桜舞う頃 【完結】
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深月が家を抜け出し訪れたのは"みっくん"と約束した公園だった。特別有名な公園というわけでもなく、夜遅くのそこは人気がなかった。公園の街灯が桜と共に立ち並ぶ道を深月は歩いた。今や桜は赤や黄色に染めた葉をほとんど落とし枝だけの寂しい姿となっていた。彼と約束した時はまだ葉が枝に残っていて風が吹くと複数の葉が舞って綺麗だった。
深月は道に散る落ち葉を両手でかき集めるとバッと頭上に放った。パラパラと舞い落ちる葉が記憶と被った。
『咲くのはまだ先か…』
深月はそう言うと桜の幹に触れた。少しだけ暖かいようなその生きている温もりに深月はフッと笑みを浮かべて瞳を閉じると大切な彼の事を想った。
しかし少し離れたところから自分を呼びかける声に深月は一気に現実に連れ戻された。
「深月さん」
『…安室さん?』
ドッドッと胸が早鐘を打ち深月はまるで全身が心臓になってしまったかの様に錯覚した。
安室がジャリッと音を立てて一歩こちらへ近付くと深月はバッと桜の木の裏側へ回って叫んだ。
『来ないでっ!』
「っ!」
深月の突然の叫びに安室は目を見開いた。普段の彼女からは想像出来ない行動だった。
深月は桜の木に背を預けて目をギュッと強く瞑り小さいけれど強い口調で言った。
『お願い…ひとりにしてっ!』
深月は目を瞑ったまま震える唇を噛んだ。
ー今は来ないで…ここはまだ…
「嫌だと言ったら?」
ハッと気付くと深月の目の前には安室が立っていた。深月が逃げ出そうとするとそれは想定済みだったのか桜の幹に手を突かれ逃げ道を塞がれた。深月はキッと安室を睨みつけると低い声で言った。
『痴漢って叫びますよ。』
「それは困りますけど…この辺りは今公安しかいませんよ。」
『っ!』
深月は安室…降谷の言葉に驚くが次にはスッと表情が暗くなり視線を下げた。
『いつ気付いたんです?』
「貴女がポアロを後にしてからです。」
『…なんだ、それまでは気付かなかったんですか。公安も大した事ありませんね。』
内心、降谷が自分の事に気付いた事に深月は驚いていたが機嫌の悪い今、悪態をつく以外の事が出来なかった。降谷はムッとし片眉を上げるがすぐにニコリと笑った。
「えぇ。まさかパーティーだと言うのに目にかかる程に長い前髪を上げもせずあげくお下げにメガネのあの冴えない少女が貴女のような素敵な女性になっているとは思わなかったもので。」
『…それが素の貴方ですか。女性に優しいスマートな安室透はどこです?』
「残念ながら今は公安警察なので。」
深月はハァと大きくため息をつくと降谷の足を思い切り踏んだ。
『そうですか。ではお仕事で私を迎えに?』
「…君が成長したのは外見だけなのか。」
『それはこの足の事?』
深月がグリッと踏んでいる足に力を入れればさすがに降谷も顔を顰めた。深月はヒールなら良かったのに…と少し残念な気持ちになった。
「そうじゃない。ご両親に心配をかけるような行動はするなと言っているんだ。」
『心配なんてしてませんよ。GPSだってついてますし。窓から出たのはちょっとした遊び心だし家から出たのくらいすぐに母は気付いてますよ。少しは成長したと思いません?』
そんな深月の言葉に降谷は面食らった。深月はフッと呆れた様に笑うと降谷をまっすぐに見つめた。
『逆に変わっていないのは貴方じゃないですか。今回も私と関わるのは仕事だからでしょ?』
「いや。」
『…なんでわかる嘘つくんですか。今は公安なのでしょ?』
「確かに公安の仕事でこの辺りに来たが君を迎えに来たわけじゃない。それはこの公園の周りで待機している者達の仕事だ。」
『え…?じゃあなんで…』
私に声をかけたの?と聞こうとした深月の言葉は降谷に抱きしめられて上手く口から出てこなかった。
「君を逃したくないと思った。」
『は?』
「もうポアロには来ないつもりだったろ?」
『そりゃ…私が関わったら面倒だろうし…というか逃したくないって私いつから追われる身になったんです?』
「君がケーキの試食を断るから。」
『私試食係として逃亡した事になってるんですか?』
ーえ?本気で言ってるの?この人?
