ルフルキ短編
◇◇◇◇◇
「今年こそは、サンタさんのしっぽをつかんでみせますよー!」
そんな事を元気よく宣言して夜を徹して見張っていようと気を張っていた愛娘は、まだ幼いが故に睡魔には克てぬのか、くぅくぅと安らかな寝息を立てていて。
むにゃむにゃと楽しそうに笑いながら寝言で何事かを呟いていた。
そんなマークの姿に、こっそりと部屋に忍び入ったルフレとルキナは顔を見合わせて微笑んだ。
そして、風邪を引いてはいけないから、と。
少々揺り動かした程度では起きない程によく眠っている事を確認したルフレは、床に寝転がっていたマークを優しく抱き抱えて、そっとベッドへと移す。
そこに空かさずルキナがその上に暖かな毛布を掛けた。
そして、忘れてはいけない、と。
二人は各々手に持っていた贈り物を、安らかに眠るマークの枕元に置く。
きっと、明日の朝目覚めた時。
枕元に贈り物がある事に驚きながらも喜び、そして今年もまたサンタさんの正体を見破られなかった事を悔しがるのだろう。
その光景が目に浮かぶ様で、マークの部屋を後にしたルフレとルキナは二人してこっそりと笑う。
「ふふ……懐かしいですね。
私も昔、サンタさんを捕まえようとして、夜更かししようとした事があったんですよ」
小さな愛娘の姿にかつての己の姿を重ねたルキナは、過去を懐かしむ様に笑った。
「何だか簡単に想像出来るな……。
で、その時はどうだったんだい?
クロムを捕まえてやれたのかな?」
ルフレの言葉に、ルキナはゆっくりと首を横に振った。
どうやら、かつての彼女もまた眠気に負けてしまってその正体を掴めず仕舞いであった様だ。
「……結局、サンタさんの正体を暴く前に、お父様は帰らぬ人になってしまいました……」
そして、その年にはサンタさんが現れなかった事で、ルキナはその正体を悟ったのだと言う。
それに何も返せず、ルフレは目を伏せる。
「そっか……」
「『ルフレおじさま』にお願いして、サンタさんを捕まえる為の策を練って貰った事もあったんですよ?
ふふ……今思えば、あの時困った顔をして笑っていた理由がよく分かります……」
ルキナはそう言って、『ルフレ』を。
彼女達の未来を絶望で塗り潰し幸せを踏み躙った災厄の邪竜と化してしまった、ルフレにも有り得たであろう結末へ至ってしまった彼の事を。
優しく懐かしむ様に語る。
ルキナがやって来た未来は絶望に沈み果て、それ故に彼女は時を越えてこの過去へとやって来たのだけれども。
でも、そんな未来でも、確かに『幸せ』な瞬間があったのだ。
そんな『幸せ』の欠片達は、今も尚ルキナの心の内で優しく彼女を見守っている。
…………。
……きっと。
ルキナと『ルフレ』の間には、沢山の『幸せ』の記憶があったのだろう。
違う結末へ至ったとは言え、同じ“自分”であるからこそ。
ルフレは『ルフレ』もまた、ルキナの事を大切にしていたのだろうとは感じていた。
……だからこそ。
望まぬままにルキナの『幸せ』を奪う邪竜と化してしまった『ルフレ』の、その後悔や罪悪感や絶望は何れ程のモノであったのだろうか、とルフレは想ってしまう。
ルフレが自らの身と引き換えに邪竜を討ち滅ぼした時に、『ルフレ』もまた解放されたのであろうか…………。
もし、そうであるのならば、願わくは彼に安らかな眠りが訪れていて欲しい、と。
ルフレは切にそう想う。
『ルフレ』がルキナに残した沢山の『幸せ』の欠片は、ちゃんと彼女を見守り心に優しい輝きを灯し続けてくれている。
『ルフレ』が為してしまった事は、赦される行為では無いし彼自身が己を赦さないだろう。
だけれども。
ルキナの優しい『幸せ』な思い出の中に息付く位ならば。
滅びた世界の全てが、そして彼自身が赦さないのだとしても。
せめてもの手向けとして赦されて良いのだろう。
……もうルキナは、小さな『幸せ』を贈られる側から贈る側へなってしまったけども。
それでも、こうやって愛娘に『幸せ』を贈るルキナは、とても満ち足りた様に幸せそうであった。
それはきっと、確かに愛されて『幸せ』を贈られていたが故なのだ。
そんなルキナを愛しく想いながら、ルフレはこっそりと隠し持っていた贈り物を手渡す。
「ルフレさん……!」
驚きと喜びで、何度も視線を手の中の贈り物とルフレの顔との間を行き来させるルキナに、ルフレは優しく微笑んだ。
「もう僕の正体はバレちゃってるけど、サンタさんから『良い子』への贈り物さ。
受け取ってくれたら嬉しいな」
すると、ルキナは手の中のそれを大切に抱き締めるかの様に胸元に当てた。
「もう、私は子供じゃないんですよ……?
