短いお話雑多
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『え、冗談でしょ?ちょっ…待っ…』
海咲は切れてしまったスマートフォンを耳から離すとその画面を見つめてため息をついた。友達から呼び出しを受けたから混んでいる三が日は避けていた神社へわざわざ来たと言うのにその友達が一方的に断ってきたのだ。
ー新年早々にドタキャンされるって…運のなさを呪うしかない…
海咲はもう一度ハァとため息をつくと列を成す参拝客を眺めて行くか帰るかを悩んでいた。
「海咲さん?」
『え…安室さん!』
そうしていると蘭と園子とよく行く喫茶店ポアロの店員である安室に海咲は声をかけられ目を見開いた。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
『あ、明けましておめでとうございます。こちらこそよろしくお願いします。』
安室に丁寧に挨拶をされて海咲は慌てて挨拶を返した。まさかこんな所で偶然意中の人と出会うとは思いもせず海咲は動揺してしまった。
「待ち合わせですか?」
『えと…のはずだったんですけど、ドタキャンされてしまって…どうしようかなぁと考えていた所なんです。』
「そうなんですか。じゃあ一緒にお詣りしませんか?」
『え、でも安室さんも誰かと待ち合わせですよね?相手の方に悪いですよ。』
海咲は自分で言ったのにその言葉に胸がキュッと締め付けられた。安室のような多くの異性から慕われる人物がひとりで初詣なんて事、そうあるわけがないと考えていた。しかしそんな考えは安室の言葉に否定された。
「いえ僕は家が近所なのでひとりでフラッと来ただけなんです。海咲さんがお嫌でなければどうです?」
『い、嫌なんて事はっ…あの、ご一緒させてください。』
海咲が慌てて言うと安室は、じゃあ並びましょうか。と言ってニコッと笑った。2人は多くの参拝客と同じ様に列に並び、海咲は冬の寒さで冷たくなった手に息を吹きかけさすった。
「寒いですか?」
『慌ててたんで手袋忘れちゃって…』
「なら、良かったらどうぞ。」
そう言って安室が自分が着けていた手袋を差し出してきたので海咲は慌てて首を横に振った。
『そんな、安室さんが寒くなっちゃいますよ。』
「ちょっと暑くなってきたので外そうと思ってましたから僕なら大丈夫ですよ。」
『そ、そうなんですね…じゃあお借りしてもいいですか?』
安室が手渡してきた手袋を海咲は受け取り着けるとその温もりと男性だという事を感じさせる大きさにドキドキと心臓が高鳴った。
ーあわわ、安室さんが着けてた手袋を…あ、私今年の運を使い果たしたかも…
先程まで運がないと思っていたのに、意中の人と初詣をする事になったりと幸運が舞い降りて海咲は自然と顔がにやけてしまった。
「あったかいみたいですね。」
『あ、はい。ありがとうございます。』
そんなにやけ顔は手が温かくなったからだと思った安室がそう言うと海咲は慌ててお礼を言って顔を引き締めた。
「そういえばどうしてそんなに慌ててたんですか?」
『?』
「待ち合わせ時間に遅れそうに?」
『あぁ違うんです。』
安室の聞きたい事がわかり海咲は言うべきか悩んだが話してしまう事にした。
『実はここに呼び出した友達がそもそも彼氏と初詣に行く予定が喧嘩をしてしまったらしく…今すぐに来てって泣きながら電話してきたんです。それで慌てて準備して来たのに当の本人がいなくて、電話したら彼氏と仲直りしたから2人で初詣行ってくるって…』
海咲は話している内になぜ自分が正月早々友達に振り回されなきゃならないのかと腹が立ってきた。
『…よく考えたら最悪な1年の始まりです。』
「災難でしたね。でもそのおかげで僕は海咲さんに会えましたから。」
『え、あ、はい…』
海咲は頬を赤くしてしどろもどろになり、安室は前の列が進むと、手水舎まで来ましたね。と笑った。
ーダメ、勘違いしちゃ!安室さんは可哀想な私を元気付けようとしてくれただけだから!それだけ!
