ルフルキ短編
◇◇◇◇◇
人は誰しも長所と短所を併せ持つもので、見る人によれば長所が短所に、短所が長所に見える事もあるだろう。
また、何れ程良い気質であっても、過ぎたれば却ってその良さを損なう事も多い。
『痘痕も靨』やら『恋は盲目』やらと、好いた相手の短所は不思議と見えなくなっていくものであると言うが、しかし逆に愛しているからこそ見えてくる欠点と言うモノもあるのであろう。
そう例えば、今ルキナを悩ませているルフレの“欠点”の様に。
ルフレは、基本的に大概の事を卒なくこなす器用さがあり、人格的な部分にもほぼと言って良い程に瑕疵は無い。
作る料理の尽くが鋼の様な味になったり、絵を描いたりするのは不得意の様ではあるけれど、それらはルキナとしては別段欠点であるとは思っていなかった。
ルキナにとってどうしても看過出来ないルフレの欠点は、たった一つだけ。
ルフレが、自分の身を顧みない事だ。
ルフレは、献身的と言う言葉では表し切れない程に、自己犠牲を厭わない。
ルフレは、彼が守りたいと思っているモノの中に、自分自身だけは入れないのだ。
破滅願望がある……と言う訳ではないけれど、それでも自らの身を削って他人に尽くす事を厭わないその姿勢は、ルキナを酷く不安にさせるのだ。
何時か、ルフレがその自己犠牲の果てにルキナ達を遺し何処か遠くへと去ってしまう様な気がして。
そんな日が訪れる事が無い様に。
ルフレが少しでも自己犠牲を躊躇う様な……そんな未練になりたくて。
ルキナは今日も、ルフレの指先を絡め取る様に、その手を繋いだ。
◆◆◆◆◆
“選ばれる”とは、時にそれは剰りにも重く苦しい枷となるのではないだろうか。
隣を歩くルキナの、その腰に提げられたファルシオンを見る度に、ルフレはそう思ってしまう。
資格が泣ければ振るう事も叶わないその神剣は、この時代に於いてはイーリスと言う国の王権の象徴でありその血統の正当性を証明するモノでもあった。
しかし、ルキナが本来生きるべきだった時代、ルフレにとっては未来に当たる時間では、ファルシオンは人々に残された“希望”その物であった。
古の時代に初代聖王に討たれた邪竜が甦ってしまったと言う未来で、神剣に選ばれたと言う事は、果たしてルキナにとって救いであったのだろうか……とルフレはどうしても思ってしまうのだ。
聖王家の血筋にあっても幾代にも渡って担い手が現れない事もざらにあったと言う神剣に、父であるクロムに引き続き選ばれた……選ばれてしまったルキナは、そうであるが故に抗い続ける事を余儀無くされた。
……未来の人々にとっては、ギムレーを討ち得るファルシオンの担い手が存在する事は、何よりの救いであり縋るべき“希望”であったのだろうけれど。
幾千万の人々の願いを、想いを、期待を背負い続ける事になった、ルキナは……。
その細い肩で、全てを背負ってきたのだろう。
その重荷を投げ出す事なく背負い戦い続け、過去に遡ってまでその責務を果たそうとするルキナに、その荷を分かち合える人は居たのだろうか……?
