幸せの食卓

◇◇◇◇◇






 ルキナがそれに気付いたのは、本当に些細な偶然によってであった。
 行軍の合間にルフレは何時もの様に自分の天幕に籠って策を練っていた筈だったのだが、ちょっとした用事でルキナがルフレの天幕を訪ねた時にはもぬけの殻だったのだ。
 ルフレには、考えが煮詰まってくると野営地の近くをフラフラ散歩する癖があるから、それで不在なのだろうか?とルキナはその時は大して気にも留めなかったのだが。
 先に他の用事を片付けようとルフレの天幕を後にして炊事場の近くを通り掛かった時、何か悩んでいる様な……そんな表情をしたルフレとすれ違った。
 左手に持った手帳に視線を落としながら口元に右手をあてて考え込みながらスタスタと歩いていくルフレは、ルキナとすれ違った事にすら気が付いてなかった。
 人一倍気配に敏感なルフレが、ルキナが近くにいる事にすら気が付かないと言うのは初めての事で。
 それに驚いてしまったルキナは、ルフレに声を掛ける事すら忘れてその場に立ち竦んでしまった。

 すれ違ったのに気付かれなかったと言う程度の事で、それ自体は取り立てて気にする様な事では無いのだろうけれど。
 だが、あのルフレが……と言う点が、訳もなくルキナの心に不安の影を落とした。

 何か深刻な悩みでも抱えているのではないか、と。
 そしてそれを隠しているのではないか、と。

 考えすぎなのかもしれないが、どうしてもその想いを払拭する事が出来ず、ルキナは少しばかりの後ろめたさを感じながらもルフレの様子を探る事にした。

 ルキナがよりルフレを観察する様になっても、基本的にルフレは何時もと変わらない様であった。
 相変わらず忙しそうに軍師としての仕事に追われているし、恋人としてルキナと接する時の様子も前と変わりはない。
 ただ。
 数日に一回程度の頻度で、ルフレの姿を見掛けない時がある事に気が付いた。
 何処かで散歩しているのか、はたまた誰かと話し込んでいるのかと思っていたが、仲間たちや父に訊いてみてもその時間帯にルフレが何をしているのか知っている人は一人も居なかった。
 フレデリクには少しだけ思い当たる節があった様なのだが、「気にしなくても大丈夫」とだけしか答えてくれず、結局ルフレが何をしているのかは分からずじまいである。

 フレデリクが「大丈夫」と言うからには、ルフレは何か危険な事をしている訳ではないのだろうけれど……。
 だからと言ってそれで安心出来るのかと言われればそれとこれとは話が別だ。
 なら直接ルフレに訊くのが早いのであろうけれど、それはそれで本当にそうしていいのか悩んでしまう。
 もしルフレがルキナに対して隠そうとしている事ならば、正面切って訊いた所ではぐらかされてしまうだろうし、二度とルキナに悟られない様により隠密に事を進めようとしてしまうだろう。
 なら、動かぬ証拠を握った上で問い質すべきなのでは……?

 悶々とルキナは悩むが、良い解決法方はこれっぽっちも浮かんでくる事は無かった。





◆◆◆◆◆
4/7ページ