海咲は自分にとって都合の良い考えを振り払うためにブンブンと頭を振った。
手水舎で手を洗うため海咲は手袋を取り柄杓で清めの作業を終えると同じ様に隣でそれを終えた安室を一瞥した。
ー手袋返した方がいいよね…本当は返すのがもったいないけど…
水で手を洗った事で手が冷たくなったのは安室も例外なく同じはずなので海咲は名残惜しいものの手袋を本来の持ち主に差し出した。
『手袋ありがとうございました。』
「海咲さんが使ってていいですよ。」
『でも…』
「僕のがきっとあったかいですから。」
ほら。と言って安室は海咲の手を握った。確かに安室の手の方が温かく海咲はその温もりに頬が熱くなるのを感じた。
『あ、そ、そうですね。』
「気にしないで使ってください。」
そう優しく言われると海咲はコクンと頷いてその手袋をまた自分の手にはめた。
列が進むと賽銭箱まではすぐだった。再び手袋を外してそれをポケットへ入れて賽銭を用意すると、海咲は神社の鈴をガランガランと鳴らし賽銭箱にお金を投げ入れニ礼二拍手をして手を合わせた。
ー去年はまずまずの1年でした。ありがとうございます。今年はぜひとももう少し安室さんとお近付きになれますように。あと出来れば勉強も上手くいくといいです。
海咲は少々不躾に感謝と祈願を終えて一礼して横にチラッと視線を向けると安室の青い瞳と視線がぶつかりドキンッと胸が高鳴った。
「あちらでおみくじが引けるみたいですよ。」
『引きたいです!』
安室に促されて海咲はおみくじを引くと糊付けされたそれをピリピリと剥がして中を見た。小吉と書かれたそれに海咲は嬉しいとも悲しいともつかない気持ちにさせられた。
「どうでした?」
『小吉でした。良いのか悪いのか…よくわからないですね。』
「おみくじはその吉凶よりも中身、自分の聞きたい事についてどう書いてあるかが大事みたいですよ。」
『へぇ、そうなんですね。』
海咲はそう言われてもう一度おみくじを見てみた。自分が一番気になっている事と言ったらやはり恋愛であり、そこには"ためらうな"の文字があった。
「おみくじは持って帰っても木の枝に結んでもどちらでもいいそうです。木の枝に結ぶと言うのはその生命力に願いを託すという意味があって、持ち帰る場合には大切に保管して何かに悩んだりした時に読み返すと良いみたいですよ。」
『安室さんは物知りですね。』
「そうですか?ちなみに今さらですが、神様にお願いする時は住所と名前も言わないとダメなんです。」
『えっ⁉︎そうなんですか?』
「自己紹介ですよね。急に来て名前も言わずにお願い事をされたら少し失礼な感じがしませんか?」
『た、確かに…じゃあ名乗ってない私の願いなんて聞いてくれないかも…』
「海咲さんは何をお願いしたんですか?」
海咲があまりにもしょんぼりしているので安室が気になって尋ねると海咲は頬を染めた。とても本人に告げられる内容ではない。
『え、と…恋愛成就的な…いや成就とまではお願いしてないですけど、もう少し近付けたらなぁと。あ、安室さんは何をお願いしたんですか?』
「僕ですか?僕は…」
安室は海咲の手を優しく握ると笑って言った。
「海咲さんともっと仲良くなれますように、と。」
『な、な、仲良く?』
「えぇ。すごく仲良くなりたいです。」
『す、すごく?え?え?』
戸惑う海咲を他所に安室はニコニコと笑って続けた。
「恋人くらい仲良くなれたら来年もここにお詣りに来たいですね。」
『っ…こ、ここ、こい…』
海咲はボッと音を立てて顔を真っ赤に染めると口をパクパクと動かして言葉にならない言葉を発していた。
「海咲さん、来年も一緒に来ますか?」
安室にそう言われて海咲の頭をよぎったのは先ほどのおみくじの文字だった。
ー"ためらうな"
『はい!喜んで!』
「…ぷっ、ハハッそれじゃ居酒屋みたいですよ。」
『あ…』
海咲は安室に笑われて穴があったら入りたい気持ちになった。しかし次の瞬間には握られていた手を引かれて安室の胸に飛び込むかたちになった。
「でもすごく嬉しいです。」
『わ、私も嬉しいです。』
初詣
(小吉の運を使い切った気がする。)
(今年は始まったばかりですよ。)
(だって願った事叶っちゃったし…)
(なら、僕の運を分けますよ。)
(わ、大吉だったんですね!)