深月は降谷の胸に押さえつけられるようにして抱きしめられているため降谷の表情が確認出来ず彼の真意がわからなかった。
降谷はフゥとため息をつくと呆れた様な声を出した。
「そんなわけないだろ。」
『貴方が先に言ったんですけど。』
深月はイラッとしたので降谷の脇腹をつねってやったが、思っていたより硬く上手くつねられず失敗に終わり、代わりに悪態をつく事にした。
『…もう少し脂肪をつけた方が長生きしますよ。』
「じゃあ君は長生きしそうだ。」
『っあのですね!さっきからっ…』
「君は柔らかくて気持ちがいい。」
降谷は抱きしめている手にさらに力を込め深月を引き寄せると耳元に唇を寄せて囁いた。
「おまけに匂いまでいいのか。」
『っ⁉︎あ、え、あ、あ、安室さんっ⁉︎』
深月がしどろもどろになると降谷は腕を緩めて深月の顔を見た。真っ赤に染まった深月の頬を撫でると降谷は深月の瞳を見つめて言った。
「君が好きだ。」
深月は思考が停止し、まっすぐに見下ろしてくる青い瞳をじっと見つめ返す事しか出来なかった。
ーす、き…?スキ?好き⁉︎誰が⁉︎誰を⁉︎は?何かのイタズラ⁉︎
揺れる深月の瞳に降谷は深月の動揺ぶりを読み取ったがそんな事はお構いなしに続けた。
「返事は?」
『はぁ⁉︎ちょっと待って!いやわかってる⁉︎私達関わらないに越した事ないんですよ⁉︎』
「それはよくわかってる。でもそれ以上に君が欲しい。」
『っ!何を…バカなんですか?』
「そもそも君は自分の身分を隠しているだろう。僕だってそうだ。ほら、問題ない。」
『いやお互いわかってるのにその考えはダメでしょ!大体私は身分を偽装してるわけじゃないですからね、いつ周りにバレてもおかしくないんですよ⁉︎』
「その時はその時考えればいい。」
『なっ…』
深月が言葉を返せず絶句すると降谷は再度促してきた。
「それで返事は?」
ーあぁ!もう!この男は!
深月は降谷をキッと睨むと頬に触れていた降谷の手をはたき落とした。
『大っ嫌いよ!バカッ!』
深月はそう言うとダッと走り出し公園を飛び出して家まで走って帰った。玄関から入るとそこにいた恭子に声をかけられた。
「あら、おかえり。気分転換になった?」
『ぜんっぜん!むしろストレス溜まった!』
「え?」
深月は言うが早いかさっさと階段を上り自室へと入り、着ていたコートを乱暴に脱ぎ捨てるとベッドに勢いよく飛び込んだ。
ーあぁ!もう!なんなのあの人!こっちのペースも何もあったもんじゃない!その上なんで…
深月は怒りで支配されていた心に急に寂しさが広がっていくのを感じた。
ーあの公園でそんな事を言うの?あそこはみっくんとの約束の場所…まだあそこを思い出の…過去の場所にはしたくなかったのに…
彼との約束はもう5年前の事。それでも深月の中であの場所、あの約束は過去の思い出ではなく現在も続く大事なものだった。だからあの公園に行く時はいつも深月はひとりだった。あそこに今という現実を持ち込みたくなかったのだ。
『…大嫌い。バカ。』
深月は降谷に向けて言った言葉を再度口にした。この言葉がチクンと胸に刺さるのはショックが大きいからなのか…深月はもやもやとして晴れない気持ちを外に出したくてため息をついた。
『…?あれ?ケータイがない…』
深月はうつ伏せだった体勢を仰向けにするとスボンのポケットに入れたはずの携帯電話の感触がないことに気が付いた。
どこに落としたのかと部屋中探すが見つからず廊下や玄関も探したが携帯電話は出てこなかった。深月が悩んでいるとスマートフォンからメールの着信音が鳴り深月はそれを開いて動きが固まった。
それは降谷からのメールで深月の物と思われる携帯電話を拾った、連絡先は千紗から聞いた旨とその写真が添付されていた。それはまさに今深月が探していたものだった。
ーうわぁ…面倒な人に拾われた…いや、拾ってもらったんだからちゃんとお礼は言わなきゃ…
深月は自分の物であり拾ってくれた事へのお礼を打ち込んでから考えた。出来るだけ早く返して欲しいがあまり関わりたくもない。今日の様な事がないように可能な限り他人の目があるところで会いたい。
『やっぱポアロに行って受け取るのが最善かな。』
深月は後日ポアロに取りに行く旨を足してメールを送信した。
『よし。これでもうあんな事は…』
そう言って深月は降谷にされた事を思い出すと恥ずかしくなり頬が熱くなった。その熱を逃す様に深月はブンブンと頭を左右に振った。
ー急に抱きしめてくるし人の匂い嗅ぐし…やっぱ痴漢って叫んでやれば良かったっ!
