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現の狭間、悪夢の終わり

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 稀代の名軍師だと、神軍師だのと謳われていても、自分は愛する人を助ける事一つ満足に出来ないのだ……。
 それを防げなかった自責の念と、何も出来ない無力感に苛まれ、ルフレは幾度目になるとも知れぬ溜め息を溢す。
 ルフレの傍らのベッドには、こんこんと眠り続けるルキナの姿があった。
 その姿はただ眠っているだけの様でもあるけれど……。
 だが、声をかけようが揺さぶろうが微動だにしないその眠りは、尋常のモノでは無かった。



 瞼を閉じれば、そこに焼き付いてしまったかの様に、戦いの最中に敵の呪術を受けたルキナが崩れ落ちる様にその場に倒れる光景がルフレの脳裏に甦る。

 あの時、あの瞬間。
 ルフレは少しばかりルキナから離れた場所で指揮を取っていた。
 だからこそ、あの瞬間に間に合わなかったのだ……。

 何て事は無い戦いだと思っていた。
 ペレジア辺りから流れてきたと思われる呪術師の攻撃は些か厄介ではあったが、傭兵崩れの野盗の襲撃など大した脅威では無いし、現に戦いはルフレ達に優勢に進んでいて。
 そこに油断が無かったとは、言えない。

 ルキナから少し離れた場所にいた呪術師が、何かを仕掛けた次の瞬間に。
 ファルシオンを手に盗賊達を薙ぎ払っていたルキナが、糸を断ち切られた操り人形の様に動きを止めて。
 そして、その場に倒れた……。

 その光景を目にした次の瞬間には、自身を囲んでいた敵を全て斬り伏せてルフレはルキナに駆け寄って、その息を確認した。
 しかし、息はあり外傷は何処にも無いものの、抱き起こしても何の反応も返さないルキナに嫌な予感が広がって。
 咄嗟に術者を殺さずに生け捕ったのは、軍師としての判断力故であった。

 そして戦闘後、ルキナを診てくれていたサーリャとヘンリーが、術者が所持していた道具とルキナの症状から割り出したルキナに掛けられた術の正体が、解除法の存在しない危険極まりないものであるのだとルフレに告げた。
 術者を殺そうともその術は解けず、外部から無理に術などで干渉しようものなら、掛けられた者の魂は砕かれ二度と目覚めないのだと……。
 術を解く為には、掛けられたその当人が術を破るしかない。
 しかし、呪術によって少しずつ少しずつ記憶や名を奪われ、そしていずれは魂ごと呑まれる中で、自力で術を解く事は至難の業であるとも……ルフレは告げられた。
 あまり呪術に耐性がないルキナでは、特に困難を極めるであろうとも……。

 ……呪術に関してルフレよりも才と知識を持つ二人が、手の施し様が無いのだと首を振るのだ。
 自分には何も出来ないのであろう事はルフレにも分かっていた。
 だが、それでも何もしない訳にはいかず。
 ほんの少しだけでも、眠りの中で戦っているであろうルキナの力になりたくて。
 ルキナが寝かされたベッドの傍らで、眠り続けるルキナの手を祈る様に、ルフレは握り続けている。

 ……だが、ルキナが目覚める気配は、一向に無いのであった。




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