あまくて苦い
「えへへ」
なにやら嬉しそうな面持ちでビュッデヒュッケ城の若き城主は恋人の騎士に向かって話をしていた。
「今日、夕飯のデザートにメイミが新作のケーキを作ってくれるって言うんです」
「へえ、それは楽しみですね。」
ああ、待ち遠しくて仕方ない!といった様子でそわそわと体を揺らしている。
パーシヴァルはそれを見ながら紅茶をすすり、ふっと小さくため息をついた。
(甘いもののこととなるとこの人は俺なんてそっちのけで楽しそうにするな・・・)
幸いウキウキと楽しそうなトーマスはそれに気づいていない様子だ。
(ケーキなんぞに嫉妬するほど青くさくはないと思っていたが、俺もまだまだだな・・・)
しばらくティーカップで揺れる紅茶とにらみ合いをしていると、ふとノックの音が部屋に響いた。
「失礼します。パーシヴァル様はいらっしゃいませんか?」
「ああ、ルイス。何か用事か?」
「はい、クリスさまがお呼びです」
「そうか、すぐに行くよ」
「分かりました。それでは!」
ぱたん、と扉が閉まる。
重たい腰を持ち上げ、パーシヴァルは椅子から立ち上がった。
「すみませんトーマス、クリスさまから呼ばれてしまいましたので・・・」
「いえいえっ!謝ることではないですよっ!いってらっしゃい」
「ありがとうございます。それでは」
「はい。」
もう一度扉の閉まる音。
今まで明るかったトーマスの顔に少し影がさした。
「・・・パーシヴァルさん・・・もう少しお話したかったなあ・・・。」
まさかパーシヴァルが不穏な思いを巡らせていたことなど露知らず。
またメイミのケーキのことを考えワクワクするトーマスであった。
「ふう・・・少し疲れたな・・・。」
騎士団の話し合いを終え、廊下を歩いていたパーシヴァルは、まっすぐにレストランへ向かっていた。
なんだかトーマスと顔を合わせたら欲望に素直になりすぎてしまう気がして。
レストランにはまばらではあったが人が集まっていた。
美味しそうな匂いがパーシヴァルの鼻孔をくすぐり、空腹感に襲われる。
幸いまだトーマスは部屋にいるようで、姿は見えなかった。
注文をしようと厨房に立ち寄ると、かすかに牛の乳と卵の甘い香りが漂ってきたので、ああ、トーマスの言っていたのはこういうことか、と一人で納得した。
たまたま近くにシーザーを見つけ、ニヤニヤしながらシーザーサラダを注文した。
空いたテーブルに腰掛け、もしゃもしゃと一人サラダを頬張っていると、扉の方からあからさまに高揚しているトーマスが歩いてきた。
レストランの隅でひとりさみしくサラダを頬張っているパーシヴァルには目もくれず、トーマスはまっすぐにメイミのいる厨房へ向かった。
(これはちょっといたずらしてみるのがいいかもしれない)
パーシヴァルは一人で黒く微笑み、満面の笑みを浮かべるトーマスを後ろから見つめていた。
レストランも繁盛してきて宴もたけなわ!といったところで、メイミが厨房から飛び出し、大きなホールケーキを片手に大きな声で喋り始めた。
「みんな~っ!今からデザート配るから並んでちょうだい~!」
トーマスは待ってましたと言わんばかりに空いた皿を持ってホールケーキに向かう。
ルイスやクリス、今日は珍しくヒューゴやジャックも列に入ってケーキを待っている。
無事にケーキを獲得したトーマスは嬉しそうにテーブルへ戻っていった。
(行ってみるかな)
ケーキを口に運ぼうとしているトーマスほテーブルへ、パーシヴァルは近づき、向かいの椅子に腰掛ける。
「ケーキのお味はいかがですか?」
「わぁっ!?パーシヴァルさんっ!?」
声をかけると、トーマスの体は面白いように跳ね、パーシヴァルを目に止めると、みるみるうちに顔が真っ赤に染まっていった。
「は、はい。トッピングのオレンジがちょっと甘さ控えめなクリームにぴったりで・・・スポンジもとっても甘くって・・・」