降谷は今、深月の家の前にいた。つまり警察庁長官の家の前だ。呼び出したのは当然深月ではなく母の恭子だった。裏の管理官経由に指示を受け正直降谷は緊張していた。裏の管理官からも、元ゼロのあの女には気を付けろ。とまで言われた。
降谷はフゥと息をつきインターホンを押そうとしたところで玄関のドアが開いた。
「いらっしゃい。どうぞ上がって。」
「…はい。」
ニコッと笑って迎えてくれた恭子に降谷は短く答えると家へ入った。リビングへ通されソファーに座る様促されるも断ると恭子はキッチンからティーセットを持って戻ってきた。それをローテーブルに置きティーカップにお茶を2つ用意して恭子は言った。
「お茶は座ってするものよ。さぁ。」
「失礼します。」
そんな風に促されては断りきれず降谷はソファーに腰掛けた。恭子は向かいに座りお茶をひと口飲んで話し出した。
「緊張してる?私が警察庁長官の妻だから?それとも元ゼロだから?」
「どちらでもあるかと。」
「ふーん。私はてっきり深月の母だからかと思ったわ。」
この質問には降谷は答えなかった。恭子がどこまで自分の事を把握しているのかわからなかったため、下手な回答は墓穴を掘る事になる。
「別に取って食おうってわけじゃないのよ、降谷くん。少し話をしたかったの。」
「はい。」
「ねぇ深月って可愛いでしょ?淡白なふりしてなんだかんだ色々心配してくれるし、好きな物食べた時の幸せそうな顔はこっちまで幸せにしてくるし、悪態も付くけどそこがまた可愛いでしょ?」
「は、はい?」
話をしたいと言われ降谷は色々な話題の可能性を脳裏に浮かべていたが、さすがに娘の自慢話をされるとは思わなかった。
「勉強の方も結構出来るのよ。器量だって悪くないわ。」
「はぁ…」
降谷が呆れ気味に相槌を打つと、頬を染めてうっとりと話していた恭子は鋭い目付きで降谷を見た。
「降谷くん。深月の事、好きなのよね?」
「はい。」
突然の質問とはいえ降谷が迷う事なく頷くと恭子はそれを見て満足そうに笑ってお茶を飲んだ。
「私、貴方を遠ざけようって思っているわけじゃないわ。むしろちょっと期待しているの。」
恭子はティーカップを置き立ち上がると降谷の背後に回りその肩にポンと手をかけ顔を覗き込んだ。
「あの子の時間を動かしてあげてちょうだい。」
恭子の言葉の意味を降谷は考えるが合点がいかずただ恭子の瞳を見つめた。
「今はわからなくていいわ。そのうち嫌でもわかる。」
恭子はそう言うと降谷の肩から手をどけてリビングの扉へ向かいながら片手を上げた。
「そこにいてちょうだい。今、深月を呼んでくるわ。」
恭子がリビングから出て行くと降谷はフゥと長いため息をついた。ひとまず恭子に悪い印象を与えていない事がわかりホッとした。ただ彼女の期待する事がなんなのか、その真意は掴めなかった。
降谷がその真意について考えているとリビングの扉が開き恭子と深月が入ってきた。
深月は降谷の顔を見るや否や顔をしかめ母親を見上げた。
『え?あの人が紹介したい人?』
「そうよ。知ってるでしょ、ポアロのお兄さん。」
『いや紹介なんていらないよね?』
「でも公安の彼は知らないでしょ?」
恭子の言葉に深月は、まぁそうだけど。と不満そうに答えた。恭子が降谷に視線を送ると降谷はソファーから立ち上がり深月に近付いた。
「降谷零です。」
『…フルヤ、レイ?』
「彼ね、ゼロなのよ。」
恭子が後ろからそう告げると深月は勢いよく母親を振り返り口をパクパクと動かし何か言いたそうにするが言葉にならなかった。
恭子は深月の肩を降谷の方へ押すとニコッと笑った。
「2日間程深月の事をお願い。夫がどうしても外せない用で海外に飛ぶ事になっているの。もう出なきゃいけない時間だからこれからよろしくね。」
『は?じゃあ私も一緒に行くよ!』
「えー!夫婦水入らずを邪魔するなんて野暮な娘ね。」
『水どころかSPだらけでしょ⁉︎』
「まぁそうでもないのよ。極秘扱いの上にちょっとやっかいな件なの。だから私が同行するのよ。わかるでしょ?」
ふふっと笑う恭子に深月の顔は青くなった。しかしそれは両親の身を案じたわけではなくむしろ相手の事を思ってだった。
『ほ、ほどほどにね?』
「んーわかってるわよ。久しぶりだからワクワクするわ。」
『ワーカーホリック…』
「あら、この国を守る一端を担うのよ。これほどワクワクする仕事はないわ。」
