土器土器体育祭
2
柴と遠坂が保健室を出てすぐ、塩島は加賀屋の方を一度見ると、「私も行きますね。…今日は助かりました。お大事になさってください」と、声を掛けて柴達と反対の方へ足早に去って行った。
加賀屋は椅子に座ったまま手をぷらぷらと振ってそれを見送った。
暫く扉を見続けていたが、後頭部に当てていた氷のうを下ろすと、長く息を吐いて背もたれに体重をかけ、目を瞑った。
耳にはイヤホンを付けたままだ。
後輩の四葉から知らせが入る。
『もうすぐ着くよー』
声と同時に扉からノック音が聞こえ、加賀屋は目を開けた。
勿論、ノックなんてあの元気な後輩達はしない。
主語が抜けていたが、保健室に着いた人物が後輩ではないことは、それより前に来た報告で分かっていた。
「どうぞどうぞ〜」
ガラガラとゆっくり横にスライドさせて見えた姿。
「失礼しまーす…あれ?加賀屋くんだけ?委員長も居るって聞いてたんだけどなぁ」
夏目だ。
「ついさっき出てったヨ」
加賀屋はそのまま声を掛けた。
中に入るらしい夏目が、入れ違いか〜。と何気なく室内に目を向けた。
一周回って加賀屋に視線を戻す。
「そういえば、加賀屋くん、カメラを見て回る時に頭怪我したんだって?大丈夫?」
心配そうに目尻を下げて伺う夏目に加賀屋は氷のうを見せるように手をあげた。
「めぇ〜っちゃ痛かったネ!流石の僕も暫くお休みだヨ」
「あらら…。」
「ところで」
「ん?」
加賀屋が口元に手を持っていく夏目に笑いかけた。
「キミは、どこに居たのカナ?」
空気が変わった。
しかし、夏目はそれに気付いているのか、気付かないふりをしているのか、目を瞬かせて首を傾げた。
「僕?委員長から聞いてると思うけど、行くまでにSクラスの生徒が襲われてるのを見かけて保護してたんだ。…でも僕の所にまさか神庭くんがいるなんて…ごめんね…。」
しおらしく項垂れる夏目の姿は、きっと誰が見てもフォローに入るだろう。
加賀屋はそう思った。
「そうだったネ!」
「ごめんね…。」
重ねて謝る夏目を見る目は冷静だった。
「それで、その後は?」
「…後?風紀室に送り届けたよ?」
「そうなの?カメラに映ってなかったケド」
「……あ、そうだ、送り届けたのは通りすがりの委員の子にお願いしたんだったや」
「そっかぁ〜………。ふふ。」
笑う加賀屋を見て、口元に当てていた手を夏目は下ろした。
「……何か、変だったかな?」
「全部」
即答する加賀屋。
「風紀室から出て、2階に居た映像以降、神庭くんが保護されるまでキミ、どこにも映ってなかったヨ」
「それは…たまたまカメラに映らないところを通っていたんじゃないかなぁ」
「それとネ」
笑みを深めて見透かすように夏目を覗き見た加賀屋は視線をそのまま下へ向けた。
夏目が釣られてその視線を追って自身の下を見た。
「そのきれーな白い靴。ワンポイントがオシャレで、高いよネ」
「………。」
何の話だと困ったように笑う夏目に続ける。
「ボクが殴られて倒れた時、その靴が見えたんだよネ」
「…よくあるデザインだよ。頭を殴られたみたいだし、見間違えたんじゃないかな?」
「その黒い星のデザインとロゴ。よくあるかもしれないケド、この学校で偽物を買うような生徒いるかな?…12万もするしネ」
「………。」
「それと、花の香りがしたヨ。今のキミの纏うものといーっしょ」
加賀屋と目を合わせたまま、夏目が2度、ゆっくりと目を瞬かせた。
お互い笑みは浮かべたままだ。
「……相変わらず、君は油断ならないよねぇ」
「キミもネ」
夏目は加賀屋の返事を聞き、やれやれ、と肩をすくませた。
「いつから?」
「ずーっと前から!」
ウインクしてみせる加賀屋に笑う。
「もぉ〜意地悪なんだから。……委員長には言った?」
「……どうだろうネ」
「意地悪ぅ…。」
拗ねたような顔を見せて扉に向かい、手を掛けた。
その背に加賀屋が声を掛ける。
「鯨岡くんはどう?」
振り返った夏目。
「もぉープンプン!」
弾けるような笑顔だった。
「…楽しそーだネ」
「愉しいよ。君もでしょ?」
「エー?一緒にしないで」
「ふふ、だって、君と僕は一緒だよ。…お楽しみはまだまだだよ。愉しもうねぇ」
返事を聞くことなく扉から体を出した夏目は、余韻を残すように扉に掛けていた手を最後に離した。
去っていく足音を聞き、加賀屋は言い逃した言葉を呟いた。
「だからぁ…うーたんがいるボクとキミなんかを一緒にしないでってば」
