桜舞う頃 【完結】
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時刻は夜8時、作詞にかかる時間が3時間としても締め切りの明日の正午までには十分に時間があった。
深月は戻されたベッドの上で降谷の笑顔に少し恐怖を感じていた。
「防衛省の幹部の息子、一条護は今度防犯システムの会社を起業するらしい。先日彼の叔母主催のパーティーでその発表があったが、今までにない画期的なシステムの導入が期待出来て先が楽しみだと会社の評判がいい。だが注目されたのはそれ以上に彼のパートナーだ。今まで誰かを同伴させたことのなかった彼がこのパーティーで同伴したのは誰だと思う?」
『…警察庁長官の娘です。』
「あぁよくわかったな。そう、警察庁長官の娘、市原深月を同伴したらしい。今、界隈ではこの2人は交際していて将来は結婚するんだろうと噂されている。」
『へぇそうなんですね。』
深月は視線を逸らしながら相槌を打った。降谷は相変わらずニコニコとしながら深月に尋ねた。
「ところで僕は君の親公認の恋人だったと思うんだが…僕の思い違いだったか?」
『相違ありません。』
「じゃあなんで僕の恋人があたかも他の男の恋人の様に言われているのか…説明してもらえるんだろうな?」
いつの間にか笑顔が消え鋭く睨まれると深月はいよいよ視線が降谷へは戻せなくなった。
『それは…まぁただの噂で事実無根ですし…』
「パーティーにパートナーとして出席すればどう見られるか君ならよく知っているだろ。」
『まぁ…どちらかといえばそれが目的だったので。』
「だろうな。背景を見ればそれはわかる。親の指示だったという事も。でも事前に相談のひとつはあっても良かったんじゃないか?」
降谷だって何も出席するなとまでは言うつもりはなかった。権力者ゆえのいろいろな面倒事はあって当然だと考えていたし、いくら恋人とはいえ婚約者などの近しい関係でない以上それをどうこう言える立場でもない。しかしだからといって一言くらい相談があってもいい内容ではないかと降谷は思った。正直、噂でも自分の恋人が他人の恋人の様に扱われているのを聞けばいい気はしなかった。
『…そうですね。母には相談しろと言われました。』
「じゃあなんで相談しなかったんだ?」
『だって……零さんも報告なかったし。』
「報告?」
降谷が眉をひそめると深月は降谷に視線を戻してジッと見つめた。
『梓さんとNEW BEIKA HOTELの屋上レストラン行ったでしょ。』
「あぁ…あれは断り切れなかったんだよ。シフトも無理にお願いしたところもあったし、ポアロのメニュー開発だし梓さんも仕事として食事をしたんだ。」
『わかってますよ。そんな事。梓さんにだって言われましたよ、違うのよって。というか場所が悪いと思いません?まぁとはいえ明確に約束はしてませんから…いいですけど。』
「恭子さんからもらった食事券だろ?梓さんの期待に満ちた目を見たら場所を変えようとは言えなかったんだ。」
『まぁその件は私の中ではもう比較的どうでもいい事になってるんでいいんですけど…今まで散々意地悪されたんで仕返しの時かなぁと。』
「君なぁ…」
深月の回答に降谷は言葉を失った。まさかこんな形で仕返しをされるとは思ってもいなかった。
「ちょっとやり過ぎじゃないか?」
『そうですかね?お返しは多めにって母からも教わりましたので。』
「この親にしてこの子ありだな。」
『それ、元来褒め言葉ですよ。』
「嫌味だよ。わかってるだろ。」
降谷がハァとため息をつくと深月はその腕に腕を絡めてギュッと抱きついた。
『わかってます。ただ連絡すれば済んだ話なのに…意地を張ってしまったんです。ごめんなさい。』
「…わかったよ。僕も悪かった。連絡のひとつも入れなかったし、梓さんとの事を黙ってた。」
深月がしおらしく謝ると降谷も連絡しなかった件を謝った。深月はもっと小言を言われるんだろうと思っていたので内心ホッとしていた。
「でもなんで梓さんの件、どうでもよくなってるんだ?」
『え…』
「"もう比較的どうでもいい"ってことは前まではどうでもよくなかったんだろ?」
『あー…まぁ…はは。』
深月は視線を明後日の方向に向けると笑って誤魔化した。