『はいはい。OGがでしゃばらないでよ。』
「承知しました。私の可愛いお姫様。」
恭子は深月をギュッと抱きしめ頬にキスをするとリビングを出ていってしまった。
深月はため息をつくとキッチンへ向かいながら降谷に声をかけた。
『え、と、降谷さん。お茶淹れますけど何か飲みます?』
「いえ僕は先ほど恭子さんから頂きましたので。」
そう降谷が答えると深月は降谷を一瞥してお茶を入れ始めた。
深月がお茶を淹れて戻りソファーに座ると降谷は拾った携帯電話の件を話した。
「今は持ち合わせていないので後で一緒に僕の家まで行っていただけますか?」
『それはいいですけど…』
了承する割には怪訝そうな顔でこちらを見てくる深月に降谷は首を傾げた。
『なんで敬語なんですか?』
「あぁ。」
深月が怪訝な顔をした理由がわかり降谷はニコリと笑った。
「僕も反省しているんです。この前は急な事で焦っていて…深月さんの言う通り女性に優しくスマートになろうかと。」
『嫌味なんですか?本気なんですか?どっちにしても今さらそのキャラは気持ち悪い。』
「…気持ち悪いは言い過ぎじゃないですか?」
深月の言葉に降谷の口元がひくついた。
降谷は深月と別れたあの夜、本当に反省をしたのだ。彼女に来るなと拒絶され焦ったせいで意地の悪い事もした。29の男が大人気ない事をしたなと恥ずかしくもなったのだ。そして何より大嫌いと言われたのはなかなかにダメージが大きかった。だから彼女の知っている女性に優しいスマートな安室のように接すればせめて嫌いとは言わないだろうと考えた。だが今度は気持ち悪いと来た…なら一体どうすればいいのか降谷には答えがわからなかった。
『本性がわかっているのにキャラ作られたら気持ち悪いです。安室である時は仕方ないですけど今は降谷なんでしょ?素でいたらいいじゃないですか。』
「君がそう言うなら…そうする。」
『そうして下さい。』
深月があっさりと答えをくれると降谷はフゥと安堵の息をついた。そして気になっていた先ほどの深月の様子について質問した。
「そういえば、僕の名前に何か?」
『…以前知り合いから聞いたので。』
「知り合い?」
『えぇ。だから驚いてしまっただけです。』
そう深月は降谷零の名前を聞いてさらに母親から彼がゼロであると聞かされわかったのだ。彼が"みっくん"こと諸伏景光の幼馴染で親友だと言う事を。そして母親が彼に自分を任せた理由も。
深月はお茶を飲むとスッとソファーから立ち上がってキッチンにそれを下げた。
『そろそろ携帯電話を取りに向かいましょう。私は上着を取ってくるので玄関の外で待っていて下さい。』
「あぁ、わかった。」
これ以上は追求しても無駄だと判断し降谷は深月の言葉に頷き、この家を出た。程なくして深月も現れ2人は降谷の車に乗り込むと降谷の家へ向かった。彼女を乗せるのは2回目だなと降谷は思い出しているとあの時の深月の言葉が気になった。
「以前、警察が嫌いだと言っていたが…あれは嘘だろ?」
『嘘じゃありませんよ。警察は嫌いです。』
「警察官は嘘をつくからか?」
『…それも嘘じゃない。ただ正確には警察という職業が嫌いなんです。国のため人のため…そのために嘘までついて体をはって時には命まで…世の中にはもっとたくさんの仕事があって、感謝されてる人はたくさんいるのに…ほんと理不尽な職業ですよ。』
そう言って深月がそっぽを向くと降谷はフッと声を出して笑った。深月はどこに笑う要素があったのかと降谷を睨みつけた。
「悪い…でもやっぱり警察が嫌いってのは嘘だ。」
『人の話聞いてました?』
「聞いたからだよ。君はご両親の事、大切に思っているだろ?」
降谷はリビングに飾ってあった複数の家族写真を思い出していた。それはどれも幸せそうでいつも3人で写っていた。
『そりゃまぁ。』
「他にたくさんの職業がある中、国のため人のために嘘をついたり命をはったりするそんな職業にあえて就いたご両親を尊敬しているんじゃないか?そんな職業を君は嫌っているんじゃない。誇りに思っているんだ。」
こっちを見てそう笑いかけてくる降谷に深月は目を見開いた。
同じ事を諸伏にも言われた事があるからだ。その時の彼の面影と降谷が被り深月は眉をひそめた。
『運転中によそ見しないで。』
「赤信号だったからさ。」
『教習所でそれ言ったら怒られますよ。』