……でも、有難うございます。
私の、素敵なサンタさん」
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「今年こそは、サンタさんのしっぽをつかんでみせますよー!」
そんな事を元気よく宣言して夜を徹して見張っていようと気を張っていた愛娘は、まだ幼いが故に睡魔には克てぬのか、くぅくぅと安らかな寝息を立てていて。
むにゃむにゃと楽しそうに笑いながら寝言で何事かを呟いていた。
そんなマークの姿に、こっそりと部屋に忍び入ったルフレとルキナは顔を見合わせて微笑んだ。
そして、風邪を引いてはいけないから、と。
少々揺り動かした程度では起きない程によく眠っている事を確認したルフレは、床に寝転がっていたマークを優しく抱き抱えて、そっとベッドへと移す。
そこに空かさずルキナがその上に暖かな毛布を掛けた。
そして、忘れてはいけない、と。
二人は各々手に持っていた贈り物を、安らかに眠るマークの枕元に置く。
きっと、明日の朝目覚めた時。
枕元に贈り物がある事に驚きながらも喜び、そして今年もまたサンタさんの正体を見破られなかった事を悔しがるのだろう。
その光景が目に浮かぶ様で、マークの部屋を後にしたルフレとルキナは二人してこっそりと笑う。
「ふふ……懐かしいですね。
私も昔、サンタさんを捕まえようとして、夜更かししようとした事があったんですよ」
小さな愛娘の姿にかつての己の姿を重ねたルキナは、過去を懐かしむ様に笑った。
「何だか簡単に想像出来るな……。
で、その時はどうだったんだい?
クロムを捕まえてやれたのかな?」
ルフレの言葉に、ルキナはゆっくりと首を横に振った。
どうやら、かつての彼女もまた眠気に負けてしまってその正体を掴めず仕舞いであった様だ。
「……結局、サンタさんの正体を暴く前に、お父様は帰らぬ人になってしまいました……」
そして、その年にはサンタさんが現れなかった事で、ルキナはその正体を悟ったのだと言う。
それに何も返せず、ルフレは目を伏せる。
「そっか……」
「『ルフレおじさま』にお願いして、サンタさんを捕まえる為の策を練って貰った事もあったんですよ?
ふふ……今思えば、あの時困った顔をして笑っていた理由がよく分かります……」
ルキナはそう言って、『ルフレ』を。
彼女達の未来を絶望で塗り潰し幸せを踏み躙った災厄の邪竜と化してしまった、ルフレにも有り得たであろう結末へ至ってしまった彼の事を。
優しく懐かしむ様に語る。
ルキナがやって来た未来は絶望に沈み果て、それ故に彼女は時を越えてこの過去へとやって来たのだけれども。
でも、そんな未来でも、確かに『幸せ』な瞬間があったのだ。
そんな『幸せ』の欠片達は、今も尚ルキナの心の内で優しく彼女を見守っている。
…………。
……きっと。
ルキナと『ルフレ』の間には、沢山の『幸せ』の記憶があったのだろう。
違う結末へ至ったとは言え、同じ“自分”であるからこそ。
ルフレは『ルフレ』もまた、ルキナの事を大切にしていたのだろうとは感じていた。
……だからこそ。
望まぬままにルキナの『幸せ』を奪う邪竜と化してしまった『ルフレ』の、その後悔や罪悪感や絶望は何れ程のモノであったのだろうか、とルフレは想ってしまう。
ルフレが自らの身と引き換えに邪竜を討ち滅ぼした時に、『ルフレ』もまた解放されたのであろうか…………。
もし、そうであるのならば、願わくは彼に安らかな眠りが訪れていて欲しい、と。
ルフレは切にそう想う。
『ルフレ』がルキナに残した沢山の『幸せ』の欠片は、ちゃんと彼女を見守り心に優しい輝きを灯し続けてくれている。
『ルフレ』が為してしまった事は、赦される行為では無いし彼自身が己を赦さないだろう。
だけれども。
ルキナの優しい『幸せ』な思い出の中に息付く位ならば。
滅びた世界の全てが、そして彼自身が赦さないのだとしても。
せめてもの手向けとして赦されて良いのだろう。
……もうルキナは、小さな『幸せ』を贈られる側から贈る側へなってしまったけども。
それでも、こうやって愛娘に『幸せ』を贈るルキナは、とても満ち足りた様に幸せそうであった。
それはきっと、確かに愛されて『幸せ』を贈られていたが故なのだ。
そんなルキナを愛しく想いながら、ルフレはこっそりと隠し持っていた贈り物を手渡す。
「ルフレさん……!」
驚きと喜びで、何度も視線を手の中の贈り物とルフレの顔との間を行き来させるルキナに、ルフレは優しく微笑んだ。
「もう僕の正体はバレちゃってるけど、サンタさんから『良い子』への贈り物さ。
受け取ってくれたら嬉しいな」
すると、ルキナは手の中のそれを大切に抱き締めるかの様に胸元に当てた。
「もう、私は子供じゃないんですよ……?
……でも、有難うございます。
私の、素敵なサンタさん」
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