ー貴方に愛されてるって自覚したのでどうでもよくなりましたなんて言えるわけない…
「…それはつまり僕の事もどうでもよくなったのか?だからそんな事では怒らないと?」
『ち、違います!むしろ…』
「むしろ?」
降谷がニヤリと笑いながら問いかけて来たので深月は降谷にはめられたと気付いた。
『わ、わかってて聞いてますね⁉︎』
「そんな事ないさ。確信はない。」
『つまり予想はついてると?』
「いいじゃないか、答え合わせをしよう。」
降谷がふわりと優しく微笑むものだから深月は胸の奥がキュンとして話さないわけにはいかなくなった。
『…だから、その…零さんに愛されてるってわかったから…気にならないというか、心配ないというか…』
「そうか。なら良かった。」
降谷は笑うとポンポンと深月の頭を撫でた。深月はそんな降谷を見つめてぼんやりと考えた。
ー零さんは護に嫉妬したのかな?それはつまり…私の愛情表現に問題ありって事なのかな…不安にさせてるのは私なのかな…
黙って眉をそひめる深月に気付くと降谷は尋ねた。
「どうした?」
『零さんは不安ですか?』
「ん?」
『私は…その、ちゃんと伝えられてるのかなって…』
恥ずかしそうに頬を赤くして伝えてくる深月が可愛くて愛おしくて降谷は笑った。
「大丈夫。深月の天邪鬼なとこはわかってるし…僕が大好きだって事は十分に伝わってるから。」
『っ…で、でも零さんも護に嫉妬したんでしょ?』
「それはたぶん単純に僕の独占欲が強いからだ。いっそこのまま君をここに閉じ込めてしまえたら…なんて思うよ。」
降谷の青い瞳に影が落ちると深月の心臓がドクンッと強く鼓動を打った。降谷は自分の腕に絡む深月の手が震えているのに気付くと苦笑しその手を握った。
「別に本気で閉じ込めようってわけじゃないさ。ごめん、怖がらせたな。」
『あ…違うんです…怖かったんじゃなくて…ちょっと驚いて。そんな感情も嫉妬の中のひとつなのかなって私にはない発想だったから感動して…あぁでもさすがにこれはハニハニが歌うにはダーク過ぎるか…』
「……」
いやでも可愛いハニハニだからこそダークな一面があるのもいいかも…等とブツブツ言いながら自分の世界に入っていってしまった深月に降谷は置いていかれた気分になった。そんな降谷など目もくれずに思案する深月に降谷は若干の苛立ちを覚え絡む深月の腕から腕を抜くと深月に覆い被さった。突然影になった視界に深月は目を丸くして降谷を見上げた。
「でも確かに深月の愛情を再確認するのはいつだってしたいな。」
『は?』
「僕を安心させたいんだろ?だから君の愛を確認しようかな。」
『え…ぁっ!』
そう言って降谷が深月の胸を揉むと、つい甘い声が出た深月は慌てて降谷の手を掴んだ。
『ちょ、ちょっと!』
「さっきはたくさん僕を求めてくれただろ?僕が触れるたびに可愛く反応して甘い声を出して…あれを聞くと安心するな。」
『ほ、他の事でお願い出来ませんか⁉︎』
「例えば?」
『え、えと…ハ、ハグとか?』
「それは最終的にここに行き着く気がするけどいいのか?」
『それは零さんがエッチだからでしょ!』
ムゥと頬を膨らませる深月を見ると降谷はクスッと笑った。
「うん。それは否定しないよ。君と触れてるとしたくなる。でもそれはたぶん男はみんなそうだよ。好きな子に触れてたらもっと触りたくなって、もっと欲しくなって、もっと繋がりたくなる。」
『それは…』
男女関係ないかも、と言いそうになって深月は口を噤んだ。さっきまでの自分は降谷と触れるたびにもっと降谷が欲しくて堪らなかった。そんな感情を思い出すと深月は顔を真っ赤にして降谷から顔を逸らした。降谷はそんな深月の顎を掴むと自分の方へ向かせた。
「"それは"?」
『…なんでもないです。』
「君も変わらない?珍しくもっと、もっとってねだったもんな。」
『い、言わないでください!だから言ったじゃないですか!今日はダメなんですってば!』
「何がダメなんだ?」
『今日は…感情が上手くコントロール出来ない日なんです。あんな風に爆発した日は暫く直りません。普段は平気なんですけど…昔それでよく両親を困らせました。』
「日々溜め込んだものを吐き出してるんだな。なら、少しずつ吐き出せばいい。それは君の素直な感情なんだから。」
『吐き出すったって…』