はいはい。と降谷は適当に返事をすると前を向いた。深月が話題を変えた事で図星だと踏んだのかその顔は満足げで、それが深月の癪に障り深月の余計なひと言を引き出す事になった。
『さっきの話ですけど、以前同じ事を別の人に言われた事があります。二番煎じなのであまり得意げにしないで下さい。』
「君、少し性格悪くないか?」
『いいとは思ってません。それと…やっぱり私は警察が嫌いです。』
「君も強情だな。前にも他の人に言われたのならいい加減納得したらどうなんだ?」
『…あの頃とは状況が違います。今は本当に嫌いなんです。』
深月はふいっとそっぽを向くとそれっきり降谷を見なかった。降谷はフゥとため息をつくとその後はただ黙って自分の家を目指した。
つづく
深月は道に散る落ち葉を両手でかき集めるとバッと頭上に放った。パラパラと舞い落ちる葉が記憶と被った。
『咲くのはまだ先か…』
深月はそう言うと桜の幹に触れた。少しだけ暖かいようなその生きている温もりに深月はフッと笑みを浮かべて瞳を閉じると大切な彼の事を想った。
しかし少し離れたところから自分を呼びかける声に深月は一気に現実に連れ戻された。
「深月さん」
『…安室さん?』
ドッドッと胸が早鐘を打ち深月はまるで全身が心臓になってしまったかの様に錯覚した。
安室がジャリッと音を立てて一歩こちらへ近付くと深月はバッと桜の木の裏側へ回って叫んだ。
『来ないでっ!』
「っ!」
深月の突然の叫びに安室は目を見開いた。普段の彼女からは想像出来ない行動だった。
深月は桜の木に背を預けて目をギュッと強く瞑り小さいけれど強い口調で言った。
『お願い…ひとりにしてっ!』
深月は目を瞑ったまま震える唇を噛んだ。
ー今は来ないで…ここはまだ…
「嫌だと言ったら?」
ハッと気付くと深月の目の前には安室が立っていた。深月が逃げ出そうとするとそれは想定済みだったのか桜の幹に手を突かれ逃げ道を塞がれた。深月はキッと安室を睨みつけると低い声で言った。
『痴漢って叫びますよ。』
「それは困りますけど…この辺りは今公安しかいませんよ。」
『っ!』
深月は安室…降谷の言葉に驚くが次にはスッと表情が暗くなり視線を下げた。
『いつ気付いたんです?』
「貴女がポアロを後にしてからです。」
『…なんだ、それまでは気付かなかったんですか。公安も大した事ありませんね。』
内心、降谷が自分の事に気付いた事に深月は驚いていたが機嫌の悪い今、悪態をつく以外の事が出来なかった。降谷はムッとし片眉を上げるがすぐにニコリと笑った。
「えぇ。まさかパーティーだと言うのに目にかかる程に長い前髪を上げもせずあげくお下げにメガネのあの冴えない少女が貴女のような素敵な女性になっているとは思わなかったもので。」
『…それが素の貴方ですか。女性に優しいスマートな安室透はどこです?』
「残念ながら今は公安警察なので。」
深月はハァと大きくため息をつくと降谷の足を思い切り踏んだ。
『そうですか。ではお仕事で私を迎えに?』
「…君が成長したのは外見だけなのか。」
『それはこの足の事?』
深月がグリッと踏んでいる足に力を入れればさすがに降谷も顔を顰めた。深月はヒールなら良かったのに…と少し残念な気持ちになった。
「そうじゃない。ご両親に心配をかけるような行動はするなと言っているんだ。」
『心配なんてしてませんよ。GPSだってついてますし。窓から出たのはちょっとした遊び心だし家から出たのくらいすぐに母は気付いてますよ。少しは成長したと思いません?』
そんな深月の言葉に降谷は面食らった。深月はフッと呆れた様に笑うと降谷をまっすぐに見つめた。
『逆に変わっていないのは貴方じゃないですか。今回も私と関わるのは仕事だからでしょ?』
「いや。」
『…なんでわかる嘘つくんですか。今は公安なのでしょ?』
「確かに公安の仕事でこの辺りに来たが君を迎えに来たわけじゃない。それはこの公園の周りで待機している者達の仕事だ。」
『え…?じゃあなんで…』
私に声をかけたの?と聞こうとした深月の言葉は降谷に抱きしめられて上手く口から出てこなかった。
「君を逃したくないと思った。」
『は?』
「もうポアロには来ないつもりだったろ?」
『そりゃ…私が関わったら面倒だろうし…というか逃したくないって私いつから追われる身になったんです?』
「君がケーキの試食を断るから。」
『私試食係として逃亡した事になってるんですか?』
ーえ?本気で言ってるの?この人?
