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現の狭間、悪夢の終わり

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 くらいくらいやみのなかでわたしは、ひざをかかえてなきじゃくっていました。
 やみはふかく、わたしがないているこえいがいにはものおとひとつしません。
 じぶんのすがたもみえないやみのなかでは、じぶんがこのくらやみのなかにとけてしまったようにもおもえてしまいます。


(ここはどこなのでしょう、わたしはだれなのでしょう……)


 どうしてじぶんがここにいるのか、そして“わたし”がだれなのか、わたしにはなにもわかりませんでした。

 なにもわからないわたしには、このやみのなかからぬけだしたくても、どちらへいけばいいのかがわかりません。
 ひとすじのひかりすらもないやみのなかがこわくて、どうしたらいいのかもわからないまま、わたしはひとりぼっちのこころぼそさとふあんにひざをかかえなきじゃくるしかありませんでした。

 どれくらいそうしていたのでしょうか。

 ふと、とおくからちいさなちいさなひかりがちかづいてきていました。
 あわててだれかをさがしているようにウロウロとさまようそのひかりにきづいてほしくて、わたしはいっしょうけんめいにこえをあげます。
 すると、やっとさがしていたものをみつけたように、そのひかりはまっすぐにわたしにちかづいてきました。


「ああ、良かった……どうにか間に合ったんだね……」


 よるいろのローブをきて、まぶかにフードをかぶったそのひとのかおは、わたしにはみえません。
 とおくからでもみえていたひかりは、そのひとがひだりてにもっていたちいさなランプのひかりでした。


「ごめんね、遅くなってしまって……。
 ……大丈夫? 立てるかい?」


 そういってみぎてをさしだしてくるそのひとを、わたしはしりません。
 そして、わたしは“わたし”がだれなのかがわかりません。
 だから、わたしはそのひとにたずねました。

『あなたはだれですか?』『わたしはだれですか?』と。

 そうたずねると、そのひとはとてもあせったようなそぶりをみせます。


「まさか、もう名前まで奪われてしまっているなんて……。
 もっと早くに僕が君を見付けられていれば……。
 ううん、今ならまだ、間に合う筈だ……」


 そういって、そのひとはフードをかぶったまま、わたしにめせんをあわせるようにみをかがめました。


「君の名前は、“ルキナ”だ。
 その名前をしっかりと持ち続けるんだ。
 このままここに居続けては、君は遠からず消えてしまう……。
 出口まで僕が案内するからね、ほら、行こう」


 そのひとがおしえてくれた“ルキナ”というなまえは、とてもしっくりとわたしになじみます。
 そうです、わたしは“ルキナ”です。
 どうして、たいせつななまえなのにおもいだせなかったのでしょう。
 それに、なまえをおもいだしたわたしは、なくしてしまったものがなまえだけではないことにもきづいてしまいました。
 むねのうちにふくらむふあんからそのひとをみあげると、そのひとはだいじょうぶだよ、とやさしくあたまをなでてくれます。


「君の大切なモノは、ほんの少しの間奪われて見えなくされてしまっているだけだよ。
 ここを抜け出せば、全て取り戻せる。
 大丈夫。僕が君を守るよ」


 そういってあらためてそのひとがさしだしてきたみぎてを、わたしはしっかりとつかみました。
 わたしのてを、そのひとはやさしくにぎりかえしてくれます。
 わたしはそのてをしっているきがしました。
 でも、やっぱりなにもおもいだせません。


「うん、じゃあ行こうか」


 フードのしたで、そのひとはやさしくほほえんでくれました。
 そうして、ランプのあかりだけをたよりに、わたしとそのひとはくらいくらいやみのなかをでぐちをめざしてあるきはじめました。






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