恋物語も今は遠く
◇◇◇◇◇
それは遠い昔……いえ、きっとそれよりは少しだけ未来の事。
ある所に一人のお姫様が居ました。
神様に見守られた豊かで平和な国に産まれ、優しい王様とお妃様に愛されて、お姫様はとてもとても幸せな毎日を過ごしていました。
でも、そんな幸せもある日突然終わってしまいます。
とてもとても強くて恐ろしい『悪い竜』が、その国を襲ったのです。
優しく勇敢な王様は国やお姫様を守る為に『悪い竜』と戦い、そして二度とは帰って来ませんでした。
そして、お姫様を守る為にお妃様も『悪い竜』と戦い……帰らぬ人となったのです。
……お姫様は独りぼっちになってしまいました。
『悪い竜』はお姫様から家族を奪っただけでは飽きたらず、沢山の人々から沢山の大切なモノを奪っていきました。
王様の他にも沢山の勇敢な人々が『悪い竜』と戦いましたが、誰も……誰一人として帰って来ませんでした。
誰一人として『悪い竜』を倒せる者はなくて、『悪い竜』はますます沢山の人達を苦しめました。
お姫様の国だけではなく、砂漠の国も氷の国も、海の向こうにある沢山の国まで。
『悪い竜』は世界中で暴れまわり、そしてそれだけ沢山の人々を苦しめたのです。
苦しむ人々は神様に助けを求めましたが、神様でも『悪い竜』は倒せなかったのです。
それでも独りぼっちになってしまったお姫様は、『悪い竜』を倒す事を諦めませんでした。
王様から受け継いだ剣を手に、来る日も来る日も戦い続けていたのです。
でも……『悪い竜』はあまりにも強くて、お姫様が何れだけ頑張っても全く歯が立ちませんでした。
どんなに勝ち目が無くても戦い続けるお姫様の下に、ある日神様からの声が届きます。
神様でも倒せない『悪い竜』を倒すには、『悪い竜』が現れる時よりも前に時間を遡って『悪い竜』が現れるのを防ぐ他に無い、と。
そして、お姫様に過去に行って『悪い竜』が現れない様にしてほしいと、神様はお姫様に頼みました。
過去を変えてしまう事に最初はお姫様も躊躇いましたが、『悪い竜』を倒すにはそれしか無い事と、大好きなお父さんとお母さんを助けられるかもしれない事を考えて、神様の言う通りにする事にしました。
そして、お姫様は神様の力によって過去へと向かったのでした。
過去にやって来て『悪い竜』が現れるのを防ごうとしていたお姫様が出会ったのは、お姫様が産まれたばかりの王様と、王様のお友達の王子様でした。
王子様の事を知らなかったお姫様はビックリしてしまいましたが、王様と王子様はとてもとても仲良しなお友達だったのです。
過去を変えてしまう事に怯えながらも、お姫様は二人に未来で何が起きたのか未来がどうなってしまうのかを語りました。
それはまるで嘘の様な本当の話でしたが、王様と王子様はそんな未来から来たお姫様の言う事を信じて、『悪い竜』が現れない様にしようと約束してくれました。
でも、未来からやって来たお姫様にも、どうして『悪い竜』が現れる事になったのかは分かりません。
だから、お姫様と王様と王子様は、旅をして『悪い竜』がどうして現れたのかを調べました。
一緒に沢山の冒険をする内に、お姫様は優しい王子様の事が大好きになり恋をしました。
でも、お姫様は本当なら未来に生きるべき人です。
本当ならそこには居ない筈のお姫様が王子様と結ばれて良いのか、そんな事が許されるのか……お姫様には分かりませんでした。
だから、お姫様は中々王子様にその想いを告白出来ませんでした。
そして──
お姫様達は、長い長い冒険の末に、『悪い竜』がどうして現れたのかを突き止める事が出来ました。
そして、『悪い竜』が現れるのを防ぐ方法と同時に、『悪い竜』を本当に倒す方法も。
『悪い竜』が現れるのを防ぐ方法を使ってもお姫様がやって来た“未来”の様にはなりません、それでもそれはずっと続く訳ではありませんでした。
お姫様の孫の更にその孫の……もっとずっと遠い子孫の時代の事になりますが、その時には再び『悪い竜』が現れようとしてしまうのです。
それは、『悪い竜』が現れる時を先延ばしにする事しか出来ない方法でした。
でも、お姫様はそれでも良かったのです。