深月は降谷の胸に押さえつけられるようにして抱きしめられているため降谷の表情が確認出来ず彼の真意がわからなかった。
降谷はフゥとため息をつくと呆れた様な声を出した。
「そんなわけないだろ。」
『貴方が先に言ったんですけど。』
深月はイラッとしたので降谷の脇腹をつねってやったが、思っていたより硬く上手くつねられず失敗に終わり、代わりに悪態をつく事にした。
『…もう少し脂肪をつけた方が長生きしますよ。』
「じゃあ君は長生きしそうだ。」
『っあのですね!さっきからっ…』
「君は柔らかくて気持ちがいい。」
降谷は抱きしめている手にさらに力を込め深月を引き寄せると耳元に唇を寄せて囁いた。
「おまけに匂いまでいいのか。」
『っ⁉︎あ、え、あ、あ、安室さんっ⁉︎』
深月がしどろもどろになると降谷は腕を緩めて深月の顔を見た。真っ赤に染まった深月の頬を撫でると降谷は深月の瞳を見つめて言った。
「君が好きだ。」
深月は思考が停止し、まっすぐに見下ろしてくる青い瞳をじっと見つめ返す事しか出来なかった。
ーす、き…?スキ?好き⁉︎誰が⁉︎誰を⁉︎は?何かのイタズラ⁉︎
揺れる深月の瞳に降谷は深月の動揺ぶりを読み取ったがそんな事はお構いなしに続けた。
「返事は?」
『はぁ⁉︎ちょっと待って!いやわかってる⁉︎私達関わらないに越した事ないんですよ⁉︎』
「それはよくわかってる。でもそれ以上に君が欲しい。」
『っ!何を…バカなんですか?』
「そもそも君は自分の身分を隠しているだろう。僕だってそうだ。ほら、問題ない。」
『いやお互いわかってるのにその考えはダメでしょ!大体私は身分を偽装してるわけじゃないですからね、いつ周りにバレてもおかしくないんですよ⁉︎』
「その時はその時考えればいい。」
『なっ…』
深月が言葉を返せず絶句すると降谷は再度促してきた。
「それで返事は?」
ーあぁ!もう!この男は!
深月は降谷をキッと睨むと頬に触れていた降谷の手をはたき落とした。
『大っ嫌いよ!バカッ!』
深月はそう言うとダッと走り出し公園を飛び出して家まで走って帰った。玄関から入るとそこにいた恭子に声をかけられた。
「あら、おかえり。気分転換になった?」
『ぜんっぜん!むしろストレス溜まった!』
「え?」
深月は言うが早いかさっさと階段を上り自室へと入り、着ていたコートを乱暴に脱ぎ捨てるとベッドに勢いよく飛び込んだ。
ーあぁ!もう!なんなのあの人!こっちのペースも何もあったもんじゃない!その上なんで…
深月は怒りで支配されていた心に急に寂しさが広がっていくのを感じた。
ーあの公園でそんな事を言うの?あそこはみっくんとの約束の場所…まだあそこを思い出の…過去の場所にはしたくなかったのに…
彼との約束はもう5年前の事。それでも深月の中であの場所、あの約束は過去の思い出ではなく現在も続く大事なものだった。だからあの公園に行く時はいつも深月はひとりだった。あそこに今という現実を持ち込みたくなかったのだ。
『…大嫌い。バカ。』
深月は降谷に向けて言った言葉を再度口にした。この言葉がチクンと胸に刺さるのはショックが大きいからなのか…深月はもやもやとして晴れない気持ちを外に出したくてため息をついた。
『…?あれ?ケータイがない…』
深月はうつ伏せだった体勢を仰向けにするとスボンのポケットに入れたはずの携帯電話の感触がないことに気が付いた。
どこに落としたのかと部屋中探すが見つからず廊下や玄関も探したが携帯電話は出てこなかった。深月が悩んでいるとスマートフォンからメールの着信音が鳴り深月はそれを開いて動きが固まった。
それは降谷からのメールで深月の物と思われる携帯電話を拾った、連絡先は千紗から聞いた旨とその写真が添付されていた。それはまさに今深月が探していたものだった。
ーうわぁ…面倒な人に拾われた…いや、拾ってもらったんだからちゃんとお礼は言わなきゃ…
深月は自分の物であり拾ってくれた事へのお礼を打ち込んでから考えた。出来るだけ早く返して欲しいがあまり関わりたくもない。今日の様な事がないように可能な限り他人の目があるところで会いたい。
『やっぱポアロに行って受け取るのが最善かな。』
深月は後日ポアロに取りに行く旨を足してメールを送信した。
『よし。これでもうあんな事は…』
そう言って深月は降谷にされた事を思い出すと恥ずかしくなり頬が熱くなった。その熱を逃す様に深月はブンブンと頭を左右に振った。
ー急に抱きしめてくるし人の匂い嗅ぐし…やっぱ痴漢って叫んでやれば良かったっ!