勿論、未来でもこの過去にも共に戦う仲間達は居る。
だけれども、唯一無二の“ファルシオンの担い手”と言う枷は、それがもたらす重荷は、……きっと誰とも分かち合えないものだったのではないかと思ってしまうのだ。
真実“自分の代わり”となる者が居ない恐怖。
自分が倒れてしまえば、最早“後がない”事への絶望。
ルキナが抱えてきたそれらはきっと、同じくファルシオンの担い手であるクロムですら、完全に理解してやる事は出来ないモノなのではないだろうか。
無論、ここでこうやってルキナを案じるルフレにすら、それらの苦悩はきっと共感する事ですら到底叶わない事なのだろう。
……そう思えば、ルキナはどうしようもなく孤独であるのかもしれない。
それでも尚、抗う事を諦めなかったその強さが、絶望の泥濘を掻き分けてでも前に進もうとするその意志の焔が。
ルフレにとっては、言葉にする事も出来ない程に愛しく、そして同時にもどかしい程に哀しいのだ。
何時か、……そう、ギムレーの復活を阻止して、未来を確実に変えたその先の遠い何時かで。
ルキナが、背負い続けたその重責から、真の意味で解放されるその日が来る事を願って。
そしてその時に、願わくば自分がその傍に在れる事を祈って。
ルフレは今日もルキナの手を、何があっても決して離さない様に、優しく握り締めるのであった。
◇◇◇◇◇
人は誰しも長所と短所を併せ持つもので、見る人によれば長所が短所に、短所が長所に見える事もあるだろう。
また、何れ程良い気質であっても、過ぎたれば却ってその良さを損なう事も多い。
『痘痕も靨』やら『恋は盲目』やらと、好いた相手の短所は不思議と見えなくなっていくものであると言うが、しかし逆に愛しているからこそ見えてくる欠点と言うモノもあるのであろう。
そう例えば、今ルキナを悩ませているルフレの“欠点”の様に。
ルフレは、基本的に大概の事を卒なくこなす器用さがあり、人格的な部分にもほぼと言って良い程に瑕疵は無い。
作る料理の尽くが鋼の様な味になったり、絵を描いたりするのは不得意の様ではあるけれど、それらはルキナとしては別段欠点であるとは思っていなかった。
ルキナにとってどうしても看過出来ないルフレの欠点は、たった一つだけ。
ルフレが、自分の身を顧みない事だ。
ルフレは、献身的と言う言葉では表し切れない程に、自己犠牲を厭わない。
ルフレは、彼が守りたいと思っているモノの中に、自分自身だけは入れないのだ。
破滅願望がある……と言う訳ではないけれど、それでも自らの身を削って他人に尽くす事を厭わないその姿勢は、ルキナを酷く不安にさせるのだ。
何時か、ルフレがその自己犠牲の果てにルキナ達を遺し何処か遠くへと去ってしまう様な気がして。
そんな日が訪れる事が無い様に。
ルフレが少しでも自己犠牲を躊躇う様な……そんな未練になりたくて。
ルキナは今日も、ルフレの指先を絡め取る様に、その手を繋いだ。
◆◆◆◆◆
“選ばれる”とは、時にそれは剰りにも重く苦しい枷となるのではないだろうか。
隣を歩くルキナの、その腰に提げられたファルシオンを見る度に、ルフレはそう思ってしまう。
資格が泣ければ振るう事も叶わないその神剣は、この時代に於いてはイーリスと言う国の王権の象徴でありその血統の正当性を証明するモノでもあった。
しかし、ルキナが本来生きるべきだった時代、ルフレにとっては未来に当たる時間では、ファルシオンは人々に残された“希望”その物であった。
古の時代に初代聖王に討たれた邪竜が甦ってしまったと言う未来で、神剣に選ばれたと言う事は、果たしてルキナにとって救いであったのだろうか……とルフレはどうしても思ってしまうのだ。
聖王家の血筋にあっても幾代にも渡って担い手が現れない事もざらにあったと言う神剣に、父であるクロムに引き続き選ばれた……選ばれてしまったルキナは、そうであるが故に抗い続ける事を余儀無くされた。
……未来の人々にとっては、ギムレーを討ち得るファルシオンの担い手が存在する事は、何よりの救いであり縋るべき“希望”であったのだろうけれど。
幾千万の人々の願いを、想いを、期待を背負い続ける事になった、ルキナは……。
その細い肩で、全てを背負ってきたのだろう。
その重荷を投げ出す事なく背負い戦い続け、過去に遡ってまでその責務を果たそうとするルキナに、その荷を分かち合える人は居たのだろうか……?
勿論、未来でもこの過去にも共に戦う仲間達は居る。
だけれども、唯一無二の“ファルシオンの担い手”と言う枷は、それがもたらす重荷は、……きっと誰とも分かち合えないものだったのではないかと思ってしまうのだ。
真実“自分の代わり”となる者が居ない恐怖。
自分が倒れてしまえば、最早“後がない”事への絶望。
ルキナが抱えてきたそれらはきっと、同じくファルシオンの担い手であるクロムですら、完全に理解してやる事は出来ないモノなのではないだろうか。
無論、ここでこうやってルキナを案じるルフレにすら、それらの苦悩はきっと共感する事ですら到底叶わない事なのだろう。
……そう思えば、ルキナはどうしようもなく孤独であるのかもしれない。
それでも尚、抗う事を諦めなかったその強さが、絶望の泥濘を掻き分けてでも前に進もうとするその意志の焔が。
ルフレにとっては、言葉にする事も出来ない程に愛しく、そして同時にもどかしい程に哀しいのだ。
何時か、……そう、ギムレーの復活を阻止して、未来を確実に変えたその先の遠い何時かで。
ルキナが、背負い続けたその重責から、真の意味で解放されるその日が来る事を願って。
そしてその時に、願わくば自分がその傍に在れる事を祈って。
ルフレは今日もルキナの手を、何があっても決して離さない様に、優しく握り締めるのであった。
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