「あまり我慢せずに言ってくれたらいい。今回だって君は僕に気を遣って電話もメールも一切しなかったろ?」
『だって…仕事中とか寝てるタイミングだったら邪魔になるし…』
深月がもじもじと髪先を弄りながら言うと降谷はハァとため息をついた。
「今後はそんな事気にしなくていい。本当はずっと君の声が聞きたかった。僕から電話したって良かった。でも僕から電話しておいてすぐに切るんじゃさすがに良くないなと思ったし、こっちがちゃんと電話出来そうなタイミングはいつも夜中で…だからこれからはいつでも気にせず電話をくれないか?長くは話せないだろうけど少しは話せると思うから。」
『零さんがそう言ってくれるなら…そうします。』
「それと、君に渡したあの鍵は飾りじゃないんだぞ。ちゃんと使ってくれ。」
降谷の言うあの鍵とは降谷の家の鍵の事だ。深月はキーケースに入ったままになっているそれを思い浮かべ苦笑した。
『でも使うったって…』
「好きなタイミングで使ったらいい。ハロに会いに来たっていいんだ。」
『そんな自分の家みたいに…』
「そう思えばいいだろ。別に僕は困らない。今回僕はわりと期待してたんだ、もしかしたら君がいたりするかなとか。そのたびに落ち込んだんだぞ。」
『え…零さんもそんな事考えるんですね。』
「僕をなんだと思ってるんだ。」
深月が目を丸くするので降谷は呆れた様に半眼で深月を睨んだ。
『フフッ、そっか。』
深月は交差点で降谷の車を見かけて、もしかしたらと期待して落ち込んだ自分を思い出し、そんな感情を降谷も経験していたんだと思うと嬉しくなった。そんな風に一喜一憂するのは同じなんだと。
「君は僕がロボットか何かかと思っているのか?」
『まぁ人間離れはしてますよね。』
「それは褒め言葉か?」
『さぁ?でも人じゃなくたって零さんは零さんですから。』
「その言い方だとまるで僕が人間じゃないみたいじゃないか。」
降谷が呆れた様に言うと深月はおかしそうにクスクスと笑った。降谷はそんな深月の頬を撫でるとチュッとキスをした。2人は見つめ合い降谷が顔を近付けると深月は瞳を閉じた。直後重なる唇は何度も角度を変えては重なり深月は鼓動を速くさせ、甘くて熱い感覚に深月の瞳が熱を帯びた。降谷の手がふにっと胸を掴むと深月はビクッと肩を揺らして慌てて降谷の胸を押した。
『ちょっ!』
「ダメか?」
『ダメです!本当に仕事しないと!私、午前中別件だってあるんですからね?』
「そうなのか、けど…そんな姿でそんな顔されたらしたくなる。」
『え…』
降谷に指摘され深月は今自分が何も着ていない事を思い出した。慌てて胸を隠す様に自分の肩を抱くと深月は真っ赤な顔で降谷を睨んだ。
『見ないでください。』
「僕は君のもっと恥ずかしい姿を見てるぞ?」
『と、とにかく服着ます。』
深月は周囲を見回し脱いだのか脱がされたのかも記憶が曖昧なシャツを手繰り寄せると体を起こしてそれを着た。
『仕事といえば零さんこそ問題ないんですか?』
「あぁ問題なさそうだ。」
降谷はベッドの端に置いたスマートフォンをチラリと見てそう答えた。深月はうっすらと不安を覚えて降谷をジトッと見つめた。
『…風見さんに押し付けてないですよね?』
「押し付けるってのは言い方が良くないな。後処理を任せてきた。」
『……任せるっていい言葉ですね。』
ー風見さん。お疲れ様です。あー食事券、風見さんにあげようかな?私も食べたいし一緒に行ってきてもいいな
深月がまだ本庁で残業をしていると思われる風見を思ってそんな事を考えていると降谷にカプッと耳を甘噛みされた。
『ひゃっ!な、なんです⁉︎』
「恋人と2人きりの時に他の男の事を考えてるのは感心しないな。」
『だって風見さん絶対大変ですよ。NEW BEIKA HOTELの屋上レストランの食事、風見さんと行ってきていいですか?』
「なんで?」
『美味しいもの食べながら上司の愚痴を聞いてあげようかと。いいストレス発散になるしちゃんと食事もとれて一石二鳥ですよ。』
「君に仕事の愚痴は言わないんじゃないか?」
『んーそうですかね?』
「君は何かと風見に優しくないか?」
降谷が眉をひそめて尋ねると深月は首を傾げた。
『え?そうですか?んー…風見さんも私に優しかったからかな?それに風見さん真面目だから。』
「僕だって真面目だぞ。」