降谷は今、深月の家の前にいた。つまり警察庁長官の家の前だ。呼び出したのは当然深月ではなく母の恭子だった。裏の管理官経由に指示を受け正直降谷は緊張していた。裏の管理官からも、元ゼロのあの女には気を付けろ。とまで言われた。
降谷はフゥと息をつきインターホンを押そうとしたところで玄関のドアが開いた。
「いらっしゃい。どうぞ上がって。」
「…はい。」
ニコッと笑って迎えてくれた恭子に降谷は短く答えると家へ入った。リビングへ通されソファーに座る様促されるも断ると恭子はキッチンからティーセットを持って戻ってきた。それをローテーブルに置きティーカップにお茶を2つ用意して恭子は言った。
「お茶は座ってするものよ。さぁ。」
「失礼します。」
そんな風に促されては断りきれず降谷はソファーに腰掛けた。恭子は向かいに座りお茶をひと口飲んで話し出した。
「緊張してる?私が警察庁長官の妻だから?それとも元ゼロだから?」
「どちらでもあるかと。」
「ふーん。私はてっきり深月の母だからかと思ったわ。」
この質問には降谷は答えなかった。恭子がどこまで自分の事を把握しているのかわからなかったため、下手な回答は墓穴を掘る事になる。
「別に取って食おうってわけじゃないのよ、降谷くん。少し話をしたかったの。」
「はい。」
「ねぇ深月って可愛いでしょ?淡白なふりしてなんだかんだ色々心配してくれるし、好きな物食べた時の幸せそうな顔はこっちまで幸せにしてくるし、悪態も付くけどそこがまた可愛いでしょ?」
「は、はい?」
話をしたいと言われ降谷は色々な話題の可能性を脳裏に浮かべていたが、さすがに娘の自慢話をされるとは思わなかった。
「勉強の方も結構出来るのよ。器量だって悪くないわ。」
「はぁ…」
降谷が呆れ気味に相槌を打つと、頬を染めてうっとりと話していた恭子は鋭い目付きで降谷を見た。
「降谷くん。深月の事、好きなのよね?」
「はい。」
突然の質問とはいえ降谷が迷う事なく頷くと恭子はそれを見て満足そうに笑ってお茶を飲んだ。
「私、貴方を遠ざけようって思っているわけじゃないわ。むしろちょっと期待しているの。」
恭子はティーカップを置き立ち上がると降谷の背後に回りその肩にポンと手をかけ顔を覗き込んだ。
「あの子の時間を動かしてあげてちょうだい。」
恭子の言葉の意味を降谷は考えるが合点がいかずただ恭子の瞳を見つめた。
「今はわからなくていいわ。そのうち嫌でもわかる。」
恭子はそう言うと降谷の肩から手をどけてリビングの扉へ向かいながら片手を上げた。
「そこにいてちょうだい。今、深月を呼んでくるわ。」
恭子がリビングから出て行くと降谷はフゥと長いため息をついた。ひとまず恭子に悪い印象を与えていない事がわかりホッとした。ただ彼女の期待する事がなんなのか、その真意は掴めなかった。
降谷がその真意について考えているとリビングの扉が開き恭子と深月が入ってきた。
深月は降谷の顔を見るや否や顔をしかめ母親を見上げた。
『え?あの人が紹介したい人?』
「そうよ。知ってるでしょ、ポアロのお兄さん。」
『いや紹介なんていらないよね?』
「でも公安の彼は知らないでしょ?」
恭子の言葉に深月は、まぁそうだけど。と不満そうに答えた。恭子が降谷に視線を送ると降谷はソファーから立ち上がり深月に近付いた。
「降谷零です。」
『…フルヤ、レイ?』
「彼ね、ゼロなのよ。」
恭子が後ろからそう告げると深月は勢いよく母親を振り返り口をパクパクと動かし何か言いたそうにするが言葉にならなかった。
恭子は深月の肩を降谷の方へ押すとニコッと笑った。
「2日間程深月の事をお願い。夫がどうしても外せない用で海外に飛ぶ事になっているの。もう出なきゃいけない時間だからこれからよろしくね。」
『は?じゃあ私も一緒に行くよ!』
「えー!夫婦水入らずを邪魔するなんて野暮な娘ね。」
『水どころかSPだらけでしょ⁉︎』
「まぁそうでもないのよ。極秘扱いの上にちょっとやっかいな件なの。だから私が同行するのよ。わかるでしょ?」
ふふっと笑う恭子に深月の顔は青くなった。しかしそれは両親の身を案じたわけではなくむしろ相手の事を思ってだった。
『ほ、ほどほどにね?』
「んーわかってるわよ。久しぶりだからワクワクするわ。」
『ワーカーホリック…』
「あら、この国を守る一端を担うのよ。これほどワクワクする仕事はないわ。」
『はいはい。OGがでしゃばらないでよ。』
「承知しました。私の可愛いお姫様。」
恭子は深月をギュッと抱きしめ頬にキスをするとリビングを出ていってしまった。
深月はため息をつくとキッチンへ向かいながら降谷に声をかけた。
『え、と、降谷さん。お茶淹れますけど何か飲みます?』
「いえ僕は先ほど恭子さんから頂きましたので。」
