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ルフルキ短編

◇◇◇◇◇




 ギムレーが滅び、邪竜討伐の最大の功労者も無事に仲間達の元へと還り付き、それから暫く経ったある日の事。
 イーリスの宰相にして、聖王の半身とも呼び表される……そして自身の恋人であるルフレにルキナは呼び出された。
 何の疑問を抱く事なく言われた通りに王都の外れにある小さな礼拝堂へ赴くと。


「ルキナ」


 平素の穏やかなそれとは違う、戦場にて指揮を執っていた時の様に真剣な面持ちのルフレが。
 普段の見慣れたローブ姿ではなく、国の式典などの時にしか着ない礼服を身に纏って、ルキナを待っていた。

 自分達以外に誰も居ない礼拝堂でルフレと向き合ったルキナは、ゴクリと唾を飲み込む。
 そんなルキナを真っ直ぐに見詰め、ルフレは静かに語り始めた。


「僕が帰ってこれたあの日からこの一年間、ずっと考えていた。
 ……僕は、君を遺して逝く事を承知の上で、ギムレーと心中する事を選んでしまった身だ。
 あの選択には、今も後悔はしていない。
 だけど──」


 ルフレは眼差しを微かに揺らす。


「そんな僕が、……一度はこの手で君を幸せにする事を諦めてしまった僕が、君と人生を共に過ごす資格などあるのだろうか、と。
 僕なんかよりも、もっとずっと君を幸せに出来る人が、居るのではないか、と。
 そう……考えていた」


 ルフレのそんな言葉に、ルキナは何も返せない。

 ルキナが誰よりも愛しているのはルフレだけであるし、ルフレ以外の誰かと人生を共にしたいとは考えた事も無かった。
 だが。
 ルキナからすれば甚だ遺憾でしかないそんなルフレの想いであるけれど。
 それは、ルフレの優しさと、ルキナの幸せを心から願うが故であると言う事位は、ルキナにも分かる。

 だからこそ何も言えず、ただただルフレの言葉の続きを待つしか無かった。


「……でも、ダメだった。
 君の幸せを一番に願っている筈なのに、それでも、僕以外の誰かが君の傍に居る事を考えるだけで、その誰かが僕よりも君を幸せに出来るのだとしても。
 ……僕はそれを想像する事すら耐えられなかった」


 身勝手な話だね、と微笑むルフレに、そんな事は無いとルキナは首を横に振る。


「そんな事は無いです、ルフレさん……。
 私だって、ルフレさんが私以外の誰かと……なんて、考えるだけでも恐くて耐えられないですから……」


 ルフレは非常に魅力的な男性で、ルキナが想い結ばれ恋人となった時点でも彼に想いを寄せる女性は大勢居た。
 だからこそ。

 ルフレよりも世界を選んでしまったルキナなんかよりも、ルフレに寄り添い幸せにしてあげられる人は居たのではないか、と。

 絶望の未来を回避する為とは言え、ルフレに剣を向け殺そうとしてしまった後で。
 自分が成そうとした事への後悔の中でそう考えてしまったのだけれども。
 それでも、その命を奪おうとしておきながら、ルフレが自分以外の誰かを選んだ未来など、想像でも耐えられなかったのだ。

 一度は命を奪おうとしてもそれでもルフレの隣に居たいと望むルキナと、一度は自身の命を諦めてはいたがルキナと人生を共にしたいと望むルフレ。
 どちらがより身勝手かなんて、誰に言われるまでもなく分かる。

 ルキナの言葉に驚いた様に幾度か瞬いた後、ルフレは嬉しそうに柔らかい微笑みを浮かべた。


「そう、だったんだ……。
 ……自分勝手かもしれないけど、有り難う。
 そう言って貰えて、そこまで君に想って貰えて、とても嬉しい」


 そう言ったルフレは、一度息を整える様に静かに目を閉じる。
 そして、意を決した様に目を開けて、後ろ手に持っていたモノをルキナへと差し出した。


「僕よりも君を幸せにしてあげられる人はいるのかもしれない。
 だけど、僕には君だけしか居ない。
 僕は、僕の出来る全てを賭けて必ず君を幸せにすると誓うよ。
 だから、どうか。
 僕が君と人生を共に歩む事を許してくれるのなら、これを受け取って欲しい」


 ルフレが差し出してきたのは、花束であった。
 花束を構成するのは、ルキナにとって何よりも特別な……ルフレと結ばれたあの日に彼から贈られた花だ。


「この、花は……」

「君に想いを告げるには、この花しか考えられなくてね。
 群生地を探して摘んできたんだ」


 少し不恰好かな、とルフレは笑う。

 そんなルフレに、まさか、とルキナは勢いよく首を横に振った。
 確かに、街の花屋で仕立てて貰う花束に比べれば少し不揃いであるけれど。
 そんな事よりも、ルフレが自ら花を一つ一つ手折って花束を作ってくれた事の方が、何よりも嬉しかったのだ。

 ルフレの手から花束を受け取ったルキナは、感極まってそれを潰さない様に抱き締める。
 そして、花束から一本だけ花を抜き出し、ルフレの礼服の胸ポケットへと返した。


「私が人生を共にしたいと思うのはルフレさんだけです。
 私も、私が出来る全てを賭けて、貴方を幸せにします」


 だから、とルキナはルフレへと微笑んだ。


「どうか、一緒に幸せになりましょう。
 大丈夫です、きっと二人一緒なら、どんな時だって、何処に居たって、幸せになれます。
 世界で一番大好きで大切な、貴方となら」


 もう絶望の未来は何処にも無い。
 ルキナとルフレを縛る運命も、また。

 だからこそ、何処までだって二人一緒に生きていける筈だ。
 死が互いを別つその時まで、いやその先だってきっと。

 ルキナの言葉にルフレもまた幸せそうに微笑み、そしてそっと口付けを交わした。


 二人の結婚式が行われたのは、それからそう遠くはない、よく晴れた日の事だったと、そう伝えられている。







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