『へぇ…でも仕事中の零さんを私は知りませんから。』
「普段の僕は真面目に見えないのか?」
降谷が心外そうに半眼で睨んでくるが深月は悩みながら答えた。
『見えない事はないですけど…安室さんは好青年ですし…でも風見さんのが真面目って感じですね。学級委員長って感じ。零さんは根は真面目だけどトラブル起こす方って感じ。小さい頃は結構やんちゃだったんじゃないですか?』
深月の指摘に降谷はドキリとした。あながち間違いでもないため否定しづらく降谷は話題を変えた。
「それより食事を風見と行くのはダメだぞ。僕とのが先に約束してたろ。」
『明確な約束はしてないですけどね。』
深月は図星なんだなぁと思いながらもそこをそれ以上追求するつもりはなく降谷が変えた話題に移る事にした。
「じゃあ僕とは行きたくないのか?」
『んー…行きたくない事はないですけど…』
ー零さんと絶対行きたいかって聞かれると別にそうでもないんだよなぁ。風見さんや千紗でもいいし。
深月の考えている事がわかったのか降谷はハァとため息をつくと深月を睨んだ。
「ちなみに千紗さんと行くにしても僕はいい気はしないぞ。」
『え、そうなんですか?』
「独占欲が強いってのはそういう事なんだよ。」
『へぇ…』
深月は不思議そうに降谷に相槌を打ちながらもふと思い出した。規制線の先で降谷が見せた信頼を寄せる眼差しがもしも女性捜査官じゃなく風見だったとしても自分はやっぱり妬いたんじゃないだろうかと。
『…なるほど。』
「何を考えて納得したんだ。」
『いえいえ、そういうもんなんだなぁと思っただけですよ。いいですよ、零さん。時間ある時に行きましょう。ちなみに今の予定ではいつ頃空いてるんです?』
「それで誤魔化してるつもりか?」
ー千紗ならこれで誤魔化せたんだけどなぁ…零さんにはちょっと無理か。
降谷が変わらず睨んでくるので深月は仕方なく答える事にした。
『別に…私もたぶん女性だけじゃなく男性にも嫉妬するんだろうなぁと考えただけですよ。』
「ふーん、それは公安の件か?」
ニヤニヤとする降谷に深月はどうにも納得がいかなかった。
ーこの人、あえて私に言わせたな…
『…ムカつくので一発くらい顔殴らせてくれませんか?』
「なんで顔なんだ。」
『そのなんでも知った様なニヤケ顔がムカつくから。』
深月が不機嫌さを露骨に顔に出して言えば降谷は苦笑した。
「さすがに顔は…腹ならいいかな。」
『…嫌です。腹はたぶん痛くない。』
「急所だぞ?」
『腹筋しっかり鍛えてる人に言われたくない。そんなの刃物か拳銃じゃなきゃ急所じゃない。』
「結構怖い事言うな。」
『そうですねぇ…なんか固いもので胸骨グリグリしていいですか?』
「いいわけないだろ。それは本当に痛いやつだ。そんなに何かしら制裁を加えたいのか?」
『いえ冗談です。まぁ興味本意的なところはありますけど。』
「興味本意?」
降谷が首を傾げると深月はコクンと頷いた。
『零さんの痛がるとこって見た事ないなぁと。』
「見たいのか?」
『そんなには。まぁ角に足の小指ぶつけて痛がるくらいの顔は見たいです。』
「地味に痛いやつをチョイスしないでくれ。」
『冗談ですよ。一緒にいればその内、そのくらい見れるでしょ?』
そう言って深月がベッドから降りて見つけたショーツとズボンを履いたのを降谷はジッと見つめた。深月はそんな視線に気付いて恥ずかしそうに尋ねた。
『な、なんです?そんなに見ないでください。』
「いや君の言う通りだなって思ってさ。一緒にいればいろいろな君を見れるなと。」
『…その分自分もさらすって事ですけどね。』
「あぁそうだな。」
フッと笑う降谷の顔があまりにも優しくて深月の心臓がドキンッと高鳴った。深月は赤らんだ頬を隠す様に下を向き唯一身につけていないブラジャーを探した。ベッドの上や周りを辿る深月の視線に気付き降谷は毛布の中から彼女の探し物を取り出した。
「これか?」
『ちょっ…そうですけど…普通に持ち上げないでくださいよ。』
「どうして?」
『どうしてって…』
深月は恥ずかしそうに顔を歪めた。自分の下着を見られるのは同性でもなんとなく恥ずかしいのに恋人にそんな風に持ち上げられるのは堪え難かった。
ーこんな下着じゃどうってことないって事ですか。えーそうでしょうね!可愛さのかけらもありませんもんね!