柴と遠坂が保健室を出てすぐ、塩島は加賀屋の方を一度見ると、「私も行きますね。…今日は助かりました。お大事になさってください」と、声を掛けて柴達と反対の方へ足早に去って行った。
加賀屋は椅子に座ったまま手をぷらぷらと振ってそれを見送った。
暫く扉を見続けていたが、後頭部に当てていた氷のうを下ろすと、長く息を吐いて背もたれに体重をかけ、目を瞑った。
耳にはイヤホンを付けたままだ。
後輩の四葉から知らせが入る。
『もうすぐ着くよー』
声と同時に扉からノック音が聞こえ、加賀屋は目を開けた。
勿論、ノックなんてあの元気な後輩達はしない。
主語が抜けていたが、保健室に着いた人物が後輩ではないことは、それより前に来た報告で分かっていた。
「どうぞどうぞ〜」
ガラガラとゆっくり横にスライドさせて見えた姿。
「失礼しまーす…あれ?加賀屋くんだけ?委員長も居るって聞いてたんだけどなぁ」
夏目だ。
「ついさっき出てったヨ」
加賀屋はそのまま声を掛けた。
中に入るらしい夏目が、入れ違いか〜。と何気なく室内に目を向けた。
一周回って加賀屋に視線を戻す。
「そういえば、加賀屋くん、カメラを見て回る時に頭怪我したんだって?大丈夫?」
心配そうに目尻を下げて伺う夏目に加賀屋は氷のうを見せるように手をあげた。
「めぇ〜っちゃ痛かったネ!流石の僕も暫くお休みだヨ」
「あらら…。」
「ところで」
「ん?」
加賀屋が口元に手を持っていく夏目に笑いかけた。
「キミは、どこに居たのカナ?」
空気が変わった。
しかし、夏目はそれに気付いているのか、気付かないふりをしているのか、目を瞬かせて首を傾げた。
「僕?委員長から聞いてると思うけど、行くまでにSクラスの生徒が襲われてるのを見かけて保護してたんだ。…でも僕の所にまさか神庭くんがいるなんて…ごめんね…。」
しおらしく項垂れる夏目の姿は、きっと誰が見てもフォローに入るだろう。
加賀屋はそう思った。
「そうだったネ!」
「ごめんね…。」
重ねて謝る夏目を見る目は冷静だった。
「それで、その後は?」
「…後?風紀室に送り届けたよ?」
「そうなの?カメラに映ってなかったケド」
「……あ、そうだ、送り届けたのは通りすがりの委員の子にお願いしたんだったや」
「そっかぁ〜………。ふふ。」
笑う加賀屋を見て、口元に当てていた手を夏目は下ろした。
「……何か、変だったかな?」
「全部」
即答する加賀屋。
「風紀室から出て、2階に居た映像以降、神庭くんが保護されるまでキミ、どこにも映ってなかったヨ」
「それは…たまたまカメラに映らないところを通っていたんじゃないかなぁ」
「それとネ」
笑みを深めて見透かすように夏目を覗き見た加賀屋は視線をそのまま下へ向けた。
夏目が釣られてその視線を追って自身の下を見た。
「そのきれーな白い靴。ワンポイントがオシャレで、高いよネ」
「………。」
何の話だと困ったように笑う夏目に続ける。
「ボクが殴られて倒れた時、その靴が見えたんだよネ」
「…よくあるデザインだよ。頭を殴られたみたいだし、見間違えたんじゃないかな?」
「その黒い星のデザインとロゴ。よくあるかもしれないケド、この学校で偽物を買うような生徒いるかな?…12万もするしネ」
「………。」
「それと、花の香りがしたヨ。今のキミの纏うものといーっしょ」
加賀屋と目を合わせたまま、夏目が2度、ゆっくりと目を瞬かせた。
お互い笑みは浮かべたままだ。
「……相変わらず、君は油断ならないよねぇ」
「キミもネ」
夏目は加賀屋の返事を聞き、やれやれ、と肩をすくませた。
「いつから?」
「ずーっと前から!」
ウインクしてみせる加賀屋に笑う。
「もぉ〜意地悪なんだから。……委員長には言った?」
「……どうだろうネ」
「意地悪ぅ…。」
拗ねたような顔を見せて扉に向かい、手を掛けた。
その背に加賀屋が声を掛ける。
「鯨岡くんはどう?」
振り返った夏目。
「もぉープンプン!」
弾けるような笑顔だった。
「…楽しそーだネ」
「愉しいよ。君もでしょ?」
「エー?一緒にしないで」
「ふふ、だって、君と僕は一緒だよ。…お楽しみはまだまだだよ。愉しもうねぇ」
返事を聞くことなく扉から体を出した夏目は、余韻を残すように扉に掛けていた手を最後に離した。
去っていく足音を聞き、加賀屋は言い逃した言葉を呟いた。
「だからぁ…うーたんがいるボクとキミなんかを一緒にしないでってば」