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現の狭間、悪夢の終わり

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 まっ暗なやみの中をどれくらい歩きつづけていたのでしょう。
 わたしの手を引いてみちびいてくれるその人は、歩きながらポツポツと色んなことをわたしにはなしてくれました。

 それは、むかしむかしにだれかからきいた事がある気がするおとぎ話だったり、だれかのお話だったりしました。
 その人は、わたしのことについてもたくさん話してくれます。
 わたしがうまれた日のこと、はじめてわたしにであった日のこと……。
 たくさんたくさん話してくれました。
 わたしはやっぱりその人を知っている気がします。
 でも、どうしても思い出せないのです。

 その人がそうやって話してくれるたびに、虫くいだらけだった思い出がゆっくりとうまっていきました。
 それなのに、どうしても。
 その人のことだけはずっとモヤがかかったままです。

 であった時よりもわたしのせたけはうんとのびてめせんが近くなったのに、それでもその人のフードの下の顔は分からないままでした。


「あの」


 そうよびかけると、その人は足を止めずにふりむきます。


「どうかしたのかい、ルキナ?
 疲れたのならおぶろうか?」


 やさしくたずねてくるその人に、つかれたわけじゃないのだと首をよこにふりました。
 少しだけおんぶと言うことばには心ひかれましたけれど、まだまだじぶんの足であるいていけます。


「あの、あなたのことを、なんてよんだらいいですか?」


 その人のことを思い出せないわたしには、その人をなんてよべばいいのかわかりません。
 でも、よぶ名前がないのはとてもふべんですしさみしいです。
 だから、わたしはそうたずねました。
 すると、その人は少しかんがえるようにだまって……。


「うーん……。じゃあ、『おじさん』でどうかな?」


 とこたえてくれました。


「『おじさん』?」


 なんどかつぶやいて、そのことばをたしかめます。
 まだ思い出せませんが、なぜだかそのよびかたはとてもしっくりきました。
『おじさん』とよびかけると、おじさんはうれしそうにわらいます。
 でも、そのえがおは少しだけさみしそうです。
 さみしいの?とたずねても、おじさんはやさしく首をよこにふるだけでした。
 おじさんとのきおくをまだ思い出せないわたしには、なんでさみしそうにするのかはわかりません。
 きおくをとりもどしたら、おじさんがさみしそうにしなくてもすむのでしょうか?

 そのこたえはわからないまま、わたしはおじさんの手をしっかりとにぎりなおして、歩きつづけます。
 そんなわたしを、おじさんはやさしくみちびいてくれるのでした。





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