海咲は切れてしまったスマートフォンを耳から離すとその画面を見つめてため息をついた。友達から呼び出しを受けたから混んでいる三が日は避けていた神社へわざわざ来たと言うのにその友達が一方的に断ってきたのだ。
ー新年早々にドタキャンされるって…運のなさを呪うしかない…
海咲はもう一度ハァとため息をつくと列を成す参拝客を眺めて行くか帰るかを悩んでいた。
「海咲さん?」
『え…安室さん!』
そうしていると蘭と園子とよく行く喫茶店ポアロの店員である安室に海咲は声をかけられ目を見開いた。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
『あ、明けましておめでとうございます。こちらこそよろしくお願いします。』
安室に丁寧に挨拶をされて海咲は慌てて挨拶を返した。まさかこんな所で偶然意中の人と出会うとは思いもせず海咲は動揺してしまった。
「待ち合わせですか?」
『えと…のはずだったんですけど、ドタキャンされてしまって…どうしようかなぁと考えていた所なんです。』
「そうなんですか。じゃあ一緒にお詣りしませんか?」
『え、でも安室さんも誰かと待ち合わせですよね?相手の方に悪いですよ。』
海咲は自分で言ったのにその言葉に胸がキュッと締め付けられた。安室のような多くの異性から慕われる人物がひとりで初詣なんて事、そうあるわけがないと考えていた。しかしそんな考えは安室の言葉に否定された。
「いえ僕は家が近所なのでひとりでフラッと来ただけなんです。海咲さんがお嫌でなければどうです?」
『い、嫌なんて事はっ…あの、ご一緒させてください。』
海咲が慌てて言うと安室は、じゃあ並びましょうか。と言ってニコッと笑った。2人は多くの参拝客と同じ様に列に並び、海咲は冬の寒さで冷たくなった手に息を吹きかけさすった。
「寒いですか?」
『慌ててたんで手袋忘れちゃって…』
「なら、良かったらどうぞ。」
そう言って安室が自分が着けていた手袋を差し出してきたので海咲は慌てて首を横に振った。
『そんな、安室さんが寒くなっちゃいますよ。』
「ちょっと暑くなってきたので外そうと思ってましたから僕なら大丈夫ですよ。」
『そ、そうなんですね…じゃあお借りしてもいいですか?』
安室が手渡してきた手袋を海咲は受け取り着けるとその温もりと男性だという事を感じさせる大きさにドキドキと心臓が高鳴った。
ーあわわ、安室さんが着けてた手袋を…あ、私今年の運を使い果たしたかも…
先程まで運がないと思っていたのに、意中の人と初詣をする事になったりと幸運が舞い降りて海咲は自然と顔がにやけてしまった。
「あったかいみたいですね。」
『あ、はい。ありがとうございます。』
そんなにやけ顔は手が温かくなったからだと思った安室がそう言うと海咲は慌ててお礼を言って顔を引き締めた。
「そういえばどうしてそんなに慌ててたんですか?」
『?』
「待ち合わせ時間に遅れそうに?」
『あぁ違うんです。』
安室の聞きたい事がわかり海咲は言うべきか悩んだが話してしまう事にした。
『実はここに呼び出した友達がそもそも彼氏と初詣に行く予定が喧嘩をしてしまったらしく…今すぐに来てって泣きながら電話してきたんです。それで慌てて準備して来たのに当の本人がいなくて、電話したら彼氏と仲直りしたから2人で初詣行ってくるって…』
海咲は話している内になぜ自分が正月早々友達に振り回されなきゃならないのかと腹が立ってきた。
『…よく考えたら最悪な1年の始まりです。』
「災難でしたね。でもそのおかげで僕は海咲さんに会えましたから。」
『え、あ、はい…』
海咲は頬を赤くしてしどろもどろになり、安室は前の列が進むと、手水舎まで来ましたね。と笑った。
ーダメ、勘違いしちゃ!安室さんは可哀想な私を元気付けようとしてくれただけだから!それだけ!
