土器土器体育祭

プログラム第一種目目〜朝からカツカレー〜



校庭の中心に集まるミニスカ達。
ゴツい奴、可愛い奴、普通の奴、はち切れそうな衣装の巨大。
顔がどうあれ体型は男に変わりなく、違和感に脳が拒絶する。
なのに沸き立つ観客。

「始まりから重てえな…。」
校庭を眺めて思わず口から漏れた。

そう。
本日の最初のプログラムは
『チアボーイズによる応援合戦です!』
囃し立てる放送に煽られて生徒が歓声をあげた。

持ち時間は3分。順番はくじ引きで、決めていたそれぞれの曲に合わせて校庭の真ん中でチアをお披露目する形式らしい。
拷問だ。
しかも朝礼台の前に机と椅子を用意していて、そこに座ったのはなんとドヤ顔の氷室生徒会長と、明らかに面倒そうな表情を浮かべる塩島風紀委員長。そしてその2人の間に放送部。採点するらしい。
地獄だ。

正面に見える3人に緊張の面持ちの選ばれしチアボーイズ達が、最近の流行りの曲や、洋楽、演歌(誰だよ選んだの。)に合わせてそれぞれ個性的なチアを披露していく。
特に演歌のクラスは凄かった。明らかに相撲部と思わしき5人がほとんどシコ踏んで終わった。歓声というか、感嘆の「おぉ…」という声が多く上がっていた。

遠坂と上野に釣られて俺も見入ってしまった。
話には聞いてたけど、力士って体柔らかいだな…。

そんな中、驚いたのはクラス名を発表されて登場した1年Bクラスのチアボーイズだ。

イケメンで固められた4人。
その中には、昨日コンタクトを取ったばかりであるいとこの鮎と、丸君がいた。鮎はやりそうな気もするけど、丸君もいることに驚きすぎて2度見した。
小森もこれは知らなかったらしく、慌ててカメラを構えていた。

クラスメイト達に手を振る鮎に巻き込まれたんだろうと思える丸君は、何もかも諦めたような表情をしていた。
可哀想。
今度会ったら抹茶ラテ奢って労わろう。

チア自体は、思考を放棄したのだろう。有名なアイドルの曲と、そのダンスを完コピしたものだった。服装さえまともだったらアイドルで十分通用してた。観客には服装は問題じゃなかったらしいが。
俺だけ?
あのミニスカ衣装見えてんの。
ボクサーパンツ普通に見えんの萎えねえの?
俺だけ???

そしていよいよ2年Aクラスのチアボーイズが呼ばれた。

チアボーイズは正面に座る会長達への興奮と緊張で顔がこわばっていた。
目に見えて分かるそれに、委員長の伊藤が声を張り上げた。

「焼肉ー!!!!」
いやもっと他にあるだろ。

委員長に続いてクラスメイトが応援する声を上げる。
流石にこんなエグい状況になると思ってなかった俺も罪悪感からクラスメイトに混じって応援の声を送った。

「すね毛ーー!!」
「他にあるだろ」
小森に突っ込まれた直後、ギッと鋭い視線が6つ向けられた。
ごめんて。

怒りとクラスメイトの声援で緊張が和らいだらしく、表情が幾分マシになった。曲が始まると同時に3人が顔を見合わせて頷く。

そこからは、今までのチアボーイズには無い本格的なチアが始まり、クラス練習でも見たことのない弾ける可愛い笑顔で演技する3人に驚いた。
演技派だな。

目を見開いて感心する氷室会長と塩島委員長と、自然と手拍子を送る観客。
最後に、クラスでも難航していたのを見守っていた、1人を上に放り投げる大技が無事に決まりホッとする俺達。
観客の生徒達は喝采を送り、やっとまともに見たチアダンスに興奮しているようだった。

曲が終わり、頭を下げてはける3人に放送部からも興奮した放送が流れ、惜しみない拍手が送られた。

普通に凄かった。
脳内にこびり付いていた相撲部も端に消えたわ。

だが、驚きはこれで終わらなかった。
充分なのに。

俺のクラスが終わり、いくつかの発表も終え、最後を飾ることになったのは2年Bクラスだった。
放送部の紹介と共に中央に躍り出たのは、毛玉。
もとい、神庭だった。

他の2人は、押し付けられのだろう。下を見たままの地味な生徒と、巻き込まれたであろう、南部さんだった。
流行りの曲と共に踊り出した3人はもたもたとした動きで、当然というか、場の空気は微妙だった。

生徒会を除いて。

生徒会が待機しているテントだけが拳を振り上げて応援していたり爆笑していたりと、異様な熱気に包まれていた。

「もっとジャンプして〜!」と前のめりでヤジを飛ばす会計。狙いは一つだろう。
エロ親父か?

前方を見ると、会長までも食い入るように机に腕をついて3人を見ていた。
間を挟んだ隣の人物は口元に笑みを湛えていたが、「もう帰っていいでしょうか」の声が聞こえてきそうな面持ちだった。
お疲れ様です。

生徒会に戸惑う生徒や不服そうな表情の生徒がいる中、最後のチアボーイズの発表が終わった。

あれで気づいたけど、これ考えたの、毛玉を生徒会が見るためだけに企画しただろ。
職権濫用も甚だしいな。
チアボーイズ達がまとまって退場するのに拍手を送りながら思った。

そして、ウェットに富んだ今年のチアボーイズによる応援合戦が幕を引いた。



「芸術点でいくとやっぱ俺らのクラスじゃね?」
「僕ならSクラスか天海くんのクラスに点を入れる」
「相撲部の人らめっちゃよかった〜!」
「個性が出てて面白かったねぇ」
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