「へえ、それはとても美味しそうだ」
「パーシヴァルさんも、よかったらひとくちいかがですか?」
「よろしいのですか?」
「ええ!もちろん!はい、」
トーマスからフォークとケーキが差し出される。
パーシヴァルはそれを受け取ると、フォークをゆっくりケーキに差し込んだ。
それはいとも簡単にフォークを受け入れ、柔らかく沈んでいく。
パーシヴァルはケーキを口に運ぶと、トーマスのくちびるに己のくちびるを重ねた。
キャーッとアラニスの悲鳴がレストランに鳴り響く。
やがてざわめきがレストラン内を支配した。
「んぅっ!?ふっ・・・」
ちゅ、と濡れた音を鳴らしながら角度を変えて何度も口付けるパーシヴァル。
城の皆に見られているという状況のもとキスされたトーマスは羞恥で真っ赤になりながら、パーシヴァルのそれに応えていた。
ようやく長いくちづけが終わると、トーマスはぼわっと顔全体を赤くして、呆然とパーシヴァルを見つめた。
当のパーシヴァルは余裕な表情で舌なめずり、前髪を揺らしている。
「ケーキ、とても美味しかったですよ」
「・・・え、えっと」
「すみませんトーマス、実は私、ケーキに嫉妬してしまってました」
「へ・・・?」
「あなたがあんまり楽しそうにケーキのことをお話されるものだから・・・」
「ぱ、パーシヴァルさん・・・。」
「心配しなくても、僕はパーシヴァルさんのことが、一番好きですから・・・。」
後ろの方はほとんど消え入りそうな声でトーマスに囁かれ、今度はパーシヴァルが頬を染める番だった。
「ああ、トーマス・・・あなたという人は・・・」
「もう~っ!そんなの部屋に帰ってからやってちょうだい!!」
キッと甲高い声でアラニスが叫ぶ。
クリスはとなりで食事をしていたルイスの目を覆いながら、まったくその通りだ、とため息をついたのであった。
おわり✨
なにやら嬉しそうな面持ちでビュッデヒュッケ城の若き城主は恋人の騎士に向かって話をしていた。
「今日、夕飯のデザートにメイミが新作のケーキを作ってくれるって言うんです」
「へえ、それは楽しみですね。」
ああ、待ち遠しくて仕方ない!といった様子でそわそわと体を揺らしている。
パーシヴァルはそれを見ながら紅茶をすすり、ふっと小さくため息をついた。
(甘いもののこととなるとこの人は俺なんてそっちのけで楽しそうにするな・・・)
幸いウキウキと楽しそうなトーマスはそれに気づいていない様子だ。
(ケーキなんぞに嫉妬するほど青くさくはないと思っていたが、俺もまだまだだな・・・)
しばらくティーカップで揺れる紅茶とにらみ合いをしていると、ふとノックの音が部屋に響いた。
「失礼します。パーシヴァル様はいらっしゃいませんか?」
「ああ、ルイス。何か用事か?」
「はい、クリスさまがお呼びです」
「そうか、すぐに行くよ」
「分かりました。それでは!」
ぱたん、と扉が閉まる。
重たい腰を持ち上げ、パーシヴァルは椅子から立ち上がった。
「すみませんトーマス、クリスさまから呼ばれてしまいましたので・・・」
「いえいえっ!謝ることではないですよっ!いってらっしゃい」
「ありがとうございます。それでは」
「はい。」
もう一度扉の閉まる音。
今まで明るかったトーマスの顔に少し影がさした。
「・・・パーシヴァルさん・・・もう少しお話したかったなあ・・・。」
まさかパーシヴァルが不穏な思いを巡らせていたことなど露知らず。
またメイミのケーキのことを考えワクワクするトーマスであった。
「ふう・・・少し疲れたな・・・。」
騎士団の話し合いを終え、廊下を歩いていたパーシヴァルは、まっすぐにレストランへ向かっていた。
なんだかトーマスと顔を合わせたら欲望に素直になりすぎてしまう気がして。
レストランにはまばらではあったが人が集まっていた。
