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現の狭間、悪夢の終わり

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 クロムをこの手で殺しギムレーと成り果てても、“僕”の魂は完全には消えなかった。
 ……消える事すらも許されなかったとも言える。

 そこに救いなどは欠片も無くて。
 何も出来ず、ギムレーが僕が守りたかった全てを壊していくのを、ただ見ている事しか出来なかった。

 ……それは、存在自体が罪であった僕への罰だったのだろうか。

 地獄の責め苦の中で魂を砕き心を壊してしまえたのならまだ楽であったかもしれないが、存外図太い僕はそれを耐え抜いてしまっていた。
 怨嗟を絶望を慟哭を悲哀を、見届ける事しか出来ず。
 どうか誰かギムレーを──“僕”を殺してくれと祈り願いながら、ギムレーが全てを嘲笑う様に命を吹き散らして行くのを、“僕”を取り戻そうと立ち向かってくれた大切な仲間達を態々“僕”の姿で殺し、あまつさえその遺骸を弄ぶ様を見せ付けられ続けた。

 そしてルキナを追って過去へ跳躍したギムレーと共にこの過去へとやって来て。
 この時間に本来居たかつての僕──“ルフレ”へとギムレーの記憶や心が流れ込むのと同時に、僕の魂の欠片もルフレへと流れ込んだ。
 ……流れ込んだと言っても、欠片でしかない僕には相変わらず“ルフレ”に干渉する事も出来ずその内から見ている事しか出来なかった訳なのだが。

 僕は“ルフレ”と共に世界を見てきた。
 “ルフレ”の想いを感じながら、願わくばこの“ルフレ”が僕の様な結末を辿らない事を祈りながら、僕はただ見ているだけだったのだ。
 それは、“ルフレ”の前にルキナが現れてからも、そして“ルフレ”とルキナが惹かれあい結ばれてからも変わらなかった。

 僕からすれば、僕にとっての“小さなお姫様”と“ルフレ”が結ばれるのは内心複雑なモノがあるが、二人は確かに想い合っているのだし、そもそも最早“ルフレ”と僕は違う人生を歩んだ人間である。
 だから、僕は。
 散々僕の所為で“幸せ”を奪われ続けてきたルキナがやっと見付けた幸せを、心から祝福していた。

 僕と同じく“器”である“ルフレ”との愛にはこの先幾つもの障害が待ち受けているのは分かっていた。
 だが、その障害に、絶望に、対処する術が無い訳でもないのだ。
 ……僕にはその選択肢が無かっただけで。
 僕がその選択肢に気付けたのだ。
 その時が来たら、“ルフレ”も必ずその選択肢に気付けるだろう。
 後は、“ルフレ”が繋いだ絆がその選択肢の行く末を決める筈だ。
 “ルフレ”の内からずっと見守ってきたからこそ、“ルフレ”とルキナならばその選択肢の先を乗り越えられると確信していた。


 だが、そう思っていた矢先に、ルキナが呪術に囚われたのだ。
 幾つもの生命を弄び喰らい合わせ作り上げた歪な呪物を核とした、呪術自体が意思を持ち対象を喰らおうとする悪質極まりない呪術に、よりにもよってルキナが……。
 このままでは、ルキナの魂が跡形もなく食い尽くされてしまうのが僕には分かってしまった。
 だが、見ている事しか出来ぬ欠片でしかない僕に出来る事など……と成す術も無い状況に絶望していたその時だった。

 “ルフレ”が何も出来ぬ己でもせめて何かをしてやりたい一心でルキナの手を握り続けた其処に、ルキナが囚われた呪術の闇へと繋がる路が生まれていた事に気付いた。
 愛し合い想い合う“ルフレ”とルキナの『想い』と絆が繋いだその路は……。
 魂の状態である僕にしか通れない、そしてその先に行けば二度と戻れない路だった。
 ルキナを呪術から解放しても、僕は呪術諸共消滅するしかない。

 だが、ルキナを助ける術が其処にあるのだから、僕が躊躇する理由なんて何処にも無かった。
 元より僕は既に死んだ者だ、ここまでおめおめと見ている事しか出来ぬ欠片として“ルフレ”の中に存在し続けてしまったのは、きっと今日この日にルキナを助ける為だったのだろうと。
 そう確信し、僕はルキナの救出に向かった。




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