土器土器体育祭

阿笠博士もどき



チアボーイズの後、通常通りにプログラムが進んでいく。

スウェーデンリレー、二人三脚、玉入れと順に進み、玉入れに出場した俺は帰る途中、背の低い眼鏡をつけた生徒にぶつかった。

「あ、すいません」
「ううん、こっちこそ」

振り返ってお互い謝罪をした時、相手の口元が弧を描いていたことが妙に頭に残った。

玉入れから帰ってくる人と反対に進んでいくのを思わず目で追うも、すぐに人混みに紛れ、どんな人物だったか記憶があやふやになる。

「柴、遠坂が次だからはやく戻るよ」
「あ、おう。悪い」
進行方向の少し前に立って振り返る小森に返事を返し、テントに歩を進めた。

安定のシュートを見せた小森が歓迎の声を受けているのを見て笑いながら席に戻る。
上野から「おかえり〜」と声がかけられて返事を返した。

既に玉入れの道具は回収され、慌しく障害物を並べていくのを見ながら椅子に腰を下ろすと、ズボンに違和感を感じた。

正しくは、ズボンのポケットだ。

携帯を入れてるポケットの反対で、そこには何も入れていなかったはず。

放送がかかり入場する障害物競走の走者達に、上野が校庭を見て遠坂を探しているのを横目にポケットから違和感を取り出す。
確認すると、細い茶色の封筒を二つ折りになったものだった。触れてすぐ、中に小さなものが入ってあることがわかる。

封筒には、『うーたんへ』
あいつか。
すぐにポケットに仕舞い直した。

「上野、ちょっとトイレ行ってくる。すぐ戻るけど、遠坂出たらラインして」
二つ返事してくるのを聞いて席を立って早足でテントから離れた。

歩きながら考えるのは、ポケットの中身のことだ。

いつの間に、と思ったのは一瞬で、すぐに玉入れから帰る途中にぶつかった相手によるものだと想像がついた。
ってことは、あの生徒も写真部ってことか。
顔を思い出そうとしたが、はっきりと浮かぶことはなかった。

生徒が行き交う校舎のすぐ近くの植木まで来て足を止める。
ポケットから取り出し、改めて折り畳まれた封筒から中身を手のひらに落とした。
中身は2つ。
1つは黒色で小さなボタンが1つあり、フォルムは丸く、握った手のひらにすっぽりと収まるほど小さい。
形状に見覚えがあると思えば、ワイヤレスイヤホンか。

もう1つは髪留めのピンの様な形で細長かった。
規則的に小さな光がチカッチカッと手元で薄く光っている。

中身を確かめたとはいえ、加賀屋先輩の意図がつかめない。
中身を片手に持ったまま封筒をポケットに仕舞い、携帯でラインを開く。
当人のトーク画面で文字を打ち込もうとした途端に更新された。

『細長い方をジャージの袖に引っ掛けて、丸い方はボタン押してから耳につけてみてネ』

「なんなんだ…。」
タイミングが良すぎて不審。周りを見回すも、俺を見ている人は見当たらなかった。
取り敢えず言われた通りに2つをそれぞれ身に付けた。

それで?
「やっほ〜うーたん!聞こえてるカナ?」
耳元から声が聞こえてビビる。
やっぱりこっちはイヤホンだったのか。
返事する方法が分からずラインで『はい』と送った。

「うんうん、よかったよかった。じゃあ今度は両手の袖を口元に寄せて校舎の方を見上げてみて?」
校舎を?何を確かめているのか分からなかったが、取り敢えずこれも指示に従う。
振り向いて校舎を見上げたが、窓からの姿は誰も見えなかった。

「っ…はっ……かわっ…かわっ…!!」
「おい」

イヤホンから悶えて聞こえる声はさっきより遠くに聞こえ、思わず冷たく突っ込んだ。
やっぱりお前校舎から見てんのかよ。
校庭に降りてこい。
手をすぐに元の位置に戻した。

荒い呼吸が落ち着き(耳元から聞こえるのは大変不快だった。)加賀屋先輩が意図を話した。
「袖に付けたそのピンはマイクになってるから、話す時はそれを口元に近付けたら大丈夫だからねん」
「俺のパフォーマンスいらなかっただろ」
不審に見られない様に再び校舎に背を向けて袖を口元に持っていってボソボソと不満を伝えた。加賀屋先輩が軽く笑ったのが聞こえる。

「ソレ、急拵えで作ったから数が全員分足りなくて、取り敢えずうーたんと狼谷くんだけに受信専用で渡したの。もっとも、風紀の2人はインカム付けてるしネ」
そういうことか。
確かに携帯を注視したままよりはやりやすい。

「動きがあったら伝えるけど、基本的には反応しないで大丈夫だヨ。モチロン何かうーたんも気付いたことがあったら教えてネ!」
頷こうとして、やめた。
「それと、現状動きはないから、安心して次の借り物競走頑張ってネ!」
くそっ。駄目か。

苦々しく思う俺に、少し流れを伝えた後、加賀屋先輩はテントに戻る様に言った。
丁度上野から遠坂の出番があと少しだと来ていたからタイミングが良い。

分かった、すぐ戻る。と上野に送り、足を動かした。



「(にしても、作ったって言ってたよな。阿笠博士もびっくりだな。)」
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