美味しそうな匂いがパーシヴァルの鼻孔をくすぐり、空腹感に襲われる。
幸いまだトーマスは部屋にいるようで、姿は見えなかった。
注文をしようと厨房に立ち寄ると、かすかに牛の乳と卵の甘い香りが漂ってきたので、ああ、トーマスの言っていたのはこういうことか、と一人で納得した。
たまたま近くにシーザーを見つけ、ニヤニヤしながらシーザーサラダを注文した。
空いたテーブルに腰掛け、もしゃもしゃと一人サラダを頬張っていると、扉の方からあからさまに高揚しているトーマスが歩いてきた。
レストランの隅でひとりさみしくサラダを頬張っているパーシヴァルには目もくれず、トーマスはまっすぐにメイミのいる厨房へ向かった。
(これはちょっといたずらしてみるのがいいかもしれない)
パーシヴァルは一人で黒く微笑み、満面の笑みを浮かべるトーマスを後ろから見つめていた。
レストランも繁盛してきて宴もたけなわ!といったところで、メイミが厨房から飛び出し、大きなホールケーキを片手に大きな声で喋り始めた。
「みんな~っ!今からデザート配るから並んでちょうだい~!」
トーマスは待ってましたと言わんばかりに空いた皿を持ってホールケーキに向かう。
ルイスやクリス、今日は珍しくヒューゴやジャックも列に入ってケーキを待っている。
無事にケーキを獲得したトーマスは嬉しそうにテーブルへ戻っていった。
(行ってみるかな)
ケーキを口に運ぼうとしているトーマスほテーブルへ、パーシヴァルは近づき、向かいの椅子に腰掛ける。
「ケーキのお味はいかがですか?」
「わぁっ!?パーシヴァルさんっ!?」
声をかけると、トーマスの体は面白いように跳ね、パーシヴァルを目に止めると、みるみるうちに顔が真っ赤に染まっていった。
「は、はい。トッピングのオレンジがちょっと甘さ控えめなクリームにぴったりで・・・スポンジもとっても甘くって・・・」
「へえ、それはとても美味しそうだ」
「パーシヴァルさんも、よかったらひとくちいかがですか?」
「よろしいのですか?」
「ええ!もちろん!はい、」
トーマスからフォークとケーキが差し出される。
パーシヴァルはそれを受け取ると、フォークをゆっくりケーキに差し込んだ。
それはいとも簡単にフォークを受け入れ、柔らかく沈んでいく。
パーシヴァルはケーキを口に運ぶと、トーマスのくちびるに己のくちびるを重ねた。
キャーッとアラニスの悲鳴がレストランに鳴り響く。
やがてざわめきがレストラン内を支配した。
「んぅっ!?ふっ・・・」
ちゅ、と濡れた音を鳴らしながら角度を変えて何度も口付けるパーシヴァル。
城の皆に見られているという状況のもとキスされたトーマスは羞恥で真っ赤になりながら、パーシヴァルのそれに応えていた。
ようやく長いくちづけが終わると、トーマスはぼわっと顔全体を赤くして、呆然とパーシヴァルを見つめた。
当のパーシヴァルは余裕な表情で舌なめずり、前髪を揺らしている。
「ケーキ、とても美味しかったですよ」
「・・・え、えっと」
「すみませんトーマス、実は私、ケーキに嫉妬してしまってました」
「へ・・・?」
「あなたがあんまり楽しそうにケーキのことをお話されるものだから・・・」
「ぱ、パーシヴァルさん・・・。」
「心配しなくても、僕はパーシヴァルさんのことが、一番好きですから・・・。」
後ろの方はほとんど消え入りそうな声でトーマスに囁かれ、今度はパーシヴァルが頬を染める番だった。
「ああ、トーマス・・・あなたという人は・・・」
「もう~っ!そんなの部屋に帰ってからやってちょうだい!!」
キッと甲高い声でアラニスが叫ぶ。
クリスはとなりで食事をしていたルイスの目を覆いながら、まったくその通りだ、とため息をついたのであった。
おわり✨
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