そう降谷が答えると深月は降谷を一瞥してお茶を入れ始めた。
深月がお茶を淹れて戻りソファーに座ると降谷は拾った携帯電話の件を話した。
「今は持ち合わせていないので後で一緒に僕の家まで行っていただけますか?」
『それはいいですけど…』
了承する割には怪訝そうな顔でこちらを見てくる深月に降谷は首を傾げた。
『なんで敬語なんですか?』
「あぁ。」
深月が怪訝な顔をした理由がわかり降谷はニコリと笑った。
「僕も反省しているんです。この前は急な事で焦っていて…深月さんの言う通り女性に優しくスマートになろうかと。」
『嫌味なんですか?本気なんですか?どっちにしても今さらそのキャラは気持ち悪い。』
「…気持ち悪いは言い過ぎじゃないですか?」
深月の言葉に降谷の口元がひくついた。
降谷は深月と別れたあの夜、本当に反省をしたのだ。彼女に来るなと拒絶され焦ったせいで意地の悪い事もした。29の男が大人気ない事をしたなと恥ずかしくもなったのだ。そして何より大嫌いと言われたのはなかなかにダメージが大きかった。だから彼女の知っている女性に優しいスマートな安室のように接すればせめて嫌いとは言わないだろうと考えた。だが今度は気持ち悪いと来た…なら一体どうすればいいのか降谷には答えがわからなかった。
『本性がわかっているのにキャラ作られたら気持ち悪いです。安室である時は仕方ないですけど今は降谷なんでしょ?素でいたらいいじゃないですか。』
「君がそう言うなら…そうする。」
『そうして下さい。』
深月があっさりと答えをくれると降谷はフゥと安堵の息をついた。そして気になっていた先ほどの深月の様子について質問した。
「そういえば、僕の名前に何か?」
『…以前知り合いから聞いたので。』
「知り合い?」
『えぇ。だから驚いてしまっただけです。』
そう深月は降谷零の名前を聞いてさらに母親から彼がゼロであると聞かされわかったのだ。彼が"みっくん"こと諸伏景光の幼馴染で親友だと言う事を。そして母親が彼に自分を任せた理由も。
深月はお茶を飲むとスッとソファーから立ち上がってキッチンにそれを下げた。
『そろそろ携帯電話を取りに向かいましょう。私は上着を取ってくるので玄関の外で待っていて下さい。』
「あぁ、わかった。」
これ以上は追求しても無駄だと判断し降谷は深月の言葉に頷き、この家を出た。程なくして深月も現れ2人は降谷の車に乗り込むと降谷の家へ向かった。彼女を乗せるのは2回目だなと降谷は思い出しているとあの時の深月の言葉が気になった。
「以前、警察が嫌いだと言っていたが…あれは嘘だろ?」
『嘘じゃありませんよ。警察は嫌いです。』
「警察官は嘘をつくからか?」
『…それも嘘じゃない。ただ正確には警察という職業が嫌いなんです。国のため人のため…そのために嘘までついて体をはって時には命まで…世の中にはもっとたくさんの仕事があって、感謝されてる人はたくさんいるのに…ほんと理不尽な職業ですよ。』
そう言って深月がそっぽを向くと降谷はフッと声を出して笑った。深月はどこに笑う要素があったのかと降谷を睨みつけた。
「悪い…でもやっぱり警察が嫌いってのは嘘だ。」
『人の話聞いてました?』
「聞いたからだよ。君はご両親の事、大切に思っているだろ?」
降谷はリビングに飾ってあった複数の家族写真を思い出していた。それはどれも幸せそうでいつも3人で写っていた。
『そりゃまぁ。』
「他にたくさんの職業がある中、国のため人のために嘘をついたり命をはったりするそんな職業にあえて就いたご両親を尊敬しているんじゃないか?そんな職業を君は嫌っているんじゃない。誇りに思っているんだ。」
こっちを見てそう笑いかけてくる降谷に深月は目を見開いた。
同じ事を諸伏にも言われた事があるからだ。その時の彼の面影と降谷が被り深月は眉をひそめた。
『運転中によそ見しないで。』
「赤信号だったからさ。」
『教習所でそれ言ったら怒られますよ。』
はいはい。と降谷は適当に返事をすると前を向いた。深月が話題を変えた事で図星だと踏んだのかその顔は満足げで、それが深月の癪に障り深月の余計なひと言を引き出す事になった。
『さっきの話ですけど、以前同じ事を別の人に言われた事があります。二番煎じなのであまり得意げにしないで下さい。』
「君、少し性格悪くないか?」
『いいとは思ってません。それと…やっぱり私は警察が嫌いです。』
「君も強情だな。前にも他の人に言われたのならいい加減納得したらどうなんだ?」
『…あの頃とは状況が違います。今は本当に嫌いなんです。』
深月はふいっとそっぽを向くとそれっきり降谷を見なかった。降谷はフゥとため息をつくとその後はただ黙って自分の家を目指した。
つづく