深月はリボンやレースがついているわけでないシンプルな無地のそれを降谷の手から乱暴に奪い取った。
それをギュッと握りしめて深月は降谷に背を向けた。手元の自分のブラジャーをチラリと見てその色気のなさに深月は自分でも少し呆れた。
ー零さんがっかりしたかな…もっと可愛い下着買っとけば良かった。でも千紗に選んでもらうのはさすがになぁ…
深月が小さくため息をつくとギュッと後ろから降谷に抱きしめられた。降谷は深月の耳元に唇を寄せると囁いた。
「そんなに心配しなくても残念になんて思ってないよ。」
『へ⁉︎』
「十分に君自体が可愛いから。」
『な、何言ってるんですか!』
「まぁさすがにブラだけ見て恥ずかしがる歳ではないけどな。」
『…私は恥ずかしいんです。』
「ん。悪かったよ。」
ムゥと頬を膨らませる深月の顔を降谷は覗き込むとその頬にキスを落とした。深月はたったそれだけで機嫌が良くなる自分に苦笑し視線を下げた。
『もう…』
「深月」
『んっ!』
降谷に呼ばれてそちらを向けば深月はキスされた。
「でもセクシーなランジェリー姿の君も見たいから今度一緒に買いに行こうか?」
『い、行きません!』
降谷は真っ赤になって拒否してくる深月なんていくらでも想像出来たが、実際に見るその姿のがずっと可愛らしくてつい笑ってしまった。
つづく
深月は戻されたベッドの上で降谷の笑顔に少し恐怖を感じていた。
「防衛省の幹部の息子、一条護は今度防犯システムの会社を起業するらしい。先日彼の叔母主催のパーティーでその発表があったが、今までにない画期的なシステムの導入が期待出来て先が楽しみだと会社の評判がいい。だが注目されたのはそれ以上に彼のパートナーだ。今まで誰かを同伴させたことのなかった彼がこのパーティーで同伴したのは誰だと思う?」
『…警察庁長官の娘です。』
「あぁよくわかったな。そう、警察庁長官の娘、市原深月を同伴したらしい。今、界隈ではこの2人は交際していて将来は結婚するんだろうと噂されている。」
『へぇそうなんですね。』
深月は視線を逸らしながら相槌を打った。降谷は相変わらずニコニコとしながら深月に尋ねた。
「ところで僕は君の親公認の恋人だったと思うんだが…僕の思い違いだったか?」
『相違ありません。』
「じゃあなんで僕の恋人があたかも他の男の恋人の様に言われているのか…説明してもらえるんだろうな?」
いつの間にか笑顔が消え鋭く睨まれると深月はいよいよ視線が降谷へは戻せなくなった。
『それは…まぁただの噂で事実無根ですし…』
「パーティーにパートナーとして出席すればどう見られるか君ならよく知っているだろ。」
『まぁ…どちらかといえばそれが目的だったので。』
「だろうな。背景を見ればそれはわかる。親の指示だったという事も。でも事前に相談のひとつはあっても良かったんじゃないか?」
降谷だって何も出席するなとまでは言うつもりはなかった。権力者ゆえのいろいろな面倒事はあって当然だと考えていたし、いくら恋人とはいえ婚約者などの近しい関係でない以上それをどうこう言える立場でもない。しかしだからといって一言くらい相談があってもいい内容ではないかと降谷は思った。正直、噂でも自分の恋人が他人の恋人の様に扱われているのを聞けばいい気はしなかった。
『…そうですね。母には相談しろと言われました。』
「じゃあなんで相談しなかったんだ?」
『だって……零さんも報告なかったし。』
「報告?」
降谷が眉をひそめると深月は降谷に視線を戻してジッと見つめた。
『梓さんとNEW BEIKA HOTELの屋上レストラン行ったでしょ。』
「あぁ…あれは断り切れなかったんだよ。シフトも無理にお願いしたところもあったし、ポアロのメニュー開発だし梓さんも仕事として食事をしたんだ。」
『わかってますよ。そんな事。梓さんにだって言われましたよ、違うのよって。というか場所が悪いと思いません?まぁとはいえ明確に約束はしてませんから…いいですけど。』
「恭子さんからもらった食事券だろ?梓さんの期待に満ちた目を見たら場所を変えようとは言えなかったんだ。」
『まぁその件は私の中ではもう比較的どうでもいい事になってるんでいいんですけど…今まで散々意地悪されたんで仕返しの時かなぁと。』
「君なぁ…」
深月の回答に降谷は言葉を失った。まさかこんな形で仕返しをされるとは思ってもいなかった。
「ちょっとやり過ぎじゃないか?」
『そうですかね?お返しは多めにって母からも教わりましたので。』
「この親にしてこの子ありだな。」
『それ、元来褒め言葉ですよ。』
「嫌味だよ。わかってるだろ。」
降谷がハァとため息をつくと深月はその腕に腕を絡めてギュッと抱きついた。
『わかってます。ただ連絡すれば済んだ話なのに…意地を張ってしまったんです。ごめんなさい。』
「…わかったよ。僕も悪かった。連絡のひとつも入れなかったし、梓さんとの事を黙ってた。」
