秘密の先輩

日常



次の授業が移動教室だったため、授業に必要な一式を片手に、話したこともないクラスメイトの後ろ姿を見ながら2階の廊下を歩いていた。
教室や廊下の窓が開けっぱなしで騒がしい校舎。
すると、複数の男子が騒ぐ声が校庭の方から聞こえた。その中に聞き覚えのある声があった気がして視線を何気なく窓の外に向ける。

校庭に向かっていく生徒達に避けられるように、窓のすぐ下に4人の男子生徒が固まって話しているようだった。
その4人の中に聞いたことのある声である、"先輩"の姿があった。
体操着を着ていることから次の授業は体育なのが分かった。
アイツ以外は運動部に入っているような風貌だ。
3人共筋肉質で短い髪をしていたため、いつもの場所より先輩は小柄に見えた。
一際声の大きい男が先輩に寄りかかって嘆くように頭を横に振った。
先輩がいつものことだと言うように、眉をあげて白けた目で面倒臭そうに笑っているのを目にして、自身の表情筋が僅かに力が入った気がした。
視線を前に戻した。
動かす足を止めず、雑音の中から外の声を拾う。

「寺田はもっと女子に興味持とうぜ〜!体育祭とか女子と仲良くなれる絶好の機会じゃんか!」
「やめてやめて、彼女つくるのに飢えてるお前と一緒にされたらやだ」
「ははっ頑張れ」
「クッソ、お前らは彼女いるからって…」
「そういや、寺田打ち上げ行かねぇの?」
「んー?おん、金欠」
「女子とプリクラ撮れんのに?!」
「…近藤、こいつにがっつきすぎると引かれるわよって教えたってくんない?」

先輩の呆れたような声と唸る声と笑い声が混ざり、それ以降の会話は遠ざかって聞こえなくなった。

テラダ。
寺田。

お互い聞くこともなければ教えることもなかったことに今更気が付いた。
アイツの名前。
こんな形で知ることになるとは思ってもいなかった。
盗み聞きして知った名前、仲が良さそうに話している男子の姿を頭に浮かび、よく分からない苛立ちが募る。
勝手に、アイツも同じように飄々と1人で行動してるだろうと思い込んでいた。
あの場所でいつも目にする姿の様な。
違った。
先輩には先輩の世界がある。
当然だ。

…だからなんだってんだ。

そういえば、と、意識的に違うことを考える。
俺のクラスも最近体育祭の競技をHRで決めたところだった。
自身の出ることになった競技を思い出して苦々しく思う。
希望なんて特になかったため最後の方に黒板に向かうと、余ったものは借り物競走かクラス別リレーしかなかった。
白いチョークを片手に止まり、名前を書いたところはクラス別リレーとなった。
面倒くさがるんじゃなかった。
来年は自身で選ぶ。
当然リレー以外の競技を。



(…アイツは何の競技に出るんだ?)
8/14ページ