海咲は自分にとって都合の良い考えを振り払うためにブンブンと頭を振った。
手水舎で手を洗うため海咲は手袋を取り柄杓で清めの作業を終えると同じ様に隣でそれを終えた安室を一瞥した。
ー手袋返した方がいいよね…本当は返すのがもったいないけど…
水で手を洗った事で手が冷たくなったのは安室も例外なく同じはずなので海咲は名残惜しいものの手袋を本来の持ち主に差し出した。
『手袋ありがとうございました。』
「海咲さんが使ってていいですよ。」
『でも…』
「僕のがきっとあったかいですから。」
ほら。と言って安室は海咲の手を握った。確かに安室の手の方が温かく海咲はその温もりに頬が熱くなるのを感じた。
『あ、そ、そうですね。』
「気にしないで使ってください。」
そう優しく言われると海咲はコクンと頷いてその手袋をまた自分の手にはめた。
列が進むと賽銭箱まではすぐだった。再び手袋を外してそれをポケットへ入れて賽銭を用意すると、海咲は神社の鈴をガランガランと鳴らし賽銭箱にお金を投げ入れニ礼二拍手をして手を合わせた。
ー去年はまずまずの1年でした。ありがとうございます。今年はぜひとももう少し安室さんとお近付きになれますように。あと出来れば勉強も上手くいくといいです。
海咲は少々不躾に感謝と祈願を終えて一礼して横にチラッと視線を向けると安室の青い瞳と視線がぶつかりドキンッと胸が高鳴った。
「あちらでおみくじが引けるみたいですよ。」
『引きたいです!』
安室に促されて海咲はおみくじを引くと糊付けされたそれをピリピリと剥がして中を見た。小吉と書かれたそれに海咲は嬉しいとも悲しいともつかない気持ちにさせられた。
「どうでした?」
『小吉でした。良いのか悪いのか…よくわからないですね。』
「おみくじはその吉凶よりも中身、自分の聞きたい事についてどう書いてあるかが大事みたいですよ。」
『へぇ、そうなんですね。』
海咲はそう言われてもう一度おみくじを見てみた。自分が一番気になっている事と言ったらやはり恋愛であり、そこには"ためらうな"の文字があった。
「おみくじは持って帰っても木の枝に結んでもどちらでもいいそうです。木の枝に結ぶと言うのはその生命力に願いを託すという意味があって、持ち帰る場合には大切に保管して何かに悩んだりした時に読み返すと良いみたいですよ。」
『安室さんは物知りですね。』
「そうですか?ちなみに今さらですが、神様にお願いする時は住所と名前も言わないとダメなんです。」
『えっ⁉︎そうなんですか?』
「自己紹介ですよね。急に来て名前も言わずにお願い事をされたら少し失礼な感じがしませんか?」
『た、確かに…じゃあ名乗ってない私の願いなんて聞いてくれないかも…』
「海咲さんは何をお願いしたんですか?」
海咲があまりにもしょんぼりしているので安室が気になって尋ねると海咲は頬を染めた。とても本人に告げられる内容ではない。
『え、と…恋愛成就的な…いや成就とまではお願いしてないですけど、もう少し近付けたらなぁと。あ、安室さんは何をお願いしたんですか?』
「僕ですか?僕は…」
安室は海咲の手を優しく握ると笑って言った。
「海咲さんともっと仲良くなれますように、と。」
『な、な、仲良く?』
「えぇ。すごく仲良くなりたいです。」
『す、すごく?え?え?』
戸惑う海咲を他所に安室はニコニコと笑って続けた。
「恋人くらい仲良くなれたら来年もここにお詣りに来たいですね。」
『っ…こ、ここ、こい…』
海咲はボッと音を立てて顔を真っ赤に染めると口をパクパクと動かして言葉にならない言葉を発していた。
「海咲さん、来年も一緒に来ますか?」
安室にそう言われて海咲の頭をよぎったのは先ほどのおみくじの文字だった。
ー"ためらうな"
『はい!喜んで!』
「…ぷっ、ハハッそれじゃ居酒屋みたいですよ。」
『あ…』
海咲は安室に笑われて穴があったら入りたい気持ちになった。しかし次の瞬間には握られていた手を引かれて安室の胸に飛び込むかたちになった。
「でもすごく嬉しいです。」
『わ、私も嬉しいです。』
初詣
(小吉の運を使い切った気がする。)
(今年は始まったばかりですよ。)
(だって願った事叶っちゃったし…)
(なら、僕の運を分けますよ。)
(わ、大吉だったんですね!)