深月がしおらしく謝ると降谷も連絡しなかった件を謝った。深月はもっと小言を言われるんだろうと思っていたので内心ホッとしていた。
「でもなんで梓さんの件、どうでもよくなってるんだ?」
『え…』
「"もう比較的どうでもいい"ってことは前まではどうでもよくなかったんだろ?」
『あー…まぁ…はは。』
深月は視線を明後日の方向に向けると笑って誤魔化した。
ー貴方に愛されてるって自覚したのでどうでもよくなりましたなんて言えるわけない…
「…それはつまり僕の事もどうでもよくなったのか?だからそんな事では怒らないと?」
『ち、違います!むしろ…』
「むしろ?」
降谷がニヤリと笑いながら問いかけて来たので深月は降谷にはめられたと気付いた。
『わ、わかってて聞いてますね⁉︎』
「そんな事ないさ。確信はない。」
『つまり予想はついてると?』
「いいじゃないか、答え合わせをしよう。」
降谷がふわりと優しく微笑むものだから深月は胸の奥がキュンとして話さないわけにはいかなくなった。
『…だから、その…零さんに愛されてるってわかったから…気にならないというか、心配ないというか…』
「そうか。なら良かった。」
降谷は笑うとポンポンと深月の頭を撫でた。深月はそんな降谷を見つめてぼんやりと考えた。
ー零さんは護に嫉妬したのかな?それはつまり…私の愛情表現に問題ありって事なのかな…不安にさせてるのは私なのかな…
黙って眉をそひめる深月に気付くと降谷は尋ねた。
「どうした?」
『零さんは不安ですか?』
「ん?」
『私は…その、ちゃんと伝えられてるのかなって…』
恥ずかしそうに頬を赤くして伝えてくる深月が可愛くて愛おしくて降谷は笑った。
「大丈夫。深月の天邪鬼なとこはわかってるし…僕が大好きだって事は十分に伝わってるから。」
『っ…で、でも零さんも護に嫉妬したんでしょ?』
「それはたぶん単純に僕の独占欲が強いからだ。いっそこのまま君をここに閉じ込めてしまえたら…なんて思うよ。」
降谷の青い瞳に影が落ちると深月の心臓がドクンッと強く鼓動を打った。降谷は自分の腕に絡む深月の手が震えているのに気付くと苦笑しその手を握った。
「別に本気で閉じ込めようってわけじゃないさ。ごめん、怖がらせたな。」
『あ…違うんです…怖かったんじゃなくて…ちょっと驚いて。そんな感情も嫉妬の中のひとつなのかなって私にはない発想だったから感動して…あぁでもさすがにこれはハニハニが歌うにはダーク過ぎるか…』
「……」
いやでも可愛いハニハニだからこそダークな一面があるのもいいかも…等とブツブツ言いながら自分の世界に入っていってしまった深月に降谷は置いていかれた気分になった。そんな降谷など目もくれずに思案する深月に降谷は若干の苛立ちを覚え絡む深月の腕から腕を抜くと深月に覆い被さった。突然影になった視界に深月は目を丸くして降谷を見上げた。
「でも確かに深月の愛情を再確認するのはいつだってしたいな。」
『は?』
「僕を安心させたいんだろ?だから君の愛を確認しようかな。」
『え…ぁっ!』
そう言って降谷が深月の胸を揉むと、つい甘い声が出た深月は慌てて降谷の手を掴んだ。
『ちょ、ちょっと!』
「さっきはたくさん僕を求めてくれただろ?僕が触れるたびに可愛く反応して甘い声を出して…あれを聞くと安心するな。」
『ほ、他の事でお願い出来ませんか⁉︎』
「例えば?」
『え、えと…ハ、ハグとか?』
「それは最終的にここに行き着く気がするけどいいのか?」
『それは零さんがエッチだからでしょ!』
ムゥと頬を膨らませる深月を見ると降谷はクスッと笑った。
「うん。それは否定しないよ。君と触れてるとしたくなる。でもそれはたぶん男はみんなそうだよ。好きな子に触れてたらもっと触りたくなって、もっと欲しくなって、もっと繋がりたくなる。」
『それは…』
男女関係ないかも、と言いそうになって深月は口を噤んだ。さっきまでの自分は降谷と触れるたびにもっと降谷が欲しくて堪らなかった。そんな感情を思い出すと深月は顔を真っ赤にして降谷から顔を逸らした。降谷はそんな深月の顎を掴むと自分の方へ向かせた。
「"それは"?」
『…なんでもないです。』
「君も変わらない?珍しくもっと、もっとってねだったもんな。」
『い、言わないでください!だから言ったじゃないですか!今日はダメなんですってば!』
「何がダメなんだ?」
『今日は…感情が上手くコントロール出来ない日なんです。あんな風に爆発した日は暫く直りません。普段は平気なんですけど…昔それでよく両親を困らせました。』
「日々溜め込んだものを吐き出してるんだな。なら、少しずつ吐き出せばいい。それは君の素直な感情なんだから。」
『吐き出すったって…』
「あまり我慢せずに言ってくれたらいい。今回だって君は僕に気を遣って電話もメールも一切しなかったろ?」
『だって…仕事中とか寝てるタイミングだったら邪魔になるし…』
