秘密の先輩

つまんない先輩



「ぅ〜〜っ…!」
伸びをした拍子に、近くにポテポテと歩く鳩しか聞き取れない程度の音量が漏れた。

いつもの場所に来た俺は、昼休みに弁当を食べたこともあって眠気といちゃいちゃしていた。
つい先日まで肌寒さがあったが、今日は一転して初夏を感じる暖かさが。
湿気が少し含まれた丁度いい温度と、晴天を遮る木々の木漏れ日が手元を照らしている。
よく寝れそうこれ。
寝ていいよ〜って言ってるもんな。
ほら、足元をうろうろしてるアリもいいよって言ってる。

カーディガンを丸めて枕にして横になる。
ただ、眠気ちゃんはすぐ近くで待機してくれているが、最近の物足りなさが頭の片隅で主張してきており、完全に気持ちよくは寝れそうになかった。

そう。

ここ1週間くらい、無愛想で失礼な後輩はこの場所に姿を見せていなかった。
ほぼ毎日来てたのに。

はっきり言うと、俺はつまんなかった。

なんだよあいつ〜…。
不良(笑)卒業しちゃったのかよー…。
次見かける時は黒髪で七三だったりして。ふは。
ひとしきり声を上げずに笑っていると眠気ちゃんはいつの間にか側からいなくなっていた。
そんな…!眠気ちゃんまで……!

しょうがないと、のっそりと身を起こして枕にしていたカーディガンのポケットを探った。
触れた物を引っ張りだして中身を取り出す。
安い緑色のライターと、一本の白色の煙草。
あまりに軽く、しゃかしゃかと振って中を覗き込んだ。
うげ、あとラスト1本。
姉ちゃんに頼まないと。
苦い顔で舌を軽く歯で挟んだ。
既に社会人の割にあいつ手数料つって一箱800円くらいぶんどってくんだよな。
やれやれ。あんな大人にはなりたくないぜ。

慣れた仕草でタバコに火をつけ、深呼吸するように深く息を吸った。
咥えた煙草を手に持ち、吐く。
煙が目に染みた。

……あいつが来るまではこんな感じだったっけ。
俺ってばいつからこんなさびしんぼになったのかしら…。
たった数ヶ月前までのことを思っておセンチに浸ることにした。
手持ち無沙汰で携帯のロックを解除する。
SNSはつまんねーし、最近やってたゲームも飽きて消したし。
右にスライドして、左にスライド。
また右に。

てか、あいつが来る前って何してたっけ。
吸って、寝て、ゲームくらい?
でもやってることはあいつが側に居ても変わってない。
ずっと喋ってるわけじゃなかったし。

……何が違うわけ?

ニコチンチンに頼ってもうんともすんとも教えてくれなかった。
すんっ。



「あーあー、……つまんね」
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