何時か、お姫様の遠い子孫が『悪い竜』によって苦しむ事になるのかもしれなくても……。
何故なら、『悪い竜』を本当に倒す為には。
王子様の命が、必要だったから。
王子様が『悪い竜』を倒せば、『悪い竜』はもう二度と現れなくなります。
でも、それと同時に、王子様もこの世から消えてしまうのです。
それを知った王子様は、自分の命と引き換えに『悪い竜』を滅ぼそうとします。
お姫様も王様も、王子様を止めました。
大好きな王子様の命と、遠い遠い未来の誰かの笑顔。
どちらも大切なその二つを秤に掛けて、お姫様も王様も王子様を選びました。
でも、自分を引き止めるお姫様と王様に、王子様は静かに微笑んで首を横に振ります。
「どうして?」
お姫様は王子様に訊ねました。
『悪い竜』を倒してしまえば、王子様は死んでしまうのに。
すると、王子様は優しく答えました。
「僕の大切な人の為にこの命が役に立てるのなら、それは僕にとってとても“幸せ”な事なのです。
僕が『悪い竜』を倒す事で、お姫様と王様が幸せになれるなら、そして二人の子孫が幸せになれるなら。
僕はそれで良いのです」
王子様は、自分の命を差し出す覚悟をもう決めてしまっていました。
お姫様は、王子様のその決意を変えさせようと、胸に秘めていた想いを打ち明けました。
「王子様、どうか死なないで下さい。
私は、王子様を愛しています。
『悪い竜』を倒せなくても、王子様が居てくれるだけで私は幸せなのです」
でも、お姫様の告白も、王子様を引き止める事は出来ませんでした。
「お姫様、僕もあなたの事を愛しています。
愛しているから、僕は『悪い竜』を倒さなければならないのです」
そう言って、王子様は『悪い竜』を倒しました。
『悪い竜』はこの世から消え去り、それと同時に王子様の姿も消えてしまいます。
…………後には、王子様を喪ったお姫様と王様だけが残されました。
王子様が消えてしまった後もお姫様は未来に帰りませんでした。
もしかしたら、王子様が帰ってきてくれるかもしれないと。
そう願いながら、お姫様は王子様を探して旅を続けています。
……おしまい。
◇◇◇◇◇
それは遠い昔……いえ、きっとそれよりは少しだけ未来の事。
ある所に一人のお姫様が居ました。
神様に見守られた豊かで平和な国に産まれ、優しい王様とお妃様に愛されて、お姫様はとてもとても幸せな毎日を過ごしていました。
でも、そんな幸せもある日突然終わってしまいます。
とてもとても強くて恐ろしい『悪い竜』が、その国を襲ったのです。
優しく勇敢な王様は国やお姫様を守る為に『悪い竜』と戦い、そして二度とは帰って来ませんでした。
そして、お姫様を守る為にお妃様も『悪い竜』と戦い……帰らぬ人となったのです。
……お姫様は独りぼっちになってしまいました。
『悪い竜』はお姫様から家族を奪っただけでは飽きたらず、沢山の人々から沢山の大切なモノを奪っていきました。
王様の他にも沢山の勇敢な人々が『悪い竜』と戦いましたが、誰も……誰一人として帰って来ませんでした。
誰一人として『悪い竜』を倒せる者はなくて、『悪い竜』はますます沢山の人達を苦しめました。
お姫様の国だけではなく、砂漠の国も氷の国も、海の向こうにある沢山の国まで。
『悪い竜』は世界中で暴れまわり、そしてそれだけ沢山の人々を苦しめたのです。
苦しむ人々は神様に助けを求めましたが、神様でも『悪い竜』は倒せなかったのです。
それでも独りぼっちになってしまったお姫様は、『悪い竜』を倒す事を諦めませんでした。
王様から受け継いだ剣を手に、来る日も来る日も戦い続けていたのです。
でも……『悪い竜』はあまりにも強くて、お姫様が何れだけ頑張っても全く歯が立ちませんでした。
どんなに勝ち目が無くても戦い続けるお姫様の下に、ある日神様からの声が届きます。
神様でも倒せない『悪い竜』を倒すには、『悪い竜』が現れる時よりも前に時間を遡って『悪い竜』が現れるのを防ぐ他に無い、と。
そして、お姫様に過去に行って『悪い竜』が現れない様にしてほしいと、神様はお姫様に頼みました。
過去を変えてしまう事に最初はお姫様も躊躇いましたが、『悪い竜』を倒すにはそれしか無い事と、大好きなお父さんとお母さんを助けられるかもしれない事を考えて、神様の言う通りにする事にしました。