深月がもじもじと髪先を弄りながら言うと降谷はハァとため息をついた。
「今後はそんな事気にしなくていい。本当はずっと君の声が聞きたかった。僕から電話したって良かった。でも僕から電話しておいてすぐに切るんじゃさすがに良くないなと思ったし、こっちがちゃんと電話出来そうなタイミングはいつも夜中で…だからこれからはいつでも気にせず電話をくれないか?長くは話せないだろうけど少しは話せると思うから。」
『零さんがそう言ってくれるなら…そうします。』
「それと、君に渡したあの鍵は飾りじゃないんだぞ。ちゃんと使ってくれ。」
降谷の言うあの鍵とは降谷の家の鍵の事だ。深月はキーケースに入ったままになっているそれを思い浮かべ苦笑した。
『でも使うったって…』
「好きなタイミングで使ったらいい。ハロに会いに来たっていいんだ。」
『そんな自分の家みたいに…』
「そう思えばいいだろ。別に僕は困らない。今回僕はわりと期待してたんだ、もしかしたら君がいたりするかなとか。そのたびに落ち込んだんだぞ。」
『え…零さんもそんな事考えるんですね。』
「僕をなんだと思ってるんだ。」
深月が目を丸くするので降谷は呆れた様に半眼で深月を睨んだ。
『フフッ、そっか。』
深月は交差点で降谷の車を見かけて、もしかしたらと期待して落ち込んだ自分を思い出し、そんな感情を降谷も経験していたんだと思うと嬉しくなった。そんな風に一喜一憂するのは同じなんだと。
「君は僕がロボットか何かかと思っているのか?」
『まぁ人間離れはしてますよね。』
「それは褒め言葉か?」
『さぁ?でも人じゃなくたって零さんは零さんですから。』
「その言い方だとまるで僕が人間じゃないみたいじゃないか。」
降谷が呆れた様に言うと深月はおかしそうにクスクスと笑った。降谷はそんな深月の頬を撫でるとチュッとキスをした。2人は見つめ合い降谷が顔を近付けると深月は瞳を閉じた。直後重なる唇は何度も角度を変えては重なり深月は鼓動を速くさせ、甘くて熱い感覚に深月の瞳が熱を帯びた。降谷の手がふにっと胸を掴むと深月はビクッと肩を揺らして慌てて降谷の胸を押した。
『ちょっ!』
「ダメか?」
『ダメです!本当に仕事しないと!私、午前中別件だってあるんですからね?』
「そうなのか、けど…そんな姿でそんな顔されたらしたくなる。」
『え…』
降谷に指摘され深月は今自分が何も着ていない事を思い出した。慌てて胸を隠す様に自分の肩を抱くと深月は真っ赤な顔で降谷を睨んだ。
『見ないでください。』
「僕は君のもっと恥ずかしい姿を見てるぞ?」
『と、とにかく服着ます。』
深月は周囲を見回し脱いだのか脱がされたのかも記憶が曖昧なシャツを手繰り寄せると体を起こしてそれを着た。
『仕事といえば零さんこそ問題ないんですか?』
「あぁ問題なさそうだ。」
降谷はベッドの端に置いたスマートフォンをチラリと見てそう答えた。深月はうっすらと不安を覚えて降谷をジトッと見つめた。
『…風見さんに押し付けてないですよね?』
「押し付けるってのは言い方が良くないな。後処理を任せてきた。」
『……任せるっていい言葉ですね。』
ー風見さん。お疲れ様です。あー食事券、風見さんにあげようかな?私も食べたいし一緒に行ってきてもいいな
深月がまだ本庁で残業をしていると思われる風見を思ってそんな事を考えていると降谷にカプッと耳を甘噛みされた。
『ひゃっ!な、なんです⁉︎』
「恋人と2人きりの時に他の男の事を考えてるのは感心しないな。」
『だって風見さん絶対大変ですよ。NEW BEIKA HOTELの屋上レストランの食事、風見さんと行ってきていいですか?』
「なんで?」
『美味しいもの食べながら上司の愚痴を聞いてあげようかと。いいストレス発散になるしちゃんと食事もとれて一石二鳥ですよ。』
「君に仕事の愚痴は言わないんじゃないか?」
『んーそうですかね?』
「君は何かと風見に優しくないか?」
降谷が眉をひそめて尋ねると深月は首を傾げた。
『え?そうですか?んー…風見さんも私に優しかったからかな?それに風見さん真面目だから。』
「僕だって真面目だぞ。」
『へぇ…でも仕事中の零さんを私は知りませんから。』
「普段の僕は真面目に見えないのか?」
降谷が心外そうに半眼で睨んでくるが深月は悩みながら答えた。
『見えない事はないですけど…安室さんは好青年ですし…でも風見さんのが真面目って感じですね。学級委員長って感じ。零さんは根は真面目だけどトラブル起こす方って感じ。小さい頃は結構やんちゃだったんじゃないですか?』
深月の指摘に降谷はドキリとした。あながち間違いでもないため否定しづらく降谷は話題を変えた。
「それより食事を風見と行くのはダメだぞ。僕とのが先に約束してたろ。」
『明確な約束はしてないですけどね。』
深月は図星なんだなぁと思いながらもそこをそれ以上追求するつもりはなく降谷が変えた話題に移る事にした。
「じゃあ僕とは行きたくないのか?」
『んー…行きたくない事はないですけど…』
ー零さんと絶対行きたいかって聞かれると別にそうでもないんだよなぁ。風見さんや千紗でもいいし。
深月の考えている事がわかったのか降谷はハァとため息をつくと深月を睨んだ。
「ちなみに千紗さんと行くにしても僕はいい気はしないぞ。」
『え、そうなんですか?』
「独占欲が強いってのはそういう事なんだよ。」
『へぇ…』
深月は不思議そうに降谷に相槌を打ちながらもふと思い出した。規制線の先で降谷が見せた信頼を寄せる眼差しがもしも女性捜査官じゃなく風見だったとしても自分はやっぱり妬いたんじゃないだろうかと。
『…なるほど。』
「何を考えて納得したんだ。」
『いえいえ、そういうもんなんだなぁと思っただけですよ。いいですよ、零さん。時間ある時に行きましょう。ちなみに今の予定ではいつ頃空いてるんです?』
「それで誤魔化してるつもりか?」
ー千紗ならこれで誤魔化せたんだけどなぁ…零さんにはちょっと無理か。
降谷が変わらず睨んでくるので深月は仕方なく答える事にした。
『別に…私もたぶん女性だけじゃなく男性にも嫉妬するんだろうなぁと考えただけですよ。』
「ふーん、それは公安の件か?」
ニヤニヤとする降谷に深月はどうにも納得がいかなかった。
ーこの人、あえて私に言わせたな…
『…ムカつくので一発くらい顔殴らせてくれませんか?』
「なんで顔なんだ。」
『そのなんでも知った様なニヤケ顔がムカつくから。』
深月が不機嫌さを露骨に顔に出して言えば降谷は苦笑した。
「さすがに顔は…腹ならいいかな。」
『…嫌です。腹はたぶん痛くない。』
「急所だぞ?」
『腹筋しっかり鍛えてる人に言われたくない。そんなの刃物か拳銃じゃなきゃ急所じゃない。』
「結構怖い事言うな。」
『そうですねぇ…なんか固いもので胸骨グリグリしていいですか?』
「いいわけないだろ。それは本当に痛いやつだ。そんなに何かしら制裁を加えたいのか?」
『いえ冗談です。まぁ興味本意的なところはありますけど。』
「興味本意?」
降谷が首を傾げると深月はコクンと頷いた。
『零さんの痛がるとこって見た事ないなぁと。』
「見たいのか?」
『そんなには。まぁ角に足の小指ぶつけて痛がるくらいの顔は見たいです。』
「地味に痛いやつをチョイスしないでくれ。」
『冗談ですよ。一緒にいればその内、そのくらい見れるでしょ?』
そう言って深月がベッドから降りて見つけたショーツとズボンを履いたのを降谷はジッと見つめた。深月はそんな視線に気付いて恥ずかしそうに尋ねた。
『な、なんです?そんなに見ないでください。』
「いや君の言う通りだなって思ってさ。一緒にいればいろいろな君を見れるなと。」
『…その分自分もさらすって事ですけどね。』
「あぁそうだな。」
フッと笑う降谷の顔があまりにも優しくて深月の心臓がドキンッと高鳴った。深月は赤らんだ頬を隠す様に下を向き唯一身につけていないブラジャーを探した。ベッドの上や周りを辿る深月の視線に気付き降谷は毛布の中から彼女の探し物を取り出した。
「これか?」
『ちょっ…そうですけど…普通に持ち上げないでくださいよ。』
「どうして?」
『どうしてって…』
深月は恥ずかしそうに顔を歪めた。自分の下着を見られるのは同性でもなんとなく恥ずかしいのに恋人にそんな風に持ち上げられるのは堪え難かった。
ーこんな下着じゃどうってことないって事ですか。えーそうでしょうね!可愛さのかけらもありませんもんね!
深月はリボンやレースがついているわけでないシンプルな無地のそれを降谷の手から乱暴に奪い取った。
それをギュッと握りしめて深月は降谷に背を向けた。手元の自分のブラジャーをチラリと見てその色気のなさに深月は自分でも少し呆れた。
ー零さんがっかりしたかな…もっと可愛い下着買っとけば良かった。でも千紗に選んでもらうのはさすがになぁ…
深月が小さくため息をつくとギュッと後ろから降谷に抱きしめられた。降谷は深月の耳元に唇を寄せると囁いた。
「そんなに心配しなくても残念になんて思ってないよ。」
『へ⁉︎』
「十分に君自体が可愛いから。」
『な、何言ってるんですか!』
「まぁさすがにブラだけ見て恥ずかしがる歳ではないけどな。」
『…私は恥ずかしいんです。』
「ん。悪かったよ。」
ムゥと頬を膨らませる深月の顔を降谷は覗き込むとその頬にキスを落とした。深月はたったそれだけで機嫌が良くなる自分に苦笑し視線を下げた。
『もう…』
「深月」
『んっ!』
降谷に呼ばれてそちらを向けば深月はキスされた。
「でもセクシーなランジェリー姿の君も見たいから今度一緒に買いに行こうか?」
『い、行きません!』
降谷は真っ赤になって拒否してくる深月なんていくらでも想像出来たが、実際に見るその姿のがずっと可愛らしくてつい笑ってしまった。
つづく