そして、お姫様は神様の力によって過去へと向かったのでした。
過去にやって来て『悪い竜』が現れるのを防ごうとしていたお姫様が出会ったのは、お姫様が産まれたばかりの王様と、王様のお友達の王子様でした。
王子様の事を知らなかったお姫様はビックリしてしまいましたが、王様と王子様はとてもとても仲良しなお友達だったのです。
過去を変えてしまう事に怯えながらも、お姫様は二人に未来で何が起きたのか未来がどうなってしまうのかを語りました。
それはまるで嘘の様な本当の話でしたが、王様と王子様はそんな未来から来たお姫様の言う事を信じて、『悪い竜』が現れない様にしようと約束してくれました。
でも、未来からやって来たお姫様にも、どうして『悪い竜』が現れる事になったのかは分かりません。
だから、お姫様と王様と王子様は、旅をして『悪い竜』がどうして現れたのかを調べました。
一緒に沢山の冒険をする内に、お姫様は優しい王子様の事が大好きになり恋をしました。
でも、お姫様は本当なら未来に生きるべき人です。
本当ならそこには居ない筈のお姫様が王子様と結ばれて良いのか、そんな事が許されるのか……お姫様には分かりませんでした。
だから、お姫様は中々王子様にその想いを告白出来ませんでした。
そして──
お姫様達は、長い長い冒険の末に、『悪い竜』がどうして現れたのかを突き止める事が出来ました。
そして、『悪い竜』が現れるのを防ぐ方法と同時に、『悪い竜』を本当に倒す方法も。
『悪い竜』が現れるのを防ぐ方法を使ってもお姫様がやって来た“未来”の様にはなりません、それでもそれはずっと続く訳ではありませんでした。
お姫様の孫の更にその孫の……もっとずっと遠い子孫の時代の事になりますが、その時には再び『悪い竜』が現れようとしてしまうのです。
それは、『悪い竜』が現れる時を先延ばしにする事しか出来ない方法でした。
でも、お姫様はそれでも良かったのです。
何時か、お姫様の遠い子孫が『悪い竜』によって苦しむ事になるのかもしれなくても……。
何故なら、『悪い竜』を本当に倒す為には。
王子様の命が、必要だったから。
王子様が『悪い竜』を倒せば、『悪い竜』はもう二度と現れなくなります。
でも、それと同時に、王子様もこの世から消えてしまうのです。
それを知った王子様は、自分の命と引き換えに『悪い竜』を滅ぼそうとします。
お姫様も王様も、王子様を止めました。
大好きな王子様の命と、遠い遠い未来の誰かの笑顔。
どちらも大切なその二つを秤に掛けて、お姫様も王様も王子様を選びました。
でも、自分を引き止めるお姫様と王様に、王子様は静かに微笑んで首を横に振ります。
「どうして?」
お姫様は王子様に訊ねました。
『悪い竜』を倒してしまえば、王子様は死んでしまうのに。
すると、王子様は優しく答えました。
「僕の大切な人の為にこの命が役に立てるのなら、それは僕にとってとても“幸せ”な事なのです。
僕が『悪い竜』を倒す事で、お姫様と王様が幸せになれるなら、そして二人の子孫が幸せになれるなら。
僕はそれで良いのです」
王子様は、自分の命を差し出す覚悟をもう決めてしまっていました。
お姫様は、王子様のその決意を変えさせようと、胸に秘めていた想いを打ち明けました。
「王子様、どうか死なないで下さい。
私は、王子様を愛しています。
『悪い竜』を倒せなくても、王子様が居てくれるだけで私は幸せなのです」
でも、お姫様の告白も、王子様を引き止める事は出来ませんでした。
「お姫様、僕もあなたの事を愛しています。
愛しているから、僕は『悪い竜』を倒さなければならないのです」
そう言って、王子様は『悪い竜』を倒しました。
『悪い竜』はこの世から消え去り、それと同時に王子様の姿も消えてしまいます。
…………後には、王子様を喪ったお姫様と王様だけが残されました。
王子様が消えてしまった後もお姫様は未来に帰りませんでした。
もしかしたら、王子様が帰ってきてくれるかもしれないと。
そう願いながら、お姫様は王子様を探して旅を続けています。
……おしまい。
◇◇◇◇◇